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おわりの章
第七十六話:クレアデス解放軍の受難
しおりを挟む数百人規模の難民を受け入れて一気に賑やかさが増したパルマムの街。
クレアデス解放軍との合流まで、しばらく滞在する事になった勇者部隊。慈達はゆっくり休息を取る傍ら、ラダナサ達と捕虜の使用人達の扱いについて、パルマムの街長と取り決めを行うなど、割と忙しなく動き回っていた。
そうして勇者部隊の一時帰還から二日後、クレアデス解放軍がパルマムの街に到着した。
「意外と早かったな」
「そうですね。『縁合』の方が言っていたように、進軍速度が改善されたのでしょう」
離宮のリビングルームで解放軍到着の報を受けた慈の感想に、アンリウネが頷いて同意する。直ぐにロイエン達と会う事になるだろうからと、シャロルが他の六神官達を呼びに部屋を出た。
現在リビングには、慈とアンリウネの他にリーノとシスティーナ参謀にパークス傭兵隊長も居る。隠密中のレミは先程のシャロルの後に続いて部屋を抜け出した。
ロイエン達の様子を見に行ったようだ。
別室で休んでいたセネファス、レゾルテ、フレイアを連れたシャロルが戻って来た。そのまま皆で揃って待機していると、ロイエン達が離宮に案内されて来たとの報告が届いた。
「皆さん、ご無事で何よりです。今回は急な要請に応じて頂き、感謝致します」
「いや、そっちの事情も理解できるから大丈夫だよ。国を代表するってのも大変だな」
少々お疲れ気味な様子が覗えるロイエンの挨拶と謝意に、慈は労いをもって答えた。しかし、ロイエンは自嘲するように首を振る。
「いえ……実は今回の要請は、勇者様達が思っているような事情とは少し異なります」
お恥ずかしい限りですがと前置きして語るロイエンによると、どうも解放軍の兵士達から勇者部隊に対して不満が上がっていたらしい。
「俺達に?」
「はい……それで調査してみましたところ、一部の者による扇動があったようでして」
クレッセンの街で娼婦達からの密告があり、その概要が明らかになったという。シャロル達の根回しが早速仕事をしたようだ。
元凶は以前、クレアデス解放軍の結成式とお披露目の祝賀パーティーの席で、システィーナに嫉みの類で絡んでいた小隊長達。
元近衛隊の従者を標榜する彼等が『本来なら栄光ある自分達クレアデス解放軍が得るべき手柄を、勇者とその取り巻きが独り占めしている』。
『同性の強みで王女殿下に取り入ったシスティーナ団長が勇者を籠絡し、クレアデス復興後の地盤を固めようとしている』等という噂を解放軍内に広めていた事が発覚した。
それが今回、解放軍から勇者部隊に進軍の歩調を合わせて欲しいとの要請に繋がったようだ。
慈が早々に先行する事を決めたのは、行軍中に彼等の悪態を耳にしたので、物理的に距離を取る事で余計なトラブルを回避する狙いもあったのだが――
「はっはっ! 解放軍内で問題を起こした挙句、しっかりこっちを巻き込んで来やがったな!」
「なんて身勝手な」
「これは……無礼にも程がありますね」
パークスが呆れたように笑い飛ばし、話を聞いて唖然としていた六神官達が憤る。システィーナも流石に擁護出来ないと、深刻な表情を浮かべている。
「グラドフ将軍は、そいつらを抑えられなかったのかい?」
勇者部隊メンバーの怒りに中てられて小さくなっているロイエンの隣で、同じように畏まっているグラドフ将軍に、セネファスが問う。
ロイエンはクレアデス解放軍の総指揮だが、実際に指揮を執っているのは副官のグラドフ将軍だ。
「すまぬな。例の魔族派絡みの一件で軍閥貴族一派の影響は抑えられていたのだが、それで対立派閥の者達が勢い付いていてな」
実は再編したクレアデス解放軍は、人員の半数以上が軍閥貴族の派閥と対立する派閥に属する者達で構成されているらしく、一応軍閥組になるグラドフ将軍も軽視され気味だったという。
「姫様の主導で再編した兵士達だった故に、あまり強く咎める事をしなかったのだが、それで増長を招いてしまったようだ」
申し訳ないと頭を下げるグラドフ将軍とロイエン。
彼等にとって災難だったのは、本来二人を補佐するべき側近の役割を与えられていた者達が、件の小隊長の主張に一部同調してしまった為に、正確な報告が届いていなかった事だ。
側近達が同調したのは『勇者達の手柄の独占』という部分であり、勇者部隊に独断専行させず、共に協力し合って祖国クレアデスを取り戻すべきという考えの下、報告内容に虚偽を交えた。
兵士達から上がっている不満内容の一部を伏せて報告を伝えていたのだ。その結果、デマを取り締まる処置や効果的な指示を出せず、兵士達は『噂の内容は真実である』と誤認した。
異変に気付いた時には『祖国を取り戻す戦いを上流貴族達の政争で捻じ曲げられている』と憤った兵士達が、ロイエンやグラドフ将軍を糾弾しようとする騒ぎを起こした。
状況が飲み込めないロイエン達は後手に回り、事態は悪化。
あわや解放軍の崩壊かというところで、クレッセンの娼婦達による密告と側近達への尋問で騒動の全容が明らかになり、処罰すべき元凶を暴き出せた。
どうにか収拾を図る事は出来たが、兵士達は『勇者部隊の先行による手柄独占の可能性』には不満が残るらしく、王都アガーシャの奪還までは共闘したいとの陳情が寄せられた。
ロイエン達が勇者部隊の先行理由の一つにクレアデス解放軍の足の遅さがあった旨を説明したところ、兵士達が奮起。
皮肉な事に、この一連の騒動が切っ掛けで進軍速度が改善されたという。
「それは……軍部隊としてはどうなのかとは思うけど、大変だったねぇ」
思わず労ってしまうセネファスに、他の六神官も同意する。憤りは残るものの、四面楚歌状態だった二人に同情的な気持ちも湧いたようだ。
そして慈はと言えば、淡々とした様子で「そうか」と呟き、何事か考えてアンリウネ達に問うた。
「広範囲に声を響かせる魔法とかある?」
「一応、大規模な演説や緊急時の警報などに使われるものがあります」
日常で使う場面は殆どないが、直ぐに使用可能で特にリスクも無いという説明を聞いた慈は、『OKOK』と頷きながら言った。
「じゃあ、手柄が欲しい連中に活躍の場を与えてやろうかな」
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