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第一章 モフはモフを呼ぶ

第32話「モフモフに囲まれて……」

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 引っ越しの翌日。
 昨日は引っ越しでバタバタしたけど、とりあえず生活できる状態になった。
 細かい買い物とかは徐々にやっていけばいいだろう。

 今は猫たちに戦い方を教えてるところだ。

「クルニャ!(もっと素早く! タイミングを合わせて!)」

 五匹の猫が俺を囲んで動いている。
 猫たちには俺にタッチできたら勝ちだと伝えてある。

 肉球の感触は惜しいけど、練習の方が大事なので当たってあげない。

「ニャン!(タックルっす!)」

 しびれを切らしたミケが俺に特攻をかけてくる。

 ヒョイとかわして背中を軽く押すと、ミケは地面に突っ込む。
 そのままズザーっと地面を滑る。

 少し遅れて四匹の猫がバラバラと俺の方に向かってくる。

 それを引きつけてから避けると、猫同士がぶつかってその場でキューっと伸びる。

 五匹ともほぼ自滅で行動不能になった。

「クルニャン(ミケ、単独で動くと狙われておしまいだよ。もっと一体化することを意識して動くんだ)」

 猫たちの長所を生かした戦い方を教えているところだ。

 五猫一組ファイブキャットセル

 五匹の猫で連携を取りながら戦う。
 まるで一つの細胞のように、一体化するのが目標だ。

 猫たちの敏捷性と隠密性を生かす戦法を身に付けさせる。
 現状、猫たちは防御力が皆無、ペラペラの紙防御だ。
 他の魔物の攻撃を一撃でも喰らったらおしまいだ。

 五匹で連携して上手く相手の気を引きながら、スキを見てヒットアンドアウェイできるようになってもらう。
 相手の死角から気配を消した一撃を入れられるようになってもらう。

 攻撃力も無いのだが、そこは対策というか考えてることがある。

「クルニャー!(さあ次の組だ!)」

 俺にタッチできるように頑張ってもらう。
 猫たちはみんな素直で、続けていけば成果が出るようになると思う。

 猫ってもっと気ままだと思ってたから少し意外だった。
 遊びの延長線みたいな感じで楽しいのかもしれない。

 五猫一組ファイブキャットセルが効果を発揮するのは、そう遠くないことかもしれない。


◇◇◇


 お昼はみんなでバーベキューになった。

 リルが巨大イノシシの肉と野菜を鉄板にならべていく。
 四枚の大きな鉄板がリルを囲むように配置されている。

 リルが器用に手早く肉を焼いていく。

 俺と猫たちは鉄板を囲むように“待て”の格好だ。
 ミーナは手伝おうとしてたけど、リルが上手いこと断っていた。

 肉を焼くくらいはミーナにもできそうだけど、猫たちに状態異常攻撃を食らわせたらまずいからね。

 昨日ギルドから巨大イノシシの肉を大量に受け取ってきた。
 リルの取り分は、肉に優先的に割り当ててもらったのだ。
 猫たちの食費は馬鹿にならないから、お金よりも肉でもらえた方がありがたかったのだ。

「ニャン!(ボス、俺たちも肉を手に入れられるように、早く強くなるっす!)」

 肉の良い匂いが漂ってきたこともあって、猫たちのテンションが上がってきた。
 やる気になるのはいいことだね。

 肉を焼くリルの手元が、たまに光る。

 光る時はより美味しくなるってこの前言ってたね。
 冒険者のモニカに言わせると、伝説の料理人みたいだとも。
 何かのスキルなのかもしれないね。

 まあ今はバーベキューを楽しむことに専念しよう。



 結論から言うと、バーベキューは猫たちに大好評だった。

「ニャン!(こんなに美味い肉は食べたことないっす!)」
「ニャー(リル様! 一生ついていきます)」
「ミー!(美味しいの~! しあわせなの~!)」

 群がる猫にリルも嬉しそうだ。

「体をよじ登らないで! ニャー、尻尾を引っ張らないで~、くすぐったいってば~」

 リルがキャーキャー言ってるけど、嬉しそうだからいいだろう。

 野菜は猫に食べさせないようにした。
 ネギ類は特に猫にとっては毒で、俺も前にニラみたいなの食べてヤバかったからね。
 今は耐性あるから大丈夫だけど。

 玉ねぎ美味い美味い。

 その時、門のところに馬車が止まった。

「クルニャ(あの馬車は伯爵家のやつだ)」

 馬車の扉が開き、金髪少女がこっちに向かって駆けてくる。

「リル姉さま~! 遊びにまいりました~!」

 伯爵令嬢のクレアが嬉しそうに走ってくる。
 馬車のところにはじいが見える。

 近いうちにアルフレッドに会いに行こうと思ってた。
 クレアも家に招く予定だったんだけど、待っていられず来ちゃったようだ。

「クルニャーン!(大歓迎だよ! クレア!)」

「クレア! ようこそ~!」

 クレアもバーベキューに加わることになった。

「リル姉さま、猫ちゃんがいっぱいです。天国ですかここは!? 今日から私もここに住んでもいいでしょうか??」

 クレアのテンションがいつになく高い。

「リルはいいけど、アルフレッドさんが許可くれないでしょ。
 でも、クレアにはいっぱい遊びに来て欲しいな。
 それで、たまには泊っていってくれたら嬉しいな」

 リルが笑顔でこたえる。

「わかりました! 帰ったらお父様を説得して、ここに入り浸らせていただきます!」

 クレアが手を握りしめて決意をしている。
 入り浸るって……。
 気持ちは分かるけどさ。
 親ばか伯爵が寂しがるよ。


 昼から始まったバーベキューは、途中にお昼寝タイムをはさんだ。
 芝生の上にみんなで寝転がる。
 広い庭で昼寝するのは、まさに至福だった。

「クルルニャーーン(猫はやっぱり昼は寝ているにかぎるね)」

 夜もたっぷり寝ていることは棚にあげる。
 ゴロゴロムニャムニャしてるの最高だよ!

 左に転がればリルがいて、右に転がればミーナがいる。
 上に転がればクレアがいて、その外側には数多の猫たち。

「シュン、リルは世界一幸せだよ」

 リルの言葉に胸が温かくなる。

 ちょうど俺も同じことを思ってたよ!

 この街に来て良かった。
 頑張って戦って良かった。
 ここに家を買って良かった。

 みんなと会えて良かったよ。

 モフモフに囲まれる幸せ、優しいみんなに囲まれる幸せを、俺は心の底から感じていたのだった――。






ここで第一章完結としますが、
何事も無かったかのように、次章がすぐに始まります~(=^・ω・^)ノ☆
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