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第20話「眠れる森の美少女」
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台座の上の少女は目を開けてから、眠そうに目をこすっている。
とりあえず無事に呪いだけを解くことができたのかな……。
ほっとしつつも、ドキドキしている。
なんて声をかければ良いのだろうか。
目を開けたは良いものの、次は少女を取り巻く状況が問題となってくる。
楽観できない理由がある可能性が高い。
「おはようっ」
レーカが少女にニコニコしながら声をかけた。
レーカのこういう明るさには助けられるな。
「お……はよ……?」
少女は体を起こし、キョロキョロと周囲を見回している。
見た目は俺と同じくらいの歳だろうか。
黒に近い紫色の髪が綺麗な美少女だ。
少女がこちらを向き、目が合う。
その様子はどこか不安げだ。
そりゃあいきなりこの状況だったら不安になるよね。
「どこから話したらいいか分からないけど……、
君はずっと眠っていたんだ」
少女を驚かさないように、優しい口調を意識する。
「ねむって……。
あ、アビーはどこ?
騎士団のみんなは??
――きゃっ!?」
慌てた様子で台座から降りようとするが、ずっと眠っていたためか上手く体が動かせないようで、こちら側に滑り落ちてくる。
「よっと。俺たちは君を助けたいんだ。
安心してほしい。俺の名前はネロ――」
俺は倒れこんできた少女を受け止め、ゆっくりと下ろし台座に寄りかからせる。
ついでにリラックスのために、薄く睡眠魔法を使う。
すぐに警戒を解いてもらうというのは難しいかもしれないけど、きっとこういう時は真剣に向き合うのが大事だよね。
「あたしはレーカよ。
寝るのと食べるのが大好きよ」
「わ、わたくしはヴェネットと申します」
笑顔のレーカに少女も名前を名乗る。
ヴェネットっていうんだね。
丁寧な言葉遣いに、どことなく育ちの良さを感じる。
「私はセシル。
可愛い子の味方、セシルよ」
セシルさんも少女に話しかける。
しかし、レーカとセシルさんのその自己紹介は一体……。
「僕はアル。
ふと思い出したけど、
前にいた世界には『眠れる森の美女』っていうのがあったなあ」
「なにそれ?」
気になった俺はアルに聞いてみる。
「んーとね。
王女様が悪い魔女に眠りの呪いをかけられるんだけど、
王子様がキスをすることで呪いが解けて、目を覚ますんだ」
「へぇー、今回の状況と凄く似ているね」
「そうなんだよ。
さっき思い出してたら、
呪いを解くにはキスも必要だと吹き込んでたのになあ。
うーん、残念……」
悪戯っぽい口調でアルが呟く。
さっきは真剣な状況だったし、アルなりの冗談だろう。
「キ、キスっ!?」
そんな冗談に、眠れる森のヴェネットが慌てる。
「いや、キスしてないからね。
魔法で呪いを解いただけだからさ」
誤解させたら可哀想じゃん。好きでもない男にキスされたなんてさ。
「あ、あなたが助けてくれたんですね。
ありがとうございました。
体の中が温かいもので満たされていくのを感じてた気がします」
こっちを見るヴェネットの目が潤んでいて、顔が少し赤い。
寝起きというより、病み上がりに近いし体調が悪いのかもしれないな。
「体調は大丈夫?
少し休んだほうが良いかもしれないね」
ヴェネットのおでこに手をあて、もう一度薄く睡眠魔法を使う。
呪いが残っていたらまずいしね。
「んっ……。
すみません、少しポーッとしますが大丈夫です。
それにあなたでしたらキスされても……」
大丈夫そうなら良かった。後遺症とか心配だからね。
ヴェネットの呟きの最後の方は、小さくてよく聞き取れなかった。
と、その時。
『グルゥォォオオー!』
外から咆哮が聞こえてきた。
これは黒ドラ?
「あ、アビー!!
ちょっと声が変わった気がするけど、アビーよねっ!?」
ヴェネットは、勢いよく顔を上げ、叫ぶ。
不安と嬉しさが入り混じった表情に見える。
『グルルゥゥゥン!』
まるで返事を返すかのような黒ドラの咆哮。
不思議と咆哮に嬉しさがのっている気がする。
これはもしかして……、あの黒ドラが“アビー”ということかな?
ヴェネットは外に向かって行こうとするが、上手く起き上がれない。
「私の肩につかまって」
セシルさんがヴェネットに近づき、肩を貸す。
「ありがとうございます」
ヴェネットを連れて俺たちは祠から外に出た。
『グルゥ……』
外に出ると黒ドラがこちらに向かって、おすわりをしていた。
まるでご主人様を待つ犬のような雰囲気だ。
犬のようなのは雰囲気だけで、実際は巨大だから、迫力があってちょっと怖いんだけどさ。
「アビー?」
セシルさんの肩につかまっているヴェネットが、黒ドラを見て疑問の声をあげる。
あれ? 違ったかな。
ドラゴンと少女だけど、知り合いかなと予想していた。
黒ドラは明らかにヴェネットを護っていたわけだし。
『グルゥゥウ』
黒ドラは、ヴェネットを見て嬉しそうな鳴き声を出す。
「えっと……。
大きくなっちゃってるけど……、
あなたはアビーよね」
ヴェネットが黒ドラに話しかける。
『グルルゥ』
黒ドラが巨大な体でその場に寝転がり――。
今、ドスンと地面が揺れたぞ……。
お腹をこっちに見せて、ついでに顔もこっちに向ける。
「服従のポーズだね」
アルが呟く。犬が飼い主に見せるアレだね。
「アビーだわ。
この感じは間違いないわ」
ヴェネットがなにやら確信したようだ。
そこで確信するんだ!?
巨大ドラゴンの服従のポーズは……。
何というか……。シュールな光景だ。
レーカに続き、ここ数日で俺の中のドラゴン像が、ガタガタと音を立てて崩れていくのを感じた――。
とりあえず無事に呪いだけを解くことができたのかな……。
ほっとしつつも、ドキドキしている。
なんて声をかければ良いのだろうか。
目を開けたは良いものの、次は少女を取り巻く状況が問題となってくる。
楽観できない理由がある可能性が高い。
「おはようっ」
レーカが少女にニコニコしながら声をかけた。
レーカのこういう明るさには助けられるな。
「お……はよ……?」
少女は体を起こし、キョロキョロと周囲を見回している。
見た目は俺と同じくらいの歳だろうか。
黒に近い紫色の髪が綺麗な美少女だ。
少女がこちらを向き、目が合う。
その様子はどこか不安げだ。
そりゃあいきなりこの状況だったら不安になるよね。
「どこから話したらいいか分からないけど……、
君はずっと眠っていたんだ」
少女を驚かさないように、優しい口調を意識する。
「ねむって……。
あ、アビーはどこ?
騎士団のみんなは??
――きゃっ!?」
慌てた様子で台座から降りようとするが、ずっと眠っていたためか上手く体が動かせないようで、こちら側に滑り落ちてくる。
「よっと。俺たちは君を助けたいんだ。
安心してほしい。俺の名前はネロ――」
俺は倒れこんできた少女を受け止め、ゆっくりと下ろし台座に寄りかからせる。
ついでにリラックスのために、薄く睡眠魔法を使う。
すぐに警戒を解いてもらうというのは難しいかもしれないけど、きっとこういう時は真剣に向き合うのが大事だよね。
「あたしはレーカよ。
寝るのと食べるのが大好きよ」
「わ、わたくしはヴェネットと申します」
笑顔のレーカに少女も名前を名乗る。
ヴェネットっていうんだね。
丁寧な言葉遣いに、どことなく育ちの良さを感じる。
「私はセシル。
可愛い子の味方、セシルよ」
セシルさんも少女に話しかける。
しかし、レーカとセシルさんのその自己紹介は一体……。
「僕はアル。
ふと思い出したけど、
前にいた世界には『眠れる森の美女』っていうのがあったなあ」
「なにそれ?」
気になった俺はアルに聞いてみる。
「んーとね。
王女様が悪い魔女に眠りの呪いをかけられるんだけど、
王子様がキスをすることで呪いが解けて、目を覚ますんだ」
「へぇー、今回の状況と凄く似ているね」
「そうなんだよ。
さっき思い出してたら、
呪いを解くにはキスも必要だと吹き込んでたのになあ。
うーん、残念……」
悪戯っぽい口調でアルが呟く。
さっきは真剣な状況だったし、アルなりの冗談だろう。
「キ、キスっ!?」
そんな冗談に、眠れる森のヴェネットが慌てる。
「いや、キスしてないからね。
魔法で呪いを解いただけだからさ」
誤解させたら可哀想じゃん。好きでもない男にキスされたなんてさ。
「あ、あなたが助けてくれたんですね。
ありがとうございました。
体の中が温かいもので満たされていくのを感じてた気がします」
こっちを見るヴェネットの目が潤んでいて、顔が少し赤い。
寝起きというより、病み上がりに近いし体調が悪いのかもしれないな。
「体調は大丈夫?
少し休んだほうが良いかもしれないね」
ヴェネットのおでこに手をあて、もう一度薄く睡眠魔法を使う。
呪いが残っていたらまずいしね。
「んっ……。
すみません、少しポーッとしますが大丈夫です。
それにあなたでしたらキスされても……」
大丈夫そうなら良かった。後遺症とか心配だからね。
ヴェネットの呟きの最後の方は、小さくてよく聞き取れなかった。
と、その時。
『グルゥォォオオー!』
外から咆哮が聞こえてきた。
これは黒ドラ?
「あ、アビー!!
ちょっと声が変わった気がするけど、アビーよねっ!?」
ヴェネットは、勢いよく顔を上げ、叫ぶ。
不安と嬉しさが入り混じった表情に見える。
『グルルゥゥゥン!』
まるで返事を返すかのような黒ドラの咆哮。
不思議と咆哮に嬉しさがのっている気がする。
これはもしかして……、あの黒ドラが“アビー”ということかな?
ヴェネットは外に向かって行こうとするが、上手く起き上がれない。
「私の肩につかまって」
セシルさんがヴェネットに近づき、肩を貸す。
「ありがとうございます」
ヴェネットを連れて俺たちは祠から外に出た。
『グルゥ……』
外に出ると黒ドラがこちらに向かって、おすわりをしていた。
まるでご主人様を待つ犬のような雰囲気だ。
犬のようなのは雰囲気だけで、実際は巨大だから、迫力があってちょっと怖いんだけどさ。
「アビー?」
セシルさんの肩につかまっているヴェネットが、黒ドラを見て疑問の声をあげる。
あれ? 違ったかな。
ドラゴンと少女だけど、知り合いかなと予想していた。
黒ドラは明らかにヴェネットを護っていたわけだし。
『グルゥゥウ』
黒ドラは、ヴェネットを見て嬉しそうな鳴き声を出す。
「えっと……。
大きくなっちゃってるけど……、
あなたはアビーよね」
ヴェネットが黒ドラに話しかける。
『グルルゥ』
黒ドラが巨大な体でその場に寝転がり――。
今、ドスンと地面が揺れたぞ……。
お腹をこっちに見せて、ついでに顔もこっちに向ける。
「服従のポーズだね」
アルが呟く。犬が飼い主に見せるアレだね。
「アビーだわ。
この感じは間違いないわ」
ヴェネットがなにやら確信したようだ。
そこで確信するんだ!?
巨大ドラゴンの服従のポーズは……。
何というか……。シュールな光景だ。
レーカに続き、ここ数日で俺の中のドラゴン像が、ガタガタと音を立てて崩れていくのを感じた――。
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