上 下
27 / 72
第一章 モフはモフを呼ぶ

第27話「空飛ぶ猫ふたたび!」

しおりを挟む
 一晩ゆっくり休んで、今日は午前中から冒険者ギルドにやってきた。

 多くの冒険者が昨日帰ってきたばかりだからか、いつもよりギルド内が空いている。
 討伐軍参戦は結構な報酬が出るみたいだし、しばらく遊んでる冒険者も多いのかもね。

「じゃあリルさんは、この2つの依頼でいいですね」

 リルがギルドの受付嬢に、受ける依頼を伝えて許可をもらったところだ。
 受付嬢はミーナの同僚で、カーミラという女性だ。
 カーミラはおっとりした雰囲気をしてて、秘書風なミーナとは対照的だ。

「ウインドディアーとマーダービーだよね。今度は間違えないようにしないとだね」

 リルが俺の方を見ながら苦笑いする。

 初依頼でウインドディアーを間違えたことを思い出したのだろう。
 
「クルニャー(今度はこの前よりもしっかり特徴を聞いたから大丈夫だよ!)」

 EランクのウインドディアーとCランクのマーダービーだ。
 禍々しくない普通の鹿と、ちょっとだけ危なそうに見えるソフトボール大のはちを倒せばいいはずだ。

 ここ数日は、マーダービーがウインドディアーのいる場所に出るようになってしまったため、Eランクの冒険者には依頼できなかったらしい。

「じゃあいってきますね、カーミラさん」

「はい、夕方ならギルドマスターも時間が取れるそうですから、忘れずにお願いしますね」

 ギルドマスターのおっちゃんが、討伐軍のことで話があったらしいけど、今は出かけているそうだ。
 報酬とかについても、その時に直接話してくれるってさ。

 今回はオークキングやジェネラルを倒したから、期待しちゃうよね。
 しばらく楽できるくらいの報酬がもらえるかもしれない。
 ミーナにもお世話になってるし、お礼することができるといいな。


◇◇◇


 俺とリルは森の中を疾走している。

「シュン! そっちに二体行ったよ!」

「クルニャーン!(任された~!)」

 俺の方に向かってくる2体のウインドディアーをサクッと仕留める。
 以前の凶悪な鹿フルフルとは雰囲気も強さも別物だった。

 使ってくる風魔法も、鹿自身の走る速度を補助するようなものだった。

 マーダービーも多少素早い程度の動きだったから苦労せずに倒せた。
 リルが念のために持ってきた毒消しも使うことがなくて何よりだ。

 鹿と蜂をある程度倒したところで、その成果はすぐそこにある台車に山積みになっている。
 これ以上はかさばって大変だから、まだ昼過ぎくらいだけど、ご飯を食べてから街に戻ることにした。

 お昼は街で買ってきたパンと、獲ったばかりの鹿肉だ。
 時間をかけないで作るということで、シンプルに鹿肉の焼肉にした。

「クルルゥニャーン!(リルのご飯はやっぱりおいしい~!)」

 この鹿肉も、モニュ美味い!
 このみごたえがクセになるね。

 たしかに以前の高級鹿肉の方が、旨みが多くて美味しかったけど、これも十分美味しい。
 手軽な食べ放題の肉にも、その良さってあるもんね。

「シュン、焼き加減はだいじょうぶ?」

「クルニャーン!(ばっちりだよ! このレアな感じが凄くいい!)」

 今日もリルの作ったご飯が食べられて幸せだよ!

「シュン、あっちも食べる?」

 あっち? まだ何かあったっけ……。

 リルが指差した方には、マーダービーの死がいが……。

「ルニャッ!(あっちはノーだよ!)」

 ブンブンと首を振ったところで、リルに意思が伝わったようで良かった。

 以前、強くならなければいけない時に、虫でもサソリでもなんでも食べたけど、あの時は必死だったから味なんて覚えていない。
 今は味わってまで食べたいと思わないかな。

 食べると結構美味しいとは言うけどさ……。 



 そしてやってきました!

 食べてる途中で、ウインドディアーのスキルの“風魔法”が手に入った。
 
 持ってる火魔法の経験上、魔法は使用者の魔力量や魔力操作能力によって、威力や効果が大きく変わってくる。
 つまり、ウインドディアーが使う風魔法と、俺が使う風魔法はいろいろと違ってくるんだ。

 魔法自体まだ使いこなせてるとは言えないけど、風魔法で試してみたいことがあるんだ。



「クルルニャー!(空飛ぶ猫ふたたび!)」

 俺はミーアキャットのように、二本足で地面に立つ

「シュン、それ食べ終わるとやるあいさつか何かなの?」

 リルが笑いながら問いかけてきた。
 ワイバーンのときもやってたもんね。

「クルニャン!(まあ見ててっ!)」

 俺には翼や羽がないから、何かで代用できないかと考えていた。

 そこで思いついたのが風魔法だ。
 ウインドディアーが推進力を増すために使っていた風魔法。

 これを飛ぶ際の体のコントロールに使う。
 とりあえずは風の通路を作って、そこを“飛行”で滑るイメージだ。
 慣れてきたらもっと細かい動きができると思う。

「クルニャ~~~!!(俺は空を飛ぶ!)」

“飛行”と“風魔法”を合わせて使う。

 スキル合成! 『飛翔』

 スキルを発動させた瞬間、凄い勢いで上に引っ張られる。

 視界が目まぐるしく変わる。
 
 目に映るものが後ろに滑っていく。

「ルニャー!(目が回りそう~!)」

 風魔法のコントロールで何とか体勢をととのえる。

 少し慣れてきて、周囲を見回すと、そこは空中だった。

 止まり方が分からず、空を滑っている感じだが、これは飛べていると言ってもいいだろう。

 高さ10メートルくらいのところを、高速で滑るように飛ぶ猫。

 風を切る気持ちよさを感じる余裕もでてきた。

 俺は今飛んでいるぞ~!

「シュン~! 何それ~? 楽しそうでいいな~」

 リルの声が下から聞こえる。
 今度飛ぶのが上手くなったら、リルを乗せて飛ぶからね。

 さてそろそろ一旦下りようかな。

「…………」

 これって……どうやって止まるんだろ……。

 スキーの初心者が、滑り出したら止まれなくなった感じだろうか。

 大丈夫だ。
 この前もっと高いところから落ちたことを考えたら、最悪落ちても大丈夫……。

 スピードが結構やばくない……?

 たしか衝撃って、スピードの二乗に比例する……だっけ。
 よく分からないけど、このスピードで突っ込むとちょっとやばそうな気がする。

 こうなったら……。

 地面の土の柔らかそうなところに狙いを定める。

 地面への突入角度は、可能な限り地面に水平に!

「クルニャ!(ここだ!)」

 地面に突入する瞬間に、体を丸める。

 俺は丸い何かだ、と自分に言い聞かせる。

 !?!?

 地面に接した瞬間に、凄い勢いで転がる。

 自分がボールになった気分だ。

 …………。

 どれくらい転がっただろうか……。

 徐々にスピードが落ちて、なんとか止まることができた。

 丸まっていたのが解けて、その場に大の字になる俺。
 尻尾があるから“大”の字じゃなくて“木”の字が正しいかもしれない……。

「シュン、なんだか楽しそうだったね。空飛んでたねっ」 

 あおむけになっている俺を、リルがのぞき込んできた。

「ルルウニャ……(目が回ってる……)」

「ころころ転がるのも、丸い毛玉で可愛かったよ」

 笑顔でそんなことを言われてしまっては……。

 失敗したのも悪くないと思うしかないじゃんか。

 飛翔は、もっともっと練習しないとだね。
 でも、空を飛ぶ大きな一歩になったのは間違いないだろう。

 目が回りながらも、俺はその結果に満足したのだった。
 
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

幼馴染のチート竜,俺が竜騎士を目指すと伝えると何故かいちゃもんつけ始めたのだが?

モモ
ファンタジー
最下層のラトムが竜騎士になる事をチート幼馴染の竜に告げると急に彼女は急にいちゃもんをつけ始めた。しかし、後日協力してくれそうな雰囲気なのですが……

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平
ファンタジー
幼い頃に、貴族である両親から、魔力が少ないとう理由で捨てられたプリシラ。召喚士養成学校を卒業し、霊獣と契約して晴れて召喚士になった。学業を終えたプリシラにはやらなければいけない事があった。それはひとり立ちだ。自分の手で仕事をし、働かなければいけない。さもないと、プリシラの事を溺愛してやまない姉のエスメラルダが現れてしまうからだ。エスメラルダは優秀な魔女だが、重度のシスコンで、プリシラの周りの人々に多大なる迷惑をかけてしまうのだ。姉のエスメラルダは美しい笑顔でプリシラに言うのだ。「プリシラ、誰かにいじめられたら、お姉ちゃんに言いなさい?そいつを攻撃魔法でギッタギッタにしてあげるから」プリシラは冷や汗をかきながら、決して危険な目にあってはいけないと心に誓うのだ。だがなぜかプリシラの行く先々で厄介ごとがふりかかる。プリシラは平穏な生活を送るため、唯一使える風魔法を駆使して、就職活動に奮闘する。ざまぁもあります。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...