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第14話「イメリアの森とタナリアの森」

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 一時間ほど歩いたところで、俺たちはイメリアの森に着いた。

「危険な魔物もいないってことだし、
 行きますか!」

 台車は森に入る手前にとめて、森に足を踏み入れる。
 一応、万が一に危険な魔物がいた場合のことをレーカに聞いたら、そんな魔物がいたら気配で気づくそうだ。

 ドラゴンが万能すぎる。さすが、地域によっては神様にされているだけあるな。

「ネロ、この先におそらく鳥の気配があるわ」

 早速レーカが何かを察知したようだ。
 木々が邪魔して俺には何も見えない。

「道具がなくても大丈夫とか言ってたけど、
 どうやって捕まえるんだ?」

「まあ見てなさい、
 ちょっとここで静かに待っててね」

 俺の返事を聞かずに、レーカは前方に駆け出した。
 小さい体全体を使って音もなく駆ける姿は、猫型の動物をほうふつとさせる。

 まあ、早すぎてあっという間に見えなくなったのだけど。

 言われた通り、俺たちはおとなしく待つ。
 セシルさんは声こそ発しないものの、アルを手でモコモコ触っている。

 ブレない人だな。

――キュー! キュロロー!!

 何やら笛に似た音が、レーカの向かった方から聞こえてきた。

「捕まえたわー!」

 レーカの声が近づいてくる。
 木々の間から出てきたレーカは手に鳥を持っている。

 すでに仕留められているその鳥は、全身が白く、首が長い。

「あ、鶴だ!」

 アルが鳥を見て反応した。

「ツル?」

 鳥の名前かな。

「ああ、僕が以前いた異世界の鳥の名前だよ。
 それに似てたからさ、少しポッチャリしているけどね。
 この世界だと何て鳥だろ?」

 アルがセシルさんの方に目を向ける。

「その鳥がシルクバードだわ。
 昨夜、村長の家でご馳走になった美味しいやつよ」

「いきなり当たりじゃん。
 さっきの音はその鳥の鳴き声か」

 セシルさんは商人だけあって、意外にもいろいろ詳しいんだよね。
 食材を扱うこともあるもんね。

「こいつをいっぱい捕まえればいいのね」

 開始早々、上手くいったのが嬉しいのか、満面の笑みだ。

 よだれが出てるぞ、食いしん坊ドラゴンよ。

 そういえば、ここに来るまでの道のりで、レーカは言ってったけな。「同じ肉でも、そのまま食べるより、調理されてる方が断然美味しいのよ」って。

 調理された肉は、久しぶりに食べたらしいからなあ。
 しばらくは肉食レーカが続きそうだ。

 
 その後も、俺たちは狩り進んだ。
 俺たちといっても、全部レーカが単独で狩ってるだけだが。

 だってドラゴンに狩りで敵うわけないじゃんか。
 なんといっても、彼女は食物連鎖の頂点だからね。

 一度、狩った獲物を台車に置きに戻り、再度獲物を探している時のことだった。

 となりを歩いているレーカの方からべチャっと音が聞こえた。
 
 何の音?

 振り向くと、レーカがプルプルと震えている。

「なっ!?」

「えっ?」

 レーカの髪に白いドロッとしたものがついている。
 それを見たセシルさんも戸惑っている。

 これってもしかして。

「何すんのよ!
 このバカ鳥はー!!
 ぜったいに焼き鳥にするっ!!」

 俺の予想が当たりだったようで、レーカは叫んでからすぐさま駆け出した。
 レーカにフンを落として西の方へ向かって飛ぶ黒い鳥を追いかけて。

 その食べるぞ宣言はどうなのよ。

「カァー、クゥアー」

 スッキリしたのか、黒い鳥は気持ち良さそうな鳴き声を残して飛び去ってゆく。
 
「レーカ!
 ちょっと待て!!
 そっちは行くな!」

 レーカを止めるために追いかけるが、走る速さが違いすぎて、あっという間に見えなくなった。

 しかし、フンとはいえレーカに攻撃?を当てるとは凄いな。
 レーカが攻撃として認識できなかったとかかね。

「あっちはまずいわね」

「ああ、とりあえず追いかけよう」

 セシルさんも気づいたようだ。

 慣れない森の中を必死に追いかける。
 この辺りは木々がまばらなこともあって、逃げている?黒い鳥は視界に入っている。

 レーカだったら鳥に追いつきそうだけど、何があるかわからない西の森・・・には行きたくないんだよね。

 その時、黒い鳥に向かって何かが飛んで行った。
 初めはレーカが大きな石でも投げたのかと思ったのだが。

 よく見るとレーカがジャンプして鳥に飛び掛かったのだった。

 何やってんだ、あのドラゴン!?

 鳥の高さまで跳ぶなんて、たしかに凄いジャンプ力だけどさ。

 人間に変化している時は翼が出せないから飛べないって言ってたじゃんか。

 頭に血が上った勢いなのか……?

 大いにあり得る気がしてきた……。 

「あっ!」

 セシルさんの声に、現実逃避気味だった意識を引き戻す。

 レーカが空中でパシッと鳥を掴まえたところだった。

 黒い鳥も、まさか人が跳んでくるなんて思わなかったのだろう。バサバサと暴れているのが遠目に見える。

 レーカは鳥を掴まえたまま、放物線を描いてさらに西の方へ落ちていく。

 レーカが手をばたつかせて、ワタワタと慌てているように見える。

「セシルさん、レーカを追いかけよう!」

 声が少しうわずった。俺も焦っているのかもな。

 レーカは俺より圧倒的に強いって分かっているんだけど、あの姿だとどうも庇護欲をかきたてられる部分があるんだよね。

「分かったわ」

 レーカの落ちていった方へ向かう。アルは空中に浮かんでいるためか、スイスイと進んでいく。





 レーカの落ちたと思われる所まであと少しというところで、目の前の木々の色が変わる。
 境界線を引くように、そこから奥の木々は全てが黒い。漂っている空気もそこから先は雰囲気が違う気がする。

「くそっ」

 レーカは間違いなく黒い木々の方へ落ちていった。
 レーカを見つけてすぐ戻れば大丈夫だろ。

 俺は黒い森に足を踏み入れた。
 セシルさんもついてきている。

「ネロ、セシル、僕からあまり離れないで」

「アル、どうしたんだ?」

 アルが何かに気づいたのか、注意を呼びかけてくる。

「この黒い森は瘴気が充満しているんだ。
 一定の範囲なら僕が中和できるけど、
 人族がこれを吸い続けるとまずいよ」

 まじかよ。

 思っていた以上にやばいようだ。タナトスの森がやばい。

 セシルさんは緊張した面持ちだ。

「レーカと合流して、すぐにこの森を出よう」

 レーカの近くまでは来ているはずだからね。





「レーカー!」

「レーカちゃーん!」

 あいつは、どこまで行ったんだ。

 その時、レーカの声が聞こえてきた。

「なにすんのよー!!」

 レーカの叫び声と、木が折れる音が聞こえてくる。

 何をやってるんだ。とりあえず木を折ったのはレーカだろう。
 とりあえずの元気な声に安堵といったところだろうか。

 セシルさんと顔を見合わせてからお互いにうなずき、レーカの声がした方に向かう。

 レーカがいたのは木々が少し開けたところだった。

「レーカ!」

 俺の呼びかけに、一瞬こちらを振り向くも、すぐに前に向き直る。

 レーカは骸骨の兵士――スケルトンの集団と対峙していた――――。
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