上 下
11 / 21

第11話「村長宅にて」

しおりを挟む

 レーカとセシルさんを伴って、俺は村長宅にやってきた。

 今、俺たちはテーブルを挟んで座っている。
 俺の左側にはレーカ、右側にはセシルさん。

 テーブルを挟んで正面には、村長だと紹介された中年の男性。
 村長さんの右には、昨日の盗賊との戦いで他の衛兵に指示を出していた壮年の男性。
 衛兵長といったところだろうか。

 皆の前に紅茶が出てきたところで、村長さんが話を切り出した。

「ネロさん、昨日はありがとうございました。
 私は村長のトーマスです。
 村の代表としてお礼を言わせてください。
 しかも、聞けばそこの彼女と二人だけで盗賊を全滅させたとか。
 二人ともまだ子供にしか見えないのに、すごいですね」

 村長は二人でというが、戦ったのはレーカだけなんだよね。

 そんな、気にしないでよ。ついでに水車を壊したことも気にしないでもらえれば……。

 水車を壊した本人は、出された茶菓子を絶え間なく食べ続けている。
 
 食べてばかりなので、“永遠喰竜ウロボロス”のレーカと心の中で勝手に二つ名・・・をつけることにした。

 あ、器が空になった……。

 次の器に手を伸ばしているけど、それは俺の分だからね。まあいいけどさ。

「冒険者として当然のことをしたまでです。
 相手の数が多く手加減が難しかったですが……」

 村の設備を壊したことが、戦いの余波でどうしようもなかったていで話しておこう。

 くそぅ、なんで俺は隣で暴食にいそしんでいるヤツのフォローをしているんだろう。

「俺からも礼を言わせて欲しい。
 この村に衛兵として配置されていた俺たちも、
 怪我こそしたが、君たちのおかげで死人が出ないで済んだ。
 ありがとう」

 この人の名前はブレッドとのことで、肩書きも衛兵長で合っていた。
 昨日倒れていた人も、怪我で済んだみたいでなによりだ。

 衛兵って今まであまり良いイメージなかったけど、この人はずいぶん礼儀正しい人だなあ。
 今思うと、盗賊三人を一人でなんとかいなしていたし、剣の腕もなかなかだと思われる。

「私もあとで報告受けて、震えが止まりませんでしたよ。
 もしネロさんたちが、この村に居てくれなかったらと思うと……」

 村長さんとブレッドさんが俺をリーダーのように扱ってくるけど、いつのまにそんな流れになったのだろうか。セシルさんが、そう伝えたのかな。

「それで、あの盗賊たちは何者だったんですか」

 とりあえず話を進めよう。

「ああ、詳しくはまだ調査中だが、最近この周辺で暴れてた盗賊団のようだ。
 ただ、少し気になる点があって、昨日のあの盗賊団も何者かの指示を受けての動きに感じられるんだ」

 ブレッドさんが、眉間にしわを寄せながら、教えてくれる。

 あー、思い当たることがあるな。そういえば、この前の盗賊も何か言ってたな。

「あの盗賊団も、ってことは他にもそういうのがあったんですか」

「そうなんだ、村人たちが聞くと不安になるだろうから、
 ここだけの話にして欲しいんだが……」

 ブレッドさんは、声のトーンを抑えて告げてきた。

「言いふらしたりしませんよ」

「そうか。
 実は、目下調査中なんだが、盗賊団が協力しあってるという噂があってな……。
 いくつかの盗賊団をまとめている盗賊団があるとも言われているんだ」

 ああ、一昨日捕まえた盗賊もそんなこと言ってたな。

 たしか……。

大頭おおがしらですかね」

 ブレッドさんが目を見開いた。

「君たち、それはどこで?
 今話していたのがまさにそれだ……」

 別に隠すことでもないので……。

「一昨日捕まえて街に引き渡した盗賊がそんなことを言っていたんですよ」

「一昨日も!?
 すごいな君たちは。
 いや、昨日の戦いぶりを見たら当然か……。
 彼女の強さは凄まじいものがあったけど、君もかなりできるんだろ?」

 なんでそんな認識に?

 ああ、昨日俺がレーカに指示を出してた風だったからかな。

 否定しておくか。

 身の丈に合わない評価は身を滅ぼすというからね。

 否定の言葉を告げようと思っていると、今までひたすら食べてたウロボロス少女が口を挟んできた。

「あんた、分かってるじゃない!
 あたしなんか、ネロに手も足も出せずに倒されたんだからね。
 それに凄い気持ちいいのよ……」

 おい、その言い方はいろいろ勘違いされるだろ。

 それになんで最後のところでウットリしてるのさ。
 
 なんか俺がレーカを押し倒して、何かしたみたいじゃん。

 グッスリ眠れるのが気持ちいいだけだろ。

「ネロ君、君の実力はやはり彼女以上なんだね。
 ……けど、俺が言うことではないのかもしれないが、
 まだ幼い彼女に対して無理矢理っていうのは……、
 それは男として……、いや人としてどうかと思うぞ」

 ブレッドさんの発言に、うんうんと頷いている村長さん。
 村長、あんたもか!

 完全に勘違いされている……。

 レーカがドラゴンだと言うわけにもいかないし、実はレーカの歳は村長さんより上だと言うわけにもいかないし。

 助けて……、とセシルさんに目を向ける。

 そこには紅茶を飲みながら、ニヤニヤしている女行商人の姿があった、

 そうだった、この人は可愛いもの好きの悪戯っ子だった……。
 
 俺は諦め、人からどう思われるかは気にしないことにするのだった。



「それで盗賊の討伐報酬のことなんだが……」

 ブレッドさんからのお話だ。気を取り直して聞くことにしよう。

「はい」

「詳細は街への報告後になるが、
 あの人数なら五百万ケインは下らないと思う」

「えっ? そんなに出るんですか」

 驚いた。

 節約すれば数年暮らせるくらいの大金だ。

「少なく見積もってだぞ。
 奴らが今後も与えるだろう損害を考えたら決して多くはないぞ。
 それに、高額指名手配の奴がいたら金額はもっと増えるぞ」

「はぁ……」

 そういうものなんだ。

 高額指名手配なる言葉は聞いたことがあったけど、街に住んでいた俺には実感のないものだった。

「ただ、街に報告に向かっているところだから、
 報酬がここに届くまで十日ほどかかってしまう。
 理解してもらえないか」

 理解も何も好待遇すぎるだろ。まあ、盗賊討伐は命がけだと思えばそういうものなんだろうか。

 今回の報酬に関しては、事前にセシルさんとレーカと打ち合わせをしていて、俺の判断で良いということになっている。

 セシルさんは俺に任せるということで、レーカは報酬にはあまり興味がないらしい。

 今後の日程に関してもセシルさんと話をしていた。だいぶ余裕をもって行商しているとのことで、一か月くらいはどこかに寄り道しても良いとのことだった。

 レーカは、美味しいご飯と気持ちの良い睡眠があればそれで良いんだとさ。

 食っちゃ寝ドラゴンめ。

 “暴食と暴眠の竜ベルゼビュート”のレーカと心の中で名付けてやる。

 レーカの二つ名が俺の中で増えていく。

 さすがドラゴン、二つ名との親和性が高いな。

「それなら報酬のことですが、報酬の半分をいただいて、
 半分はこの村に差し上げるということはできますか。
 この村も少なくない損害を受けていますよね」

 さっきからの話だと、水車の件は大丈夫そうなので、予想以上の報酬は半分で十分だ。
 村が大きな損害を背負って、俺たちだけ報酬でウハウハではなんか嫌だしね。

 罪悪感でモヤモヤして、枕を高くして寝られないっての。

 グッスリ眠れるのは、なにより大事だよ。

 ブレッドさんが、それは可能だと教えてくれる。
 村長さんの方はというと。

「おお……、なんというお方。
 まさしく英雄……」

 村長さんに祈られている。

 祈るならそっちのドラゴンにしてよ。
 ドラゴンは地域によっては神様扱いらしいじゃんか。

「やめてください。
 英雄なんておそれおおいですよ。
 そういうことで、あと十日程滞在を延長したいのですが」

 話しを無理矢理変えていこう。

「村としては大歓迎です。
 もし、迷惑じゃなければ今夜この家でおもてなしをさせてもらえませんか。
 私の家族だけのささやかなものですが」

 村長宅でのもてなしか……。隣の二人をチラリ見やる。
 任せるよと頷くセシルさんと、ご馳走が食べられることを期待している様子
の赤髪少女。

「ではお言葉にあまえて」

 村長さんに返事をしたところで、一旦宿屋に戻ることにした。

 宿の部屋で、報酬は三人で山分けしようと提案した。
 セシルさんは受け取るのを拒否しようとしたけど、十日も時間を使わせちゃうから、なんとか説得した。レーカはあまり興味なさそうなので、俺がレーカの分として持っていることにした。

 滞在延長に備えての準備をしたりして、夜までの時間をつぶす俺たちだった――。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

幼馴染のチート竜,俺が竜騎士を目指すと伝えると何故かいちゃもんつけ始めたのだが?

モモ
ファンタジー
最下層のラトムが竜騎士になる事をチート幼馴染の竜に告げると急に彼女は急にいちゃもんをつけ始めた。しかし、後日協力してくれそうな雰囲気なのですが……

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

睡眠スキルは最強です! 〜現代日本にモンスター!? 眠らせて一方的に倒し生き延びます!〜

八代奏多
ファンタジー
不眠症に悩んでいた伊藤晴人はいつものように「寝たい」と思っていた。 すると突然、視界にこんな文字が浮かんだ。 〈スキル【睡眠】を習得しました〉 気付いた時にはもう遅く、そのまま眠りについてしまう。 翌朝、大寝坊した彼を待っていたのはこんなものだった。 モンスターが徘徊し、スキルやステータスが存在する日本。 しかし持っているのは睡眠という自分を眠らせるスキルと頼りない包丁だけ。 だが、その睡眠スキルはとんでもなく強力なもので──

処理中です...