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第9話 白大蛇バジリスク

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 冒険者ギルドを出て街の北門に向かうダイチとミレーニアメリー
 そして、その数歩後ろを歩く軽装の男。

「ダイちゃーん、何か作戦とかあるのー?」

 馴れ馴れしい声をかけてくる、服装だけでなく態度も軽い男はマルコ。
 ギルドマスターが、依頼のサポートにと付けてくれたBランク冒険者だ。
 金髪の癖っ毛に整った目鼻立ち、スマートな体型は女性にモテそうだ。
 マルコは身軽さを活かして、偵察や素早い立ち回りを得意としている。

「作戦なんてありません。確認ですが、バジリスクの特性はさっきギルバートさんが言ってたので全てですか?」

 説明を受けた通りなら、作戦なんて要らないとばかりに余裕のある態度のダイチ。

 ダイチは先程ギルドマスターのギルバートから、バジリスクの特性について説明を受けた。
 バジリスクは、その特徴に強烈な「威圧」が挙げられる。魔力を上乗せした威圧は、魔力の少ない者が受けると体内の魔力に大きく干渉され、石になったように動けなくなる。
 バジリスクが、「石化の魔物」と言われる所以だ。

「ああ、説明にあった通りの強力な威圧と、大きな体を活かした力技が全てだよ。まあ……それだけで相当な脅威なんだけどね……」

 バジリスクと戦うなんて災難だ、とばかりのマルコ。

「だったら大丈夫ですよ」

 気負ったところのないダイチ。

「ヒュー、登録して一日でBランクの冒険者様は言うことが違うねえ」

 囃し立てるマルコ。

 今回の任務にあたり、ギルドマスターのギルバートはダイチとミレーニアメリーの冒険者ランクを引き上げた。Bランクの魔物の討伐となる今回の任務は、Eランクでは資格外になってしまうことと、昨日の討伐成果からするとBランクはギルバートの目から見て問題なかったからである。


■■■


 三人は街の門を抜けた後、街道を歩いて北に向かっている。

「何だ? あれは?」

 急に警戒し始めるマルコ。 

「ああ……あれはメリーが呼んだのです。大丈夫ですから、攻撃したりしないでくださいね」

 すぐに何事か気づいたダイチはマルコに告げる。

 マルコが警戒してソワソワしている間に、いつもお世話になってる騎竜二頭がダイチとミレーニアメリーの前までやってきた。ミレーニアメリーが騎竜達の首を撫でると、騎竜達は目を細めて気持ちよさそうにしている。

「さて、メリー! 急ごうか!」

 メリーに声をかけるダイチの声に、どこか悪戯心が感じられる。

「あれ? ダイちゃん? 冗談だよね??」

 マルコが慌てながらダイチに問いかける。

 ダイチとミレーニアメリーは慌てるマルコを差し置いて、騎竜にまたがる。

「マルコさんはゆっくり来てください。討伐は急いだ方がいいって聞いてますからね。ではまた!」

 先に行くことをマルコに告げるダイチ。

「ちょっと待って! 俺を置いてかないでよー!」

 必死に呼びかけるマルコを、あっという間に置き去りにして、ダイチ達は地平線に消えて行った。

「……はぁ……ギルマスに怒られる……」

 肩を落として呟くマルコだった。


■■■


 ダイチとミレーニアは騎竜にまたがり目的地に向かって駆けている。

「置いてきて良かったの?」

 ダイチに問いかけるミレーニア。

「ああ、一緒に行くのが依頼の条件・・ってわけでは無かったからな。それにマルコはギルバートが俺達につけた監視でもあったと思う。特にミレのな。」

 ダイチは、戦闘特化ではなく偵察を得意とするマルコを同行させたことには、理由があったと考えていたようだ。
 そして、他に人がいない二人きりの時には「ミレ」と呼ぶことにしたようだ。

「ふーん……まあいっか。サクッと倒して帰ろうねー、ダイチ―」

 あまり深いことは考えないミレーニアだった。

 騎竜のスピードはかなりのもので、あっという間に目的地らしい村が見えてくる。

「あー……何かいるね」

 ミレーニアは村に何かの気配を感じている。

「あの村で間違いなさそうだな……」

 ダイチも何かの存在を感じているようだ。
 村に近付いた二人は騎竜から降り、徒歩で村の中に踏み込む。

「今回は村を無事に取り戻すのも目的だから、周囲を破壊しないように剣とかで倒せるか?」

 ふと気づいたようにダイチがミレーニアに問いかける。

「そっか! そういうことなら……」

 そう言いながら、ミレーニアが空間に右手を突っ込んだ。空間に裂け目が出来て、その奥にあるものを手探りで探してるかのようだ。

「あった、あった!」

 そう言いながら取り出したのは、黄金色の長剣。握りの部分だけ黒い布が巻かれているが、それ以外は全て黄金色。そこにあるだけで、神々しさを感じさせる圧倒的な存在感。

 それ自体が発光しているかのような黄金色は、生体金属オリハルコンの証だ。この世で最も硬いといわれる金属であり、魔力を込めることにより更なる威力を発揮する。

 ミレーニアが黄金色の長剣を持つ姿は、美しい真紅の長い髪、その整った容貌と合わさり、とても神秘的だ。
 その姿は神話の一ページのようですらある。

「おい!? 魔剣アスモデウスじゃねーか! 村を消滅させる気か!?」

 ミレーニアの持つ長剣を見て、慌てるダイチ。

「大丈夫だよ、本気の時みたいに剣に魔力を込めたりしないから」

 心配いらないとばかりにミレーニア。

「…………マルコを振り切って良かったよ……」

 ダイチはため息交じりに呟いた。


――――――ガシャーン

 その時、前方少し離れた所にある、大きな蔵らしきものが内側から吹き飛び、辺りは砂埃に包まれた。
 砂埃が徐々に晴れると、そこには高さ五メートル程の白い大蛇が佇んでいた。
 大蛇の周囲には壊れた酒樽や食い荒らされた野菜と穀物。

「聞いてた特徴と一致するし、あいつがバジリスクで間違いなさそうだな……」

 大蛇を見て呟くダイチ。

「じゃあ、ちょっと行ってくるね! ダイチはここで待っててね」

 気軽に出かけるかのようなミレーニア。

「あまり油断はするなよ……」

 ダイチが声をかけたところで、ミレーニアは一度ダイチに笑顔を向けてから、バジリスクの方へと歩んでいった。

――――キシャー!!

 周囲を威嚇するバジリスク。

「ん? この感じが魔力を乗せた威圧か……確かに近くで受けたら、動けなくなりそうだ……」

 バジリスクまで距離がありながらも、体が動かし辛くなるのを感じている様子のダイチ。

 そんな中、まるで意に介した様子も無くバジリスクに歩み寄るミレーニア。

――――キシャー!!!

 バジリスクの目前までミレーニアが着いた瞬間、バジリスクが質量を活かした頭突きをミレーニアに仕掛ける。

――――シュピッッ!

 魔剣アスモデウスを横に振り抜いたミレーニア。
 空気を切り裂くような音に遅れて、バジリスクが胸部からズレ落ちる。
 同時に腹部が瓦礫の上に崩れ落ちる。

 ……さらに続いてバジリスクの後方にあった、今まで無事だった大きめの家に真横の切れ目が入り、音を立てて崩れていく。 

「…………」

「…………」

 ダイチは見なかったことにしたようだ……。
 何にせよ、バジリスクの討伐は無事に完了と言えるだろう。

 ダイチがミレーニアの方に近付いていくと、ミレーニアはしゃがみ込んでバジリスクの切断面をじっと見ている。

「お疲れ様。そんなにじっと切断面を見てどうしたんだ?」

 訝しそうにミレーニアに問いかけるダイチ。

「うーん……、この切り口の奥の方に何かあるんだよね……」

 切断面を指差して答えるミレーニア。
 バジリスクの腹部の奥の方に、尻尾?らしきものが見える。

「これは!?」

 ダイチは何かに気づいたのか、そこに手を突っ込んで引っ張り出そうとする。
 なんとかそれ・・をバジリスクの腹部から、引っ張り出すことに成功したダイチ。

 それは、気を失ってはいるものの、まだ息のある獣人の女の子だった。
 
「えっ?? えーと、バジリスクの子供かな??」

 ミレーニアが首を傾げながら呟く。

「そんなわけないだろ……」

 ミレーニアの検討違いの疑問に呆れるダイチ。
 その腕の中には、猫耳を生やした女の子が抱えられていた。
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