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第一章 モフはモフを呼ぶ
第9話「迷子の迷子の子猫ちゃん」
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今朝は、いつもより少し早く目が覚めた。
ベッドで寝たから、グッスリ眠れたのかもしれない。
リルの尻尾を枕に二度寝をしたいところだが……。
ところだが……。
ああ……、明日は絶対に二度寝するからね……。
「クルルゥ……(誘惑に抗う俺カコイイ……)」
後ろ髪どころか、全身の毛を引かれるほどの誘惑を断ち切る。
なんとか自分をごまかし、リルとミーナの間から抜け出す。
そして二階の窓を開け、外に飛び降りる。
少し街を回ることにした。
昨日来たばかりだから、もっと街のことを知っておかないとね。
いつ、何があるかわからない。
道を知ってるか知らないかが、生死を分かつこともあるかもしれない。
そんなわけで、俺は街中を歩いていた。
特に路地裏を中心に。
そんな時だ。
「ニ゛ャー! ニ゛ャー!(そこのア・ナ・タ! 待ちなさい!)」
後ろから声というか、鳴き声がかかる。
その鳴き声から、言葉の意味を感じる。
こんなことは初めてだ。
とっさに振り向いてみると、そこには大柄な猫がいた。
言葉の意味が伝わるのは、魔物でもワイルドキャットだから?
猫だから?
その猫を見て、理由は分からないが、なにやら悪寒が走った。
ゾワッと体中の毛が逆立った。
後ろには何匹かの猫を従えている。
猫たちを見回したところ、毛の長さや色が違う。
人の髪色が違ったりするようなものかな。
しかし、なんというべきか。
中心にいる猫、体長は俺の方が大きいのに、体重は俺より重いのが一目で分かる。
その大きな体をクネクネさせていて、なんだか気持ち悪い感じだ。
メス猫? いや……、オス猫だよな?
「…………」
言葉を失うとはまさにこのこと。
ポカーンとしてしまった。
「ニ゛ャーン(あ~らやだ~、見とれちゃって。素敵なオスね!)」
ポカーンとしていたら、酷い勘違いをされた。
後ろの猫が声?を出す。
「ニャー!(ボス! この辺りで見かけない奴です。俺がしめてやりましょうか)」
「ニ゛ャー(やめなさい! あなた達が敵う相手じゃないわ)」
いろいろと混乱してきた。
状態異常におちいりそうだ……。
「……クルニャン(……はじめまして。そして、さようなら)」
俺はきびすを返す。
理解できないものからは逃げるにかぎる。
リルがうしろにいたら、逃げたりしないけどね。
良かった……、俺だけの時で……。
「ニ゛ャン!(あ゛~、待ちなさいよ~!)」
野太い鳴き声を背中に受けながら、俺は路地を全力疾走した。
雰囲気はただものでは無かったけど、無事に振り切ることに成功した。
おそろしかった……、キャサリンめ……。
名前とか知らないけど、あいつはキャサリンだ。
勝手につけた名前に妙に納得をしていると、目の端に泣きべそをかきながらトボトボ歩いている小さな女の子を見つけた。
俺は女の子の前で急ブレーキをかける。
「グスッ……ママ……。わっ!? ねこしゃん!」
急に目の前に現れて驚かせてしまったようだ。
ゴメンよ。
この子はあれだな、迷子ってやつだとすぐにピンときた。
三歳くらいだろうか。
心細かったのだろう、目元が真っ赤になっている。
「クルニャン(大丈夫だよ。ママを見つけてあげるよ)」
大丈夫だよの気持ちを込めて、尻尾で頬をなでる。
「にゃはっ。ねこしゃん、くすぐったいよぉ」
女の子が笑顔になる。
やっぱり女の子は、泣き顔より笑顔の方がいいね。
さて、どうしようかな……。
探すにしても、ここに長く置いていくわけにもいかない。
母親も今ごろ心配しているだろう。
「クルニャ?(三十秒だけ一人で待っていられる?)」
女の子の不安をやわらげるために、服の端をチョイチョイと引っ張ったり、周りをクルクル駆け回ってみる。
「ねこしゃん、おもしろいんだ~」
キャッキャッと笑ってくれる。
迷子になっているということから、気をそらせたかな?
そこで、俺は一気にジャンプ。
一番近い家の屋根に駆け上がる。
今のうちに屋根の上から母親を見つける。
子供の足だし、そんなに離れてはいないはずだ。
三十秒と思ったけど、女の子が不安になる前にできるだけ早く見つけたい。
「クルニャン!(いくぞ~!)」
屋根の上を全力疾走する。
屋根から屋根へ飛び移りながら、母親らしき女性を探す。
まだ朝の早い時間だけど、通りには多くの人が行き交っている。
子供を探している風な女性は……。
と、その時、必死になにやら訴えている若い女性が目に入る。
通りにある屋台の店主に、必死に何かを聞いている様子だ。
ちょっと離れてるけど、聞き取れるかな?
猫イヤーで聞き耳を立てる。
「これくらいの背の女の子を見ませんでしたか? 私の娘なんです……」
はい、見つけた~!
母親がその場所を離れないうちに、女の子を連れていかないとだ。
すぐさま、俺は女の子のところに戻る。
「わっ!? ねこしゃんが、きえたら、またでたの」
女の子が少し不安そうな顔をしている。
俺がいなくなったと思ったかな。
「クルニャン!(ごめんね。もう大丈夫だよ!)」
首根っこをくわえて連れていくわけにもいかない。
俺は肩車の要領で、女の子の足の間から頭を通し、背中に乗せる。
尻尾をピンと立たせて、背もたれにしてあげる。
モフモフな背もたれだぞ~。
「うわぁ~、ねこしゃんフワフワ~」
嬉しそうにしてくれてなによりだ。
女の子が落ちないようにバランスを取る。
少し難しかったけど、尻尾を使いながらなんとかバランスが取れた。
俺はそのままテクテクと通りの方に歩いていく。
通りに出たら、なぜか人々の視線が集まった。
いやまあ……、猫に女の子がまたがってる光景はシュールだよね。
気にせずテクテクと母親がいた屋台のほうに向かう。
まだ、移動しないでいてくれよ。
通りを進んでいたところで、さっきの母親らしき女性を見つけた。
ちょうど向こうもこっちを見たところで、目が合った。
背中の上の女の子を見ただけかもしれないけど。
「あ~、ママだ~!」
上機嫌な女の子が、母親を見つけてさらに嬉しそうだ。
乗り心地が良かったなら、俺も嬉しいよ。
ポカーンとしている母親の前まで連れていき、女の子を地面におろす。
「し、シェリー!」
「ママ……」
母親が女の子を抱きしめる。
「ルニャン(良かったね)」
さて、俺は行こうかな。
「ママ、あのね、ねこしゃんがのせてくれたの~」
女の子、シェリーが母親につげる。
「そ、そうなのね。あ、ありがとうございます!」
一瞬、猫がどうやって?っていう表情だったけど、背に乗せているところを実際に見ていたからか、お礼を言われた。
そして……、周囲もなぜか盛り上がる。
「すげ~な、ニャンコ! 女の子を連れてきたのかよ!」
「背に乗せてたぞ! 一瞬、童話の世界に来たかと思ったぜ」
「パパー、あたしも猫に乗ってみたい!」
すぐ退散しようと思ったのだが、大勢に囲まれて離れづらい。
まあ、ジャンプで飛び越していくこともできるんだけどさ……。
「よーし、ニャンコ。これ持っていけ!」
屋台のおっちゃんが野菜を入れた袋を首にかけてきた。
「こっちもだ! うちの果物はあめーぞ」
果物が入った袋が追加された。
「猫って言ったら魚だよ。ほら、これも持っていきな」
魚屋のおばちゃんに、魚が入った箱をくくりつけられる。
その後も、続々と声がかかる。
温かい人が多くて良い街じゃないか……。
そんな感じで数々の戦利品を体に巻き付けて、俺はミーナの家に戻ったのだった――。
ミーナの家に帰ってきた。
荷物が多かったから、二階に飛び上がらず、ドアをノックする。
肉球ノックだ!
いや……、これといって何か意味があるわけではない。
「は~い」
もう起きていたようで、ミーナが顔を出す。
そして、固まる……。
荷物を満載した猫、俺だって固まる自信がある。
「シュン?」
そうだよ、シュンだよ。
「クルニャー!(ただいまー!)」
ポカーンとしているミーナ。
その後ろからリルも顔を出す。
「シュン、おはよ~! すごいね! 何それ?」
リルはあまり驚かないようで、俺を見て笑っている。
しばらくお世話になるミーナに、野菜やら果物やらの食材を物納することに成功したのだった。
ベッドで寝たから、グッスリ眠れたのかもしれない。
リルの尻尾を枕に二度寝をしたいところだが……。
ところだが……。
ああ……、明日は絶対に二度寝するからね……。
「クルルゥ……(誘惑に抗う俺カコイイ……)」
後ろ髪どころか、全身の毛を引かれるほどの誘惑を断ち切る。
なんとか自分をごまかし、リルとミーナの間から抜け出す。
そして二階の窓を開け、外に飛び降りる。
少し街を回ることにした。
昨日来たばかりだから、もっと街のことを知っておかないとね。
いつ、何があるかわからない。
道を知ってるか知らないかが、生死を分かつこともあるかもしれない。
そんなわけで、俺は街中を歩いていた。
特に路地裏を中心に。
そんな時だ。
「ニ゛ャー! ニ゛ャー!(そこのア・ナ・タ! 待ちなさい!)」
後ろから声というか、鳴き声がかかる。
その鳴き声から、言葉の意味を感じる。
こんなことは初めてだ。
とっさに振り向いてみると、そこには大柄な猫がいた。
言葉の意味が伝わるのは、魔物でもワイルドキャットだから?
猫だから?
その猫を見て、理由は分からないが、なにやら悪寒が走った。
ゾワッと体中の毛が逆立った。
後ろには何匹かの猫を従えている。
猫たちを見回したところ、毛の長さや色が違う。
人の髪色が違ったりするようなものかな。
しかし、なんというべきか。
中心にいる猫、体長は俺の方が大きいのに、体重は俺より重いのが一目で分かる。
その大きな体をクネクネさせていて、なんだか気持ち悪い感じだ。
メス猫? いや……、オス猫だよな?
「…………」
言葉を失うとはまさにこのこと。
ポカーンとしてしまった。
「ニ゛ャーン(あ~らやだ~、見とれちゃって。素敵なオスね!)」
ポカーンとしていたら、酷い勘違いをされた。
後ろの猫が声?を出す。
「ニャー!(ボス! この辺りで見かけない奴です。俺がしめてやりましょうか)」
「ニ゛ャー(やめなさい! あなた達が敵う相手じゃないわ)」
いろいろと混乱してきた。
状態異常におちいりそうだ……。
「……クルニャン(……はじめまして。そして、さようなら)」
俺はきびすを返す。
理解できないものからは逃げるにかぎる。
リルがうしろにいたら、逃げたりしないけどね。
良かった……、俺だけの時で……。
「ニ゛ャン!(あ゛~、待ちなさいよ~!)」
野太い鳴き声を背中に受けながら、俺は路地を全力疾走した。
雰囲気はただものでは無かったけど、無事に振り切ることに成功した。
おそろしかった……、キャサリンめ……。
名前とか知らないけど、あいつはキャサリンだ。
勝手につけた名前に妙に納得をしていると、目の端に泣きべそをかきながらトボトボ歩いている小さな女の子を見つけた。
俺は女の子の前で急ブレーキをかける。
「グスッ……ママ……。わっ!? ねこしゃん!」
急に目の前に現れて驚かせてしまったようだ。
ゴメンよ。
この子はあれだな、迷子ってやつだとすぐにピンときた。
三歳くらいだろうか。
心細かったのだろう、目元が真っ赤になっている。
「クルニャン(大丈夫だよ。ママを見つけてあげるよ)」
大丈夫だよの気持ちを込めて、尻尾で頬をなでる。
「にゃはっ。ねこしゃん、くすぐったいよぉ」
女の子が笑顔になる。
やっぱり女の子は、泣き顔より笑顔の方がいいね。
さて、どうしようかな……。
探すにしても、ここに長く置いていくわけにもいかない。
母親も今ごろ心配しているだろう。
「クルニャ?(三十秒だけ一人で待っていられる?)」
女の子の不安をやわらげるために、服の端をチョイチョイと引っ張ったり、周りをクルクル駆け回ってみる。
「ねこしゃん、おもしろいんだ~」
キャッキャッと笑ってくれる。
迷子になっているということから、気をそらせたかな?
そこで、俺は一気にジャンプ。
一番近い家の屋根に駆け上がる。
今のうちに屋根の上から母親を見つける。
子供の足だし、そんなに離れてはいないはずだ。
三十秒と思ったけど、女の子が不安になる前にできるだけ早く見つけたい。
「クルニャン!(いくぞ~!)」
屋根の上を全力疾走する。
屋根から屋根へ飛び移りながら、母親らしき女性を探す。
まだ朝の早い時間だけど、通りには多くの人が行き交っている。
子供を探している風な女性は……。
と、その時、必死になにやら訴えている若い女性が目に入る。
通りにある屋台の店主に、必死に何かを聞いている様子だ。
ちょっと離れてるけど、聞き取れるかな?
猫イヤーで聞き耳を立てる。
「これくらいの背の女の子を見ませんでしたか? 私の娘なんです……」
はい、見つけた~!
母親がその場所を離れないうちに、女の子を連れていかないとだ。
すぐさま、俺は女の子のところに戻る。
「わっ!? ねこしゃんが、きえたら、またでたの」
女の子が少し不安そうな顔をしている。
俺がいなくなったと思ったかな。
「クルニャン!(ごめんね。もう大丈夫だよ!)」
首根っこをくわえて連れていくわけにもいかない。
俺は肩車の要領で、女の子の足の間から頭を通し、背中に乗せる。
尻尾をピンと立たせて、背もたれにしてあげる。
モフモフな背もたれだぞ~。
「うわぁ~、ねこしゃんフワフワ~」
嬉しそうにしてくれてなによりだ。
女の子が落ちないようにバランスを取る。
少し難しかったけど、尻尾を使いながらなんとかバランスが取れた。
俺はそのままテクテクと通りの方に歩いていく。
通りに出たら、なぜか人々の視線が集まった。
いやまあ……、猫に女の子がまたがってる光景はシュールだよね。
気にせずテクテクと母親がいた屋台のほうに向かう。
まだ、移動しないでいてくれよ。
通りを進んでいたところで、さっきの母親らしき女性を見つけた。
ちょうど向こうもこっちを見たところで、目が合った。
背中の上の女の子を見ただけかもしれないけど。
「あ~、ママだ~!」
上機嫌な女の子が、母親を見つけてさらに嬉しそうだ。
乗り心地が良かったなら、俺も嬉しいよ。
ポカーンとしている母親の前まで連れていき、女の子を地面におろす。
「し、シェリー!」
「ママ……」
母親が女の子を抱きしめる。
「ルニャン(良かったね)」
さて、俺は行こうかな。
「ママ、あのね、ねこしゃんがのせてくれたの~」
女の子、シェリーが母親につげる。
「そ、そうなのね。あ、ありがとうございます!」
一瞬、猫がどうやって?っていう表情だったけど、背に乗せているところを実際に見ていたからか、お礼を言われた。
そして……、周囲もなぜか盛り上がる。
「すげ~な、ニャンコ! 女の子を連れてきたのかよ!」
「背に乗せてたぞ! 一瞬、童話の世界に来たかと思ったぜ」
「パパー、あたしも猫に乗ってみたい!」
すぐ退散しようと思ったのだが、大勢に囲まれて離れづらい。
まあ、ジャンプで飛び越していくこともできるんだけどさ……。
「よーし、ニャンコ。これ持っていけ!」
屋台のおっちゃんが野菜を入れた袋を首にかけてきた。
「こっちもだ! うちの果物はあめーぞ」
果物が入った袋が追加された。
「猫って言ったら魚だよ。ほら、これも持っていきな」
魚屋のおばちゃんに、魚が入った箱をくくりつけられる。
その後も、続々と声がかかる。
温かい人が多くて良い街じゃないか……。
そんな感じで数々の戦利品を体に巻き付けて、俺はミーナの家に戻ったのだった――。
ミーナの家に帰ってきた。
荷物が多かったから、二階に飛び上がらず、ドアをノックする。
肉球ノックだ!
いや……、これといって何か意味があるわけではない。
「は~い」
もう起きていたようで、ミーナが顔を出す。
そして、固まる……。
荷物を満載した猫、俺だって固まる自信がある。
「シュン?」
そうだよ、シュンだよ。
「クルニャー!(ただいまー!)」
ポカーンとしているミーナ。
その後ろからリルも顔を出す。
「シュン、おはよ~! すごいね! 何それ?」
リルはあまり驚かないようで、俺を見て笑っている。
しばらくお世話になるミーナに、野菜やら果物やらの食材を物納することに成功したのだった。
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