バッドエンド・ブレイカー

ヘロー天気

文字の大きさ
上 下
11 / 22
廃線の町編

第二話

しおりを挟む



「おはようございます」

 翌朝の九時。身だしなみを整えたケイは食堂にやって来る。朝食はお座敷の低くて大きくて長い食卓に用意されていたので、食堂ここで食べていく事にした。

(朝から素朴な和食。よきかな――)

 普段が洋風の生活スタイルな為か、この広い宴会場のような食堂の立派な食卓で一人いただく家庭の味は、何となく贅沢な気分になれる。


 朝食を堪能したケイは、食堂のカウンターの向こうにある家人用リビングで食事を済ませて出て来た美奈子と鉢合わせると、食後のまったりした時間を過ごしながら少しお喋りをした。

「はい、お茶」
「あ、ども」

「羊羹もどうぞ」
「いただきます」

 お盆に急須と湯飲みとオヤツも乗せてやって来た美奈子は、ケイの隣に横座りすると、備え付けのポットからお湯を注ぐ。
 二人でお茶を啜りつつ雑談に興じる。

 話題はやはり廃線イベントで増えた観光客の多さや、一部の問題行動を起こす人達について。昨日の不法侵入集団以外にも、場所取りで喧嘩をしているグループが居て怖いとの事。

「そう言えば昨日、商店街で雑誌の記者って人にインタビューされたわ」
「へ~、やっぱりそういう人達も来てるんだ」

 美奈子の話によると、声を掛けて来たのが子供連れの若い女の人だったのでびっくりしたという。

「ん? それって――」

 ケイが覚えのあるその人物像を思い浮かべていると、外から怒鳴り声が聞こえて来た。思わず顔を見合わせたケイと美奈子は、様子を見に席を立つ。


 玄関から民宿前の通りに出てみれば、少し離れた場所に人だかりができていた。
 線路に近い電柱と金網の柵近くで、二つの撮り鉄グループが怒鳴り合いの喧嘩をしているらしい。青年団のおっちゃん達が仲裁に入っている。

 美奈子が青年団のおっちゃんに、ケイは野次馬の近所のおばちゃん達に話を聞いてみたところ、片方のグループの一人がベストポジションに設置しておいたカメラを盗まれたとか。

「あれって昨日の人達よね?」
「そうみたいだね」

 カメラを盗まれたと訴えているのは、民宿・万常次の庭先に不法侵入してケイに引き摺り出された集団のリーダー格の青年だ。
 そして盗んだ疑いを掛けられて口論しているのは、昨日彼等を遠巻きに見ながら一番近い場所で撮影していたグループ。

 荷物を見せろとか弁護士の用意をしとけなどの怒声が飛び交っている。青年団のおっちゃん達が間に入った事で暴力沙汰にまでは至っていない。

 そこへ、通報を受けた駐在さんがやって来て双方の話を聞く。

「う~~ん、それは難しいねぇ」

 盗まれたと騒いでいる青年は被害届を出すと言ってるが、そもそも無許可で設置したのなら違法になる。かなりグレー判定で譲歩しても、落とし物扱いになると説明されてごねている。

 とにかく消えたカメラを探したい青年は、疑いを向けたグループに荷物検査をさせろと主張するも、そんな強制はできないと駐在さんや青年団の皆さんに宥められている。

 やがて喚き疲れたのか、件の青年の勢いが落ち着いて来たところで、そのカメラはどこに置いていたのか、誰か動かした人がいないか等の目撃者探しに移った。


 そんなやり取りを横目に、ケイと美奈子は食堂に戻る。朝食後のまったりした時間が台無しだと呻きつつ、先ほどの騒ぎについて語らう。

「普段は静かな町なんだろうに、外から来た人達が騒ぐと自分も申し訳ない気分になるな」
「あはは、曽野見さんはいい人ですよ」


 その時、来客を報せる声が響いた。

「すみませーん、何方どなたかいらっしゃいますかー」

 若い女性の声に、美奈子は食べ掛けの羊羹を口に押し込んで立ち上がると、玄関の方へ駆けていく。

「はーい――あれ、雑誌の記者さん」
「フリーのジャーナリストです。あ、昨日はインタビューに答えて頂いてありがとうございました」

 美奈子と女性の会話に耳を傾けるケイも、廊下に出て玄関の様子を窺う。

(あ、やっぱりあの子連れの人だ。フリージャーナリストだったのか……)

 ポケットの多い厚手のジャケットが特徴的な、首からカメラをぶら下げている眼鏡でショートヘアーの女性と、その傍らに立つ小学生くらいの男の子。荷物はキャリー付きの旅行鞄一つ。


 彼女達が泊まろうとしていた商店街のホテルは、初日から満室で予約も取れない状態。昨日は公園で野宿したらしい。
 今朝も早くから契約しようとホテルに向かったが、断られたという。団体客で高額料金を払う客が多く、そっちに回されたらしい。

 このまま公園で野宿を続ける覚悟もしたが、ここで民宿をやっていると聞いて訪ねて来たそうな。

「それって、誰に聞きました?」
「えーっと誰だったかなぁ。誰かがそんな話をしてたような」

 女性は偶々耳にしたかのように答えるが、ケイの観察眼は彼女が今何かを誤魔化したように感じた。

「雑貨屋のおばちゃんかなぁ。んもう」
「それで、泊めて頂けますか?」

「う~んお子さん連れですし、彩辻さんなら良いかな?」

 廃線関連で観光に来た人をあまり泊めたくなさそうな美奈子だったが、フリージャーナリストの女性――彩辻さんは他の傍若無人な人達と違い、常識人だったという理由で宿泊を認めた。

「あ、取材ついでに民宿・万常次の宣伝も……」
「あはは、記事を纏める時に宿泊トラブルネタでさり気なく上げておきます」

 美奈子は彩辻さんとそんな話をしながら部屋へ案内を始める。先程の、窃盗騒ぎ云々の殺伐とした空気の後では、ほのぼのとした良い雰囲気だ。

 ケイがそんな風に和んでいると、彩辻さんが連れている男の子がぶらりと寄って来た。じっと観察するような視線で見上げてくるので、ケイは少しかがんで目線を合わせる。

「ん? どうしたのかな?」
「ケイって、変わってるね。そんな能力の人、初めて見たよ」

「……え?」

 思わず固まるケイ。

(今のどういう意味だ? そんな能力って……いやそれよりも、俺この子に名乗ったっけ?)

「ボク、コウって言うんだ。みくにもりコウ」
「え? ああ、俺は――曽野見 景……」

「よろしくー」

 それが、不思議な少年、『御国杜みくにもりコウ』との出会いだった。


「それじゃお部屋に案内しますね」
「よろしくお願いします」

 美奈子が二人を客間に案内している間、食堂に戻ったケイは、お茶とオヤツの残りを頂いてから部屋に戻った。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...