上 下
31 / 72
第一章 モフはモフを呼ぶ

第31話「みんなおいでよ!!」

しおりを挟む
 今日の昼間、リルが家を購入した。

 今後について、リルがミーナに話をしているところだ。
 俺はリルの膝の上で、丸くなっている。

「というわけで、家を買ったから明日引っ越すつもりだよ。今まで家に置いてくれてありがとね」

「そうなんだ……。リル、おめでとう。今やこの街の英雄だもんね」

 リルが引っ越しをすることを告げると、ミーナが笑顔だけどちょっと寂しそうな顔をした。

 最近は凄く仲良かったもんね。
 ミーナはリルが出て行っちゃうことが寂しいのだろう。
 だけど、めでたいことだから我がままを言えないといった感じだ。

 甘いな、ミーナ。

「それでなんだけどね……。良かったらミーナも一緒に新しい家に住むのはどう?」

「えっ!?」

 リルの突然の申し出に、ミーナが驚いている。

「あ……、ギルドから少し遠くなっちゃうから嫌だよね……」

 リルはミーナの驚きを、否定の意味と受け取ったようだ。
 しょんぼりと耳が垂れている。

 実際はギルドから遠くなるといっても、少し遠くなる程度だ。

「クルニャ(ミーナは嫌がってるわけじゃないよ)」

 言葉は伝わらないけど、歯がゆい気持ちを少し伝えたくなった。

「違うのよ。その……、せっかくリルが買ったばかりの家に私が一緒に住んだら、邪魔かなって……」

「そんなわけないよ! リルはミーナと過ごしたこの家での生活が楽しかったよ!」

「リル……」

「だからリルは、ミーナと一緒に暮らしたいと思ってるよ。……どうかな?」

 リルが不安そうにミーナに問いかける。

「……ありがとう。リル、私の気持ちも同じよ。これからもよろしくね」

 笑顔でリルにつげる。

 なんとかお互い素直に気持ちを伝えられたようだ。
 リルもミーナもすぐ遠慮するからね。
 二人とも優しいからなんだけどさ。

「クルルゥ……(なんだか恋の告白を見せられた気分だよ……)」

 小さくため息をつきながらも、俺はこれからの楽しい生活に思いをせたのだった。

 その時、ミーナが思いついたかのように言う。

「そうだ、新生活始めたら、もっと本格的に料理を作るようにするね!」

「う、うん……」

「……ルニャ~(……まじか~)」

 ミーナの言った“本格的”という言葉が酷くおそろしい。
 ミーナの本気・・に俺は立ち向かえるのだろうか……。

 でも、作ってるうちに料理が上手くなっていくかもしれない。
 それにミーナの気持ちが嬉しいのは本当だ。
 
 それに……、耐性がついたおかげでオークキング戦で助けられたしね。
 
 大きなため息をつくことクルニャ。
 強敵に立ち向かうのに似た覚悟をしたのだった。


◇◇◇


「クルニャ!(静かにっ!)」

 俺は目の前の猫たちに話をするところだ。
 引っ越しの日の朝、猫たちに集まってもらった。

 俺のすぐ後ろにはリルがいる。
 猫たちを家に誘いにきたのだ。

 ミーナと話した後で、「リルたちの家に住んでって、明日猫たちにも言いに行こ!」と笑顔で言っていた。
 俺が猫たちと意思疎通ができていることを、リルは直感的に気付いているようだ。
 さっきも、俺に猫たちを新居に誘うように告げてきた。

 というわけで……。

 俺は猫たちに向かって話す。

「今日からみんなに住んでもらいたい家がある!
 強制ではないからすでに落ち着く住居がある場合はそのままでいい」

 俺の言葉を聞いて猫たちがミャーミャー騒ぎだす。
 驚いている猫。
 喜んでいる猫。
 何のことだかピンときてない猫。

 そんなモコモコ動く猫の集団を見て、リルが目をキラキラさせている。

 分かるよ、その気持ち。
 モコかわだよね。

 隙間なく並んでいる猫たちの上を、ゴロゴロゴロ~って転がってみたいよね。
 きっと高級ベッドだって目じゃないと思う。

「ニャー(家を買ったっすか? でもこの猫数だと、ギューギューになるっすよ)」

 ミケはすぐに家を手に入れたことに気づいたようだ。
 ミケって意外に察しがいいんだよね。

「クルニャーン!(大丈夫だ! 大きい家を買ったからな。これからそれを見に行く!)」

 実際に見てもらうのが一番だろう。





「……ニャー(……これは予想以上っすね)」
「「「ミャーミャーミャー!!(凄い凄い凄い!!)」」」
「ニ゛ャン(さすが私のダーリンね)」

 家の大きさと庭の広さに、みんな驚いている。
 それと、俺はお前のダーリンになった覚えはない。

 皆が皆喜ぶわけじゃないと思ってたけど、全員が喜んでいる様子だ。

「クルニャン!(家の使い方は徐々に教えていく。そっちの大きな倉庫は自由に使っていいぞ!)」

 この邸宅には大きな母屋と、二つの倉庫がある。
 倉庫といっても、街中にある普通の家よりも大きいくらいだ。

 倉庫のうち一つは猫たちに自由に開放することを、リルが決めてくれた。

 母屋の方は鍵を開けっ放しにしておくわけにはいかないので、猫たちにも使い方を覚えてもらおうと思う。

「クルナー!(それにだ! 家は提供するけど、ご飯を手に入れたりするのは、みんなにも頑張ってもらうからな!)」

 獲物を狩る力、戦う力は徐々につけていってもらわないとね。
 厳しいようだけど、それがボスを引き受ける時の約束だ。
 もちろん全力で教え込むつもりだ。

「「「ニャー!!!(ボス! ボス! ボッス!!!)」」」

「クルニャー(感謝ならリルにしてくれ)」

 猫たちが住める家というのは、リルが思いついたことだ。

「「「ニャーーン!!!(リル! リル! リッル!!!)」」」

 リルへのコールが始まった。

「喜んでもらえたみたいだね。リルもうれしいな!」

 リルにはニャーニャー言ってるようにしか聞こえないだろう。
 それでも喜びは伝わったようだ。

 リルが満面の笑みを浮かべる。

 猫たちを引き連れることに不安もあったけど、良かったかもという気持ちになったよ。


 その後早速、猫たちは倉庫にぞろぞろと足を踏み入れる。

 倉庫といっても大きな蔵といった感じで、天井が高くとても風通し良く作られている。
 窓みたいな戸を開けば、陽も入るようになっている。
 日向ぼっこするのに良さそうだ。

 一定の高さごとに備え付けられている棚も良い感じで、本棚をほうふつさせる。
 棚に猫たちが収まったら、可愛い光景かもしれない。

「ニャン(これは住み心地よさそうっすね)」
「ミー(ボス、かいてきだよ~)」 

 どうやら好評のようだ。
 ミケによると雨の心配をしなくていいのは大きいらしい。
 さっそく棚に収まったピーチも嬉しそうにしている。
 名前を覚えたよ。

「クルニャーン(さて、これからやることがいっぱいだ)」

 猫たちを強くすること。
 俺ももっと強くなること。

 家の維持費も依頼クエストを受けて稼がないといけない。
 快適な新生活のためにはやることが尽きないだろう。

 おっと、忘れてはいけない。
 いっぱいモフモフしないとね。

 ちょっと忙しくなりそうだけど、充実した日々になりそうだなと思ったのだった――。



しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

幼馴染のチート竜,俺が竜騎士を目指すと伝えると何故かいちゃもんつけ始めたのだが?

モモ
ファンタジー
最下層のラトムが竜騎士になる事をチート幼馴染の竜に告げると急に彼女は急にいちゃもんをつけ始めた。しかし、後日協力してくれそうな雰囲気なのですが……

睡眠スキルは最強です! 〜現代日本にモンスター!? 眠らせて一方的に倒し生き延びます!〜

八代奏多
ファンタジー
不眠症に悩んでいた伊藤晴人はいつものように「寝たい」と思っていた。 すると突然、視界にこんな文字が浮かんだ。 〈スキル【睡眠】を習得しました〉 気付いた時にはもう遅く、そのまま眠りについてしまう。 翌朝、大寝坊した彼を待っていたのはこんなものだった。 モンスターが徘徊し、スキルやステータスが存在する日本。 しかし持っているのは睡眠という自分を眠らせるスキルと頼りない包丁だけ。 だが、その睡眠スキルはとんでもなく強力なもので──

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...