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第18話「創世の七芒星(ヘプタグラム)」

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 台座の上には、美少女が仰向けで眠っている。

 手をお腹の上で組んでいて、何かに祈るように眠っている姿は、どこか神秘的だ。

 眠っていると思ったけど、実は死んでいるとかじゃないよね。

 そう思いながら、俺たちは台座に近づく。

 アルが寝ている女の子をまじまじと見て。

「うーん、これは仮死状態だね」

「菓子?
 食べると美味しいってこと??
 あたし、最近お菓子食べてなかったのよね」

 アルの説明を受けて、レーカの食い意地がほとばしる。

「違ーう!
 甘くて美味しいやつじゃない。
 仮死っていうのは、深く深く眠っている状態だ」

 さすがに本気じゃないと思うけど、そういう発想にならないように、今度きつく言い聞かせよう。
 レーカは人じゃなくてドラゴンだからね。

 それにしても、黒ドラゴンとの約束をすでに忘れているような。
 哀れ黒ドラ……。

 それにしても……。

「なんでこんなところで、
 仮死状態になっているんだ?
 アル。何か分かる?」

 なんでこの美少女はここに?
 
 どう考えたって普通の理由ではないだろう。

 美少女なんだけど、異様に白い肌と濃い紫色の髪は、見ていると胸のあたりがどこか落ち着かない気分になってくる。

「うーん……。
 この魔力の感じは、
 心当たりだったやつ絡みの仕業で間違いないと思う。
 呪いって言うと分かりやすいかな」

「仮死になる呪い?
 どういうこと?」

「この子はすでにこの状態になってから、
 数百年が経ってると思う。
 この状態で瘴気しょうきをまき散らし続けてるんだ」

 なんて酷いことをするんだ。
 アルの話を聞いて、顔が引きつるのが自分でも分かる。

「いったい誰が何のためにそんなことを……」

「僕の上位にあたるヒュプノス様と仲の悪い、
 タナトス神かその眷属けんぞくの仕業だと思うよ」

「タナトス?
 聞いたことあるような無いような」

 昔、アルが言ってたような気もする。

「死を司るとされている神だよ。
 対してヒュプノス様は眠りを司るんだ。
 死と眠りは近くて遠いこともあって昔から仲が悪いんだよ」

「アルから聞いたことあったかもね」

「タナトス神は、
 この世界では竜の姿で現れたことが何度かあるみたいだよ。
 その時の名前はたしか……、ザッハークだったかな」

 アルの説明を聞いていたセシルさんが反応を示す。

「ザッハーク!?」

「セシルさん、知っているの?」

「神話に出てくる七大竜王の一角よね。
 別名、冥竜アジ・ダハーカよ」

「あぁ、そっちは聞いたことある。
 めちゃくちゃ悪い竜だよね」

――冥竜アジ・ダハーカ。

 子供のころに読んだ物語の中で、国を滅ぼしていたような気がする。
 絶望の象徴だったような……。

「そうそう。
 “七大竜王”ってよばれたり、
 “創世の七芒星ヘプタグラム”って言われたりしてる、
 そのうちの一柱というか一人だよ」
 
 まあ実際“創世”なんていうのは大げさなんだけどね、とはアルの言。

 要は、“タナトス”と“ザッハーク”と“冥竜アジ・ダハーカ”は同じ存在の別名ということか。

 同じ存在を指すのに、呼び名が多くある。
 神様とかそういうのって、地域や時代によって呼び名が違うってこと、よくあるもんね。

 創世の七芒星ヘプタグラムは小さな子供でも聞いたことがあるような伝説の存在だ。

「ヘプタグラムっておとぎ話に出てくる神獣や神様たちじゃないか。
 そんな存在がなんで?」

「まあ今回のは十中八九、
 タナトス……ザッハーク本人じゃなくて、
 その眷属の誰かの仕業だと思うよ」

「そうなんだ……」

 突然、神々の話題が出たことで動揺したよ。

 だって、おとぎ話の登場人物が実際に現れたら驚くでしょ。
 今回は話題に出ただけだけど。

 それでも、目前の少女に関わっていると聞くとさ。

創世の七芒星ヘプタグラムの中で、
 現在のこの世界に直接干渉している人は少ないよ。
 ザッハークとリンドブルムくらいじゃないかな。
 ヒュプノス様もこの世界には五百年以上来てないみたいだし」

 そういうものなんだね……。

「もしかして……、
 ザッハーク冥竜アジ・ダハーカが国を滅ぼしたとかも、
 本当にあった話なの……?」

「調べたわけじゃないから分からないけど、
 あいつならやりかねないとは思うよ」

 マジか……。作られた物語だと思っていた。

 身近というほどではないけど、思いのほか近いところに抗うことができない巨大な存在がいることに、俺はショックを受けた。

 その時、服のすそをチョイチョイと引っ張られる。

「レーカ、どうした?」

「ネロっ、
 リンドブルムって“紅炎竜プロミネンスのリンドブルム”かしら。
 だとしたらそれ、あたしのママよ」

 レーカがニコニコ嬉しそうな顔して爆弾発言を投下してきた。

「おとぎ話のリンドブルムには、
 たしかそんな二つ名があったな……」

 アルもそれを肯定する。

「へー、レーカのお母さんがねぇ。
 紅炎竜プロミネンスのリンドブルムも、
 創世の七芒星ヘプタグラムの一角で間違いないよ」

「マジかよ……」

 思いのほかどころか、伝説の竜の娘が俺の服のすそを引っ張ってるんだけど!

 ふぅ……。内心取り乱してしまった。

 頭の整理が追いつかない。

「言われてみれば、
 リンドブルムの面影あるかも」

 なんだよ面影って! というかアルはリンドブルムに会ったことあるのかよ!

「レーカちゃんがおとぎ話級に可愛いのには、
 理由があったんだね!」

 セシルさん……。

 なんだよ“おとぎ話級”の可愛さって。

 伝説にもひるまないその心の強さは見習いたいものが……、いや無いな……。

「えへへー、ママは凄いんだよ。
 あのね――――」

 そこからしばらく、レーカの母親自慢を聞くことになった。

 神話の登場人物の生態?ということで、話を聞く分には興味深いものだった。
 あくまで話を聞く分にはであって、実際に会いたいとは全く思えなかったけど……。

 レーカ曰く、その地域は雪に閉ざされてて寒いからと、ブレスで森をまるごと燃やして暖を取ったり。
 
 幼竜(今よりもさらに幼いレーカ)を狙っている邪教国の話を聞いて、拠点の城ごと灰燼と化してみたり。

 他にもいろいろな話を聞いたが、どれも完全に大災害のソレだった。

 レーカの大雑把おおざっぱな性格は母親譲りかもしれないと思ったのは、俺だけではなかったと思う。

 元々の話かられにれて、しばしの時間を過ごす俺たち。

 台座の上の少女が、仮死状態のはずなのになぜか寂しそうに見えたのは、きっと気のせいに違いない――。
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