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三界巡行編
終章
しおりを挟む複製されたフィギュアと特別製の一体を収めた鞄を受け取る。
「ありがとね。もし必要な物があったら言って? 今度持って来るよ」
「そうですね、とりあえず魔導技術研究所が動き出してから、足りない物が出た時はよろしく」
悠介は自分達の技術だけでは用意できず、地球製品で代用が効く物があればその時に頼みたいと、フィギュア複製の報酬に対する要望を挙げたので、朔耶はそれを了承した。
この後アルシアの所にも寄る予定の朔耶は、ポルヴァーティアの食糧事情について悠介と二、三話し合って帰還の途につく。
「それじゃあ、またね」
「はいよ、おつかれさんでした」
地球世界の自宅庭に帰還した朔耶は、縁側で待っていた兄にフィギュア入りの鞄を返した。ひゃっほい言いながら受け取った兄は、さっそく中を確かめている。
「うむ、寸分違わぬ完璧な出来だ」
「なんか動く方はかなり気合入れて作ってたわよ?」
前回よりは正気を保っている兄を尻目に、朔耶は再び庭の転移陣から狭間世界へと転移する。今度はアルシアのいるポルヴァーティア大陸の方だ。
ポルヴァーティア大陸のほぼ中央、ポルヴァーティア人自治区の一画にある『暁の風』の本部に出た朔耶は、アルシアの姿を探して辺りを見渡す。
彼女を転移目標にしているので、大体直ぐ近くにいる。
「あ、いたいた。アルシアちゃーん」
「ああ、サクヤ」
アルシアはまたぞろ山積みになった箱を抱えて運んでいた。周囲も少しバタバタしており、気になった朔耶が訊ねてみると、現在引っ越しの準備中なのだという。
「お引っ越し? 随分急だね」
「以前からこの拠点は少し手狭になっていてな」
『暁の風』はこのところ所属する構成員も随分と増えており、栄耀同盟の件が片付いたのを機に、新しい拠点としてもっと大きな建物に本拠地を移す事になったらしい。
アルシアの『勇者食堂』はそのまま、住居としてここに残す。有力組織同士の結束も固まり、情勢も安定して来た今、そろそろアルシアの『組織の後ろ盾』としてのアピールも抑えていくそうだ。
組織の拡大と運営が軌道に乗ったので、用心棒兼看板役はお役御免といったところである。
「なにそれ、用済みって事?」
「ははは、そこまで悪し様なものではないさ」
多少の軋轢は抱えながらも、一つの組織・社会として何百年と続いて来た執聖機関の支配する体制が、邪神ユースケによって文字通り一夜で解体されたあの日。
ポルヴァーティアに吸収され、労働力として奴隷のように使われていた元他大陸民族や、ポルヴァーティア人同士の勢力争いで、いつ終わりの見えない内戦に踏み出すかもしれなかった。
そんな状況から僅かな期間で、大神官の率いる『真聖光徒機関』と『暁の風』を始めとする有力組織連合という、二大勢力が拮抗して牽制し合う、安定した情勢を迎える事が出来た。
「後ろ盾に私の名が必要だったのは、大神官に対抗する意思の在る者を、組織として出来る限り早く纏める必要があったからだ」
複数の組織が十分に纏まっている今、アルシアのような存在が一つの組織に留まり続ける事は、その突出した力が組織間の結束を乱す要因にもなり兼ねない。
なので今後は『暁の風』だけでなく、有力組織連合の後ろ盾として共有される事になるのだとか。
「アルシアちゃんはそれでいいの?」
「待遇には特に不満はないな」
所属が『暁の風』という一組織から有力組織連合に変わるだけで、活動の中身はこれまでとそう変わりない。
むしろ、大きな問題が一つ片付いた現状では、今までよりも料理に費やす時間を多く取れる。
「ふーむ、それならまあ……悪くはない、のかな?」
「うむ。私の役割は今後も抑止力として期待されると、カナンさんも言っていたな」
アルシアが納得しているなら、組織の部外者である自分があまり口を挟むのもよろしくない。朔耶はそれ以上の詮索を止めて今後の予定について話す。
「この前も言った通り、こっちに来るのは数日おきくらいになるけど、何か必要な物があれば言ってね?」
「ああ、またその時は頼む」
これからもよろしくねと、互いに握手して別れる。
アルシアとの親睦を深めて自宅庭に還って来た朔耶は、一つ息を吐いて伸びをしながら、陽の傾いて来た空を見上げる。
秋頃から始まった謎の双星騒ぎに纏わる一連の出来事。狭間世界絡みの問題も、これで本当に一段落した。
オルドリア大陸の情勢も、二大強国であるフレグンス王国とグラントゥルモス帝国の関係がかつてないほど良好。
新たに四大国入りした且つての未開地、アーサリムの部族連合国も、交易などを通じて順調に発展を続けている。
現在量産化している通信具の『魔術式投影装置』がそれぞれの国を繋ぐようになれば、今以上に安定した体制を築ける筈だ。
利便性が増した弊害として新たな問題もまた発生するであろうが、大きく世が乱れる様な要素は今のところ見つからない。
『よし、それじゃあ明日からは南の大陸を調べに行こう』
ムリハ セヌヨウニナ
三つの世界を飛びまわり、世界の平穏に貢献して問題の解決に奔走する。自己の充実。朔耶の活躍は留まる事を知らない。
次なる目標に翼を向ける朔耶は、しばしの休息に羽を休めるべく縁側から居間へと帰宅した。
「たっだいま~。ごっはんごはん~」
非日常的な今を生きる朔耶の賑やかな日常は、今日もこうして続いて行くのだった。
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