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第2話 魔王ミレーニア・アドラメリア

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 謁見の間に向かって廊下を早歩きで進むダイチとミレーニア。
 ミレーニアが付き従うメイドに問いかける。

「それで、何があったの?」

「実は……帝国からの使者を名乗る方が、事前の連絡も無くいらしたのです」

 この世界で「帝国」と呼ばれるのは、「サザランド帝国」ただ一つ。
 人族至上主義を掲げる大国で、魔王勢力とは二百年以上前から敵対している。
 現在は、休戦協定を結んでいる。

「帝国かあ……嫌な予感しかしないわね」

「あいつらの場合、季節の挨拶に来たとかではないだろうからな……」

 ダイチの発言からすると、来たからには何かしら用があるということだろう。

 目的の場所に着き、ドアを開けて部屋に入る。
 ここは謁見の間の上段脇にある控室だ。
 部屋に入るとそこには女性が一人佇んでいた。

「あら、ミレーニア様と二代目。早速だけどこれに着替えて」

 ダイチを「二代目」と呼ぶ妙齢の女性、長身でグラマラスなお姉様。
 会話もそこそこに、ダイチ達に衣装を渡す。

「ありがとう、セシリア」

「ありがと」

 衣装を受け取り、セシリアに礼を言うダイチとミレーニア。

「時間が無いからすぐ着替えて来てね、先に謁見の間で待ってるわ」

 そう言って、ダイチ達が入って来たのとは別のドアを開けて行ってしまった。

 部屋に残されたのは、ダイチ、ミレーニア、ミレーニアを呼びに来たメイドの三人。

「さ、お手伝いしますね」

 メイドがミレーニアの服を脱がし始める。

「ちょ、ちょっと待って!? ダイチがそこにい……ムガッ……」

 ミレーニアは真っ赤なりながら抵抗するも、着ていた布製のワンピースを下から上に引っ張られ、顔まで服を持ち上げられた所で強制的に沈黙させられた。

手はバンザイしたまま、首筋、胸元まで真っ赤になっている。

「んーっ!? んんー!?」

「ミレーニア様、暴れると余計に時間がかかりますよ」

 ミレーニアがもがいたせいで、服が顔から上に抜けず手こずっている。
 下着姿でバンザイした状態で、顔に服が巻き付いた姿。

「シュールだな……」

 既に正装に着替え終わったダイチは、目を逸らしながら呟いた。


■■■


「大変な目にあったわ……」

膝に手をついて肩で息をしているミレーニア。
どことなく顔が蒸気していて色気がある。

「ミレーニア様が抵抗されるからですよ」

 ミレーニアの髪を梳かしながら、主の呟きに応えるメイド。
 ミレーニアの正装は黒のロングドレスで、胸元に装飾が施されている。広がる黒が、真紅の髪の魅力を引き立てていて、その姿は神秘的と言っても差し支えないだろう。いやこの場合は、悪魔的な魅力と言うべきだろうか。

 ダイチの正装は黒に近い濃いグレーの騎士服。年齢よりも少し落ち着いた雰囲気を与えている。

「よし、準備ができたなら行くぞ」

 ダイチが呼びかける。

「むぅー、全く動揺してくれないのも……」

 ミレーニアは自分の下着姿を見たダイチが、全く動じなかったのが少し不満のようだ。

「ミレーニア様、おいたわしや……」

 ハンカチを目に当てて、哀しんでいるかのような格好をするメイド。そのハンカチは全く濡れていなかった……

 ダイチとミレーニアは準備が整った所で、先程セシリアが出て行ったドアから謁見の間に向かう。



 ミレーニアはそのまま上段にある玉座へ、ダイチは臣下が並ぶ下段へと。

 玉座の方から見て下段の両脇に臣下が並んでいる。玉座から見て、右に五名、左に四名、ダイチは右側の一番玉座寄りに立っている。

「セシリア、ロイスは来てないのか?」

「うーん、誰かが呼びに行ったはずなんだけどね……」

ダイチが隣に立つセシリアに問いかける。答えただけなのにセシリアの仕草が一々色っぽい。

「まあ、結構遠くまで蹴り飛ばされてたからな……」

 ダイチが小声で呟く。

 丁度その時、使者が入ってくるタイミングになったようだ。
 玉座向かって正面の一番大きな扉が開かれる。

「サザランド帝国が御使者、メヌエール男爵のお目見えです!」

 扉から先に入ってきた案内係の魔族が、一同に向かって呼びかける。その後ろから二人の男がついて入ってくる。

 一人は低めの身長で小太りの男。蛙が潰れたような顔をしているが、着ている服は一目で豪奢だと分かる。威張るように入って来た様子に、眉を顰めている者もいる。

「なんだ、あいつは……」

 ダイチは厄介な事が起こるのを確信するかのように、溜息交じりに呟く。

 その少し後ろを付いて入ってきた、三十歳前後に見える男は、身長ニメートルを超える大男。服の上からでも鍛えられてることが分かる。さらに最も特徴的なのは頭の両脇に生えているニ本の角。ドリル状の角は竜の角を想起させる。

 下段の中央まで来た所で小太りの男が口上を述べる。

「本日は魔王様の拝顔を賜ることができ、このメヌエール、光栄の極みでございます」

 微塵も光栄に思ってない様子で、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるメヌエール男爵。

 ミレーニアが玉座から立ち上がり一歩前に出る。

「私が当代の魔王、ミレーニア・アドラメリアよ! 前置きはいいから、用件を述べなさい」

 凛とした名乗りが、謁見の間に響き渡る。
 その堂々とした佇まいは、多くの者を敬服させるに十分な威容を備えている。

(公の場だと、しっかり魔王様してるんだよな……いつもはアレなのに)

 ダイチが失礼なことを考えている。
 事実今のミレーニアには、普段のどこか抜けている少女とはまるで雰囲気が違う。
 対峙した者が自然と頭を垂れてしまうような王者の風格。

「姫様……立派になられて……」

 感動に打ち震えてる臣下がいる。

「うっ……」

 男爵がミレーニアの雰囲気に気圧されたが、息を吐いて落ち着きを取り戻した……

「ふぅ、まあいい……此度、サザランド帝国と竜人族が盟を結ぶ運びとなった。本日はその報告をしに参ったのだ」

 帝国からの使者は、魔王城に波乱を運んできた。


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