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第三章 幻獣だってモフっちゃう
第71話「ユニ娘、健気にあらがう」
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俺たちに害意が無いことを伝えたところで、白い一角馬から変化した幼女は少し落ち着いてくれた。
会ったばかりの俺たちを、すぐに敵じゃないと信じてくれたのは、この娘のある特性にもよるものだった。
この娘の名前はルニといい、本当にユニコーンという種族とのことだ。
ユニコーンは、魔物とは違って幻獣とされているらしい。
俺はさっきまでの白馬の姿を思い浮かべる。
輝くように白い体毛、青いたてがみ、額から生えた一本の角、それは幻獣の名にふさわしく美しいものだった。
まだ子供だからか、若干のポニー感はあったけど。
目の前のユニ娘(ユニコーンの女の子)には、ユニコーンとしての特性があり、本人いわく、他者の感情的なものを感じ取れるとのことだ。
一般的な人族よりも、数倍人の感情に敏感といったところだろうか。
さっきは、グーリの“食べる”という食物に向ける感情を、感じ取って怖がっていたようだ。
特性について教えてくれたのは、警戒心が薄いのか、俺たちのことを信じられる相手と思ってくれたからか。
ユニコーンが純真な乙女にしか懐かないなんて言われるのも、もしかしたら邪心とか悪意とかに敏感だからかもしれない。
「クルニャー(俺たちが、君に害意がないことは分かったでしょ)」
「わたしたちは、ルニちゃんの敵じゃないよ」
「……ぽよ」
安心してという思いこめて、ルニに告げる。
「でも……、わたしを食べようとしたら、すぐに分かっちゃうんだからねっ!」
ルニの言葉は一角馬状態の時も伝わってきたけど、ルニ自身は猫の言葉が分かるわけではないようだ。
食べられることに怯えているのは、この樹海で魔物から餌として追い回されることが多かったからだろうか。
「クルニャン!(安心してよ!)」
「ガルルッ……(もう……、食べるとか言いません……)」
グーリが少し元気が無いのは、俺に注意されたと思って落ち込んでいるからだ。
変化について気になっているのは確かだし、今度俺にもできないか研究してみよう。
「リルたちで力になれることがあったら、言って欲しいな。どうして、こんな危険な場所にいたの?」
リルが少しお姉さん風を吹かせている。
なんとなくだけど、今回の目的である樹海の調査に、ルニが関係しているのではないかという気がしている。
「あ……」
ルニが何かを思い出したかのように、泣きそうな顔になる。
「どうしたの?」
リルが心配そうに問いかける。
「ある人に会いに行くところだったのに、方角が分からなくなっちゃった……」
狼から逃げてるうちに、迷子になったということだろうか。
「誰に会いに行くところだったの?」
リルが優しく問いかける。
俺たちが聞いたことある人や場所かもしれないからね。
「えっとね……。あ、あれ? どわすれしちゃった……。たしか何でも食べちゃうとかなんとか……」
ルニが頭を抱えて「う~ん……」とうなっている。
どこかで聞いたフレーズだな……。
ルニは、しばらくうなってから、思い出したかのように手をポンと叩いた。
「あっ! おもいだしたよ! “銀色の暴食狼”って呼ばれてるぼーけんしゃに会いにいくところだったんだ!」
あー……。どこかできいたような……。
グーリや猫たちの視線がリルに集まる。
ルニは、それに気づかず話を続ける。
「何でも食べちゃうっていうくらいだから、きっとすっごく大きい体でトロールみたいな人なんだと思う。あっ、獣人さんって言ってたかな」
トロール……。たしか人より数倍大きな、でっぷりした魔物だった気がする。
凶暴さと醜悪さから、恐れられている魔物だ。
体を動かさないで、食べてばかりの怠惰な生活をしている人に向かって「そのままだとトロールになっちゃうぞ」なんていう軽口があったりもする。
「ルニちゃん、どうしてその……冒険者に会いに行くの?」
リルが平静を装ってルニに問いかける。
少し落ち込んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
トロールみたいって言われたからかな。
「あれ? リルのお姉ちゃん、落ち込んでる?」
ユニ娘には隠せない……。
「ううん、大丈夫だよ……」
リルの様子を見て、首をかしげつつも、理由を話してくれる。
「今ね……。わたしの里がピンチなの。それで、子供のわたしでも何かできることないか考えたんだけど……。そんなとき、ニスロクのおじちゃんの言葉をおもいだしたの」
里ってルニが住んでいるところかな。
幻獣の隠れ里的なものだろうか。
ルニの話は続く。
「あ、ニスロクのおじちゃんはね、わしっていう鳥さんの幻獣でね、料理のついきゅーのために世界中を旅しているんだよ。里に寄ったときは、いつも美味しいごちそーをつくってくれるの」
料理の追求ね……。
食べ歩くのではなく、料理を作る側か。
それに、鷲の幻獣か……。
グーリの方をチラリ見ると、目が合った。
グーリは、首を振って知らないと伝えてくれる。
「そのニスロクさんが、“銀色の暴食狼”のことを何か言ってたの?」
リルは自分のことということもあってか、気になってソワソワしている。
「そうなの! おじちゃんが、『昔、理由あって加護を与えた子がおってな。どうもその子が最近、人族の街で活躍しているようで“銀色の暴食狼”と呼ばれているらしい。困ったことがあったら、訪ねてみるといいかもしれんぞ』とかいってたんだよ」
ルニが、うんうんと頷きながら教えてくれる。
ルニの里が不味い状況だから、力を借りるために“銀色の暴食狼”に会いに行こうとしていたってところかな。
今の話には、気になるところがあった。
昔加護を与えた?
つまり……、それってリルのこと?
「…………」
リルは思い出そうとしているのか、目をつぶって考えるそぶりを見せるが、結局思い出せなかったようで、「心当たりはないなあ……」と呟いた。
「お姉ちゃんたち、銀色の暴食狼”のトロールさん、知ってる? ちょっと怖いけど会いにいかなきゃなんだ」
決意を示すかのように、ルニは小さな手で拳をにぎる。「わたし、がんばゆ!」という想いが伝わってくるようだ。
それにしても、ユニ娘の中ではトロールで確定してしまったようだ。
「あのね……、ルニちゃん。隠すつもりは無かったんだけどね……。実は私がその“銀色の暴食狼”って呼ばれてる冒険者なんだ」
リルの告白に、辺りはシーンとする。
「またまた~。こんなに可愛いお姉ちゃんが、トロールのわけないじゃん」
「ルニちゃん。ルニちゃんなら、リルが嘘ついてないこと分かるでしょ?」
リルが、ルニの瞳の中をジッと覗き込む。
ユニコーンの特性なら、嘘かどうか分かるだろうからね。
「…………。リルのお姉ちゃん、うそついてない!?」
そこで、リルがルニを両手で抱っこした。
両手を脇の下に入れ、ちょうど“高い高い”をするようにだ。
リルは意外に力が強いから、その様子はとても軽々としたものだ。
俺は気づいてしまった。
これは、リルが可愛いものに対して取るいつもの行動だと。
いわゆる、モフる時のポーズだ。
ルニの顔が、リルの正面に来るように持ち上げられている。
ところが、何を勘違いしたのか、ルニが慌てだす。
「お、お姉ちゃん……。わたしはたべても美味しくないよ……!?」
ルニがジタバタするが、リルの力からは逃げられない。
“銀色の暴食狼”という二つ名から、何でも食べる恐ろしい奴と思い、自分も食べられると勘違いしているのかもしれない。
「ルニちゃん、可愛い~」
リルは、ユニ娘が慌てていることに全く気付いていない。
「わたしを食べたらお腹こわすんだからっ! 寿命がのびるなんてうそなんだからっ!?」
必死にもがくが、もちろん抜け出せない。
リルの感情を読み取れば、食べる気なんて微塵も無いことが分かりそうだけど、暴食狼の二つ名による思い込みは大きなもののようだ。
しばらくもがいたところで、ルニはピカッと光って一角馬の姿に変わってしまった。
精神面で不安定になると、変化してしまうのだろうか。
リルは、悪いことはしないと分かってるから、俺はのんきにそんな考察をする。
リルの腕にはユニコーンが抱っこされている。
ユニコーンは、なんとか逃れようと頑張っている。
「ルニちゃん、モフっていい? いいよね、減るものじゃないし」
そう言って、リルはユニコーンの青いたてがみに顔をうずめる。
顔全体を使ってモフる様子は、とても気持ち良さそうだ。
俺も後でモフらせてもらおう。
「ギャーーーーーー!!!」
一方、食べ物としてかぶりつかれたと思ったらしいルニの叫びが樹海にこだましたのだった――。
会ったばかりの俺たちを、すぐに敵じゃないと信じてくれたのは、この娘のある特性にもよるものだった。
この娘の名前はルニといい、本当にユニコーンという種族とのことだ。
ユニコーンは、魔物とは違って幻獣とされているらしい。
俺はさっきまでの白馬の姿を思い浮かべる。
輝くように白い体毛、青いたてがみ、額から生えた一本の角、それは幻獣の名にふさわしく美しいものだった。
まだ子供だからか、若干のポニー感はあったけど。
目の前のユニ娘(ユニコーンの女の子)には、ユニコーンとしての特性があり、本人いわく、他者の感情的なものを感じ取れるとのことだ。
一般的な人族よりも、数倍人の感情に敏感といったところだろうか。
さっきは、グーリの“食べる”という食物に向ける感情を、感じ取って怖がっていたようだ。
特性について教えてくれたのは、警戒心が薄いのか、俺たちのことを信じられる相手と思ってくれたからか。
ユニコーンが純真な乙女にしか懐かないなんて言われるのも、もしかしたら邪心とか悪意とかに敏感だからかもしれない。
「クルニャー(俺たちが、君に害意がないことは分かったでしょ)」
「わたしたちは、ルニちゃんの敵じゃないよ」
「……ぽよ」
安心してという思いこめて、ルニに告げる。
「でも……、わたしを食べようとしたら、すぐに分かっちゃうんだからねっ!」
ルニの言葉は一角馬状態の時も伝わってきたけど、ルニ自身は猫の言葉が分かるわけではないようだ。
食べられることに怯えているのは、この樹海で魔物から餌として追い回されることが多かったからだろうか。
「クルニャン!(安心してよ!)」
「ガルルッ……(もう……、食べるとか言いません……)」
グーリが少し元気が無いのは、俺に注意されたと思って落ち込んでいるからだ。
変化について気になっているのは確かだし、今度俺にもできないか研究してみよう。
「リルたちで力になれることがあったら、言って欲しいな。どうして、こんな危険な場所にいたの?」
リルが少しお姉さん風を吹かせている。
なんとなくだけど、今回の目的である樹海の調査に、ルニが関係しているのではないかという気がしている。
「あ……」
ルニが何かを思い出したかのように、泣きそうな顔になる。
「どうしたの?」
リルが心配そうに問いかける。
「ある人に会いに行くところだったのに、方角が分からなくなっちゃった……」
狼から逃げてるうちに、迷子になったということだろうか。
「誰に会いに行くところだったの?」
リルが優しく問いかける。
俺たちが聞いたことある人や場所かもしれないからね。
「えっとね……。あ、あれ? どわすれしちゃった……。たしか何でも食べちゃうとかなんとか……」
ルニが頭を抱えて「う~ん……」とうなっている。
どこかで聞いたフレーズだな……。
ルニは、しばらくうなってから、思い出したかのように手をポンと叩いた。
「あっ! おもいだしたよ! “銀色の暴食狼”って呼ばれてるぼーけんしゃに会いにいくところだったんだ!」
あー……。どこかできいたような……。
グーリや猫たちの視線がリルに集まる。
ルニは、それに気づかず話を続ける。
「何でも食べちゃうっていうくらいだから、きっとすっごく大きい体でトロールみたいな人なんだと思う。あっ、獣人さんって言ってたかな」
トロール……。たしか人より数倍大きな、でっぷりした魔物だった気がする。
凶暴さと醜悪さから、恐れられている魔物だ。
体を動かさないで、食べてばかりの怠惰な生活をしている人に向かって「そのままだとトロールになっちゃうぞ」なんていう軽口があったりもする。
「ルニちゃん、どうしてその……冒険者に会いに行くの?」
リルが平静を装ってルニに問いかける。
少し落ち込んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
トロールみたいって言われたからかな。
「あれ? リルのお姉ちゃん、落ち込んでる?」
ユニ娘には隠せない……。
「ううん、大丈夫だよ……」
リルの様子を見て、首をかしげつつも、理由を話してくれる。
「今ね……。わたしの里がピンチなの。それで、子供のわたしでも何かできることないか考えたんだけど……。そんなとき、ニスロクのおじちゃんの言葉をおもいだしたの」
里ってルニが住んでいるところかな。
幻獣の隠れ里的なものだろうか。
ルニの話は続く。
「あ、ニスロクのおじちゃんはね、わしっていう鳥さんの幻獣でね、料理のついきゅーのために世界中を旅しているんだよ。里に寄ったときは、いつも美味しいごちそーをつくってくれるの」
料理の追求ね……。
食べ歩くのではなく、料理を作る側か。
それに、鷲の幻獣か……。
グーリの方をチラリ見ると、目が合った。
グーリは、首を振って知らないと伝えてくれる。
「そのニスロクさんが、“銀色の暴食狼”のことを何か言ってたの?」
リルは自分のことということもあってか、気になってソワソワしている。
「そうなの! おじちゃんが、『昔、理由あって加護を与えた子がおってな。どうもその子が最近、人族の街で活躍しているようで“銀色の暴食狼”と呼ばれているらしい。困ったことがあったら、訪ねてみるといいかもしれんぞ』とかいってたんだよ」
ルニが、うんうんと頷きながら教えてくれる。
ルニの里が不味い状況だから、力を借りるために“銀色の暴食狼”に会いに行こうとしていたってところかな。
今の話には、気になるところがあった。
昔加護を与えた?
つまり……、それってリルのこと?
「…………」
リルは思い出そうとしているのか、目をつぶって考えるそぶりを見せるが、結局思い出せなかったようで、「心当たりはないなあ……」と呟いた。
「お姉ちゃんたち、銀色の暴食狼”のトロールさん、知ってる? ちょっと怖いけど会いにいかなきゃなんだ」
決意を示すかのように、ルニは小さな手で拳をにぎる。「わたし、がんばゆ!」という想いが伝わってくるようだ。
それにしても、ユニ娘の中ではトロールで確定してしまったようだ。
「あのね……、ルニちゃん。隠すつもりは無かったんだけどね……。実は私がその“銀色の暴食狼”って呼ばれてる冒険者なんだ」
リルの告白に、辺りはシーンとする。
「またまた~。こんなに可愛いお姉ちゃんが、トロールのわけないじゃん」
「ルニちゃん。ルニちゃんなら、リルが嘘ついてないこと分かるでしょ?」
リルが、ルニの瞳の中をジッと覗き込む。
ユニコーンの特性なら、嘘かどうか分かるだろうからね。
「…………。リルのお姉ちゃん、うそついてない!?」
そこで、リルがルニを両手で抱っこした。
両手を脇の下に入れ、ちょうど“高い高い”をするようにだ。
リルは意外に力が強いから、その様子はとても軽々としたものだ。
俺は気づいてしまった。
これは、リルが可愛いものに対して取るいつもの行動だと。
いわゆる、モフる時のポーズだ。
ルニの顔が、リルの正面に来るように持ち上げられている。
ところが、何を勘違いしたのか、ルニが慌てだす。
「お、お姉ちゃん……。わたしはたべても美味しくないよ……!?」
ルニがジタバタするが、リルの力からは逃げられない。
“銀色の暴食狼”という二つ名から、何でも食べる恐ろしい奴と思い、自分も食べられると勘違いしているのかもしれない。
「ルニちゃん、可愛い~」
リルは、ユニ娘が慌てていることに全く気付いていない。
「わたしを食べたらお腹こわすんだからっ! 寿命がのびるなんてうそなんだからっ!?」
必死にもがくが、もちろん抜け出せない。
リルの感情を読み取れば、食べる気なんて微塵も無いことが分かりそうだけど、暴食狼の二つ名による思い込みは大きなもののようだ。
しばらくもがいたところで、ルニはピカッと光って一角馬の姿に変わってしまった。
精神面で不安定になると、変化してしまうのだろうか。
リルは、悪いことはしないと分かってるから、俺はのんきにそんな考察をする。
リルの腕にはユニコーンが抱っこされている。
ユニコーンは、なんとか逃れようと頑張っている。
「ルニちゃん、モフっていい? いいよね、減るものじゃないし」
そう言って、リルはユニコーンの青いたてがみに顔をうずめる。
顔全体を使ってモフる様子は、とても気持ち良さそうだ。
俺も後でモフらせてもらおう。
「ギャーーーーーー!!!」
一方、食べ物としてかぶりつかれたと思ったらしいルニの叫びが樹海にこだましたのだった――。
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