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第10話「レーカ乱舞!」

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 鐘が打ち鳴らされる音に起こされる。

 大きな警鐘の音に、俺は強制的に覚醒させられた。

 隣を見ると、レーカが眠そうにまぶたを擦っている。
 セシルさんは窓に駆け寄ろうとしているところだった。

「これは敵襲か?」

 窓から見える外はまだ暗い。こんな時間の警鐘は、魔物か盗賊の襲撃ではなかろうか。

「暗くてはっきりとは見えないけど、
 盗賊の襲撃みたいっ!?」

 窓から外を見たセシルさんが教えてくれる。

「よし、レーカ行くぞ!
 セシルさんはここで待ってて!」

 寝ぼけまなこのレーカの手を引き、階段を駆け下りる。

 ほっておけないし、気持ちよく寝ていたのを邪魔された怒りもある。
 物語でもドラゴンの眠りを妨げた者には報いがあるじゃん。

 まあ、ドラゴンは俺じゃないけどさ。

 宿屋から飛び出し、人の叫び声や怒鳴り声のする方に急ぐ。

 レーカもしっかりと目覚めたらしく、自分の足で走っている。
 小さい体なのに、走るの速っ!
 さすがドラゴンといったところだろうか。

 あ……角が見えてる、レーカのやつ、帽子かぶってないじゃん。忘れた俺も悪いんだけどさ。

 まあ、夜中で暗いからなんとかなるかな。最悪ごまかすことにしよう。

 小さな村ということもあり、すぐに襲撃を受けている場所まで到着した。

「オラー! 野郎ども!!
 全てを奪え! みなごろしだ!」

 ひげ面のいかにも盗賊な奴が、剣を片手に叫んでいる。
 雰囲気的にあいつがかしらっぽいな。

 村の衛兵と盗賊が戦っている。

 セシルさんの話だと、この村を治めている領主が、村の安全のために常に数人の衛兵を置いているとか。
 この村は、俺が最近まで住んでた街と同じ領主だったはず。

「この数は無理だ!
 戦える村人を呼んで来てくれ!!」

 三人の盗賊に囲まれながらも、盾でなんとかしのぎ、他の衛兵に指示を出している。

 衛兵は四人……、あ、すでに一人倒れている。
 それに対して盗賊は、八……九……十……十四人もいるじゃん。

 衛兵の人たちは押され気味だし、あと数分でも遅かったらやばかったな。

 さて、なんとかして睡眠魔法の射程圏に近づかないとな、と思っていると。

「ねえ、ネロ。
 あたしがあのトーゾクたちを、やってもいいよね」

 あれ? なんか怒ってない?
 もしかしてマジで、「眠リヲ妨ゲシ者ヨ」とか言っちゃうタイプのドラゴンだったかな。

「ああ、いいぞ。
 けど、一人で大丈夫なのか?」

 レーカの話が本当なら、盗賊くらい余裕だろうけど。

「あんなやつら、あたしなら片手でも十分よ。
 それにあいつら悪いヤツだよね。加減はしないわよ」

「下手に手加減してレーカが怪我するのは最悪だし、
 思いっきりやっていいよ」

 あんな奴らのためにレーカが怪我したら、絶対後悔する。
 昔、盗賊に襲撃されて片腕を失ったという行商人に会ったことをふと思い出した。

「ネロはここで見ててっ!」

 獰猛に笑うレーカの口からは可愛らしい犬歯がのぞいている。

 そのアンバランスな表情に一瞬見惚れた。

 次の瞬間には、レーカは衛兵を囲んでいる三人の盗賊の傍にいた。

 え? いつの間に?? 全然見えなかった!?

 レーカが横にスライドしながら腕を振るうと、盗賊三人とも腹部が消失していた。

 一瞬の後、崩れ落ちる盗賊。

 おいおい、マジかよ!? 強いなんてもんじゃないぞ。
 レーカって、制限があってもあんなに強いのか……。

 制限なしのドラゴン姿のあいつの前に立ったことを思い出し、下手したら俺があんな風になっていたかもと考えると冷や汗が流れる。

 今度から慎重に行動しよ……。

 レーカは次に、少し離れている弓持ちの盗賊に向けて、手から火の玉を放った。
 火の玉は、直径が人の大きさ程あり、俺の知っているファイアボールに比べてかなり大きい。

 弓持ちの盗賊に当たった火の玉は、その後ろに位置取っていた二人の盗賊を巻き込んで水車小屋に直撃した。

 そして文字通り木端微塵になる水車小屋。

 あ……。

 水車小屋って、作るのに結構お金かかっていると聞いたことがある。
 下手な村人の家より、高いのではないだろうか。

 俺の冷や汗がさっきから止まらない……。

 しかし……、レーカの戦う姿はカッコいい。

 たなびく赤い髪が燃え盛る炎を連想させ、躍動する肢体は情熱的なダンスを踊っているみたいだ。

 普段のグータラドラゴンとのギャップがまたね。

 ほら、衛兵の人たちも見惚れて……、……いや、あれは何が起きているか分からず呆けているだけだな。

 あっというまに、レーカは盗賊全てを殲滅した。あたりは血の海になっている。

 全てを殲滅した?

 やべ……、一人くらい残しておかないと、何も聞けないじゃん。
 かしらっぽいのだけ残してもらうべきだった。

 まあ、しょうがないか。
 調査は衛兵に任せよう

 それより、見回したところ、水車小屋と村を囲む柵の一部が壊れている。
 不可抗力で許してもらえるといいな、せめて盗賊の討伐報酬が出ますように。

 レーカが、スッキリした顔でこちらに歩いて戻ってくる。

「お疲れさま!
 俺が想像していた以上に凄かったよ」

 うん、絶対敵にまわしちゃいけないと思った。

「ちゃんと見てた?
 なかなかやるでしょ?」

「ああ!
 やるなんてもんじゃない。
 強くてカッコ良かったよ」

「ご褒美に明日は昼まで寝かせてね。
 もちろんネロの睡眠魔法つきよ。
 濃いのを頼むわよっ」

「それくらいは全然良いけど……」

 俺の睡眠魔法って濃いと良いとかあったのか……。初耳だ……。

 まあ、アルの話だと俺の睡眠魔法は生き物に害となるマイナス効果などは一切ないらしいから、威力を上げるのは構わないけどさ。

 とりあえず、セシルさんを呼んでレーカが血まみれなのをなんとかしてもらおう。
 宿屋でお湯がもらえるといいな。

 ああ、衛兵との話は俺がしないとな。


◇◇◇


 衛兵と村の代表者との話は調査後にということで、あの後すぐに宿屋の部屋に戻ることができた。

 レーカの希望通り、今日は皆で昼までたっぷりと寝た。
 二度寝、三度寝は至福だよね。

 ちなみに旅の出発は一日遅らせて、明日の朝の予定といった感じだ。

 そして、昼過ぎから俺は村長と話をすることになっている。

 水車の件は、不可抗力でおそらく大丈夫だとは思っているけど、何か言われるんじゃないかとドキドキしている。

 いざとなったら、レーカドラゴンで逃亡だな……。
 物語の英雄のように竜の背に乗って……。
 
 いや、しないけどさ。
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