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第15話「暴れるドラゴン」

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 スケルトンの集団がレーカに迫る。

 数は二十体くらいだろうか。武器は持っていないけど、なぜか上半身だけは立派な鎧をつけている。

 まあ立派といっても、錆だらけには違いなく、なんとなく元は高級そうな鎧というだけだ。

 レーカなら大丈夫かな?

 スケルトンと対峙しているレーカは、特に焦っている様子はない。

 周囲を見回すと、すでに二体ほどのスケルトンの残骸がある。

「あたしの狩りを邪魔しないでよ!」

 レーカがいつになく怒っている。

「レーカっ!
 気をつけろ!!」

 言っておいてなんだが、最強レーカに俺が言えることはない。

 スケルトンって睡眠魔法が効かなそうなんだよね。
 効くか試しておきたい気持ちはあるけど、射程に近づかなきゃいけないし、レーカの戦いの邪魔になりそうだ。

 今はレーカを連れて、早くタナリアの森から離脱したい。

 セシルさんは?

 セシルさんの方を振り向くとガクガクと震えている。

 アンデッドモンスターは見た目からして、精神的にくるものがあるからね。

「大丈夫ですよ」

 そう言って、セシルさんの手を握る。

 怯えのためか手が冷たくなっている。

 俺はセシルさんに、ほんのり薄い睡眠魔法をかける。

「あっ」

 セシルさんの声がこぼれる。

 俺の睡眠魔法は、精神的にリラックスさせる効果がある。
 そのため、薄くかけると眠らないけど落ち着かせることができる。

 こんな時に思いついたけど、これを使って商売をすることもできるんじゃないだろうか。

「レーカは大丈夫だし、
 俺たちも大丈夫だから安心してて」

 もしスケルトンに睡眠魔法が効かなかったら、全然大丈夫じゃないけど、今はこう言うべきだろう。

 その時、レーカの方で動きがある。

「食べられない魔物に興味はないのよー!」

 レーカは無茶なことを言いながら、無茶苦茶な強さでスケルトンを破壊、殲滅していく。

 魔物とモンスターはほぼ同義で使われるけど、より魔の属性が強いものをモンスターと呼ぶ場合もある。
 スケルトンはモンスターに分類されることが多い。

 けど、レーカの魔物分類は食べられるか否かのようだ。

 なんでもかんでも食べて、実は食べたら毒だったとか、今までなかったのかね。

 そんなことを考えている内に、レーカは最後のスケルトンを後ろ回し蹴りで破壊した。

「レーカの強さは凄いね。
 でも、まだまだ全然本気じゃなさそうだね」

 アルが感心している。

 そうだろう、そうだろう、レーカは強いんだぞ。

 俺たちはレーカに駆け寄る。

 あれだけの数のスケルトンと戦っても、レーカは息一つ乱していない。

「レーカ、大丈夫か?」

 見た感じは大丈夫そうだけど、結構な高さから森に落ちたからね。
 まあ、跳んだのはレーカだけど……。

「大丈夫よ。
 それより暴れたらお腹空いたわ」

「そ、そうか。
 帰って、ご飯にしよう」

 暴れてるって自覚あったんだね。
 
 とりあえず今は、この森を出て帰ることを優先したい。

 その時、レーカが急にタナリアの森の奥の方へと振り返る。

「!?」

「ネロっ!
 何かがくるよ!」

 アルも何かに気づいたようだ。

『グルルゥゥ!!』

 木々の奥の方から、大型の魔物を思わせるうなり声がする。 

「アル!
 何が来てるんだ?」

 嫌な予感がする。

「分からない。
 けど、今から撤退するのは無理だと思うよ」

 アルが、いつもと違い真剣な雰囲気でこたえてくれる。

「あ、これは!」

 レーカはハッとした顔をする。

「どうした?」

「この魔物はきっと……」

 レーカが俺の問いかけに答える前に、それは木々の間から姿を現した。

『グルルゥ……』

 うん、ドラゴンだった……。

 黒い鱗皮の巨大なドラゴン。

 レーカのドラゴン形態より一回り小さいけど、俺たち人族からしたらとんでもない大きさだ。


 しかもこのドラゴン、どこか尋常ではない雰囲気だ。
 目が血走っているように見え、口からは大量のよだれを垂らしている。

 飢えて見境が無くなっている感じに見えなくもない。

 まあドラゴンの普通とかよく分からないから、なんとなくだけどね。

 ドラゴンって滅多に出会わないって聞いていたんだけどなあ。
 この数日で既に二体、運が良いのか悪いのか……。

 さて、どうしようか?

 隙を見て眠らせるしかないか……。

 レーカはいぶかしげな表情で黒ドラゴンの様子を伺っている。

「レーカ、少しの間だけあのドラゴンの注意を引いておけるか?」

 あまりレーカに無理をさせたくないけど、あの黒ドラゴンを抑えられる手札は限られているからね。

 なんとか近づいて眠らせよう。

「別に、アレを倒しちゃってもいいのよね」

 レーカが獰猛に笑う。

 頼もしいな。

「レーカ、それ言うとフラグが立つよー」

 アルが冗談っぽく言っているのを聞いて、少し心にゆとりが出てきた。

 セシルさんは大丈夫かなと見やると、動きを止めて固まっている。

 セシルさんが巻き込まれないようにしないとね。

「レーカ!
 無理はするな!」

 相手が動く前に、レーカに声をかけ行動に移る。

 セシルさんの手をつかみ、黒ドラゴンから離れるように手を引く。

「あっ、ごめんなさい」

 セシルさんが申し訳なさそうに謝ってから、自分の足でその場から離脱してくれる。

 黒ドラゴンは俺たちが動き始めたのが気に入らなかったのか、こちらに敵意を向けてくる。

『グゥオオー!』

 黒ドラゴンは咆哮と同時に、傍にあった木を軽々と引っこ抜き……。

 引っこ抜き……?

「なっ!?」

 こっちに投げてきやがった。

 やばい。

 俺はなんとか避けられても、セシルさんに直撃してしまう!?

――――その瞬間、赤い光が周囲を包んだ。

 これはもしかして……。

 光はすぐに収まり、そこには頼もしい我らがドラゴンの姿が。

 こちらに飛んだ来た木は、片手で軽々と払いのけられていた。

『クルォオーーン!!!』

 あかく輝く鱗皮、見とれてしまう程に美しいフォルムの翼、圧倒的な存在感がそこにあった――――。
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