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2巻
2-2
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彼は、陣形を崩壊させられた相手チームが各自バラバラに動いているように見せかけつつも、後退するリーダーの動きに合わせた立ち回りをしている事を見抜いた。そしてその作戦を逆手に取るための策を巡らせる。
まず、エルディネイアを味方の援護が届くエリアへと誘導し始めた。
「こっちだ」
「え、ええ? それじゃ向こうのチームと離れてしまいますわよ?」
と文句を言いながらも素直について行くエルディネイア。
最前線から離脱するエルディネイアとドーソンを、相手チームの主力攻撃手が追撃に出るも、なかなかに強力な風の支援魔術に阻まれて距離を詰め切れない。
そうこうしている内に、相手チームのリーダーがエルディネイアチームの各選手の立ち位置を見て、ある事に気付いた。
「まずいっ、前衛は一旦戻れ!」
「さ、反撃の舞台は整ったよ」
ドーソンは、割と優雅な仕草で納刀してみせると、エルディネイアに指揮を促した。
エルディネイアが誘導されたのは、副長エルスレイ、攻撃型魔術士リコーと支援型魔術士ノーマが制圧するエリア。
「全軍、突撃ですわ!」
エルディネイアを追って突出していた相手チームの主力攻撃手は、慌てて後退しようとするも、ルーネルシアの支援魔術でまたも阻まれ、味方と合流する前に討ち取られた。
こうして攻撃の要を失った相手チームは、間もなく陥落したのだった。
「お疲れ様でしたー」
「良い試合でしたわ」
試合を終えた朔耶達は、制服に着替えて一般教室に戻ると、一息つきがてら雑談に興じる。先ほどの修学旅行に関する話から、学院内での生活の事など、お喋りのネタは尽きない。
やがて話題は、最近よく聞かれる噂へと移った。酒場などで実しやかに囁かれているという、魔族組織の残党の噂。
「魔族組織かー……」
朔耶は大学院に入る以前、アーサリム地方の奥地に潜む魔族組織の討伐に参加し、組織の長、魔族ヨールテスとの一騎打ちに及んだ時の事を思い出す。
なお、一般的にこの世界の『魔族』とは、邪業とされる異形化や不死の研究を率先して行い、その身を特異な状態に変化――すなわち『魔族化』させた者達の事である。
(ヨールテスって、バーリッカムの温泉宿に『扇ぎ機』とか残した、大昔の発明家ルッテンだったのかもしれないのよね)
今もなお、オルドリアに名を残す発明家ルッテン――もとい『体内呪文』という老化を抑制する術によって二百年近くも生き続け、オルドリア大陸の暗部に君臨していたヨールテス。
サムズにて動乱を引き起こし、人狩り達に人を攫わせて魔物に変え、その魔物を使って王都を攻めさせた。
最期は、身体を維持していた体内呪文が消し飛んだ事で精神が退行し、無垢な幼子となって、側近のキルトの腕の中で静かに息絶えた。
その魔族組織の残党は、現在も各国に散らばって潜伏していると言われている。
最近になって彼等の噂が囁かれ始めたのは、何か行動を起こす前兆ではないのか。
エルディネイアとチームメンバーは、その噂について朔耶に質問する。
「サクヤは、何かそういった情報は存じませんの?」
「うーん、特に聞いた事は無いなぁ。今度レイスにでも聞いてみるよ」
変な噂が急に世間に流れ出した場合、誰かが裏で動いてる可能性がある。以前、自分がフレグンスの第一王女、レティレスティアとの不仲説を流されたように。
朔耶はそう言って、噂が流れた背景について考える。
「あれも大変でしたわね、色々な意味で」
「王女様とやり合って旧市街地を一つ瓦礫に変えたんだってねー」
エルディネイア達が、当時の事に言及し始める。
レティレスティアとの不仲説は、朔耶とレティレスティアが取り壊し予定の旧市街地において全力の一騎打ちを演じ、その後、王室から両者の和解が発表された事で終息を見た。噂を流布した首謀者達が、二人の闘いの凄まじさを目の当たりにして恐れを為し、分裂したのも大きな要因である。
その旧市街地だが、現在は瓦礫の撤去も終わり、当初の予定通り機械車競技場建設のための整地作業が進められている。実は手っ取り早く古い建物を解体するために、朔耶達のお芝居の舞台として選ばれた事は一部の者以外には内緒である。
「原因は痴話喧嘩って発表だったけど、誰と誰の痴話喧嘩でそうなったんだろう?」
「まあ、その話は色々ややこしいから察して……」
リコーとノーマが興味津々な様子を見せるも、朔耶はあまり突っ込んでくれるなと流したのだった。
その後、城に出向いた朔耶は、宮廷魔術士長レイスに魔族組織の残党について訊ねてみた。
「学院でもその噂を知ってる人が結構いるみたい」
「確かに、各地でそういう噂が囁かれているようですね」
レイスはそういう噂が広まり始める以前から、魔族組織の残党について調査をしていたらしい。百年以上の歴史と、大国にも匹敵する規模を持つ組織だったので、末端構成員が各地に残っていても不思議は無い。
しかし、今のところは彼等が集結して活動するような兆候は見られないとの事だった。
「一応、警戒はしていますが、これまでのところ特に目立った動きはありません」
「それって、もしかして組織の残党って人達に目星が付いてるって事?」
「いいえ、さすがにそこまでは。それと知らずに魔族組織と取り引きしていた商人の動向を探って、大量の食料や資材の急な出荷が無いかなどを調べるんですよ。後は裏取りですね」
「ああ、なるほど」
魔族組織の残党を見つけ出して直接監視する事は難しいが、彼等と交流のありそうな者達の動向を監視する事で、間接的に彼等の動きを推測しようとしているらしい。
「最近の噂について、何かサクヤの勘に引っかかる事でも?」
「ううん、別にそういう感じはしないけど」
「それなら問題無い、という事でしょう」
朔耶の勘もしっかり当てにしているレイスに、肩を竦めてみたりする朔耶なのであった。
城に寄ったついでに、レティレスティアのところにも顔を出していく。公務も一区切り付き、ちょうど休憩に入ったところだったので、二人でお茶を頂きながら雑談に興じる。
話題はやはり、修学旅行について。
「私も、ティルファには何度か招かれた事がありますが――」
訪れる度にどこかしら形が変わっている刺激的な街なので、学院生達にとっても楽しい旅になるでしょうね、と思い出しては微笑むレティレスティア。
「レティはこんな風に、皆で旅行とか行きたいと思った事ないの?」
「うーん、どうでしょう? あまり考えた事はありませんでしたけど……」
やはり育ってきた環境が違うせいか、いまいちピンと来ないらしい。
しかし、以前自分が地球世界にある朔耶の実家に遊びに行った時の事を思うと、今回の修学旅行も学院生達にとってきっと素晴らしい経験になるであろう事は分かるという。
「そっかぁ、実感が伴わなきゃ、そもそも面白いかどうかも分からないよね」
朔耶は、いつかレティレスティアにも〝旅行先で友人と過ごす楽しさ〟というものを教えてあげたいなと思うのだった。
夕暮れに染まるオルドリアの大地。街にランプの明かりが灯り始める頃。
朔耶達の修学旅行先になっているティルファでは、遠方から運搬された貴重な荷物が中央研究塔に運び込まれていた。
中島の船着き場で陣頭指揮を執っている衛士に、ティルファの最高指導者である中央研究塔所長ブラハミルトが声をかける。
「ご苦労。アーサリムからの積み荷はこれで全てか?」
「ハッ、ほとんどが小物ですので、これで全部です」
つい最近まで未開地と称されていた、南東の部族国家アーサリム。現在はオルドリアに君臨する四大国の一つである。
といっても、元々は現地に住む多数の部族の集まりで、先の魔族組織討伐においてフレグンス王国やグラントゥルモス帝国、ティルファの三国と協力関係を結ぶために、急遽纏まって建国を宣言した国である。それだけに、国家と言ってもまだまだ部族集団の域を出ない。
税制度などを含め、国家を運営するにあたっての法すら十分に整備されておらず、商人達は今がチャンスと、売り込みや掘り出し物の発掘に勤しんでいる。法が定まれば、そういった事にも税を課される可能性が高い。
中でもアーサリム地方の奥地にあった魔族組織の施設跡には、貴重な古代の書物が何冊も所蔵されており、主にティルファが研究目的で収集を進めていた。
これも、アーサリムが普通の国であったなら、国宝級の財産として扱われ、そう簡単に持ち出せたりはしなかったであろう。
ブラハミルトは今回収集された書物の中でも、特に貴重な物を収めた小箱を手に取る。
「これは地下の書庫に収める。残りはいつもの資料室に運んでおくように」
「了解しました!」
敬礼で見送られながら船着き場を後にしたブラハミルトは、小箱を持って地下にある特別な書庫、代々中央研究所長しか入る事が許されない『禁断の書庫』へ赴いた。
途中、廊下で秘書官より声をかけられる。
「所長、間もなく会議の準備が整います」
「分かった。すぐに行く」
ブラハミルトは簡潔にそれだけ告げ、ひとまず禁断の書庫へと下りて行く。
魔法の鍵で厳重に施錠された重厚な扉は、見た目とは裏腹に片手で簡単に押し開けられた。鍵を差し込み、解錠する一般的な扉とは違い、研究塔所長の鍵を持つ者の行く手は阻まず、鍵を持たぬ侵入者は一歩も通さないという造りになっている。
扉を潜ると、四角い螺旋階段が地下深くまで続いている。
その最下層にある書庫の入り口にも、魔法の鍵で施錠された扉があった。そこが『禁断の書庫』だ。
鍵を開けて入室したブラハミルトは、小箱から書物を取り出して手早く机に並べた。
「……ん?」
その時彼は、書庫内に奇妙な空気の揺らぎが発生したのを感じ取った。
まるで誰かに見られているような、視線のごとき気配。
古い書物には、時折この世ならざるモノが憑いている場合がある。持ち主の強い想いや、染みついた人の情念が魑魅魍魎を呼び寄せ、本を手にした者を魅了し、あるいは不幸にする。
「ふむ……後でしっかり調べておくか」
気にはなったものの、今日はこれから大事な会議があるのだ。
フレグンスとの交流の一環で、大学院の生徒達が修学目的で旅行にやって来る。その受け入れ態勢について、各研究塔の責任者や街の代表者達と共に、色々と協議を進めなければならない。
書物と奇妙な気配の調査を後回しにしたブラハミルトは、しっかり鍵を掛けて禁断の書庫を後にした。
ブラハミルトが退室した後、暗い書庫内にぼんやりとした明かりが灯った。
それは、机に並べられた古代の書物の一冊。
表紙には『魂の進化・後編』という大きな文字と、『生命操作研究』という小タイトルが書かれている。
その本の光に照らし出されるように、書庫の壁際に並ぶ古い本棚から、黒い人影が浮かび上がった。その姿は、煙が渦巻いているかのごとく曖昧で仄暗い。
人影が本に近付く。すると本はひとりでに開いて、ページがパラパラとめくれてゆく。
そしてあるページで止まった。
そこには、〝魂の移動〟に関する研究と考察が記されていた。
黒い人影の視線は、そのページに記載されている『精神体による他者への憑依実験』の項に注がれる。そこには、人間への憑依は不可能である事や、動物や昆虫になら可能であるという内容が記されていた。
黒い人影は書庫内を見渡すような動きをすると、ふと壁際の天井付近まで浮かび上がり、そこに張られている蜘蛛の巣の一つを包み込むがごとく丸くなった。
そして収縮するように萎んでいき、やがて小さい粒となって消える。
黒い人影が消えた後、蜘蛛の巣から一匹の小さな蜘蛛がポトリと床に落ちる。
蜘蛛は書庫の扉付近まで這って行くと、壁に出来た小さな亀裂に身を隠した。
そうして亀裂の奥からじっと、書庫の扉を見つめていた。
まるで扉が開かれるのを待つかのように。
王都の一般開放区にある、サクヤ邸にて。
「あ~、やっぱり広いお風呂はいいわぁ~」
ちょっとした温泉並みの広さを誇るお風呂場で、一日の疲れを癒す朔耶と親友兼専属メイドの藍香。湯船に浸かりながら今日の出来事などを話す内に、話題は修学旅行の事になった。
「修学旅行いいなぁ、あたしも朔ちゃんと旅行したいわ」
「つってもこればっかりはね~」
キャンプの時は色々と未確定なまま生徒主体で動いていたので、特例として藍香をアドバイザーの立場で同行させられた。が、修学旅行は初めから学院側が主体として動いている行事なので、部外者は参加させられない。
「キャンプの時みたいに、騎士団候補生あたりとの合同旅行とかになれば、枠は作れるかもしれないけど」
「で、旅行先でまた一騒ぎあるわけね?」
「……否定は出来ないのが問題よね」
トラブル前提で話す藍香にツッコみたい朔耶だったが、実際何かしらトラブルが起きるような気がするので、笑うに笑えない。
「あっ! そうだ! 朔ちゃんの専属メイド枠で参加というのは?」
「皆が真似して自分の使用人連れて行ったら、エライ事になるでしょうが」
藍香のボケ発言に今度こそツッコむ朔耶。
そうして、オルドリアの平穏な夜は更けていくのだった。
第二章 潜在する事案
朔耶達が王都で元気に大学院生活を送っていた頃。
カースティアの繁華街の奥から、路地を抜けた先にある旧表通り。古い建物が並ぶその寂れた通りの一角に、半分壁の崩れかけた小さな酒場があった。
窓も扉もない吹きさらしの店内には、申し訳程度に並べられたテーブルと背もたれの壊れた椅子。ただ一つ、主人のカウンターだけはやけに立派な作りをしている。ぽつぽつと出入りする客は、お世辞にも堅気とは言いがたい。
そんな荒くれ者が集まる場末の酒場にて、隅のテーブルに身を寄せ合って密談を交わす八人ほどの集団がいた。
「各地の仲間の様子は、どうなっていますかな?」
中でも落ち着いた雰囲気の老紳士が問う。厚手の外套を羽織った旅装束ながらも、身綺麗な風体と丁寧な口調からは、こんなうらぶれた場所には似合わない高貴さが窺える。
「事務の班だった者はみんな一般民に溶け込んで、それぞれの生活を営んでるよ」
「警備班は若いのが冒険者になって、中にはオルドリアから他所の大陸に渡った者達もいるようだ」
老紳士と向かい合う商人風の男と、革鎧で武装した傭兵っぽい男がおのおのそう答えた。
「そうですか。今はサムズ近辺が住みやすくなっているようですから、未だ放浪している者達に情報を回しましょう」
「うーん、どうかなぁ……」
「情報を回したところで、連中が腰を落ち着けるとは思えんが」
移動した地域に根付き、新たな暮らしを始める者達がいる一方で、平穏な生活に馴染めず旅を続け、かつてのような生き方を願う者達も少なくないと二人の男は訴える。
「しかし、ヨールテス様亡き今、組織の再建はもはや不可能です」
老紳士はそうキッパリと否定した。
彼等は、とある組織――一年ほど前にフレグンス、グラントゥルモス、ティルファの三大国連合によって壊滅させられた、魔族組織の残党であった。
そしてその残党集団のリーダー的な立場にいるこの老紳士、仲間内では『バスラ』と呼ばれている彼は、魔族組織の長、ヨールテスの側近の一人であった。
彼はその昔、キトという大きな街に君臨していたフランバッハ家なる好事家大貴族の屋敷に仕えていた元執事だった。
屋敷の女主人アリテリスがティルファの魔族狩り組織によって殺害された折、当時フランバッハ家のお抱え発明家だったルッテンや他の使用人と共に未開地アーサリムへと脱出してきたのだ。
魔族であったルッテンは、のちにヨールテスと改名し、アーサリムで魔族組織を立ち上げると、キトを前線基地として流通を掌握し、経済を以ってオルドリア大陸を支配しようとした。
キトはやがて商人国家と呼ばれるほどの規模になり、アーサリム討伐の少し前に三国連合によって制圧されるまでは、大陸中の物資の流通を一手に担う存在であった。が、その実は魔族組織が造り上げた魔族の国だったという訳である。
バスラもまた、そんな魔族組織のもと、未開地の施設で主の長期間の留守を預かるなどの重要な役割を果たし、ヨールテスからも厚い信頼を得ていた。
そして三国連合の討伐隊にアーサリムの本部施設が急襲された日、バスラは非戦闘員達の脱出避難を指揮していた。
彼は、ヨールテスから前もって「もし自分が討たれたならば、組織は解散せよ」との指示を受けていたのだった。
討伐隊急襲の報を受けた日の本部施設。
『竜籠を全て使って構わん。北の渓谷から海岸線に抜けて行け。先の脱出組と合流しろ』
『それでは、ヨールテス様は……』
普段から支配者としての在り方を意識しながらも、イザという時は自分が最前線に立って行動する。仲間や身内には甘い部分が見られる。そんな風に、バスラから見てヨールテスは、人を超越した存在でありながら実に人らしい一面を持つ主だった。
『儂とキルトはどうとでもなる。いいかバスラ、儂にとってここは出発点であり、終着点だ。他に帰る場所は無い』
ここが陥落する時は自分が討たれた時だと語ったヨールテスは、緊急事態で混乱している施設内を見渡し、ふと表情を緩めて自嘲の笑みを浮かべながら言った。
『少し懐かしいな……彼女の屋敷から逃げ出す時も、結構バタバタしていたものだ』
『……もう、六十年近く経ちますな』
キトを脱出し、一部の使用人と共にこの未開地へやって来たあの日。
『思えば、魔族になってからというもの、逃げてばかりの人生だった気がするよ』
だからこそオルドリアの経済をほぼ掌握し、帝国の魔族、エイディアス帝という最大の対抗勢力が消えた今、完全なる支配者として君臨すべく動き出そうとしていたものを。
『少し性急に攻めすぎたのかもしれん。以前、お前が懸念していたバンガ達の事も当たっていたな』
『いえ、あれは……』
バンガ――バンガラバンダ・アッサム。アーサリム地方の多種多様な部族を束ねるブブ族の長にして、ヨールテスの古い友人。
彼は若い頃に魔族組織創設に一役買い、その一方でヨールテスの助力を得て周辺部族の平定を叶えた。
彼亡き今、かの一族はバンガラバンダの息子、ブレブラバントの代になっていたが、そのブレブラバンドはあろう事か三国連合に与し、魔族組織に牙を剥いたのだった。
あの時、お前の話にもっと耳を傾けておくべきだった、などと珍しく弱気な言葉を口にするヨールテス。
そんな主を心配したバスラが、何か声をかけようとした時、敵部隊が居住施設に侵入したとの一報が入った。
『来たか。行けバスラ、脱出組の事はお前に任せる』
『……かしこまりました。お気をつけて、ヨールテス様』
二人は最後の言葉を交わし、そのまま別れる。
その後、施設は制圧され、ヨールテスが戦女神に討たれたとの報を受けたバスラは、共に脱出した魔族組織構成員に、先ほどの主の指示――『自分が討たれたならば、組織は解散せよ』との言葉を伝えて、組織の解散を宣言した。
それから一年半――組織の残党の一部は今もこうして集まっては、会合を開いている。その人数も、徐々に減ってはいるが。
今ここにいる者達は組織結成時からいた古株達で、ヨールテスに体内呪文を刻まれた、いわゆる『魔族』と呼ばれる存在である。
まず、エルディネイアを味方の援護が届くエリアへと誘導し始めた。
「こっちだ」
「え、ええ? それじゃ向こうのチームと離れてしまいますわよ?」
と文句を言いながらも素直について行くエルディネイア。
最前線から離脱するエルディネイアとドーソンを、相手チームの主力攻撃手が追撃に出るも、なかなかに強力な風の支援魔術に阻まれて距離を詰め切れない。
そうこうしている内に、相手チームのリーダーがエルディネイアチームの各選手の立ち位置を見て、ある事に気付いた。
「まずいっ、前衛は一旦戻れ!」
「さ、反撃の舞台は整ったよ」
ドーソンは、割と優雅な仕草で納刀してみせると、エルディネイアに指揮を促した。
エルディネイアが誘導されたのは、副長エルスレイ、攻撃型魔術士リコーと支援型魔術士ノーマが制圧するエリア。
「全軍、突撃ですわ!」
エルディネイアを追って突出していた相手チームの主力攻撃手は、慌てて後退しようとするも、ルーネルシアの支援魔術でまたも阻まれ、味方と合流する前に討ち取られた。
こうして攻撃の要を失った相手チームは、間もなく陥落したのだった。
「お疲れ様でしたー」
「良い試合でしたわ」
試合を終えた朔耶達は、制服に着替えて一般教室に戻ると、一息つきがてら雑談に興じる。先ほどの修学旅行に関する話から、学院内での生活の事など、お喋りのネタは尽きない。
やがて話題は、最近よく聞かれる噂へと移った。酒場などで実しやかに囁かれているという、魔族組織の残党の噂。
「魔族組織かー……」
朔耶は大学院に入る以前、アーサリム地方の奥地に潜む魔族組織の討伐に参加し、組織の長、魔族ヨールテスとの一騎打ちに及んだ時の事を思い出す。
なお、一般的にこの世界の『魔族』とは、邪業とされる異形化や不死の研究を率先して行い、その身を特異な状態に変化――すなわち『魔族化』させた者達の事である。
(ヨールテスって、バーリッカムの温泉宿に『扇ぎ機』とか残した、大昔の発明家ルッテンだったのかもしれないのよね)
今もなお、オルドリアに名を残す発明家ルッテン――もとい『体内呪文』という老化を抑制する術によって二百年近くも生き続け、オルドリア大陸の暗部に君臨していたヨールテス。
サムズにて動乱を引き起こし、人狩り達に人を攫わせて魔物に変え、その魔物を使って王都を攻めさせた。
最期は、身体を維持していた体内呪文が消し飛んだ事で精神が退行し、無垢な幼子となって、側近のキルトの腕の中で静かに息絶えた。
その魔族組織の残党は、現在も各国に散らばって潜伏していると言われている。
最近になって彼等の噂が囁かれ始めたのは、何か行動を起こす前兆ではないのか。
エルディネイアとチームメンバーは、その噂について朔耶に質問する。
「サクヤは、何かそういった情報は存じませんの?」
「うーん、特に聞いた事は無いなぁ。今度レイスにでも聞いてみるよ」
変な噂が急に世間に流れ出した場合、誰かが裏で動いてる可能性がある。以前、自分がフレグンスの第一王女、レティレスティアとの不仲説を流されたように。
朔耶はそう言って、噂が流れた背景について考える。
「あれも大変でしたわね、色々な意味で」
「王女様とやり合って旧市街地を一つ瓦礫に変えたんだってねー」
エルディネイア達が、当時の事に言及し始める。
レティレスティアとの不仲説は、朔耶とレティレスティアが取り壊し予定の旧市街地において全力の一騎打ちを演じ、その後、王室から両者の和解が発表された事で終息を見た。噂を流布した首謀者達が、二人の闘いの凄まじさを目の当たりにして恐れを為し、分裂したのも大きな要因である。
その旧市街地だが、現在は瓦礫の撤去も終わり、当初の予定通り機械車競技場建設のための整地作業が進められている。実は手っ取り早く古い建物を解体するために、朔耶達のお芝居の舞台として選ばれた事は一部の者以外には内緒である。
「原因は痴話喧嘩って発表だったけど、誰と誰の痴話喧嘩でそうなったんだろう?」
「まあ、その話は色々ややこしいから察して……」
リコーとノーマが興味津々な様子を見せるも、朔耶はあまり突っ込んでくれるなと流したのだった。
その後、城に出向いた朔耶は、宮廷魔術士長レイスに魔族組織の残党について訊ねてみた。
「学院でもその噂を知ってる人が結構いるみたい」
「確かに、各地でそういう噂が囁かれているようですね」
レイスはそういう噂が広まり始める以前から、魔族組織の残党について調査をしていたらしい。百年以上の歴史と、大国にも匹敵する規模を持つ組織だったので、末端構成員が各地に残っていても不思議は無い。
しかし、今のところは彼等が集結して活動するような兆候は見られないとの事だった。
「一応、警戒はしていますが、これまでのところ特に目立った動きはありません」
「それって、もしかして組織の残党って人達に目星が付いてるって事?」
「いいえ、さすがにそこまでは。それと知らずに魔族組織と取り引きしていた商人の動向を探って、大量の食料や資材の急な出荷が無いかなどを調べるんですよ。後は裏取りですね」
「ああ、なるほど」
魔族組織の残党を見つけ出して直接監視する事は難しいが、彼等と交流のありそうな者達の動向を監視する事で、間接的に彼等の動きを推測しようとしているらしい。
「最近の噂について、何かサクヤの勘に引っかかる事でも?」
「ううん、別にそういう感じはしないけど」
「それなら問題無い、という事でしょう」
朔耶の勘もしっかり当てにしているレイスに、肩を竦めてみたりする朔耶なのであった。
城に寄ったついでに、レティレスティアのところにも顔を出していく。公務も一区切り付き、ちょうど休憩に入ったところだったので、二人でお茶を頂きながら雑談に興じる。
話題はやはり、修学旅行について。
「私も、ティルファには何度か招かれた事がありますが――」
訪れる度にどこかしら形が変わっている刺激的な街なので、学院生達にとっても楽しい旅になるでしょうね、と思い出しては微笑むレティレスティア。
「レティはこんな風に、皆で旅行とか行きたいと思った事ないの?」
「うーん、どうでしょう? あまり考えた事はありませんでしたけど……」
やはり育ってきた環境が違うせいか、いまいちピンと来ないらしい。
しかし、以前自分が地球世界にある朔耶の実家に遊びに行った時の事を思うと、今回の修学旅行も学院生達にとってきっと素晴らしい経験になるであろう事は分かるという。
「そっかぁ、実感が伴わなきゃ、そもそも面白いかどうかも分からないよね」
朔耶は、いつかレティレスティアにも〝旅行先で友人と過ごす楽しさ〟というものを教えてあげたいなと思うのだった。
夕暮れに染まるオルドリアの大地。街にランプの明かりが灯り始める頃。
朔耶達の修学旅行先になっているティルファでは、遠方から運搬された貴重な荷物が中央研究塔に運び込まれていた。
中島の船着き場で陣頭指揮を執っている衛士に、ティルファの最高指導者である中央研究塔所長ブラハミルトが声をかける。
「ご苦労。アーサリムからの積み荷はこれで全てか?」
「ハッ、ほとんどが小物ですので、これで全部です」
つい最近まで未開地と称されていた、南東の部族国家アーサリム。現在はオルドリアに君臨する四大国の一つである。
といっても、元々は現地に住む多数の部族の集まりで、先の魔族組織討伐においてフレグンス王国やグラントゥルモス帝国、ティルファの三国と協力関係を結ぶために、急遽纏まって建国を宣言した国である。それだけに、国家と言ってもまだまだ部族集団の域を出ない。
税制度などを含め、国家を運営するにあたっての法すら十分に整備されておらず、商人達は今がチャンスと、売り込みや掘り出し物の発掘に勤しんでいる。法が定まれば、そういった事にも税を課される可能性が高い。
中でもアーサリム地方の奥地にあった魔族組織の施設跡には、貴重な古代の書物が何冊も所蔵されており、主にティルファが研究目的で収集を進めていた。
これも、アーサリムが普通の国であったなら、国宝級の財産として扱われ、そう簡単に持ち出せたりはしなかったであろう。
ブラハミルトは今回収集された書物の中でも、特に貴重な物を収めた小箱を手に取る。
「これは地下の書庫に収める。残りはいつもの資料室に運んでおくように」
「了解しました!」
敬礼で見送られながら船着き場を後にしたブラハミルトは、小箱を持って地下にある特別な書庫、代々中央研究所長しか入る事が許されない『禁断の書庫』へ赴いた。
途中、廊下で秘書官より声をかけられる。
「所長、間もなく会議の準備が整います」
「分かった。すぐに行く」
ブラハミルトは簡潔にそれだけ告げ、ひとまず禁断の書庫へと下りて行く。
魔法の鍵で厳重に施錠された重厚な扉は、見た目とは裏腹に片手で簡単に押し開けられた。鍵を差し込み、解錠する一般的な扉とは違い、研究塔所長の鍵を持つ者の行く手は阻まず、鍵を持たぬ侵入者は一歩も通さないという造りになっている。
扉を潜ると、四角い螺旋階段が地下深くまで続いている。
その最下層にある書庫の入り口にも、魔法の鍵で施錠された扉があった。そこが『禁断の書庫』だ。
鍵を開けて入室したブラハミルトは、小箱から書物を取り出して手早く机に並べた。
「……ん?」
その時彼は、書庫内に奇妙な空気の揺らぎが発生したのを感じ取った。
まるで誰かに見られているような、視線のごとき気配。
古い書物には、時折この世ならざるモノが憑いている場合がある。持ち主の強い想いや、染みついた人の情念が魑魅魍魎を呼び寄せ、本を手にした者を魅了し、あるいは不幸にする。
「ふむ……後でしっかり調べておくか」
気にはなったものの、今日はこれから大事な会議があるのだ。
フレグンスとの交流の一環で、大学院の生徒達が修学目的で旅行にやって来る。その受け入れ態勢について、各研究塔の責任者や街の代表者達と共に、色々と協議を進めなければならない。
書物と奇妙な気配の調査を後回しにしたブラハミルトは、しっかり鍵を掛けて禁断の書庫を後にした。
ブラハミルトが退室した後、暗い書庫内にぼんやりとした明かりが灯った。
それは、机に並べられた古代の書物の一冊。
表紙には『魂の進化・後編』という大きな文字と、『生命操作研究』という小タイトルが書かれている。
その本の光に照らし出されるように、書庫の壁際に並ぶ古い本棚から、黒い人影が浮かび上がった。その姿は、煙が渦巻いているかのごとく曖昧で仄暗い。
人影が本に近付く。すると本はひとりでに開いて、ページがパラパラとめくれてゆく。
そしてあるページで止まった。
そこには、〝魂の移動〟に関する研究と考察が記されていた。
黒い人影の視線は、そのページに記載されている『精神体による他者への憑依実験』の項に注がれる。そこには、人間への憑依は不可能である事や、動物や昆虫になら可能であるという内容が記されていた。
黒い人影は書庫内を見渡すような動きをすると、ふと壁際の天井付近まで浮かび上がり、そこに張られている蜘蛛の巣の一つを包み込むがごとく丸くなった。
そして収縮するように萎んでいき、やがて小さい粒となって消える。
黒い人影が消えた後、蜘蛛の巣から一匹の小さな蜘蛛がポトリと床に落ちる。
蜘蛛は書庫の扉付近まで這って行くと、壁に出来た小さな亀裂に身を隠した。
そうして亀裂の奥からじっと、書庫の扉を見つめていた。
まるで扉が開かれるのを待つかのように。
王都の一般開放区にある、サクヤ邸にて。
「あ~、やっぱり広いお風呂はいいわぁ~」
ちょっとした温泉並みの広さを誇るお風呂場で、一日の疲れを癒す朔耶と親友兼専属メイドの藍香。湯船に浸かりながら今日の出来事などを話す内に、話題は修学旅行の事になった。
「修学旅行いいなぁ、あたしも朔ちゃんと旅行したいわ」
「つってもこればっかりはね~」
キャンプの時は色々と未確定なまま生徒主体で動いていたので、特例として藍香をアドバイザーの立場で同行させられた。が、修学旅行は初めから学院側が主体として動いている行事なので、部外者は参加させられない。
「キャンプの時みたいに、騎士団候補生あたりとの合同旅行とかになれば、枠は作れるかもしれないけど」
「で、旅行先でまた一騒ぎあるわけね?」
「……否定は出来ないのが問題よね」
トラブル前提で話す藍香にツッコみたい朔耶だったが、実際何かしらトラブルが起きるような気がするので、笑うに笑えない。
「あっ! そうだ! 朔ちゃんの専属メイド枠で参加というのは?」
「皆が真似して自分の使用人連れて行ったら、エライ事になるでしょうが」
藍香のボケ発言に今度こそツッコむ朔耶。
そうして、オルドリアの平穏な夜は更けていくのだった。
第二章 潜在する事案
朔耶達が王都で元気に大学院生活を送っていた頃。
カースティアの繁華街の奥から、路地を抜けた先にある旧表通り。古い建物が並ぶその寂れた通りの一角に、半分壁の崩れかけた小さな酒場があった。
窓も扉もない吹きさらしの店内には、申し訳程度に並べられたテーブルと背もたれの壊れた椅子。ただ一つ、主人のカウンターだけはやけに立派な作りをしている。ぽつぽつと出入りする客は、お世辞にも堅気とは言いがたい。
そんな荒くれ者が集まる場末の酒場にて、隅のテーブルに身を寄せ合って密談を交わす八人ほどの集団がいた。
「各地の仲間の様子は、どうなっていますかな?」
中でも落ち着いた雰囲気の老紳士が問う。厚手の外套を羽織った旅装束ながらも、身綺麗な風体と丁寧な口調からは、こんなうらぶれた場所には似合わない高貴さが窺える。
「事務の班だった者はみんな一般民に溶け込んで、それぞれの生活を営んでるよ」
「警備班は若いのが冒険者になって、中にはオルドリアから他所の大陸に渡った者達もいるようだ」
老紳士と向かい合う商人風の男と、革鎧で武装した傭兵っぽい男がおのおのそう答えた。
「そうですか。今はサムズ近辺が住みやすくなっているようですから、未だ放浪している者達に情報を回しましょう」
「うーん、どうかなぁ……」
「情報を回したところで、連中が腰を落ち着けるとは思えんが」
移動した地域に根付き、新たな暮らしを始める者達がいる一方で、平穏な生活に馴染めず旅を続け、かつてのような生き方を願う者達も少なくないと二人の男は訴える。
「しかし、ヨールテス様亡き今、組織の再建はもはや不可能です」
老紳士はそうキッパリと否定した。
彼等は、とある組織――一年ほど前にフレグンス、グラントゥルモス、ティルファの三大国連合によって壊滅させられた、魔族組織の残党であった。
そしてその残党集団のリーダー的な立場にいるこの老紳士、仲間内では『バスラ』と呼ばれている彼は、魔族組織の長、ヨールテスの側近の一人であった。
彼はその昔、キトという大きな街に君臨していたフランバッハ家なる好事家大貴族の屋敷に仕えていた元執事だった。
屋敷の女主人アリテリスがティルファの魔族狩り組織によって殺害された折、当時フランバッハ家のお抱え発明家だったルッテンや他の使用人と共に未開地アーサリムへと脱出してきたのだ。
魔族であったルッテンは、のちにヨールテスと改名し、アーサリムで魔族組織を立ち上げると、キトを前線基地として流通を掌握し、経済を以ってオルドリア大陸を支配しようとした。
キトはやがて商人国家と呼ばれるほどの規模になり、アーサリム討伐の少し前に三国連合によって制圧されるまでは、大陸中の物資の流通を一手に担う存在であった。が、その実は魔族組織が造り上げた魔族の国だったという訳である。
バスラもまた、そんな魔族組織のもと、未開地の施設で主の長期間の留守を預かるなどの重要な役割を果たし、ヨールテスからも厚い信頼を得ていた。
そして三国連合の討伐隊にアーサリムの本部施設が急襲された日、バスラは非戦闘員達の脱出避難を指揮していた。
彼は、ヨールテスから前もって「もし自分が討たれたならば、組織は解散せよ」との指示を受けていたのだった。
討伐隊急襲の報を受けた日の本部施設。
『竜籠を全て使って構わん。北の渓谷から海岸線に抜けて行け。先の脱出組と合流しろ』
『それでは、ヨールテス様は……』
普段から支配者としての在り方を意識しながらも、イザという時は自分が最前線に立って行動する。仲間や身内には甘い部分が見られる。そんな風に、バスラから見てヨールテスは、人を超越した存在でありながら実に人らしい一面を持つ主だった。
『儂とキルトはどうとでもなる。いいかバスラ、儂にとってここは出発点であり、終着点だ。他に帰る場所は無い』
ここが陥落する時は自分が討たれた時だと語ったヨールテスは、緊急事態で混乱している施設内を見渡し、ふと表情を緩めて自嘲の笑みを浮かべながら言った。
『少し懐かしいな……彼女の屋敷から逃げ出す時も、結構バタバタしていたものだ』
『……もう、六十年近く経ちますな』
キトを脱出し、一部の使用人と共にこの未開地へやって来たあの日。
『思えば、魔族になってからというもの、逃げてばかりの人生だった気がするよ』
だからこそオルドリアの経済をほぼ掌握し、帝国の魔族、エイディアス帝という最大の対抗勢力が消えた今、完全なる支配者として君臨すべく動き出そうとしていたものを。
『少し性急に攻めすぎたのかもしれん。以前、お前が懸念していたバンガ達の事も当たっていたな』
『いえ、あれは……』
バンガ――バンガラバンダ・アッサム。アーサリム地方の多種多様な部族を束ねるブブ族の長にして、ヨールテスの古い友人。
彼は若い頃に魔族組織創設に一役買い、その一方でヨールテスの助力を得て周辺部族の平定を叶えた。
彼亡き今、かの一族はバンガラバンダの息子、ブレブラバントの代になっていたが、そのブレブラバンドはあろう事か三国連合に与し、魔族組織に牙を剥いたのだった。
あの時、お前の話にもっと耳を傾けておくべきだった、などと珍しく弱気な言葉を口にするヨールテス。
そんな主を心配したバスラが、何か声をかけようとした時、敵部隊が居住施設に侵入したとの一報が入った。
『来たか。行けバスラ、脱出組の事はお前に任せる』
『……かしこまりました。お気をつけて、ヨールテス様』
二人は最後の言葉を交わし、そのまま別れる。
その後、施設は制圧され、ヨールテスが戦女神に討たれたとの報を受けたバスラは、共に脱出した魔族組織構成員に、先ほどの主の指示――『自分が討たれたならば、組織は解散せよ』との言葉を伝えて、組織の解散を宣言した。
それから一年半――組織の残党の一部は今もこうして集まっては、会合を開いている。その人数も、徐々に減ってはいるが。
今ここにいる者達は組織結成時からいた古株達で、ヨールテスに体内呪文を刻まれた、いわゆる『魔族』と呼ばれる存在である。
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