104 / 145
オルドリア大陸編
序話:オルドリア大陸
しおりを挟む危険な魔物が徘徊し、多くの財宝を望めるダンジョンが各地に点在するフラキウル大陸。名声や一攫千金を求めて危険なダンジョンに挑む命知らずの冒険者達。そんな猛者達で賑わうフラキウル大陸に君臨する大国の一つに、魔導文明で栄えた国、グランダール王国があった。
優れた魔導技術によって造られた『魔導船』という空飛ぶ船が、日常的に行き交うグランダール国の王都トルトリュスより、冒険好きなレイオス第一王子率いる魔導船団が東方のオルドリア大陸を目指して冒険飛行に飛びたってから、およそ三十日が経過した頃。
「見えた! オルドリア大陸だ!」
見張り台の航海士が叫んで指差した先、遥か前方の洋上に巨大な島のような形をした陸地が見えて来た。あと半日ほどで、『異界の魔術士』朔耶が所属している国、フレグンス王国に到着する。
先頭を行く魔導船の甲板では、少年型姿のコウがいつもの先端辺りに陣取り、周囲を見渡していた。直ぐ傍には、『ガウィーク隊』の天然天才美少女射手ことカレンと、古代魔導文明の遺産でもある『ガイドアクトレス』エイネリアも居る。そこへレイオス王子やガウィーク達もやって来た。
「何か見えるか、コウ」
そう言って声を掛けて来たガウィークに、コウは地上を指差して答える。
「あそこに港街があるよ」
オルドリア大陸の西端に位置するであろう海沿いに見える街には、沢山の桟橋とそこに着けられた大小様々な船が見える。ほとんどは漁船のようだが、交易船らしき外洋向けの大型帆船もあった。
「ふむ、あの港から出た船が、フラキウルまで航海しているのだな」
空を行く魔導船でもこれだけの日数を要する距離を、波のうねる海上を風を頼りに進むのかと、レイオス王子が船乗りの過酷さ勇敢さに感心している。
そんなレイオス王子は、傍らに控える執事風の男性に訊ねた。
「古代文明時代は、ここには何があったんだ? エティス」
「この地方は学園大陸都市でした。それ以上の情報は私のデータにありません」
そう答えた執事風の男性、エティスは、実はエイネリアと同じ古代遺跡で発見された『警備ガイドアクター』である。コウと朔耶が回収に成功し、その後レイオス王子が譲り受けた。
エイネリアと違って個別の名前も持っていなかったので、レイオス王子が名付け親となった。
ちなみに、王子が名付けたエティスのフルネームは『プロプリネ・ヴィ・エティス』。彼の主要武装である古代の光線兵器にちなんだ『紫の光槍』という意味が込められているそうな。
施設内警備専用機だったエティスは、施設外に関する情報が登録されておらず、古代文明時代の世界に関する詳細なデータを持っていないので、レイオス王子の質問にも答えられなかったのだ。
「ふーむ、そうだったのか……お前の能力の事ばかり注視していた俺の見落としだな」
件のリゾート遺跡のあった無人島を出発して十日余り、レイオス王子率いる『金色の剣竜隊』のメンバーに加えるに当たり、エティスが持つ様々な武装や可能な戦闘行動について調べられた。が、戦闘員としての活動以外に何が出来るかの把握を怠っていたようだ。
すると、エティスの代わりに、エイネリアが先程のレイオス王子の問いに答えた。古代魔導文明時代――『オフューバム・ダゥル時代』のその場所には何があったのかを教えてくれる。
オヒューバム・ダゥルの時代は世界中が転移回廊で繋がれていたので、交通機関などはほとんど無く、基本的に娯楽目的以外での乗り物は存在しなかったという。現在眼下に見える港街の辺りも、整備された公園が続いていたそうな。
「『転移回廊』か……アンダギー博士が研究しているようだが――」
「実現したら世界が変わりますな」
良くも悪くも、世界の在り方に革新をもたらせる事は間違いないと、レイオス王子とガウィークは意見を一致させる。
魔導船団を見上げて驚いたり、手を振ったりする人々。走って追い掛ける子供達。そんな現地人達の様子を見下ろしながら港街の上空を通過して、いよいよオルドリア大陸の空域に入る。
遠くに薄らと雪化粧の掛かった高い山脈が見えた。頂上付近には城塞都市のような建物群もある。朔耶から得ているオルドリア大陸の情報によれば、あの一帯はグラントゥルモス帝国領との事だが、古代では実験施設が集中する地区だったらしい。
その山の麓に、大きな楕円形の建物施設があった。
「あれは闘技場か何かか?」
「あそこは『機械車競技場』ってゆーらしいよ」
魔術式の動力を使って走る車両で競争をする為の施設らしいと、コウがレイオス王子に説明する。オルドリアには現在、グラントゥルモス帝国製の機械車と、ティルファ製の機械車が普及の途にあるという。
「ほう、そんなのがあるのか」
興味を持つレイオス王子。
「アンダギー博士にグランダール製の魔導車両を作らせて、競争に参加してみたいな」
グランダールでは魔導技術で走る車両が普及する前に、魔導船のような航空機が発達したので、未だに地上では馬車が主流だ。その辺りは飛び抜けた魔導技術による弊害なのか、少々歪んだ発展の仕方をしているのかもしれないとは、ガウィーク隊の若手魔術士ディスの弁。
そのまま順調に飛行を続ける魔導船団の前方に、森林に囲まれた湖の街が見えて来た。
「あれが『知の都』を称するティルファか」
湖の中島に立つティルファの中枢施設、『中央研究塔』も目を引くが、特徴的なのは湖の周りに広がるカオスな街並みだ。様々な発明品や工作機械で覆われたその様相は、何だかアンダギー博士の研究所を思わせる。
エイネリアによれば、古代では学園大陸都市に住む研究員達の居住区が集中している場所だったらしい。過去の時代のこの一帯にこれほどの森は存在しておらず、地形や環境が随分と違っているそうだ。
「ふむ。まあ何千年も経てば、森くらい育つという事か」
やがて森林地帯を抜けた飛行船団は、円形五重層の防壁が特徴的な『王都フレグンス』の上空に到着した。
「あれがサクヤの所属するフレグンス王国か」
「中々立派な都ですな」
金色の剣竜隊やガウィーク隊のメンバーの他、手の空いている船員達も甲板に出て、その特徴的な王都の街並みを見下ろしている。
城下街には幾つか規模の大きい建物が立っている。その中には、山の麓に見た機械車競技場らしき施設もあった。
「ここにも機械車競技場が造られているのだな」
「機械車の競技じたいは、まだじゅんび中らしいよ?」
レイオス王子の呟きにコウが答えたりするうち、魔導船団は速度を落としながら王都上空の中心近くまでやって来た。正面には立派なお城が見える。
本日の到着予定は朔耶を通じてフレグンス王国側にも知らされており、王宮区に着陸地点が用意されているとの事だった。
「あの開けた場所が着陸地点でしょうかね?」
「流石に城の敷地に下ろさせる事は無いと思うが……」
ガウィークとレイオスが地上の様子を覗いながらそんな話をしていると、城の上階付近の窓から黒い翼が飛び出し、魔導船団の近くまで上がって来た。
「朔耶だー」
「サクヤちゃんだー」
コウとカレンが手を振ると、朔耶も手を振り返しながら甲板に下りて来る。
「いらっしゃーい、あそこの開けた場所に下ろしてくれる?」
「あそこで良いのか?」
元々竜籠の発着場として整備した場所だという朔耶の説明を受けた魔導船団は、フレグンス城の庭園と繋がる竜籠発着場へと降下して行った。
0
お気に入りに追加
1,292
あなたにおすすめの小説

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。