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第12話「村長宅でのおもてなし」

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 夜になったので、三人で村長宅におじゃました。

 大きな丸いテーブルには俺たちの他に、村長とその奥さんとまだ幼い娘さんが腰掛けている。

「めちゃくちゃ美味しそうだわ。
 ネロ、これは全部食べていいの?」

 となりの食いしん坊ドラゴンから、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
 言っておくけど、それ全部がレーカのものじゃないからね。

 みんなで食べるんだからさ。

 ふと思ったけど、ドラゴン時代には、お供え物とかされてたのかね。

 レーカは角を隠すために、ニット帽をかぶっている。これもセシルさんからのプレゼントだ。
 セシルさんの荷物は可愛い子を愛でるために、用意しているんじゃないかと最近は思っている。

 テーブルの上には、豪勢なご馳走が所せましとならんでいる。
 なんでも話を聞いた村人たちが食材を差し入れてくれたり、料理を手伝ってくれたりしたそうだ。

「レーカちゃん、いっぱい食べてね」

 村長の奥さんのモリーさんが、レーカに笑いながら声をかけてくれた。
 美人で優しそうな人だ。

「たべてねー」

 娘のリリアちゃんもそれに続く。

 リリアちゃんは五歳くらいだろうか。
 レーカのことを見て、さっきからずっとニコニコしていて可愛らしい。

 なにやら親近感だろうか。精神年齢がレーカと近いからかもしれないな。

「本当に凄いご馳走だわ。
 私までいいのかしら」

 セシルさんも感嘆の声をあげている。

「もちろんだとも。
 いつもセシルさんには行商でお世話になっているけど、
 今回は村の英雄様を連れてきてくれたんだからね」

「私はただ立ち寄っただけですよ。
 昨夜はよく分からないうちに、終わっちゃてたし」

 セシルさんが謙遜している。

「以前、『入り用がありましたら、どんな物でも扱います』なんて言ってたけど、
 助けが欲しい時に一流の冒険者を連れているなんて、さすがセシルさんですよ」

 村長のトーマスさんが笑顔でセシルさんに語りかける。

 ほぉ、セシルさんは普段から信頼されている感じなんだね。
 可愛いものを見たときはアレな感じだけど、仕事はしっかりしているんだな。

 今回はドラゴンを載せていたとは、誰も想像しないだろう。

 そして、英雄扱いにモヤモヤする小市民な俺だった。

 だって駆け出しの冒険者だよ俺は。

「「いただきます!!」」

 と同時にレーカが骨付き肉にかぶりついた。

 肉は見るからにジューシーで、肉から出ている湯気は見ているだけで、よだれが止まらなくなりそうだ。

 小市民な俺は、とりあえずサラダっぽいのを取り分け始める。

「ママー、レーカちゃんのおそばにいってもいい?」

「いいわよー、でもお食事の邪魔しちゃダメよ」

「うん!」

 リリアはテケテケとレーカの隣まで歩いてから、レーカの席の隣に座った。

「レーカちゃん、かわいいのにつよいのー。
 なんでつよいの?」

 リリアの方に振り向くレーカ。口にソースがついてるぞ。

「あたし?
 うーん……、いっぱい食べてよく寝てるからよ。
 寝る子は育つのよ」

 レーカが適当を口にする。昨日俺が使ってた言葉を、さっそく使っている。

 まあ、俺もアルに教わったんだけどさ。

「じゃあリリアも、いっぱいたべて、
 いっぱいねるようにするね」

「よし、じゃあ一緒にたくさん食べよ。
 あたしの戦いはこれからよ」

 リリアは素直ないい子だね。
 ニコニコ笑う姿は、それだけで周りの雰囲気が明るくなるよ。

 そして、レーカは何と戦っているのさ。

 微笑ましい光景だなあと、二人のやりとりをみていると何やら視線を感じた。
 振り向いてみると、トーマスさんと目が合う。

 その目はやたらと真剣だ。ちょっと怖い……。

「駄目ですよ」

「えっ?」

 トーマスさんからの突然の駄目出し。
 なんのことだろうと思っていると……。

「英雄様に失礼を承知ですが、娘はあげられません。
 いや、娘はずっと嫁には出しません」

 ああ……。

 ピンときてしまった。

 これは昼間の俺とレーカのやりとりを見て、俺のことをロリコンだと思っている予感。
 しかもトーマスさん、娘が可愛くてしょうがないタイプの父親だと見た。

「大丈夫ですよ。
 もらったりしませんよ。
 それに俺はロリコンではな――」

「こんな可愛い娘のどこがダメなんですか!
 ――イタッ!?」

 身を乗り出す勢いのトーマスさんの頭を、奥さんのモリーさんが叩いた。

 ナイスだ、モリーさん。勝手にロリコン疑惑をかけてくるからだよ、トーマスさん。

「もう何を言ってるんですか、あなた。
 せっかくこんなに将来有望な若者なのに、これはチャンスなのよ」

 ん? 何か方向性がおかしいような……。

「ネロさん、ごめんなさいね。
 もしネロさんが気に入るようでしたら、
 リリアをもらってくれてもいいからね」

 モリーさん、あなたもか!

 知らぬところで、勝手に嫁に出されるリリアの方をみると。

「んー、レーカちゃんといっしょなら、
 リリアはおよめさんになるよー」

 俺の味方はいなかったようだ……。

 というかリリアは絶対意味分かってないよね。

 いつの間にかレーカが俺の嫁ということになっているし。
 どちらかというと保護者のつもりなんだけどなあ。

 あまり期待をせずに、セシルさんの方を向いてみる。

「ん? 私は言うまでもなく賛成よ。
 リリアちゃんも可愛いからね。
 レーカちゃんとのやり取りが微笑ましいじゃない。
 それがいつでも見られるなら反対する理由があろうか」

 果実酒を飲みながら、レーカとリリアを見守っている。

 ああ、セシルさんには期待してなかったよ。
 微笑ましいというところは同意だが、嫁うんぬんは話が飛躍しすぎだよ。

 そんな風にからかわれ?ながらも、ご馳走をいただく。

「そういえば、報酬を待つ十日間程の間は何をする予定ですか」

 トーマスさんからの質問だ。

 実は何も考えていないんだよね。
 せっかくだから、何か面白いことはないか聞いてみるか。

「この村の近くで、何日か時間を使えそうなところはありませんか。」

「そうですね……、
 冒険者の方が時間をつぶすのでしたら……」

「はい」

「この村から1時間くらい歩いたところに、
 イメリアの森という場所があるのですが、
 狩りをしたり薬草を摘んだりできていいかもしれません」

 おお、良さそうだ。食材確保はしておいたほうがいいと思っていたところだ。
 レーカの食べる量が予想を超えていたからね。

 まあ、それでも人の姿の時は食べる量が減ってるらしいけどさ。 

「森にいるシルクバードはなかなか美味しいですよ。
 ちょうどレーカちゃんが今食べているのがシルクバードです。
 買い取りもやっていますので、狩りすぎたら言ってもらえれば」

「それはいいかもしれませんね。
 明日にでも行ってみようかと思います」

 食っちゃ寝ドラゴンの運動にも良さそうなところだ。

「ただそこから西に向かったところにある、
 タナリアの森には近づかないほうがいいですよ」

「タナリアの森?」

「イメリアの森とひと続きになっている森ですが、
 アンデッドモンスターが出没したりするのです」

「それは嫌ですね」

 アンデッドは嫌だね。レーカも食べられないだろうし。

「ひと続きになってはいますが、
 タナリアの森は生えている木が全て黒ずんでいるので、
 遠目でも一目で分かります。
 ある場所を境に急に黒い木々が立ち並んでいるのです」

「不思議な森ですね」

「そうなんですよ、
 昔から村の者たちはイメリアの森に狩りにいきますが、
 タナリアの森に入らなければ何も問題はありません。
 英雄様には要らぬ心配だと思いますが、近寄らない方がいいですよ」

 トーマスさんから注意するように言われるけど、そう言われると少し気になるよね。
 あえて行こうとまでは思わないけど。

「タナリアの森には何かあるんですか。
 アンデッドが出るなんて」

「私も祖父から聞いた話になるのですが、
 タナリアの森には何かが封印されているようです。
 それを護っているのがアンデッドの群れだそうです」

「へー、封印ですか」

 ちょっとロマンがあるじゃないか。

「以前、力自慢の村の若者たちがタナリアの森に入ったことがあったそうで、
 アンデッドの群れに囲まれて意識を失い、
 気がついた時には森の外に打ち捨てられたらしいのです。
 命は無事だったそうですが、
 彼らは恐怖でもう狩りに出ることができなくなってしまったそうです」

「それは怖いですね……。
 分かりました。
 あえて近寄る理由もないですし、
 教えてくれてありがとうございます」

 うちはドラゴンがいるから何とかなる可能性もあるけど、わざわざ危ないことする意味ないしね。

 それに、レーカがいくら強いといっても無敵ではないだろうし、彼女を危ない目にあわせたくはないんだよね。

 レーカを見やると、リリアと仲良く話しながら飲み食いしている。
 こうしていると、レーカも普通の女の子にしか見えないな。

 その後、夜遅くまで飲み食いが続き、宿屋に帰るには遅くなりすぎたので、客間を一部屋借りて、俺たちは雑魚寝させてもらうことにした。

 はしゃぎ疲れて仲良く寝てしまったレーカとリリア。
 アルはいつの間にか現れて、二人の抱き枕になっている。

 セシルさんが、不穏な空気を漂わせながら、可愛いトリオに近づこうとしていたので、睡眠魔法で眠らせておいた。

「おやすみなさい、セシルさん。
 悪戯いたずらは夢の中でたっぷりしてくださいね」

 あたりは静寂に満たされ、幸せそうな寝息がそこかしこから聞こえてくる。

 街にいた頃、アルは一緒だったけど、基本的に俺は独りで行動していた。

「いつの間にか、なんだかずいぶん賑やかになったなあ……」

 それは決して悪くない気分で、みんなの幸せそうな睡眠を守っていきたいと、俺は思うのだった――――。
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