上 下
17 / 21

第17話「ドラゴンコミュニケーション」

しおりを挟む
 俺たちはタナリアの森を進んでいく。

 レーカは相変わらず黒ドラゴンをズルズルと引きずっている。
 哀れな黒ドラゴン……。

「あっ!?」 

 今、黒ドラゴンが大きめの木にぶつけられて、一瞬目を覚ましたぞ。
 すぐにもう一度、木にぶつけられて気を失ったけど……。

 あれは俺の睡眠魔法で眠っているんじゃなくて、気絶してるだけだな。

 なんだか黒ドラゴンが可哀想になってきた。

 レーカのやつ、本当に餌のつもりで運んでいないだろうなあ。

 さすがにそれは無い……か。

 あるの?





 そのまま、三十分ほど歩き続けた。 

 周囲の木々はどこまで行っても黒いものばかり。

「アル。
 そういえばなんでこの森は木が黒くなってるんだ?」

 いまさらながらの疑問を口にする。

「んー、おそらくだけどね。
 瘴気しょうきに影響されて、
 アンデッドみたいな状態になってるんだと思うよ」

 アルの言葉にセシルさんがビクッとなった。

 周りの木が、スケルトンと同じアンデッドみたいと言われたら、不気味に感じるよね。

 なんだか木が襲ってきそうでさ。

「アンデッドって可愛いモノと正反対だよね……」

 セシルさんがトボトボと歩いている。

 どうやら、精神的に疲れていて、可愛いものに飢えてるようだ。

 こういう時は……。

 アルをモコモコしていいからさ、とセシルさんにアルを押し付ける。

 セシルさんの表情がパアッと明るくなり、アルをモコモコなでなでし始めた。

 パーティーメンバーの精神安定だいじ。

 ちょっとの罪悪感と程々の達成感にひたっていると、我らがレッドドラゴンが急に歩みを止めた。

 そして、引きずってきた黒ドラゴンをペイっと放り出した。

「レーカ、
 どうしたんだ?」

『何かあるよ。
 うーん、お家かな?』

 レーカの視線の先を見てみると。

 何やら大きな石がいくつも積み重なっている。

 家なのか?

 ドラゴンは無理だけど、人族なら何人かは入れそうな大きさだ。

「これはほこらだね。
 しかも土魔法でつくられてる感じだよ」

 セシルさんの腕の中から、アルが説明してくれた。

「土魔法ねえ……。
 村長の言葉からすると、
 何かが封印されてるってことかな?」

 俺が呟いたその時。

 ペイっとされてた黒ドラゴンがうめき声を上げた。

『……グルゥゥ』

 あれだけ雑に扱われたら、目を覚ますよね。

 ただ、その様子は俺たちを襲ってきた時と違い、少し敵意は残っているものの理性を感じられるものだ。

 黒ドラゴンの迫力はいまだに恐ろしいところはあるものの、レーカに勝てないことが分かっているためか、今は大人しくしている。

『そこのドラゴンが、
 ほこらには手を出さないでって言ってるよ』

 一瞬、頭にクエスチョンが浮かんだけど、レーカには黒ドラゴンの言いたいことが分かるってことなのだろう。

 ドラゴンにだけ分かる言葉とかあるのかな。

「レーカ!
 そこのドラゴンに理由を聞けるか?」

『聞いてみるっ!』

 その後、クルル……グルゥ……クゥイー……ガルル……と、なにやらコミュニケーションがおこなわれている。

 ふと思ったのだが。

 これ実は、すごい貴重な場面に立ち会ってるんじゃないのか。

 物語でもドラゴンの会話なんて見たことも聞いたこともない。

 ドラゴンの研究をしている学者たちが、泣いて喜ぶ状況なのでは……。

 そんなことを考えていると、レーカがこっちを振り向いた。

『なんかね。
 そこにはこのドラゴンの大事なモノが眠ってるんだって。
 手を出さないでってお願いされちゃった』

 伝説の武器でも眠っているのだろうか。
 そういえば物語のドラゴンで財宝を集めるのが好きなやつがいたなあ。

 その時、アルが話しかけてきた。

「ネロ。
 あの中にこの瘴気しょうきの原因があるみたいだよ」

「そうなの?」

「時間があったから、
 周囲の魔力の動きを調査してたんだ。
 どうもあの中から瘴気が広がってるんだ。
 それにこの状況を生んだやつにちょっと心当たりがあるんだ」

 いつになくアルが真剣だ。

 これは祠を放置して帰るわけにはいかないかもしれない。

「レーカ!
 そのドラゴンにさ。
 悪いようにはしないから、
 中を見せてくれるように頼めないかな。
 中にあるものを盗ったりはしないよって」

『聞いてみるっ』

 またしばしの、クルルガルル…………。


『分かったってさ。
 中のものを傷つけないでくれるならって言ってるよ』

 おお!

 レーカがなんだか凄くデキる子に見えてきた。

 まあ実際、やるときはやりすぎる子だしね。

 黒ドラゴンとしては、争ってもレーカには歯が立たないっていうのも、あるのかもしれないけどね。

 カッと赤い光が周囲に広がり、レーカが人化した。

 セシルさんが、すぐにレーカに駆け寄って服を着せ始めた。

 慣れてきたな、セシルさん。

 レーカは人化しちゃったけど、黒ドラゴンがいきなり襲ってくるとかないよね?

 一抹の不安を感じつつも、黒ドラゴンの落ち着いた様子を見て、大丈夫だと自分に言い聞かせることにした。

 黒ドラゴンに見守られる中、俺たちはほこらの中に足を踏み入れる。

 黒ドラゴンは大きさからして入れないから、外でお留守番。

 巨大な体ながら、心配そうにこちらを見ている様子は、なんだか愛嬌があって可愛い気さえした。


 祠の中は、そこまで広いものではなく、入るとすぐに中央の台座が目に入った。

 台座の上には……

 人?

 人が寝ている?

 石の台座の上には、死んだように眠っている美少女の姿があった――――。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

幼馴染のチート竜,俺が竜騎士を目指すと伝えると何故かいちゃもんつけ始めたのだが?

モモ
ファンタジー
最下層のラトムが竜騎士になる事をチート幼馴染の竜に告げると急に彼女は急にいちゃもんをつけ始めた。しかし、後日協力してくれそうな雰囲気なのですが……

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。《サイドストーリー》

はぐれメタボ
ファンタジー
《番外編》 神々の間では異世界転移がブームらしいです。の番外編です。 《マーリンさんの学業奮闘記》 大賢者イナミの弟子、マーリンは師匠の命令でミルミット王国の学院に入学する事になった。 マーリンは、そこで出会った友人達と事件に巻き込まれて行く。 《迷宮都市の盾使い》 ミルミット王国最大の迷宮都市ダイダロスで迷宮に挑む冒険者達と全身鎧を身に付けた謎の冒険者の物語り。 《炎の継承者》 田舎に暮らす少年、カートは憧れの父親の背中を追って成長して行く。 《盃を満たすは神の酒》 エルフのジンとドワーフのバッカスは2人組の冒険者である。 彼等は神が醸造したと言われる伝説の酒を探して旅を続けていた。 そんな彼等が居た帝国の街に、とてつもない数の魔物が迫っていた。 《1人と1振り》 冒険者のヴァインはある日、奇抜な冒険者アークと出会う。 やがて共に旅をする様になった2人はミルミット王国のある街でとある依頼を受ける事になった。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...