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第二章 

第59話「想いをその身にまとって……」

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「ガルゥウウ!!(任せてください!!)」

 とは言ったものの、グーリの正面から進軍してくるのは、軍と呼べる規模のアンデッドの数々だ。
 戦力にいたっては、そこらの軍をはるかにしのぐものだろう。
 さすがのグーリといえど、不安が無いと言えば嘘になる。

 グーリはアンデッド自体は以前に戦ったことがあり、そのしぶとさには侮れないものがあると思っている。
 しかも今回の敵は、たまに自然に湧く野良アンデッドと違って、明らかに誰かしらの作為を感じさせるものだ。
 おそらく強さも野良アンデッドよりも上であることは間違いないだろう。

 とりあえず一当てしてみるかと、グーリはアンデッドの集団に向かって歩を進める。
 アンデッドの軍に、一体のグリフォンが立ち向かう、そんな光景だ。

「なんか最近のグーリって、シュンみたいだね。でも無理はしないでね」

 リルがグーリの背中に向かって声をかけた。
 体の大きさは違うが、後姿の雰囲気がよく似てきたねとリルが言う。

「ガルガルゥッ!!(お任せをっ!!)」

 グーリは嬉しさを咆哮ほうこうに乗せた。

 敬愛する主に似ていると言われ、嬉しさのあまり感極まって駆け出したくなった。
 その気持ちをぐっと内側に圧縮し、正面から向かってくるアンデッド兵どもをにらみつける。
 そこに、膨大な数の敵に対する怯えはない。

 山で生活をしていた時、縄張りに侵入してきた人や魔物を撃退した回数は数えきれないほどだが、ここまでの集団を相手にするのは初めてだ。
 心強いグリフ・ワルキューレの仲間も今はまだいない。

(シュン様、貴方に少しでも追いつけるように、今ここに猫科・・の強さを示してみせます!)

 グーリは以前、グリフォンもワイルドキャットもどちらも猫科だと、シュンから聞かされた。
 今まで魔物の種別などには興味が無かったが、主と同じ猫科だということを知り、今ではそのことをほこりに思っている。
 だからといって、雄グリフォンに対して「ふん、脆弱ぜいじゃくな……」と思うことに変わりはないので、あくまでシュンと一緒だということが嬉しいだけかもしれない。

 グーリはアンデッドに向かって駆け出す。

 それぞれが向き合いに進んでいるため、あっという間に距離がつまっていく。
 アンデッド兵もグーリを敵として認識しているのか、武器を構え殺気を膨らませていく。
 剣や槍を持つスケルトン、こん棒を構えるグール、杖をかかげるワイトなど様々なおぞましいアンデッドがひしめき合っている。
 
「ガルゥウウ!!(死者は大人しく灰となれ! ファイアボール!!)」

 まずは、相手の様子を伺うとばかりに、グーリが火魔法を放つ。
 元々魔法が得意なグリフォンであるグーリのファイアボールは、一般的に知られるファイアボールに比べてはるかに威力が高い。
 平均的な強さの人族の兵士だったら、一撃で二十人ほどは軽く戦闘不能にする威力だ。
 合成魔法を使わなかったのは、まだ不安定な合成魔法を使って失敗した時の隙を嫌った形だ。

 アンデッド兵の前衛に、ファイアボールが着弾した。
 轟音とともに砂煙が舞う。

「ガルッ(チッ、ほとんど効いてない)」

 グーリは舌打ちをしながら、素早くバックステップを踏む。
 砂煙の向こう側から、数体のスケルトンが剣と槍でグーリが居た所に突きをはなってきた。
 
 アンデッドの耐久力が想定以上だからか、レジストするための魔法を使った奴がいるのか、またはその両方か、グーリのファイアボールで戦闘不能にできたのは三体のスケルトンのみだった。 
 野良アンデッドとは明らかに強さが違う。
 農民と兵士の強さが違うようにアンデッドの強さもいろいろあるのだろうと、グーリは気持ちを引き締める。

 グーリが次の攻撃に移ろうとしたところで矢が降りそそいだきた。
 放ったのは前衛集団の後ろに位置している、スケルトン弓兵どもだ。
 まるで生前は戦を生業なりわいとしていた傭兵であったかのような、練度の高い連携を見せる。

(この程度の矢など、シュン様の雷撃に比べたら止まってるようなものだ!)

 グーリは自身に当たる角度の矢だけを見極め、両前足(両手)を使って弾いていく。
 矢がおさまったところで、グーリは前方に跳躍する。
 翼の補助を使い、素早くふわりと弓兵集団のいる場所に踊り込む。
 単独で集団を相手にする場合は、飛び道具等の中遠距離攻撃を先につぶしておかないと、不意の攻撃で致命傷を負いかねないからだ。

 今回グーリが考えた攻撃案の一つに、空を飛びながら爆撃よろしく魔法を振りまくというのがあった。
 しかし、アンデッドの耐久力が想定以上のため、全てを倒しきる前に自分の魔力が尽きそうなので、この案は却下した。
 離れたところからの魔法は空中に消えてロスする分があり効率が悪いのだ。
 アンデッド軍が多少の損害を無視して進軍を続けると、アンデッドがバラバラに広がりロスが大きくなるだろう可能性もある。

 そんなわけで、グーリは魔法を交えつつも物理で滅する方針を取ることにした。
 
 前衛を飛び越え、弓兵が群がるところに爪を振るいながら飛び込んだ。
 一振りで二体のアンデッドを上下に切り裂く。
 別の一体はグーリの攻撃がかすりその腕を失ったが、怯むことなくナイフを構えたままだ。
 低いうなり声を上げながらも戦意を全く失わないのは、アンデッドならではだ。

 数体のアンデッドを倒したところで、グーリはえた。

「ガルゥウウッ!!(――我が身に宿れ、しびれる想い。雷腕もちて、敵を粉砕す)」

 猫語?を理解わかる者が聞いたら、魔法の詠唱に聞こえたかもしれない。
 直後、グーリの体が雷をまとう。
 
 以前から練習していた技で、雷魔法を身にまとい、それを肉弾戦に用いるというものだ。
 シュンの為に強くなろうとする、飽くなき向上心により生み出されたグーリの新たな技だ。
 合成魔法ほどの一撃必殺の威力は持たないが、雷魔法一つの発動で済むのと、体にまとうため、魔法を放つのに比べて魔力の消費が少ないのだ。
 グーリ本人は雷魔法だけ発動する技のため、誰にでもできる簡単な技だと思っているが、魔法を体に留め、それを闘法に用いるということは神技とされることだと気づいていない。
 主人と揃ってこのあたりは非常識で鈍感なようだ。

 グーリはシュンと出会った時の戦いで、雷魔法を受けた。
 それも魔法抵抗が高い自分がレジストできない程のものをだ。
 それでいながら、ほとんど痛みを感じさせず無力化する優しさを見せられた。

 その時、グーリはシュンの雷魔法強さと優しさに身も心もしびれてしまったのだ。
 シュンから雷撃を受けた記憶は、今ではグーリの中で大切な出会いの思い出になっている。

 その想いが、グーリの身に雷を宿すことを成した。

 街での訓練中、仲間のグリフォンたちに「シュン様の雷撃をまたこの身に受けたいわ……」と恍惚の表情をしながらこぼして、ドン引きされたり爆笑されたりしたこともあった……。
 姫様がアブノーマルな道に進みそうなことを、シュンはまだ知らない。

 グーリの体から青白い火花が散る。

 弓兵の間から、グーリを突こうと槍が何本も飛び出してくる。

「ガルゥウゥウウ!!(炭と化すがよい!! ――雷神の槌トールハンマー)」

 グーリは槍を飛び越え、その先にいるアンデッドに腕を振るう。
 猫のようにしなやかな跳躍から、虎のように暴威をともなった振り下ろし。

 いや、それは虎の比ではなかった。

 雷魔法がグーリの体を包み保護すると同時に、攻撃の際は敵への威力増加の役割をはたしている。
 さらに強化魔法と同様の効果ももたらしており、まさに一石鳥と言えるものだ。

 轟音とともにその場にいたアンデッドは潰され、地面には隕石が落ちたかのようなクレーターが生まれた。
 グーリの攻撃を食らったアンデッドは、炭になるどころか地面の影と成り果てた。

 まだグーリの戦いは始まったばかりである――。
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