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第二章 

第51話「九尾の狐大作戦」

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 ここは伯爵領の伯都ベルーナのとある家。
 庭にはドラゴン製のモニュメントが乱立している。
 近所の子供たちが好奇心から近づこうとすると、その親たちが必死でそれを止める、そんな場所。
 

 その家の庭で一体のグリフォンがくつろいでいる。
 さらに一人の狼っ娘が、グリフォンを枕にして日向ぼっこしている。

「ねえ、グーリ。退屈じゃない?」

 リルがグーリの胸元の羽毛に顔を埋めながらつぶやいた。
 これはこれで良いんだけど、何か物足りないといったようすだ。

「ガルガルゥ……(私はシュン様から、家の護りを任された身。退屈ではありません)」

 生真面目なグーリは自分に言い聞かせるように一鳴きした。
 本当は狩りに行きたいけど、主人が戻って来たら一緒に行こうと約束してくれた。
 だから今は言いつけを守ろうといった感じだ。

「あっ! いいこと思いついたよ! 隣の侯爵領に行くのはあれだけど、伯爵領内だったら魔物を狩りに行ったりしても大丈夫だよね」

 リルは名案とばかりに指を立て、グーリに向かって語って聞かせる。
 会話をしているわけじゃなく、語りかけてるだけだ。

「ガルゥウウ……(まずいですよ……。家の護りもありますし……)」

 グーリは少し困ってるようだ。
 リルを一人で出かけさせるわけにもいかない。

「うん! ギルドで地図を見て、行ってみたい村があったんだよね。近くに湖があるんだよ」

 リルはグーリを手でモフりながら、すでに行くことを決めたという顔をする。

「ガルゥ……(シュン様がいないと危ないですよ。リル様にもしものことがあったら……)」

 リルになでられるのは気持ち良いながらも、困ったことになったぞと、グーリは考える。

「その湖にはね、美味しい魚系魔物がいっぱいいるらしいよ! その場で料理しちゃうよ~」

 まるでグーリを説得しているかのように、リルが語る。

「ガル……(ごくっ……。魚料理……)」

 リルの料理が美味しいことは、ここ最近の生活で身をもって知っている。
 香ばしくジューシーな肉料理は、野生には無い初めての経験で涙を流すほど感動したものだ。
 もう野生には戻れないかもと真剣に考えたりもしている。

「それに、ラピスウナギ――通称ウナギっていう魔物がその湖にいるらしいんだけどね……」 

「ガルッ(……コクコクッ)」

「焼いて良し、煮て良し。焼いたウナギは、すっごく柔らかくてパリッとフワフワの、パリフワなんだってさ!」

 リルは目を輝かせながら、グーリにつげる。

「ガルルゥ……(ぱ、パリフワ……ですと)」

 グーリの口元から一筋のしずくが落ちる。

「だからね。グーリ、一緒に来てくれるかな?」

「ガルガルッ(お、お供させていただきます! ――ハッ!?)」

 しまったという顔をするグーリ。

「じゃあ、その湖はあっちの方だから、リルを乗せていってね」

 村の方角の空を指差し、すぐにグーリにまたがる狼っ娘。

「ガルガル……(しょうがありません。シュン様が護るように言ってたのは、リル様のことが一番でしょうし、この家はグリフ・ワルキューレの皆がいるから大丈夫でしょう)」

 まるで言い訳するように、ブツブツガルガルと鳴いてから、グーリは空に飛び立っていった。
 その背には嬉しそうに微笑む、第二の主人を乗せて――。



     



◆◆◆


 ここは侯爵領の中でも、伯爵領に近い村だ。
 レンカの育った村だ。

 村の周囲が林に囲まれているのは、その恵みを受けられる場所を開拓したからだろうか。

 ベルーナの街に比べて灯りが少ないこの村は、日が暮れると周囲一帯かなり暗くなった。
 わずかな灯りは、騎士や兵士たちが用意したかがり火だけだ。

 俺たちは襲撃するため、暗くなるのを待っていた。
 レンカの両親ふくむ獣人たちの救出作戦だ。

「クルニャ……(そろそろだな……。打ち合わせ通りにいくぞ)」

「ニャン(はいっす)」

「うんうん」

 俺の言葉に、ミケたちがうなずく。
 なぜか狐っ娘のレンカも、真剣な顔でうなずいている。
 言葉は通じないけど、一緒にいて気持ちが少し通じるようになったのかもしれない。

「クルニャーン(今回の作戦は名付けて『九尾の狐大作戦。尻尾で悪者退治しちゃうよ!』だ)」

「ニャー(やっぱり、作戦名長くないっすか?)」

 ミケに突っ込まれたけど、作戦は分かりやすさも大事なのだ。
 街で売ってる本のタイトルも、分かりやすさが重視される昨今だ。
 この前街で見かけた魔術書のタイトルは『大魔導士がつづる、最強魔法でハーレムしちゃうぞ!』だった。

 話がそれた。
 簡単に言うと、俺たちが夜の闇に紛れてレンカの尻尾として戦い、まるでレンカが眠っていた力を覚醒させて仲間を救ったかのように見せるのだ。
 猫はこの場に、いなかった。

 え? 九尾・・っていうのに、猫が六匹しかいない?
 そんなの俺が四匹分働けば解決ってね。
 猫の威を使って狐っ娘大活躍だ。

「クルニャン!(さて、そろそろ行くぞ。無闇に殺さないようにだけど、各自自分の命を優先しろよ!)」

「「ニャン!(はい! ボス!)」」
 
 戦いである以上、何が起こるか分からない。
 下手に加減したりして、仲間がやられたら意味がない。
 猫たちにもそれを言い聞かせる。

 最初、襲撃は俺たち猫だけで行うことも考えた。
 けど、レンカをここに置いていくのも危ないし、獣人を救出して連れ出すのに、レンカがいた方がスムーズだろうということで、この作戦になったというわけだ。

「猫ちゃん、お願いだよ」

 レンカが俺たちを信頼してくれる。
 まだ子供だからなのか、猫が弱いという常識に縛られず、騎士を撃退した事実を受け入れてくれてる。
 
 可愛いモフっ娘の期待には応えないとね。

「クルニャー!(俺たちは尻尾だ!)」

「「「ニャーン!!(しっぽだ!!)」」」 

 そんなわけで、村への侵入開始だ。
 レンカを先頭に、俺たち猫は後ろに隠れるように付き従い、歩みを進めていく。

 猫って、くっつくくらい固まると、一つのモフモフに見えるんだよ。
 暗がりで見たら、レンカから生えているモフに見えることだろう。

 荷物を運んでいただけで、ワームに間違えられた俺が言うんだから間違いない――。
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