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第二章 

第64話「それぞれの戦いを乗り越えて」

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 俺たちは伯都に戻ることにした。

 侯爵の問題は解決したとは言えないけど、一旦戻って状況を整理することにしたのだ。
 それに、キマリスが不穏なことを言っていたのも気がかりだった。

 三百のアンデッド兵を伯爵領に進軍させたと言っていた。
 伯都にはグーリたちもいるし、防壁もある。
 そう簡単には大事には至らないだろうけど、状況を自分の目で確認したい。


 そんなわけで、猫の一団が伯都に向けて疾走しているところだ。

「クルニャーン!(遅れずついて来てるか!)」

 ミケたちも日頃の訓練のおかげか、結構な速度でもついてきてくれる。

 ライミーは……、猫型になって俺の背中に背負われている。
 今は背中に感じる柔らかな感触がすごく嬉しい。
 まあ、人型だと服が無くてアレだからね。

 伯都に向かってる道中、少し離れたところから魔法の気配を感じた。
 強力な魔法や多くの魔法が使われた地域は、空気中にその名残りがあるのだ。
 自然現象を人為的に引き起こすため、大気に不自然さが生じるのだと考えている 

 その空気の匂いのようなものが風に乗って流れてきたのだ。
 数日経ってしまうと霧散してしまうものだけれど。

 その地域は伯爵領だけど侯爵領に近いことも気になった理由だ。

「クルニャー!(ちょっと寄り道するぞ!)」

 気配をできるだけ抑えてついてくるように伝える。

「「ニャー!(はい、ボス!)」」
「…………ぽよ」

 今回の戦いを通して、俺はもっと強くならなければと再認識した。
 こいつらを守るためにも……。





「クルニャー……?(なんだこれ……?)」

 魔法の残滓ざんしを追って辿たどり着いたそこは、あらゆる自然災害が詰め込み引き起こされたかのようだった。

 固い地面は混ぜ返され、隕石が落ちたかのようなクレーター跡が何か所もある。
 大気中の気体の比率もどこかおかしく、深呼吸を繰り返すと息苦しくなりそうだ。
 地面の下から嫌なにおいもする。
 一体何が埋まっているのだろうか。

「ニャー……(空から何か降ってきて、竜巻が起こって、地震が連続して発生して、最後に何か爆発したみたいっすね……)」

「…………まるでシュンが戦った跡みたい」

 ミケがいろいろと詳しいのは突っ込まないでおこう。
 ライミーよ、それはどういうことかな……。

 その時、強力な魔物の集団が近づいてくる気配を感じた。
 風上だったせいか少し気づくのが遅れたが、まだ十分に対応可能な距離だ。
 
「クルニャッ!(いや、この覚えのある気配は!)」

 こんなところにいるはずのない者たちが頭に浮かんだ。
 近づいてくる速度は速く、答え合わせはすぐだった――。


「ガルガルッ……?(シュン様。どうしてここに? それにその姿は……?)」

「ガルルゥ(シュン様とライミーさんじゃん。なんか前より良い雰囲気じゃない~? 姫様も負けてられないねっ)」

 近づいてきた魔物は、グーリとグリフォン数体だった。
 グーリが肘でツンツンされ、からかわれている。
 いまだにグデーと俺の背に乗っているライミー(猫型)を見て、グーリがちょっと羨ましそうにしている。

 数日前に別れた時と、俺の姿が少し変わってることを不思議にも思っているようだ。
 進化して、毛色とか雰囲気が変わってるからね。

「クルナー?(グーリたちこそ、どうしてここに? ここで何があったか知ってる?)」

 グーリは手を怪我しているようだし、この災害跡地に関わっているだろうとは思ったけど、とりあえず聞いてみることにした。





 少し離れた所に、リルと残りのグリフォンたちが待機していた。
 伯都に巨大ウナギ?を運ぼうと移動を始めたところだったらしい。
 そんな時に、何やら気配を感じて様子を見に来たというわけだ。

 今はリルたちに合流して、お互いの状況報告をしつつ休んでいるところだ。

 リルは巨大ウナギ?を使って料理をしている。
 ライミー(猫型)はリルの肩の上で、二人和やかに話をしている。

 グーリの手の傷は光魔法に属する回復魔法を使ったら、だいぶ良くなった。
 水魔法よりも回復効果が高い気がする。

「ガルルゥ……(私の為に、伝説とされる光魔法を使ってくださるなんて……)」

 グーリは手が治った以上にとても嬉しそうにしている。
 回復魔法をかけられた自身の手にほおずりしそうな勢いだ。
 小さい声で、「ガルゥ(しばらく手は洗いません)」とかつぶやいているけど、衛生面で問題があるからちゃんと洗って欲しい……。
 ほら、そこに川が流れてるからさ……。

「クルナー(――――というわけで、俺の姿が変わったのは、ライミーのおかげで種族自体が進化したからなんだ)」

 進化した経緯をグーリたちに伝えた。
 グーリたちの羽毛から作ったかつらが駄目になってしまったことも謝った。

「ガルガルッ!(さすがシュン様、戦いの最中に進化されるとはっ!)」

 グーリが尊敬の眼差しを向けてくる。
 グーリは本当こういうところが真っすぐだよね。

「クルニャー(今回ばかりは、かなり危ない状況だったよ)」

 本当に何か一つでも前提が違ったらヤバかった。
 強さ、それに知識ももっと貪欲に手に入れていく必要性を感じている。
 ライミーの種族特性もそうだけど、知らないことが多すぎることを、今回のことで実感したのだ。
 
「ガルガルゥ!(そ、そういうことでしたら、私から一つ提案が……)」

 何がそういうことか分からないけど、グーリはどこか照れた様子だ。

「クルニャン?(どんな提案?)」

「ガルルッ(そ、その……。シュン様が強くなるのでしたら、私を召し上がっていただいても……)」

 グーリが、この部分とかどうですか?と自分の腕を指して告げてくる。

「…………」

 いやまあ気持ちは嬉しいけどさ。
 気持ちだけは……。

「ガルルッ(姫様、だいたん~♪ 私を召し上がれ♪だって)」

「ガルッ!(そ、そういう意味ではないっ!)」

 ギャーギャーと賑やかに騒いでいる。
 楽しそうで何よりだ……。

「クルナー……(気持ちだけもらっておくよ……)」

 そう告げて、俺はウナギが焼き上がるのを心待ちにしたのだった。



 侯爵邸の屋根裏で聞いたこと、そしてケルベロスと戦ったことを話した。
 
「クルニャーン(――――俺が聞いたのは、そういう感じのことだった)」

「ガルガルゥ(そうだったのですか……。私たちの戦ったアンデッド兵も無関係ではなかったのですね)」

 グーリがアンデッド兵と戦った時のことを話してくれた。
 グーリたちが戦ったのが、キマリスという男が進軍させたアンデッド兵で間違いないだろう。

 Aランクの冒険者が束になっても敵わないと言っていた気がする。
 それを全滅させてしまうとは……、俺が思っている以上にグーリたちは強くなっているのかもしれない。

 終わってみれば結果オーライだけど、グーリたちが三百のアンデッド兵と戦うのを目の当たりにしたら、おそらく俺はそれを止めて、一人で戦おうとするだろう。
 俺は過保護すぎるのだろうか……。
 グーリたちの力を見極めて信頼するのも大事なことかもしれないな。

 それにしても、あの災害跡地はグーリたちの仕業だったとは……。
 どうやったらあんな風になったのかをグーリに聞いたら、それはそれは嬉しそうに語ってくれた。
 
「ガルルゥウ……(シュン様のことを想いながら戦ったおかげです。まだまだ足元にも及びませんが……)」

 なんでも、雷魔法を身にまとったりしながら戦ったという話だ。
 アンデッド兵の前には、目下料理中の巨大ウナギも倒したというではないか。

 詳しく聞いてて、ウナギっていうより水龍じゃねと思ったけど、突っ込まずスルーすることにした。
 グーリの話を聞いてると、俺のスルースキルが進化しそうだ。

「クルニャ……(簡単そうに言うけど、発動した魔法をその身に留めるのがどれほど難しいことか……)」

 グーリの真っすぐな気持ちが、大きな成長につながっているのだろうかと感心してしまう。
 俺も強くなるために、見習うべきところがあるかもしれない。

「ガルルッ(難しくなんてありません! シュン様に与えられた雷撃のしびれを思い出す内にできるようになった技です)」

 グーリが恍惚こうこつとした表情で、熱く語る。
 あの痺れはたまりませんでした、と何処か遠くを見ながらニヤついている。
 知らない人が見たら、色んな意味で危ない魔物認定すること間違いなしだ。

 やっぱり見習うのは止めておいた方が良いかもしれない。
 俺のスルースキルは進化して、『右から左へパリィ』となった……、そんな気がした。

 まあ、でも……。

「クルニャーン(グーリ、本当に良くやったな……。リルを護るために戦ってくれたこともそうだし、その強くなろうとする在りようは、誇りに思うよ。ありがとな……)」

「…………」

 俺の言葉を聞いていたグーリは、ピタッと動きを止めた。

 そうだよな……。
 今回は特に頑張ったもんな、言葉だけでは足りないよな。
 今度俺にできることで何かしなきゃな……と、思っていると……。

「ガルルゥウッ!(シ゛ュン゛様~! わたしは、私は幸せ者です! しあわせすぎてもうっ!)」 

 なぜか、目を潤ませたグーリにタックルされた……。
 そして、ガシッとつかまれてほおずりされている。
 グーリの方が俺より大きいから、はたから見ると捕食者と弄ばれている獲物だ。

「ガルゥ(姫様、良かったね~)」
「ガルルッ(あの大変だった戦いが報われますねっ)」
「ガルガルッ(仕える主の理解ほど嬉しいものはないわね)」

 グリフ・ワルキューレの面々も楽しそうだ。

 あ、鼻水拭かれて、フワフワ毛がシットリした……。
 カーバンクルに進化してさらにフワフワになった俺の毛は、鼻に優しい高級ティッシュ顔負けなのかもしれない。
 花粉症の人たちに御用達ごようたしのアレだ。
 そんなことを思いながらも、なぜか俺は嬉しい気持ちで満たされていたのだった。

 その後、ウナギの蒲焼きをみんなで食べた。
 なんだかリルの料理を食べることが、凄く久しぶりのように感じた。

 ウナギは、フワッとした食感にトロっとした旨みが最高だった。
 ウナギを手に入れてくれたグーリと、美味しく料理してくれたリルには感謝が尽きない。

 食べててどこかホッとする食事に、皆無事に帰って来れて良かったと心から思ったのだった。
 ウナギはまだまだ大量にあるし、これから何度もこの美味しい思いをできるのだと考えるだけで、ほおが緩んでしまうのだった。
 

 少し落ち着いたところで、自分のステータスを“自己鑑定”で見てみる。
 ゆっくり見る時間をなかなか取れなかったからね。

 今回ウナギを食べて、“水中呼吸”というスキルが手に入った。
 海とか湖とかの水中にあって、陸上と同じように呼吸できるというものだ。
 何気に便利なスキルだと思う。 

――――――――――
名前:シュン
種族:カーバンクル・キャット
レベル:207
体力:364
魔力:521

スキル:「自動翻訳」「自己鑑定」「火無効」
「毒無効」「呪い無効」「混乱耐性(中)」「精神耐性(中)」 
「暗視(強)」「飛行」「風刃」「猛進」「毒弾」「水中呼吸」
「咆哮」「火魔法」「水魔法」「風魔法」「土魔法」「雷魔法」

称号:「シャスティの加護」「毒ノ主アスタロト」「蠱毒こどくの覇者」「練達れんたつの合成士」「冥界の門アビスゲートを越えし者」
――――――――――

 ケルベロスを倒したからか、ずいぶんとレベルが上がった。
 体力や魔力も以前からずいぶん上がっている。
 今ならドラゴンと正面から殴り合えるかもしれないな。
 ドラゴンの強さもまちまちだろうけど。

 気になったところでは、「練達の合成士」「冥界の門アビスゲートを越えし者」の二つの称号だ。
 どちらも以前は無かったはずだ。

 魔法などのスキル合成を繰り返していたからだろうか。
 そういえば、グーリも魔法の合成を使えるようになったと言ってたな。
 合成は可能性に満ちあふれているし、これからも色々試していこう。

 問題は、「冥界の門アビスゲートを越えし者」だろう……。
 これってやっぱりケルベロスを倒したからだよなあ。
 冥界の門を守るとされる、地獄の番犬ケルベロス。
 その門を通る権利を手に入れたということだろうか……。

 完全にマッタリモフモフ生活から遠ざかっていってる気がする。
 全力で反対側にダッシュしてるよなあ……。

 強くなれて嬉しいけど、複雑な気持ちになったのだった――。
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