上 下
8 / 19

第8話 ギルドマスターからの依頼

しおりを挟む
「昨日の討伐報酬はどれくらいになってるかな? 途中で面倒くさくなって数えるの止めちゃったからな」

 ダイチが隣にいるミレーニアメリーに話しかける。
 二人は宿屋を出て冒険者ギルドに向かっている。

「いくらでもいいかな、私は昨日楽しい一日だったし」

 ミレーニアメリーは笑顔で答える。

「……おいおい、メリーの借金返済の為だぞ。真剣に考えてくれよ」

 少し呆れた様子でダイチがミレーニアメリーに告げる。

「だってダイチと二人でおでかけ楽しいんだもん、これならむしろ、借金減らなくても……」

 ついにミレーニアメリーは当初の目的を投げ捨てたようだ。

「……ったく、返済終わっても一緒に出かければいいだろ」

 やれやれと言った様子のダイチ。

「え!? ホント!! 今度はどこに一緒に行こうかな~! まずは海でしょ! それから東の魔法皇国『トリストパピコ』でしょ! いろいろ行きたいね~」

 朝からルンルンのミレーニアメリーだった。


■■■


 ダイチ達が冒険者ギルドの扉を開けると、中は冒険者達で賑わっていた。
 掲示板の前には依頼を選りすぐっている冒険者達が列をなしている。酒場も朝から活況なようだ。
 昨日は一つだった受付カウンターの窓口も、今は二つになっていて、それぞれに結構な人がならんでいる。

 「昨日、人が少なかったのは遅い時間だったからか」

 「そうみたいね」

 ダイチ達は話しながらカウンターに向かって進む。

 進む内に周囲の冒険者達の視線がダイチ達に集まってくる。

――――ガヤガヤガヤ

「おい見ろよ、あれが昨日グレアを伸した奴だぞ」
「あのヒョロっちい男がか?」
「馬鹿、女の方だ。あのグレアが蹴り一撃だったぞ」
「うへー、でもあれだけいい女なら蹴られてみたいかも」
「お前は見てないからそんなこと言えるんだ、あの蹴りは殺人熊以上だったぞ」
「赤い髪の方素敵ね、話に聞いた通りの強さなら私達のパーティーに入って欲しいわね」

 酒場からも掲示板の方からもダイチ達を見ながら、あれこれと話す声が聞こえる。
 
「一日経たずに有名人だぞ、メリー」

「苦手だよー、こういうの……」

 ミレーニアメリーがダイチの袖を引っ張りながら肩に寄り添う。
 その様子を見た男冒険者達のダイチを見る視線がキツくなった……。

「まあ、昨日の件を聞いてる冒険者は絡んでこなそうなのが救いか……」

 呟きながら、周囲の視線をスルーするダイチ。
 ダイチ達はカウンターに近付いたところで声をかけれれた。

「ダイチさん、メリーさん、おはようございます。お待ちしてました」

 ロングヘアーの受付嬢セレナだ。

「おはようございます、セレナさん。俺達はどうすれば?」

 ダイチがセレナに問いかける。

「ギルドマスターの所に案内しますね。二階になりますので、どうぞこちらへ」

 ダイチ達を案内するセレナ。
 ダイチ達はセレナについて二階に上がっていく。二階はギルドマスターの部屋等、特別な部屋ばかりとのことだ。

「ギルドマスター、ダイチさん達をお連れしました」

 セレナがドアをノックして、部屋の中に呼びかける。

「いいぞ、入ってくれ」

 ドアの向こうから、ドスの聞いた低めの声が聞こえてくる。
 セレナがドアを開け、部屋の中に入るダイチ達。

 ゆったりした広めの室内には落ち着いたインテリア。部屋の真ん中にテーブルがあり、それを挟むように向かい合うソファー。

 ソファーの脇に一人の男が立っている。
 白髪混じりの短髪に物腰の柔らかそうな表情だが、肉体は明らかに鍛えられてる事が分かる。現役の冒険者と言っても納得してしまうだろう。

「私はギルドマスターのギルバートだ。ダイチとメリーだな、ようこそ。とりあえず座ってくれ」

 ダイチ達にソファーを勧めるギルバート。
 ギルバートとダイチ達はテーブルを挟んでソファーに腰掛け、セレナはギルバートの背後に控えるように立っている。

「早速だが、まずは昨日の魔物の討伐報酬を渡しておく」

 ギルバートが脇からテーブルの上にゴトっと皮の袋を置きながら告げる。

「こちらで確認させてもらったが、殺人熊が十四体、狂走猪が十六体、灰色狼が八体で、討伐報酬の合計は金貨九枚と銀貨四枚だ。数え間違いは無いと思うが大丈夫か?」

 ギルバートがダイチに討伐数を確認する。

「大丈夫です」

 そもそも討伐数を正確には覚えてないダイチはすぐに了承した。

「うむ、中を確認してくれ」

 ギルバートが確認を促す。

「…………間違いなく」
 
 中を確認したダイチ。

「しかし、そこのセレナに聞いたが、討伐数もかかった時間も登録したばかりの冒険者の成果では無いぞ。いや……こんなことができる冒険者はうちのギルドに他にいるかどうか……」

 驚きを通り過ぎた呆れたような声でギルバートが告げる。

「メリーが凄いだけですよ」

 ダイチがギルバートに答える。隣で聞いていたミレーニアメリーが嬉しそうにダイチを見つめている。

「ああ、グレアの件も聞いたよ。すまなかった、お前たちは何も悪くない」

 ギルバートの耳にも入っていたようだ。

「気にしてませんよ」

 ダイチがミレーニアメリーの方をチラリと見てから答える。

「助かる。それで話は変わるのだが、お前たちに一つ頼みたい依頼がある。厳しい内容だから、話を聞いてから判断してほしい」

 ギルバートが真剣な顔でダイチに告げる。
 
「どんな依頼ですか」

 とりあえず内容を聞いてからと、ダイチ。
 ギルバートが説明を始める。

「この街から北の街道を徒歩で半日程まっすぐ行くと小さな村がある」

「はい」

 ダイチが頷く。

「その村が大蛇の襲撃を受け、今はその大蛇に居座られていると報告を受けている。そこでこの大蛇の討伐を依頼したい」

「村の現状と大蛇の詳細を教えてください」

 ダイチが話の詳細を尋ねる。

「村が襲撃を受けたのが昨日の昼間。突然の襲撃だった為、村人に何人か被害が出たようだ。無事だったものは街道をこの街に向かって避難してきた」

「はい」

「村人の生活基盤は村にあるから、村人達は村を取り戻して欲しいと領主に訴えた。しかし、領主は大蛇を討伐できる人員を動かすのが難しく、領主から直々にギルドに依頼が回されたのだ」

「領主軍が手こずる相手なのですか?」

 そこまでの強さなのかとダイチはギルバートに問いかける。

「報告から判断するに、大蛇はおそらく『バジリスク』だ。Bランクの魔物だがAランクに近いBランクと言われている」

「なるほど……」

 領主軍でも大きな被害が出るだろうと納得するダイチ。

「恥ずかしながら、今のこのギルドでバジリスクに対応できるパーティーやソロはいない……。俺が向かっても一人では無理だろう……」

 悔しそうに語るギルバート。

「王都にも救援依頼を出してるが、奴がいるのはこの街から徒歩で半日の距離。他の村や街道での被害を考えると早々に討伐したい相手なのだ」

 そう語るギルバートの言葉からは、ギルドマスターとしての責任感が感じられる。

「……なるほど。メリー、いけそうか?」

 ダイチが隣のミレーニアメリーに問いかける。

「余裕だよ、ダイチにカッコイイとこ見せちゃうんだから!」

 両手を胸の前で握りしめて笑顔で答えるミレーニアメリー

「というわけで依頼は受けるつもりです。依頼の報酬と、分かってる範囲でのバジリスクの特性を教えてください」

 ギルバートに依頼を受けることを伝えるダイチ。

 ダイチとミレーニアメリーはバジリスクの討伐に向かうことになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼馴染のチート竜,俺が竜騎士を目指すと伝えると何故かいちゃもんつけ始めたのだが?

モモ
ファンタジー
最下層のラトムが竜騎士になる事をチート幼馴染の竜に告げると急に彼女は急にいちゃもんをつけ始めた。しかし、後日協力してくれそうな雰囲気なのですが……

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】令嬢は愛されたかった・冬

ここ
ファンタジー
伯爵令嬢ファリナは、実母の出自から、 家族に疎んじられていた。 誰からも愛されたことのない人生。 けれど、ファリナは魔法使いの適正があった。 使い魔とともに、魔法使いに弟子入りする。そこで待っていたのはこれまでとはまったく別世界で。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

処理中です...