15 / 72
第一章 モフはモフを呼ぶ
第15話「絶対領域……それは夢が重なり合う処」
しおりを挟む昨夜はみんなですき焼きを食べ、寝るときは猫まくらにされてリルとミーナに挟まれて眠りについた。
今朝はすこし早く目覚めたのだが、二人はまだ夢の中だ。
二人より先に起きた俺を褒めてあげたい。
しかもだ!
リルとミーナが背中合わせに寝ていて、その背中と背中の間には好都合にも、俺が収まることができるほどのスペースが空いている。
さらにだ!
そのスペースを埋めるように二人の尻尾が重なり合っている。
フワフワでモフモフなリルの狼尻尾。
シットリしててフサフサなミーナの犬尻尾。
その二つが折り重なっている絶対領域。
モフモフという夢が重なり合う処。
モフモフが二つで、2モフモフか?
否、断じて否である。
少なくとも、二乗の4モフモフだ。
少なくともだ!
この神聖な聖地を護るためならば、俺は神にすら挑んでみせよう!
「クルルゥゥ……(体が言うこときかないよお……)」
棒読み気味に小さな鳴き声を発し、俺は絶対領域に吸い込まれていく。
今自分のステータスを見たら、“魅了”の状態異常がついてるかもしれない。
俺は、ポフッと領域に倒れ込む。
「……ん、ぅん」
リルが可愛らしい声を出すが、すぐに規則正しい寝息に戻った。
それにしても……。
このモフモフ感はやばい!
フワフワしていて気持ち良いことはもちろんだけど、尻尾だからなのか二人の呼吸に合わせて、わずかに揺れたりするのがたまらない。
モフモフフサフサが動くんだよ。
俺はモフモフに包み込まれてる気分になった。
もしかしたら寝てる間にも、この状況があったかと思うと、気づいていなかった自分をしかりつけたい。
これはあれだ、人は(猫だけど)自身が幸せだったとしても、その時には気づかないことがままある、というあれだ。
失ってから気づく幸せ……。
俺は今幸せだよ。
それにしても気持ちいい……。
人を(猫だけど)堕落させる程のモフモフの魅力。
この世界には、いがみ合ってる国とかあるらしいけど、みんなモフモフすればいがみ合うのが馬鹿らしくなるのにね。
モフモフは世界を救うと、本気でそんな考えが浮かんだ。
「ゥゥゥニャッ……(ずっとこのままで……)」
なんだかいい匂いもするし、癒されるわ~。
このモフモフに比べたら、高級じゅうたんなんて雑巾だよ、雑巾。
高級じゅうたんなんて見たことないからイメージだけど。
モフモフ尻尾を全身で満喫していると、つい鼻先がミーナの尻尾のつけ根近くに当たってしまった。
「ん……ぅん、シュン……、そ……そこはだめよ……」
ミーナが艶っぽい声を出す……。
「ニャッ?(なんだ?)」
俺の心臓がバクバクしている。
ね、寝てるよな?
今は寝息を立ててるから、寝言だったんだと思う。
なんだかちょっと罪悪感が……。
その時、ガバっと後ろから包まれた。
ちょうどドキドキしてた時だったから、ニャッと声を上げそうになった。
すぐにそれが、リルが後ろから抱きついてきたからだと分かった。
「……シュン、……ずっとモフモフだよ」
リルが小さく呟いた。
寝言だからか、意味がちょっと分からない。
ずっと一緒だよ、ってことかな。
任せて! 俺はずっとリルと一緒だし、ずっとモフモフするつもりだよ!
心地良い拘束の中、俺は至福の二度寝に落ちていった。
「クルルゥ……(にどねさいこ~)」
◇◇◇
二時間くらい二度寝したあとに、起きてみんなで朝食をとっていた時のことだ。
訪ね人だろうか、ドアがコンコンとノックされた。
「はーい、どちらさまですか~」
家主のミーナがドアを開けると、そこには黒のタキシードを身に付けた壮年の男性の姿があった。
浮かんだのは、執事という言葉。
爺がそこにいた。
「領主ベルモンド伯爵の命により参りました。リル様はいらっしゃいますか」
爺はどうやら領主からの使者だったようだ。
ミーナがゴクリと唾を飲み込む音が、俺にも聞こえてきたようだった。
何が起こっているのかと、ミーナが緊張しているのが分かる。
この街のトップからの呼び出しであった。
0
お気に入りに追加
1,708
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
幼馴染のチート竜,俺が竜騎士を目指すと伝えると何故かいちゃもんつけ始めたのだが?
モモ
ファンタジー
最下層のラトムが竜騎士になる事をチート幼馴染の竜に告げると急に彼女は急にいちゃもんをつけ始めた。しかし、後日協力してくれそうな雰囲気なのですが……
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる