遅れた救世主【勇者版】

ヘロー天気

文字の大きさ
100 / 148
しょうかんの章

第九十九話:魔王ヴァイルガリン

しおりを挟む




 派手な急襲があったにも関わらず、戦いの喧噪も無く静まり返っているソーマ城。
 生き残り兵達から、ヴァイルガリンが作り出した禁忌『異形化兵』の秘密を聞いた慈達は、問題の玉座の間に向かっていた。

 事前に勇者の刃を城内全域に向けてばら撒いておいたので、害意や敵対意思を持つ存在は危険な罠も含めてほぼ殲滅されている。

 流石に奥へと続く廊下はヴァラヌスの巨体では進めなかった為、御者とマーロフに兵士隊と傭兵隊の護衛を付けてエントランスに待機させて来た。
 族長組からも手練れを数人付けてもらっている。

 勇者部隊で慈に同行しているのは、六神官とパークスにシスティーナ。それに隠密中のレミ。先導するのはカラセオス達族長組とその配下の精鋭達だ。
 全員を纏めて『ヴァイルガリン討伐隊』とする事で、勇者の刃で味方を護る際、咄嗟に殲滅対象から外し易くした。


「あれが玉座の間だ」
「扉は……閉じてるけどちょっと開いてるな」

 カラセオス達を先頭に廊下をぞろぞろと進んで来た一行は現在、玉座の間を正面に睨みつつ、その手前にある控えの間に陣取って突入後の動きを軽く打ち合わせをしている。

 玉座の間には大量の異形化兵が詰めていると聞いていたが、恐らくそれらも勇者の刃で殲滅出来ている筈。
 しかし、そこ、、には勇者の刃を阻む何かが存在していると、慈は放った勇者の刃の手応えを通して感じていた。

 前衛にカラセオスを含む族長組が並び、一つ後ろに勇者慈。その後ろに六神官と彼女達を護るパークスにシスティーナ。左右と後方を魔族の精鋭達が固める陣形で玉座の間に挑む。

「では行くぞ」
「じゃあまずは開幕の一発」

 カラセオスの合図で玉座の間に踏み込む討伐隊一行。扉を蹴破る直前に、慈が光壁型勇者の刃を放つ。
 先程、この控えの間に到着してからも、慈は玉座の間に向かって勇者の刃を放っていた。

 ここに来て更に追加で放つのは「流石に念入り過ぎるだろう」と、族長組は若干呆れていた――が、慈の判断は正しかった。

 光壁型勇者の刃を追うようにして、扉が開かれると同時に玉座の間に飛び込んだ一行の目前で、大量の攻撃魔法と思しき禍々しい姿形をした黒っぽい魔力の塊が、次々に蒸発していく。

「っ……! あれは、まさか過縮爆裂魔弾か!」
「ばかなっ! 室内だぞ!?」
「正気とは思えん……」

「なんだそれ?」

 とんでもない危険行為だと騒めく族長組に、今チラッと見えたのはそんなにヤバいモノなのかと慈が問う。

「今のは恐らく、範囲殲滅魔法と呼ばれる最上位の攻撃魔法だ」

 カラセオスが『過縮爆裂魔弾』について軽く解説してくれる。
 魔族の魔術士の中でも、飛び抜けて多い魔力量と極めて高い制御力を有する一部の者にのみ扱えると謂われる。

 何重にも圧縮した魔力の塊を複数束ねて目標に投げ込み、炸裂させるという多重爆発系の特殊な攻撃魔法。
 投射後、束ねた魔力の塊の一部を解放する事で推進力を得て、通常の攻撃魔法の射程を大きく超えた超遠距離から、広範囲の攻撃が可能な特徴を持つ。

 魔力の塊の維持。魔力の塊を束ねた状態の維持。推進用の魔力の塊の解放量と、指向制御を同時に行わなければならない。
 通常は熟練した魔術士が複数人で協力して行使する、非常に扱いの難しい魔法だという。


「ほう……コレを凌ぐカ……」

 玉座の間の奥から響いた声に、皆がそちらを注目する。
 長方形をしたかなり広い部屋の奥には三段ほど高くなった壇上に玉座がある。そこに座っている魔族の男性がヴァイルガリン当人のようだ。

 勇者の刃が何度も殺到したであろう筈にも関わらず生存している事から、カラセオスが危惧した通り、何かしら勇者の刃への対抗策を得ているのは間違いない。

 現に、今し方突入と同時に放たれ、『過縮爆裂魔弾』なる攻撃魔法を消し飛ばした光壁型勇者の刃を、正面から浴びた玉座のヴァイルガリンに負傷の跡は見られなかった。
 そればかりか、ヴァイルガリンの周囲を護るように佇む複数体の異形化兵も健在だ。

 玉座を中心に周辺と異形化兵を包むドーム状の膜のようなモノが薄らと見える。そして、玉座の少し上辺りの空中に、斜めに走った亀裂のような黒い何かが浮かんでいた。
 見た目からして魔法障壁の類だと思われるそれが、勇者の刃を防いだのだろう。


「どレ……もう一当て――」

 ヴァイルガリンがスッと腕を上げて合図すると、異形化兵が複数の腕を掲げて魔力の塊を精製し始めた。

 ここに揃っている異形化兵は、『地区』を襲撃した近接型とは少し違う。
 魔術士型の異形化兵で、魔法の扱いに特化させてあるようだ。本来なら複数人で行使する範囲殲滅魔法の制御を、一体で行える。
 それが今現在、確認できるだけでも十数体。

 馬鹿げた戦力だと呻く族長達。あんな危険な術を城内で使えば、城が崩壊してもおかしくない。にも拘わらず室内ここで使ったのは、自滅しない確信があったからなのだろう。

 勇者の刃さえ防ぐ強力な防御手段と、全てを吹き飛ばす範囲殲滅魔法を容易く連発できる手札を得たヴァイルガリンは、もはや勝利を確信したかのような笑みを浮かべていた。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...