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第12話 猫耳奴隷少女リンス
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『暗い……真っ暗……』
少女は気を失っている。そんなことを自分でも理解してるのに、なぜか考え感じることができる不思議な感覚。
『死んじゃう時、離れた所から自分を見下ろせるって言い伝えあったなあ……』
そんな感覚に近いかもと思う少女。
『どこまでも真っ暗だけど、さっきまでも未来は真っ暗だった……静かな分、今の方が落ち着くかも……』
大蛇に頭から丸呑みされた自分、でも飲み込まれる瞬間にあったのは恐怖では無く、楽になれるって気持ちだったかもと考える。
『パパとママに会いたいな……もうすぐ会えるかな……』
徐々に感覚が遠くに、思考がぼんやりしていくのを少女は感じている。
――――――――!?!?!?
少女は辺り一面が光に包まれたのを感じた。
『眩しい……でも温かい……何かに包まれてる?』
何も見えないけど、光を感じる。久しく忘れていた、胸がいっぱいになる温かさを少女は感じている。
『ママが言ってた天国ってやつかな…………わたしいい子にできてたのかな……』
少女はその慣れない心地良さに不安を感じた。自分はもう幸せにはなれないと思っていたから。
『揺れが気持ちいい……それにすごく落ち着くいい匂いがする……パパ……』
心地良い揺れに少女が心を任せたところで、少女の意識は温かい光に溶けていった。
■■■
「そういえば昨日の女の子は大丈夫だったのかな?」
冒険者ギルドへ向かう道、ミレーニアがダイチに話しかける。
「うーん、とりあえずギルドで話を聞くしかないな」
ダイチ達は昨日討伐したバジリスクの報酬を受取る為にギルドまでやってきた。
ギルド内の反応をなんとなく想像してしまう。バジリスク討伐の話は既に広まってることだろう。
二人は扉を開けてギルド内を進む。
「おい見ろよ、『紅の暴雷』だぞ、バジリスクを瞬殺したらしいぞ」
「ああ、現場を片付けに行った奴から、バジリスクの頭がもげてたって聞いたさ」
「俺もだ、素手で討伐に向かったのを見てた奴がいて、素手でバジリスクの首を引き千切ったって聞いてる」
「怖えーこというなよ、俺今ヒュンってなったぞ……」
ダイチとミレーニアを遠巻きにしながら、噂し合うギルドの冒険者達。ゴツい男達が野太い声で噂する様子は中々にシュールだ。
「予想以上だな……もいだらしいぞ……メリー」
少し感心した様子のダイチ。もはや他人事のように楽しんでいる節さえある。
「わ、わたし……もがないもん……」
大蛇の前では堂々としているのに、こういうのは慣れない様子のミレーニア。
ダイチの肩の後ろに隠れながらギルド内を進む。
受付カウンターに近付いたところで、いつも通りダイチ達はセレナに声をかけられ、ギルドマスターの部屋に案内された。
■■■
「昨日はお疲れ様、今回は本当に助かった」
ダイチ達に礼を言うギルドマスターのギルバート。昨日は後処理に追われてたようで、顔には疲労が残っている。
「それで、これがバジリスク討伐の報酬の金貨二十枚だ」
ギルバートがテーブルの上に布袋を置く。
「……確かに」
ダイチは枚数を確認して、バッグに放り込む。
ミレーニアの残りの滞納額より報酬の方が多いと予想していたダイチは、滞納額を差し引いて残りは全てミレーニアに渡すつもりだ。
「どうもお前たちは今のBランクでは役不足のようだな。次に同程度の依頼をこなしてくれれば、Aランクに上がることができるが、しばらくこの辺りにいる気はないか?」
ギルバートはダイチ達に聞いてはいるが、あまり期待していない雰囲気がある。
「良い街ですので、また来ますよ」
軽く答えるダイチに、ギルバートは薄い苦笑いをもらした。
「あともう一つあったな、昨日の獣人の女の子だが街に逃げてきた者から確認が取れた」
真剣な表情になるギルバートにダイチも気が引き締まる。
「それで……」
先を促すダイチと静かに見守るミレーニア。
「彼女の名前はリンス、猫人族で今の立場は奴隷だ」
ギルバートの言葉を聞いたダイチは頷いて続きを促す。
「あの村に居たのは、この街に奴隷として運ばれてくる途中で、奴隷商人が最後の休憩を取っていたからだそうだ」
休憩しているところをバジリスクに襲撃されたと語るギルバート。
「それでリンスでしたっけ、彼女はどうなるんですか」
ギルバートに問いかけるダイチ。
「この街に逃げてきた奴隷商人に所有権がある為、昨日の夕方、リンスは奴隷商人の元に戻された。ただ、今回はお前たちが助けた以上、取り分と言うか謝礼を受取る権利が発生している」
通常だったら戻ってこないモノが戻ってきた。それに対して持ち主が謝礼を払うのが、この国の慣習とのことだ。その物の価値で割合が変わってくるようで、高価な物程その割合は下がるようだ。
「今回の場合は?」
「今回のような場合は、奴隷の価値の約半分が報酬の目安になる。その事で奴隷商人がお前達と話をしたいそうだから、この後奴隷商人の所に行ってもらいたい。ああ……その奴隷商人だが、この街に拠点があり評判は悪くない」
ギルバートの話を聞き、奴隷商人に会いに行くことになったダイチ達。
「わかりました。奴隷商人の所に寄ったら、一度街を離れると思います。また来ますので、その時はまたよろしくお願いします」
奴隷商人の場所を聞き、別れの挨拶をするダイチとミレーニア。
ギルバートは二人に測れない何かを感じながらも、どこか安心できる気持ちになっているようだった。
■■■
「はじめまして、私は奴隷商人のモーリスです。この度はありがとうございました」
ダイチ達に名乗った男は、高級そうな衣服に身を包んだ三十代くらいの中肉中背の男。柔和な笑顔でダイチ達を商館に迎え入れた。
ダイチ達は客間に案内され、モーリスとテーブルを挟んでソファーに腰掛けた。モーリスの脇には使用人らしい若い男が立っている。
「ギルドマスターに話を聞いて来ました……」
この国、ルナテイル王国では奴隷が制度として確立しているが、魔王勢力には奴隷という制度が無い為、若干の戸惑いを感じているダイチ達。
「はい、実はダイチ様に提案がございます。今回のような場合、奴隷の半額分を報酬として渡すのが通常で、助けていただいた奴隷のリンスの場合は売値が金貨四十枚なので金貨二十枚を報酬とするのが通常です。ただ、今回の提案と言うのはリンスを半額で買っていただきたいということなのです」
ダイチの目を正面から見つめ、真剣な様子で提案するモーリス。
「どうして今回は通常では無い提案を?」
訝しげにモーリスを見るダイチ。
「はい、少しお待ち下さい。」
そう言って控えている男に何やら合図を送ると、男は部屋を出ていった。
少し経ったところで、出ていった男は一人の獣人の少女を連れて戻ってきた。
肩までの長さの亜麻色の髪、整ってはいるが幼い顔は綺麗というより可愛らしい。
頭の上には猫耳があり、腰のあたりを見るとフサフサの尻尾が横から見えている
「あ、昨日の女の子……」
ミレーニアがポツリと零す。
少女は暗い表情にぼんやりとした目つきで部屋に入ってきたが、ミレーニアの声に反応して顔を上げた。
その目にダイチが映ったところで驚きの表情に変わり、少女は奴隷商人のモーリスの方を振り向く。
「ダイチ様、彼女リンスは帰り道の途中の村で買い取ったのですが、そこから暫く街道を移動してあの村で休息を取っているところを、バジリスクに襲撃されたのはご存知の通りです」
モーリスは天井を見ながら、思い出すように語っている。
「昨夜リンスが目覚めたので、冒険者ギルドから報告を受けた内容をリンスに伝えました。バジリスク討伐の話、バジリスクの腹の中からリンスが助けられた話、それらを話している内に、奴隷として買い取ってからずっと暗かった彼女の表情が少し明るくなったのです」
リンスの方に視線を向けながら語るモーリス。
「私の商売柄、奴隷皆が良いご主人様に仕えるというのは無理なことだと承知しております。不幸な奴隷が少なくないのも事実かもしれません。ただ、叶うなら良き主人に買ってもらいたいというのが私の願いです。しかし商人であり、従業員を雇っているという立場上、ただでお譲りするということはできません。どうかリンスを買っていただけないでしょうか」
頭を下げるモーリス。
ダイチは思案して、ミレーニアの方を見る。
「ダイチに任せるよ」
ミレーニアは薄く微笑みながら答えた。
「……リンスは俺達と一緒に来たいか?」
少女に問いかけるダイチ。
「……いきたいっ!」
戸惑いながらも必死に答えるリンス。リンスはダイチを見ているとなぜか温かい気持ちになる。
「仕事は何ができる?」
「なんでもやりますっ!」
リンスはダイチが一瞬微笑んだ気がした。
暗闇を照らしてくれそう、そんな予感をリンスは感じていた。
「じゃあ、これから人手が必要になりそうだし、よろしく頼もうかな」
「っ!? よ、よろしくお願いします、ご主人様!」
頭を下げるリンス。微笑みながらダイチを見つめるミレーニア。
猫耳少女リンスがダイチの奴隷となった瞬間だった。
少女は気を失っている。そんなことを自分でも理解してるのに、なぜか考え感じることができる不思議な感覚。
『死んじゃう時、離れた所から自分を見下ろせるって言い伝えあったなあ……』
そんな感覚に近いかもと思う少女。
『どこまでも真っ暗だけど、さっきまでも未来は真っ暗だった……静かな分、今の方が落ち着くかも……』
大蛇に頭から丸呑みされた自分、でも飲み込まれる瞬間にあったのは恐怖では無く、楽になれるって気持ちだったかもと考える。
『パパとママに会いたいな……もうすぐ会えるかな……』
徐々に感覚が遠くに、思考がぼんやりしていくのを少女は感じている。
――――――――!?!?!?
少女は辺り一面が光に包まれたのを感じた。
『眩しい……でも温かい……何かに包まれてる?』
何も見えないけど、光を感じる。久しく忘れていた、胸がいっぱいになる温かさを少女は感じている。
『ママが言ってた天国ってやつかな…………わたしいい子にできてたのかな……』
少女はその慣れない心地良さに不安を感じた。自分はもう幸せにはなれないと思っていたから。
『揺れが気持ちいい……それにすごく落ち着くいい匂いがする……パパ……』
心地良い揺れに少女が心を任せたところで、少女の意識は温かい光に溶けていった。
■■■
「そういえば昨日の女の子は大丈夫だったのかな?」
冒険者ギルドへ向かう道、ミレーニアがダイチに話しかける。
「うーん、とりあえずギルドで話を聞くしかないな」
ダイチ達は昨日討伐したバジリスクの報酬を受取る為にギルドまでやってきた。
ギルド内の反応をなんとなく想像してしまう。バジリスク討伐の話は既に広まってることだろう。
二人は扉を開けてギルド内を進む。
「おい見ろよ、『紅の暴雷』だぞ、バジリスクを瞬殺したらしいぞ」
「ああ、現場を片付けに行った奴から、バジリスクの頭がもげてたって聞いたさ」
「俺もだ、素手で討伐に向かったのを見てた奴がいて、素手でバジリスクの首を引き千切ったって聞いてる」
「怖えーこというなよ、俺今ヒュンってなったぞ……」
ダイチとミレーニアを遠巻きにしながら、噂し合うギルドの冒険者達。ゴツい男達が野太い声で噂する様子は中々にシュールだ。
「予想以上だな……もいだらしいぞ……メリー」
少し感心した様子のダイチ。もはや他人事のように楽しんでいる節さえある。
「わ、わたし……もがないもん……」
大蛇の前では堂々としているのに、こういうのは慣れない様子のミレーニア。
ダイチの肩の後ろに隠れながらギルド内を進む。
受付カウンターに近付いたところで、いつも通りダイチ達はセレナに声をかけられ、ギルドマスターの部屋に案内された。
■■■
「昨日はお疲れ様、今回は本当に助かった」
ダイチ達に礼を言うギルドマスターのギルバート。昨日は後処理に追われてたようで、顔には疲労が残っている。
「それで、これがバジリスク討伐の報酬の金貨二十枚だ」
ギルバートがテーブルの上に布袋を置く。
「……確かに」
ダイチは枚数を確認して、バッグに放り込む。
ミレーニアの残りの滞納額より報酬の方が多いと予想していたダイチは、滞納額を差し引いて残りは全てミレーニアに渡すつもりだ。
「どうもお前たちは今のBランクでは役不足のようだな。次に同程度の依頼をこなしてくれれば、Aランクに上がることができるが、しばらくこの辺りにいる気はないか?」
ギルバートはダイチ達に聞いてはいるが、あまり期待していない雰囲気がある。
「良い街ですので、また来ますよ」
軽く答えるダイチに、ギルバートは薄い苦笑いをもらした。
「あともう一つあったな、昨日の獣人の女の子だが街に逃げてきた者から確認が取れた」
真剣な表情になるギルバートにダイチも気が引き締まる。
「それで……」
先を促すダイチと静かに見守るミレーニア。
「彼女の名前はリンス、猫人族で今の立場は奴隷だ」
ギルバートの言葉を聞いたダイチは頷いて続きを促す。
「あの村に居たのは、この街に奴隷として運ばれてくる途中で、奴隷商人が最後の休憩を取っていたからだそうだ」
休憩しているところをバジリスクに襲撃されたと語るギルバート。
「それでリンスでしたっけ、彼女はどうなるんですか」
ギルバートに問いかけるダイチ。
「この街に逃げてきた奴隷商人に所有権がある為、昨日の夕方、リンスは奴隷商人の元に戻された。ただ、今回はお前たちが助けた以上、取り分と言うか謝礼を受取る権利が発生している」
通常だったら戻ってこないモノが戻ってきた。それに対して持ち主が謝礼を払うのが、この国の慣習とのことだ。その物の価値で割合が変わってくるようで、高価な物程その割合は下がるようだ。
「今回の場合は?」
「今回のような場合は、奴隷の価値の約半分が報酬の目安になる。その事で奴隷商人がお前達と話をしたいそうだから、この後奴隷商人の所に行ってもらいたい。ああ……その奴隷商人だが、この街に拠点があり評判は悪くない」
ギルバートの話を聞き、奴隷商人に会いに行くことになったダイチ達。
「わかりました。奴隷商人の所に寄ったら、一度街を離れると思います。また来ますので、その時はまたよろしくお願いします」
奴隷商人の場所を聞き、別れの挨拶をするダイチとミレーニア。
ギルバートは二人に測れない何かを感じながらも、どこか安心できる気持ちになっているようだった。
■■■
「はじめまして、私は奴隷商人のモーリスです。この度はありがとうございました」
ダイチ達に名乗った男は、高級そうな衣服に身を包んだ三十代くらいの中肉中背の男。柔和な笑顔でダイチ達を商館に迎え入れた。
ダイチ達は客間に案内され、モーリスとテーブルを挟んでソファーに腰掛けた。モーリスの脇には使用人らしい若い男が立っている。
「ギルドマスターに話を聞いて来ました……」
この国、ルナテイル王国では奴隷が制度として確立しているが、魔王勢力には奴隷という制度が無い為、若干の戸惑いを感じているダイチ達。
「はい、実はダイチ様に提案がございます。今回のような場合、奴隷の半額分を報酬として渡すのが通常で、助けていただいた奴隷のリンスの場合は売値が金貨四十枚なので金貨二十枚を報酬とするのが通常です。ただ、今回の提案と言うのはリンスを半額で買っていただきたいということなのです」
ダイチの目を正面から見つめ、真剣な様子で提案するモーリス。
「どうして今回は通常では無い提案を?」
訝しげにモーリスを見るダイチ。
「はい、少しお待ち下さい。」
そう言って控えている男に何やら合図を送ると、男は部屋を出ていった。
少し経ったところで、出ていった男は一人の獣人の少女を連れて戻ってきた。
肩までの長さの亜麻色の髪、整ってはいるが幼い顔は綺麗というより可愛らしい。
頭の上には猫耳があり、腰のあたりを見るとフサフサの尻尾が横から見えている
「あ、昨日の女の子……」
ミレーニアがポツリと零す。
少女は暗い表情にぼんやりとした目つきで部屋に入ってきたが、ミレーニアの声に反応して顔を上げた。
その目にダイチが映ったところで驚きの表情に変わり、少女は奴隷商人のモーリスの方を振り向く。
「ダイチ様、彼女リンスは帰り道の途中の村で買い取ったのですが、そこから暫く街道を移動してあの村で休息を取っているところを、バジリスクに襲撃されたのはご存知の通りです」
モーリスは天井を見ながら、思い出すように語っている。
「昨夜リンスが目覚めたので、冒険者ギルドから報告を受けた内容をリンスに伝えました。バジリスク討伐の話、バジリスクの腹の中からリンスが助けられた話、それらを話している内に、奴隷として買い取ってからずっと暗かった彼女の表情が少し明るくなったのです」
リンスの方に視線を向けながら語るモーリス。
「私の商売柄、奴隷皆が良いご主人様に仕えるというのは無理なことだと承知しております。不幸な奴隷が少なくないのも事実かもしれません。ただ、叶うなら良き主人に買ってもらいたいというのが私の願いです。しかし商人であり、従業員を雇っているという立場上、ただでお譲りするということはできません。どうかリンスを買っていただけないでしょうか」
頭を下げるモーリス。
ダイチは思案して、ミレーニアの方を見る。
「ダイチに任せるよ」
ミレーニアは薄く微笑みながら答えた。
「……リンスは俺達と一緒に来たいか?」
少女に問いかけるダイチ。
「……いきたいっ!」
戸惑いながらも必死に答えるリンス。リンスはダイチを見ているとなぜか温かい気持ちになる。
「仕事は何ができる?」
「なんでもやりますっ!」
リンスはダイチが一瞬微笑んだ気がした。
暗闇を照らしてくれそう、そんな予感をリンスは感じていた。
「じゃあ、これから人手が必要になりそうだし、よろしく頼もうかな」
「っ!? よ、よろしくお願いします、ご主人様!」
頭を下げるリンス。微笑みながらダイチを見つめるミレーニア。
猫耳少女リンスがダイチの奴隷となった瞬間だった。
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