14 / 21
第14話「イメリアの森とタナリアの森」
しおりを挟む一時間ほど歩いたところで、俺たちはイメリアの森に着いた。
「危険な魔物もいないってことだし、
行きますか!」
台車は森に入る手前にとめて、森に足を踏み入れる。
一応、万が一に危険な魔物がいた場合のことをレーカに聞いたら、そんな魔物がいたら気配で気づくそうだ。
ドラゴンが万能すぎる。さすが、地域によっては神様にされているだけあるな。
「ネロ、この先におそらく鳥の気配があるわ」
早速レーカが何かを察知したようだ。
木々が邪魔して俺には何も見えない。
「道具がなくても大丈夫とか言ってたけど、
どうやって捕まえるんだ?」
「まあ見てなさい、
ちょっとここで静かに待っててね」
俺の返事を聞かずに、レーカは前方に駆け出した。
小さい体全体を使って音もなく駆ける姿は、猫型の動物をほうふつとさせる。
まあ、早すぎてあっという間に見えなくなったのだけど。
言われた通り、俺たちはおとなしく待つ。
セシルさんは声こそ発しないものの、アルを手でモコモコ触っている。
ブレない人だな。
――キュー! キュロロー!!
何やら笛に似た音が、レーカの向かった方から聞こえてきた。
「捕まえたわー!」
レーカの声が近づいてくる。
木々の間から出てきたレーカは手に鳥を持っている。
すでに仕留められているその鳥は、全身が白く、首が長い。
「あ、鶴だ!」
アルが鳥を見て反応した。
「ツル?」
鳥の名前かな。
「ああ、僕が以前いた異世界の鳥の名前だよ。
それに似てたからさ、少しポッチャリしているけどね。
この世界だと何て鳥だろ?」
アルがセシルさんの方に目を向ける。
「その鳥がシルクバードだわ。
昨夜、村長の家でご馳走になった美味しいやつよ」
「いきなり当たりじゃん。
さっきの音はその鳥の鳴き声か」
セシルさんは商人だけあって、意外にもいろいろ詳しいんだよね。
食材を扱うこともあるもんね。
「こいつをいっぱい捕まえればいいのね」
開始早々、上手くいったのが嬉しいのか、満面の笑みだ。
よだれが出てるぞ、食いしん坊ドラゴンよ。
そういえば、ここに来るまでの道のりで、レーカは言ってったけな。「同じ肉でも、そのまま食べるより、調理されてる方が断然美味しいのよ」って。
調理された肉は、久しぶりに食べたらしいからなあ。
しばらくは肉食レーカが続きそうだ。
その後も、俺たちは狩り進んだ。
俺たちといっても、全部レーカが単独で狩ってるだけだが。
だってドラゴンに狩りで敵うわけないじゃんか。
なんといっても、彼女は食物連鎖の頂点だからね。
一度、狩った獲物を台車に置きに戻り、再度獲物を探している時のことだった。
となりを歩いているレーカの方からべチャっと音が聞こえた。
何の音?
振り向くと、レーカがプルプルと震えている。
「なっ!?」
「えっ?」
レーカの髪に白いドロッとしたものがついている。
それを見たセシルさんも戸惑っている。
これってもしかして。
「何すんのよ!
このバカ鳥はー!!
ぜったいに焼き鳥にするっ!!」
俺の予想が当たりだったようで、レーカは叫んでからすぐさま駆け出した。
レーカにフンを落として西の方へ向かって飛ぶ黒い鳥を追いかけて。
その食べるぞ宣言はどうなのよ。
「カァー、クゥアー」
スッキリしたのか、黒い鳥は気持ち良さそうな鳴き声を残して飛び去ってゆく。
「レーカ!
ちょっと待て!!
そっちは行くな!」
レーカを止めるために追いかけるが、走る速さが違いすぎて、あっという間に見えなくなった。
しかし、フンとはいえレーカに攻撃?を当てるとは凄いな。
レーカが攻撃として認識できなかったとかかね。
「あっちはまずいわね」
「ああ、とりあえず追いかけよう」
セシルさんも気づいたようだ。
慣れない森の中を必死に追いかける。
この辺りは木々がまばらなこともあって、逃げている?黒い鳥は視界に入っている。
レーカだったら鳥に追いつきそうだけど、何があるかわからない西の森には行きたくないんだよね。
その時、黒い鳥に向かって何かが飛んで行った。
初めはレーカが大きな石でも投げたのかと思ったのだが。
よく見るとレーカがジャンプして鳥に飛び掛かったのだった。
何やってんだ、あのドラゴン!?
鳥の高さまで跳ぶなんて、たしかに凄いジャンプ力だけどさ。
人間に変化している時は翼が出せないから飛べないって言ってたじゃんか。
頭に血が上った勢いなのか……?
大いにあり得る気がしてきた……。
「あっ!」
セシルさんの声に、現実逃避気味だった意識を引き戻す。
レーカが空中でパシッと鳥を掴まえたところだった。
黒い鳥も、まさか人が跳んでくるなんて思わなかったのだろう。バサバサと暴れているのが遠目に見える。
レーカは鳥を掴まえたまま、放物線を描いてさらに西の方へ落ちていく。
レーカが手をばたつかせて、ワタワタと慌てているように見える。
「セシルさん、レーカを追いかけよう!」
声が少しうわずった。俺も焦っているのかもな。
レーカは俺より圧倒的に強いって分かっているんだけど、あの姿だとどうも庇護欲をかきたてられる部分があるんだよね。
「分かったわ」
レーカの落ちていった方へ向かう。アルは空中に浮かんでいるためか、スイスイと進んでいく。
◇
レーカの落ちたと思われる所まであと少しというところで、目の前の木々の色が変わる。
境界線を引くように、そこから奥の木々は全てが黒い。漂っている空気もそこから先は雰囲気が違う気がする。
「くそっ」
レーカは間違いなく黒い木々の方へ落ちていった。
レーカを見つけてすぐ戻れば大丈夫だろ。
俺は黒い森に足を踏み入れた。
セシルさんもついてきている。
「ネロ、セシル、僕からあまり離れないで」
「アル、どうしたんだ?」
アルが何かに気づいたのか、注意を呼びかけてくる。
「この黒い森は瘴気が充満しているんだ。
一定の範囲なら僕が中和できるけど、
人族がこれを吸い続けるとまずいよ」
まじかよ。
思っていた以上にやばいようだ。タナトスの森がやばい。
セシルさんは緊張した面持ちだ。
「レーカと合流して、すぐにこの森を出よう」
レーカの近くまでは来ているはずだからね。
◇
「レーカー!」
「レーカちゃーん!」
あいつは、どこまで行ったんだ。
その時、レーカの声が聞こえてきた。
「なにすんのよー!!」
レーカの叫び声と、木が折れる音が聞こえてくる。
何をやってるんだ。とりあえず木を折ったのはレーカだろう。
とりあえずの元気な声に安堵といったところだろうか。
セシルさんと顔を見合わせてからお互いにうなずき、レーカの声がした方に向かう。
レーカがいたのは木々が少し開けたところだった。
「レーカ!」
俺の呼びかけに、一瞬こちらを振り向くも、すぐに前に向き直る。
レーカは骸骨の兵士――スケルトンの集団と対峙していた――――。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
睡眠スキルは最強です! 〜現代日本にモンスター!? 眠らせて一方的に倒し生き延びます!〜
八代奏多
ファンタジー
不眠症に悩んでいた伊藤晴人はいつものように「寝たい」と思っていた。
すると突然、視界にこんな文字が浮かんだ。
〈スキル【睡眠】を習得しました〉
気付いた時にはもう遅く、そのまま眠りについてしまう。
翌朝、大寝坊した彼を待っていたのはこんなものだった。
モンスターが徘徊し、スキルやステータスが存在する日本。
しかし持っているのは睡眠という自分を眠らせるスキルと頼りない包丁だけ。
だが、その睡眠スキルはとんでもなく強力なもので──
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる