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第一章 モフはモフを呼ぶ

第22話「ぼたん肉はトロうまい!」

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「ふん~、ふふん~、ふ~ん」

 リルが鼻歌まじりで鍋をかき混ぜている。

 巨大イノシシを使ったいわゆるぼたん鍋・・・・だ。

 イノシシの肉は他の肉より脂肪が多い。
 薄切りにして盛り付けると、肉の赤と脂肪の白さがあいまって牡丹ぼたんの花に似てるからぼたん肉・・・・と呼ばれるらしい。
 鹿肉がもみじ肉・・・・で、馬肉がさくら肉・・・・
 じゃあ、ドラゴンの肉はどんな花が似合うんだろうね。

 食事は数人で班をつくって取ることになった。
 調理も班ごとだ。
 リルはハンズたちのパーティーと同じ班になった。

 俺?

 従魔だから頭数に入ってないよ。
 誰よりもたくさん食べるつもりだけどね!

 俺の活躍は他の冒険者たちにも認めてもらえた。
 つまり、リルがさっきの撃退戦の最大の功労者になった。

 骨折したりして戦闘への参加ができなくなった者は結構いた。
 剣や盾などの武器も結構破壊されたらしい。
 死人が出なかったのが不幸中の幸いといったところだろうか。

 ハンズが言うには、俺とリルがいなかったら討伐軍が半壊していた可能性があるらしい。
 あいつは俺たちを過大評価してるふしがあるから、話半分に受け取っておこう、

 ハンズたちと巨大イノシシとの戦いは、実は結構ピンチな状況だったとらしい。
 ハンズにはめちゃくちゃ感謝されて、リルが「様」づけになりそうな勢いだった。
 リルが「それはやめて!」と頼んでいたよ。

 イノシシも美味しそうな部分をうちの班に回してもらった。
 素材の取り分も皆より多く、帰ったら換金するのが楽しみだ。
 肉はミーナとクレアにお土産で持っていこうと思う。
 リルもそのつもりだった。

 お土産なんていうと、ヴァレミーのいうピクニック気分というのも、あたらずとも遠からずな気が少しした。

 伯爵令嬢のクレアと、森で一緒に過ごしたことが懐かしい。
 リルの作るイノシシ肉やウサギ肉の料理を、クレアは美味しそうに食べていたなあ。

「クルニャ~……(いい匂いがしてきた……)」

 鍋から立ち昇る湯気が、あたりにいい匂いを振りまく。

 湯通しした薄切りイノシシ肉を大きな鍋に入れ、野菜と一緒に煮込んでいる。
 きのこ、ネギ、白菜などいろんな物が鍋に投下された。
 イノシシの襲撃が無かったら、野菜鍋に申しわけ程度の干し肉が加わるくらいだったのだろう。
 そう考えると、ラッキーだったとも言える。

 ぼたん鍋の味付けどうするんだろう?
 そう思ってリルの方をうかがう。

「そろそろかなあ。こんなこともあろうかと思って~」

 リルがショルダーバッグから小さなつぼを取り出した。

「クルニャン(何それ?)」

「んっふっふ~。これはねちょっとめずらしい調味料だよ」

 なにやら得意げだ。

 つぼに顔を近づけてみると、味噌みそのにおいがする。

「ルニャン?(どうしたの、これ?)」

 俺の疑問が伝わったわけではないだろうけど、理由を教えてくれる。

「街で買ったんだよ。なんか東方からの交易品なんだってさ。匂いにクセがあって売れないからって、安くしてもらっちゃった」

 嬉しそうにリルが言う。

 たしかに、ぼたん鍋と言ったら味噌味が主流だ。
 使ったことのない調味料を、感覚だけで適切に使えるっていうのは凄いことではなかろうか。
 リルの料理にはなぜか・・・正解にたどり着くものが多い気がする。
 リルには料理のセンスがあるのかね。

 ミーナの料理は正反対だったけど、あれはあれで悪魔の才能だった……。

 味噌を入れて煮込み始めると、匂いの凶悪さが増した。
 それはハンズたちにも効果があったようだ。

「リルさん、凄く美味しそうですね。あれ? 今、料理がキラッと光ったような……」

 ハンズがずいぶんとリルを持ち上げるなあと思った。
 料理が光るなんて、例えにしてもキザすぎる。

 さすがチャラいやつは、ほめ言葉もチャラいなあなんて思っていると、

「え? いつもと同じだよ。キラッとした時は、特においしいんだよ~」

 リルもキラっと光ると言い出す。
 しかもその言い分だと、光る時と光らない時があるってこと?

「クルニャ??(料理が光るってどういうこと?)」

 気になって、リルがかき混ぜている鍋をのぞいてみる。

 そういえば、今までリルの調理中の料理って見たことなかったかも。
 いつも匂いにあらがうだけで、俺の耐久値が限界をむかえそうなんだ
 視界に入れてしまったら、飛びついてしまうこと間違いなしだ……。

 そう思って今まであえて見ないようにしていた。

 鍋をじっと見てみる。

「クルルゥ……(おいしそうだよ……。鍋の中でイノシシ肉が揺れている……)」

 肉が煮立つスープに合わせて揺れている。

 俺の体が勝手に動き、その体勢を低くする。
 これは獲物に飛びつく前の体勢だ。

 必死に本能にあらがっていると、一瞬鍋の中がキラリと光った気がした。

「ニャン!(光った!)」

 リルを見上げても、リルの様子は普通だ。
 俺が知らないだけで、料理って光るものなの?

 俺が疑問に思ってると、モニカが話に入ってきた。

「リルちゃんの料理……。伝説の料理人の料理みたい」

「モニカ、どういうことだ?」

 ハンズがモニカに問いかける。

「吟遊詩人がうたう昔話にね、伝説の料理人の話があるのよ……」

 モニカがその伝説を俺たちに話してくれた。

 伝説の料理人の料理は、調理中にまばゆいほどの光を発したということだ。
 その輝いた料理は、どれも絶品ばかりだったという話だ。

 時の戦争を料理の力で収めたなんていう逸話いつわもあるらしい。
 伝わるうちに誇張されてると思うけどね、とモニカは言う。

「リルさんが、その伝説の料理人と同じってことか?」

「分からないわ。でも、リルちゃんの料理を見てその話を思い出したのよ」

 ハンズの問いかけにモニカが答える。

 結局よく分からないまま話は終わった。
 なんとなく機会があったら、調べてみたい気がした。

 とりあえず今は完成した鍋を食べることが一番だ!

 
 俺はリルのひざの上でリルに食べさせてもらうことになった。
 みんなの分を器に取り分けたところで、俺が食べづらいことにリルが気づいたのだ。
 耐性にものを言わせて、鼻から器に突っ込む寸前のことだった。

「はい、あ~ん」

 リルがフォークでイノシシ肉を口まで運んでくれる。

 薄切りだけど一枚の大きさは結構大きい。
 それを折りたたむようにしてフォークで刺してある。

「クルゥニャン!(いただきます!)」

 ハムっと一口でいただく。

 おお! これは!!

「すっげ~美味い!」

「本当ね~、幸せ感じるわね……」

 ハンズやモニカ、他のパーティーメンバーにも大好評のようだ。
 戦いの後に外で食べるご飯は、それだけでいつもの三倍美味しい気がする。

 これは美味しすぎる!

 脂肪分が多いかなと思ってたけど、全然そんなことはない。
 脂肪分が肉にまろやかさを与えて、トロトロした甘みを感じる!
 それでいてあっさりした後味だから、いくらでも食べられそうだ。

 臭みもまったくなく、味噌のやさしい味わいがイノシシ肉に凄く合っている。
 味噌とイノシシ肉、相性抜群とはまさにこのこと。

「クルニャ~~!!!(トロうま! トロうま!)」

 リルも美味しそうに食べている。
 リルのフォークは、俺とリルに交互に鍋の具材を運んでいる。

「シュン、野菜も食べなきゃだめだよ。肉のときの方が嬉しそうにしちゃって」

 野菜も十分に美味しいんだけど、どうやら肉の方が良い反応をしていたようだ。

 だって、肉が美味しすぎるんだよ!
 トロトロのウマウマなんだよ!

 器の中の具材が無くなったところで、スープに顔をつけてゴクゴクと飲み干す。

「ルニャーン(スープも美味い~)」

 肉と野菜の旨みがたっぷりと出ているスープ。
 味噌がそれらの旨みを上手くまとめているようだ。

 優しく包まれる味わいで、たしかに幸せを感じる味だ。

「リルさんの料理が食べられるなんて、ホント参加して良かった! あとでみんなに自慢できるよ」

「まったく、ハンズったら。たしかに、肉がトロトロしていて今までに食べたことないくらい美味しいわね」

 ハンズもモニカも笑顔だ。

 体も心もポカポカするような鍋だった。
 そういえば、ぼたん肉って体が温まる食材なんだよね。

 俺は何度もおかわりして、心ゆくまでぼたん鍋を満喫したのだった。
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