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よろずの冒険者編
第三十五話:転変のデスティネーション
しおりを挟む昨晩遅くに万常次に戻ったコウは、ケイに潟辺達の様子を話して明日起きる予定だったトラブルが一つ消えた事を伝えた。
そして翌朝。
万常次の食堂では、コウと美鈴にケイ、それに美奈子も加わって皆で朝食をとっていた。そこへ、美奈子の母親が困惑顔で現れて訊ねる。
「美奈ちゃん、庭の垣根のところに人がいるけど、あれお客さん?」
「え?」
皆で顔を見合わせる。万常次の宿泊客はここに全員揃っている筈だ。美奈子が庭の様子を見に席を立つと、嫌な予感を覚えたらしいケイも後に続き、コウも当然のようについて行く。
「美鈴は残ってて」
「そう?」
基本的に、一般人である美鈴をあまりトラブルに関わらせる気はないコウは、自身も席を立とうかと迷っていた彼女を食堂に留まらせた。
そうして庭の様子を見渡してみれば、そこには先程ケイが予感した通り、潟辺達の姿があった。今日の朝のトラブルを回避したと思ったら、別のトラブルが生えてきたようだ。
(強制力? とかじゃないよね?)
今は京矢とは世界を隔てて繋がっていない為、いつものSFやファンタジーを考察した軽快な相槌は返って来ない。ツッコミ不在はフォローも不在。
地球世界の常識にはまだまだ疎いところがあるコウだが、ここは自力で考えて対処するべく行動する。
警察を呼ぶ判断をした美奈子が電話を置いてある玄関に向かったので、コウはケイに潟辺達を探って来る事を伝えて庭に出た。
「大丈夫か?」
「まかせて」
心配するケイに問題無いと告げて、コウは潟辺達のグループが垣根を跨ぐようにして屯している庭の一画に近付く。
ケイの記憶情報によれば、そこは初日の不法侵入で集まっていた場所らしい。
昨日、コウが足止め工作をした時に潟辺達から読み取った情報では、第二案の撮影ポイントとして目をつけていた事が分かっている。
「なにしてるのー?」
コウは、無邪気を装って声を掛けながら彼等の内心を読み取りに掛かる。
子供の相手には慣れていないのか、あからさまに邪険にする事は無かったものの、どう対処すればいいのか分からない様子で戸惑っていた。
潟辺を始め、グループメンバーの誰もが困ったように顔を見合わせ、半笑いを浮かべては仲間の誰かが追い返す事を期待している。
ケイの記憶情報に見る潟辺達のトラブル内容から、直ぐに怒鳴りつけたり威圧したりという短慮なイメージがあったのだが、意外にも無防備な子供相手には強く出られないらしい。
しばらく彼等の周りをうろちょろして思考を収集したコウは、必要な情報を拾い終えたのでケイのところに戻って報告する。
潟辺達の事情は次の通り。
昨夜、深酒をして寝坊した潟辺達は、昨日カメラを設置するつもりだったベストポジションを他のグループに占領されてしまい、今日も狙っていた場所を取られた。
なので第二案だったこの家の敷地に再度侵入。撮影場所は庭の外に設定しているので、今だけ凌げれば問題無い――
「――って感じだったよ。ゆうべ夜遅くまでホテルの部屋で宴会してたのはボクも確認済み」
「なるほど……あの騒ぎも元々は場所取りの延長だったか」
潟辺達は他のグループとの揉め事が多いので悪目立ちしているが、それで好き勝手出来ているかと言えば、そう上手くはいっていない。
ほぼ潟辺が矢面に立っての言い争いが中心で、基本的に実力行使は無く、相手も折れないので大体言い負かされる形で終わるパターンらしい。
そういう時に仲間からの援護が無いので、潟辺はそこを不満に思っている。
一方で仲間の方は、潟辺が見境なく他グループに噛みついては負け続けるのが恥ずかしいという不満を募らせている。
どうにも潟辺グループはそんなすれ違いが続いた結果、今のような歪な関係になったようだ。
それから間もなく、美奈子から通報を受けた馴染みの駐在さんがやって来た。
「まーた君らか~」
ベテランの駐在さんは手慣れた様子で、潟辺達に万常次の庭から立ち退くよう促す。緊張感の無い警告だが、駐在さんは潟辺達が対話で解決できる相手だと理解している。
我が侭な子供に言い聞かせるような心境で対しているのが分かった。
「外だろ、ここ。庭に入ってないだろ」
「垣根の外! 垣根の外!」
「ダメダメ、何言ってるの。こんなところに脚立置いたら駄目だよ」
庭の線路側の垣根に添うように脚立台を立てている潟辺達は、垣根の外だから私有地には触れていない等と主張していたが、駐在さんから「違法だよ」と告げられてしぶしぶ撤去し始めた。
「せっかく組んだのによー」(撮影の瞬間だけさっと組み立てられないか? これ)
ぶつくさ言いながら片付けている潟辺達の内心を読み取ると、電車が来た時だけ素早く組めるよう、警官が居なくなってから基礎だけ設置しようかと企んでいるのが分かった。
ケイにその事を伝えると、彼はふむと考え込む。
「さて、どうしようか」
美奈子はホテルのヘルプの他に、民宿の仕事で出掛ける用事が多い。コウと美鈴は今日は商店街での取材や、お堂巡りも控えている。
自身がここでずっと見張るという手もあるが――等と考えているケイに、コウは言及する。
「それだとケイの負担が大き過ぎるね」
「まあ俺は別に構わないんだけど、美奈子さんは気にするだろうしなぁ」
ケイは、潟辺達のヘイトが自分に向き過ぎるのも良くない気がすると、一周目の終わりの火事を思い浮かべながら眉を顰めている。
コウはケイの記憶情報でしか確認できない事ながら、彼が抱いている懸念は理解できた。
あの火事が本当に潟辺のグループメンバーによる付け火だったとして、彼等がそんな行動に出たのは、潟辺との間に余程の怨恨があったからだと推測できる。
そんな潟辺達の恨みがケイに向けられた結果、宿泊先の万常次を危険に曝してしまうという本末転倒な事も起こり得なくはない。
なのでコウは、その解決策として第三者の介入を提案した。
「じゃあ恨みを向けられにくい人材をとうにゅうしよう」
「人材?」
「ちょっと目立つかもしれないけど」
コウはそう言って周囲を見渡しつつ玄関に向かうと、ケイ以外に何処からも人の視線が届いていない事を確認して、異次元倉庫からエイネリアを取り出した。
「!???」
突然現れたメイドさんに、目を瞠ったケイが二度見して固まり、三度見して通常に戻った。立て直しの速さに感心する。
「えぇ……?」
それでも流石にリアクションには困っているようだ。コウはとりあえずエイネリアの事を説明した。
「彼女はエイネリアっていうんだ。こっちでいうアンドロイドみたいな魔導人形だよ」
「……ここに来てがっつりファンタジーに振り切ったな」
フラキウル大陸にオルドリア大陸のある異世界や、新生カルパディア大陸の狭間世界よりも文明や技術の進んでいる地球世界だが、自律行動できる人型ロボットはまだ夢の技術の領域だ。
ややメカニカル風なメイド姿に目を奪われている様子のケイに、コウはエイネリアを使った庭警備の対策を勧める。
「たぶん、カタベ達は外国のお姉さんに見張られたらなにもできないと思う」
「ああ……盗撮くらいはしそうだけど、交渉とかはやれそうに思えないな」
確かに、と納得するケイ。潟辺達に限らず、外国人が苦手な日本の一般人は少なくない。外見は完全に金髪の外人女性なエイネリア。
立たせているだけでも十分に防犯効果はありそうである。
一応、万常次家の人々には話を通しておこうと皆で食堂に集まり、美奈子と彼女の両親も呼んでエイネリアを紹介した。
とりあえず、コウの身内が訪ねてきた、という事にしている。
「ふわー、メイドさんだー」
「ふぉぉ、メイドさんだぁ」
美奈子と美鈴が同じような反応を見せ、美奈子の家族も凄く物珍しそうに驚いていたので、その勢いに乗せて庭の見張り番をさせたい旨を伝える。
基本、庭に立っているだけなので危険は無い事も伝えると、それならば自由にして構わないと、監視活動の許可を貰えた。
これで一先ず、潟辺達への対策も整えられた。
「じゃあボクたちはお堂巡りと取材にいこう」
「そうだな」
その後はケイの記憶情報にある『前回』の行動を参考に、昼頃まで仙洞谷町の広い範囲に立つ小さなお堂を巡り、商店街では並び始めた屋台を取材する美鈴の仕事を手伝った。
「はぁ~ん、コウ君とケイ君がいると滅茶苦茶捗るわぁ~」
「お疲れ様です」
「よかったね」
美鈴にとってはお堂巡りも屋台のインタビューも初見の取材になるが、ケイと、彼の記憶を共有するコウは二度目。
道案内からスケジュール管理に至るまで、最適解と言えるサポートを実現していた。
「二人ともありがとう。きっと凄く良い記事になりそうだわ」
そんな調子で、良い雰囲気のまま取材巡りを終えたコウ達は、昼食をとりに万常次に戻る。美鈴とケイを食堂に向かわせ、コウは庭に出てエイネリアから見張りの報告を受けた。
どうやら潟辺達は一度近くまでやって来たようだが、エイネリアの存在に気付くと、会釈して引き返して行ったらしい。
エイネリアの記録情報には、彼女と目が合ってぎょっとなっている潟辺達の様子が写っていた。
潟辺達が庭先に撮影台を立てるのを断念した件は、ケイ達にも伝えておく。
「狙い通りだな」
「だね」
とりあえず、これで潟辺関連の懸念事項は片付いた。
この後の予定については、美鈴は記事の執筆で夜まで部屋に籠もるそうなので、コウは単独で町の探索に出掛ける事を告げる。
「探索する場所なんてあるの?」
「ボクが知ってるのはこの町の一部だからね」
今回の取材旅行は、最初から二周目であるケイの記憶情報に基づき、最悪の未来を回避するべく共に行動して来た。
が、やるべき事は一通り終えたので、ここからは別行動である。
ケイの記憶から得た地理情報は、商店街周りとお堂巡りで歩いた道近辺に限定される局地的なもの。範囲としては、仙洞谷町全体の半分にも満たない。
これから赴くは未知の領域。本来の田舎町探索の始まりだ――とお箸を掲げて宣言する冒険者コウ。
「お箸で遊んじゃダメよ」
「はーい」
まずは昼食を済ませてお出掛け準備を始めるコウなのであった。
美鈴が部屋に引き揚げ、コウは一人町に出掛ける。ケイは『石神様』に現状を念じに行くようだった。
万常次を出て駅に続く小道へと向かうケイと別れ、コウは商店街の方へと歩き出した。
町猫でもいれば憑依して町一帯の情報を得られるのだが、気軽に憑依させてくれそうなノンビリした子は、残念ながら見つからない。
(けっこう警戒心がつよいなぁ)
塀の上や路地の陰にちらっと見えるのだが、皆コウを見ると大分距離のあるうちに逃げてしまう。
主に外から来た者に対して強い警戒を抱いているようだが、コウ自身に対しても、普通の人間とは明らかに違う存在である事を感じ取れるようなので、警戒も一入である。
(鳥君達も近付いてこないや)
屋根の上から様子を窺っている好奇心旺盛なカラス達も、コウの近くには下りてこない。仕方がないので周囲の思念を探りながら適当にぶらぶら歩いて流す。
民宿・万常次の屋敷など比較的大きな建物が並ぶ、商店街から離れた場所にある閑静な住宅街とは別に、商店街に近い位置には下町風な住宅街が広がっていた。
小さい一軒家がひしめき合い、狭い路地が縫うように張り巡らされた迷路のような一帯に入ると、建物の隙間の空き地を利用した小さな公園があった。そこに、地元の子供達が集まっている。
公園を横切るコウを見た子供達は、少し驚いた顔をした。観光客など外から来た人達でこの辺りまで入って来る人は滅多にいないらしく、ましてや知らない子供など見た事がなかったようだ。
小学生くらいの集団の中で、子供達を纏めているらしき高学年っぽい女の子が声を掛けてきた。
「きみ、どうしたの? 迷子?」(この子、どっかでみたような……?)
「ど、どこから来たんだ? 商店街はあっちだぞ」(お、俺がうごかないと)
その女の子の隣で、一瞬出遅れたような表情を浮かべた同い年くらいの男の子も、慌てて話し掛ける。
「ボクはコウ。いま町の探索中なんだ」
コウがそう答えると、子供達の中で特に幼いちびっ子が反応した。
「あっ、このひとしってるー! きしゃのおねーさんといたひと!」(みたことある! お昼!)
「汽車?」(電車? SL?)
「きしゃ……? ――ああっ、取材のお姉さんの」(キシャ……あっ、記者! 眼鏡のお姉さん)
男の子は列車や機関車を連想して困惑したが、女の子は微かに見覚えのあったコウが、商店街で取材をしていた女性記者の傍にいた子供である事に気付いた。
子供の思考は大体素直なので、言葉と内心に大きな差異が少ない事が殆どだ。コウは対話中の思考同時読み取り範囲を抑えて、純粋に子供達と会話をする。
美鈴は今、記事を作るお仕事中なので、暇になった自分は町を探索中であると説明した。
「じゃあ、俺たちと遊ぶか! 万丈さんとこ泊まってる人なら大丈夫って母ちゃんが言ってた!」
「そうね。コウ君も私たちのグループに入れよう」
子供達の集団は幾つかグループがあり、家が近い者同士など地区ごとに固まって集団行動するよう、町の方針で定められているらしい。
引率役に同じ小学校の五年生以上の高学年生を二人から三人配置し、その下に四年生以下の小さい子を加えた、一グループ六人から十人の集団。
このグループは同じクラスで五年生の二人が、六人の低学年層の子達を率いている。十一歳が二人に十歳が一人。八歳が四人。それと七歳の子が一人の、計八人。
いずれも家が近かったり幼馴染みだったり、兄弟姉妹や同級生で固められていた。
中々面白い制度を確立させているんだなぁと感心したコウは、彼等の提案に乗ってみる事にした。一人で闇雲に探索する楽しさも良いが、地元民と交流を深めるのも冒険の醍醐味だ。
「よろしくね」
子供達のグループの一つに加わったコウは、解散時間の夕方まで彼等と過ごす。
この空き地公園は彼等グループの集合場所で、ここに集まってその日の行動予定を決めてから出発というのが毎日の流れのようだ。
メンバーは引率役で五年生の薫と健太。四年生で補佐役の光雄。
引率される二年生の美知枝、佳奈、晴香、希美、一年生の智輝。それに臨時メンバーのコウである。
今日はこれからいつもの探検コースを回る予定らしい。
「じゃあしゅっぱつ!」
「「「おー」」」
健太の号令で公園を出発した一行は、まずは路地を抜けて商店街の通りに出る。祭りの日でもないのに屋台が並んでいる商店街に、子供達のテンションが上がり始めていた。
「ふーせんある! ふーせん!」
「あっ、トモちゃん人多いから離れちゃダメ! 希美ちゃん、手つないで」
「んっ! 智輝ーっ 手ーっ」
きゃっきゃっとはしゃぎ気味に通り抜けていく子供達に、屋台のおじさんが声を掛ける。
「おー、健太。遊びに行くんかー?」
「うん! 今日は畑の向こうまで」
「おっちゃん、ふーせん!」
「お、トモも一緒か。――これやろう」
風船屋台のおじさんが、グループの一番小さい子に銀色で楕円形をした浮かぶビニール風船を渡した。
紐の先にゴムの輪っかが付いており、腕に通しておけば人混みの中からでも直ぐに見つけられる。迷子対策。
「やったあ! ふーせん!」
「ありがとうございます。トモちゃん、おじさんにありがとうは?」
「あいがとうー」
「はいよー」
引率のお姉さん役として利発な働きを見せる薫と最年少の智輝のやりとりに、屋台のおじさんはニコニコ顔だ。
コウは、都会では中々見られない光景なのでは? と、京矢の記憶に見る今の地球世界の秩序ある窮屈な社会について思いを巡らせたりする。
商店街を通り抜けて反対側の住宅街に入ると、こちらも出発地点側と同じように密集した家々の間を細い路地が通っているが、道幅や家のサイズと間隔はやや広めだ。
こちら側は町の側面に広がる田畑に接しており、主に農家の人が住んでいる地区らしい。
入り組んだ道を迷いなく先導する健太と、その後ろに続くグループの子供達とコウ。幾つかの角を曲がったところで、前方から別の子供達のグループがやって来た。
「よーぉ!」
「おーう!」
「うぇーい!」
相手グループの男の子達が片手を上げて挨拶すると、すれ違いながら互いの近況報告を行う。
「これからしゅうごう地点?」
「うん、俺らせんくつ神社まで行ってきた」
「こっちは水路トンネルのむこうまでいく予定」
「あー水路トンネルなー、あっちなー、今なー、カメラの人いっぱいだぞ」
「あー……」
そんな子供達のやり取りは、コウや他の大人達から見ればほのぼのしているが、当人達は至極真面目な情報交換である。
行き先が被っている他のグループが無い事などを確認して別れると、相対していたグループは商店街の方へ。コウが参加している健太達のグループは当初の予定通り畑方面に向かった。
路地を抜けると一気に視界が開ける。広く連なる畑の一帯と隔てるように、住宅街をぐるっと囲む形で敷かれた道はまだ新しく、黒々としたアスファルトが真っ直ぐ伸びている。
健太達のグループはそのまま道に隣接している畑の畦道に入った。連なる畑の先には、線路が走る高い柵付きの土手が横切り、山の奥まで続く。
この土手には、広い間隔で水路用のトンネルが設けられている。水路と言いつつも普段は水が通っておらず、大きな溝でしかない。
線路の下を通るこの水路用トンネルは、土手の向こう側へ渡る近道になっている。小さい子供しか通れない秘密の抜け道だが、大人も這いずれば何とか潜れるくらいの大きさ。
その水路用トンネルの一つを通って向こう側まで行き、山を右手に見ながら駅を目指し、駅の傍の踏切を渡って小道から町に戻るというのが、健太達にとって定番の探検コースだ。
(うん?)
土手に向かって子供達と畦道を駈けている時、どこからかケイの思念を感じた。
思念が飛んで来た方向を見ると、少し遠く畑を挟んだ先。駅と町を繋ぐ小道の途中、分かれ道のところにある道祖神の前にケイが立っていた。
地元の子供グループに交じっているコウを見掛けたケイが、それも情報収集の一環かと考えて、『まさに諜報のプロフェッショナル』と賛辞を浮かべているのが分かった。
コウは子供達に交じった事にそこまでの意図は無かったのだが、とりあえずケイにはピースしておく。
走りながら畑に向かってピースするコウの謎行動が面白かったのか、子供達は意味も分からないままマネっこ遊びとしてコウの動きをトレースしていた。
(なんでも遊びにできるんだなぁ)
最後尾で畑に向かってカニポーズを決めている風船持ちの智輝を見て、コウは微笑ましい気持ちになるのだった。
そうして畑の畦道を駆け抜けたコウ達は、土手の下に敷かれた線路沿いの道に入ると、そこから水路用トンネルに潜り込んだ。
この線路の下を通る水路用のトンネルだが、実は土手の外側は低く造られており、高低差から途中で強い下り坂になっている。
滑り台のように滑り下りたら、上るのは難しい。一方通行の抜け道であった。
土手の内側――町の方は畑が一面に広がっていたが、外側は仙洞谷町を囲む山脈が聳える。生い茂る樹木しか見えない緑一杯の山肌。その麓は、結構深い谷に続いている。
急に自然の雄大さを感じさせる壮観な景色が広がっているのだ。
(この景色のギャップはおもしろいなぁ。後で美鈴におしえてあげよう)
仙洞谷町レポートの良い取材ネタが拾えたと満足気なコウ。
「よーし、じゃあ駅をめざすぞー」
「「「おーー」」」
水路用トンネルを抜けたここは折り返し地点。健太の再びの号令でグループは駅に向かって歩き出した。
右手に雄大な景色を眺めながら線路沿いの道を進む事しばらく。前方に小さな駅が見えてきた。相変わらず駅と周辺は撮り鉄の撮影班で賑わっている。
もう少し進めば踏切があるので、そこを渡って小道に入れば、後は商店街まで進んで路地から住宅街に入り、集合場所の空き地公園に帰還して解散である。
その時、後方から軽い地響きと機械音。空気を切る音が聞こえてきた。
「あ、電車きたよ」
土手の上を走る定時の電車がやって来た。子供達にとっては、毎日決まった時間に通る電車も遊び道具の一つになる。
駅が近付いて速度を落とした電車と並走するように駆け出す子供達。当然、追い付ける筈もないが、一緒に走るのが楽しいのだ。
これも仙洞谷町の、もうすぐ無くなる日常の光景であった。
だがこの日は、いつもとは環境が違っていた。
「ごらああーー! どかんかあほぉーー!」
「何してんだぁああ!」
水路用トンネルの近くで撮影していた撮り鉄グループが、理想の風景に割り込んで来た異物にがなり立てる。
突然知らない大人(子供達から見れば)達に大声で怒鳴られ、驚いた健太達はビクリとして足を止めた。
他の子供グループからこの辺りまで撮影の人達が沢山居るとは聞いていたが、問題無く集団行動していたのに、怒鳴られるとは思っていなかったのだ。
怒鳴った若者等はもっと線路から離れろと喚いているが、土手の下に敷かれた線路沿いの道を外れると、谷に向かって急激に傾斜がきつくなる。柵もないので危険だ。
自然、引率役の健太と薫を中心に集まる子供達。彼等の内心には、ただただ困惑と恐怖が広がる。それを読み取ったコウは、子供達を護るべく前に出た。
「こ、コウ君……」
「だいじょうぶ。ちょっと注意してくるよ」
立ち竦んで泣いている子――希美ちゃんを宥め、不安そうに声を掛ける薫にそう告げたコウは、健太達にこのまま線路沿いを踏切までゆっくり進むよう促してグループから離れた。
コウは、怒鳴って来た相手に注意をしつつ、それで自分に注意を惹きつけ、その隙に健太達をこの一帯から通り抜けさせようと考えていた。
流石に通り過ぎるだけの小さい子供達に無体は働かないだろうと思いたいが、集団心理は時に人を悪魔に変える。
ちょっとした悪戯心で脅かしてきたりする可能性もある。小さい子供にとっては、トラウマ物だ。
堂々と撮影集団に近付くコウ。それに合わせて、健太達はそろそろと線路沿いを通り抜けるべく移動を始めた。
通り過ぎた電車が駅に入り、連続撮影していた者や、ビデオカメラを回していた者達が一息吐く。そうしてここに集まっている撮影集団の中でも、最前列に居るグループに視線を向けた。
一番良い場所を確保しているそのグループは、昨日から頻繁に他のグループと揉めて目立っていた潟辺達のグループを駅周辺から追い出した武闘派? グループだ。
よく見る一般的な撮り鉄達は、どちらかと言えば陰キャ風に思われがちで、沢山のカメラや機材を抱えた賑やかな印象もあれど、皆割り合い大人しい恰好をしている。それは潟辺達も同じ。
が、このグループは見るからにガラの悪い、ごろつき風の派手めな服装をしており、並べている撮影機材は本格的な仕様の高級品ばかり。
まるで国産ファミリーカーや軽の集団の中に厳つい高級外車で乗り付けているかのような、少し浮いた感がある。
それでも撮り鉄集団の中には馴染んでおり、最も良い画が撮れる位置に陣取る彼等の周りには、他のグループやソロで活動している撮り鉄達が、邪魔にならないよう気を使いながら集まっていた。
そんなグループの前に、子供達の集団から歩み出た一人の少年が立つ。
無思慮に向けられる不躾な視線。訝しむ視線。好奇の視線を受け流し、コウは先ほど怒鳴り声を上げた最前列の若い男に注意する。
「今みたいなのはよくないよ」
地元の小さな女の子を泣かせた事を叱るコウ。町の住人の迷惑にもなっているので、自重するよう促す。
物怖じしない子供に鼻白む者や、気まずそうにする者。無視を決め込む者が殆どの中で、親し気に会話に応じる者も居た。
「うんうん、そうだねぇ、駄目だよねぇ」(面白いな、この子)
「……」
コウの諫言に答えは返せど、真剣に受け止めている様子はない。その対応はコウも最初から分かっていたので、一通り注意を促して立ち去ろうとしたところで、攻撃的な思念を捉えた。
次の瞬間、先程怒鳴り声を上げた若者がコウの背中を蹴った。軽く吹っ飛ぶコウ。
周りの撮り鉄集団から、ざわりとした戸惑いの声が漏れる。『おいおい』と思わずその若者に批難の目を向ける者達が居る一方で、相変わらず息を潜めるように無視を決め込む者も多い。
立ち上がって振り返ったコウが、件のグループメンバーから内心を読み取ると――
『――あーそうなるよなぁ――』と納得している思念。
『――こいつらと一緒にされたくないな……――』と苦心している思念。
『――お? 泣くか? 泣くか?――』と面白がっている思念。
『――クソガキがざまぁ!――』と罵っている思念もあった。
コウは冒険者であり、戦士でもある。バラッセの街や、ガウィーク隊の中で学んだ冒険者の心得の一つを思い浮かべると、控えていた力を解禁する為の最終確認に入る。
「今、蹴ったよね?」
結構な勢いで蹴り飛ばされたにも拘わらず、全く堪えた様子もなく淡々とそう問い質したコウは、両手の拳を握って構えながら一歩踏み出す。
その姿に謎の威圧感を覚えて、急速に頭が冷える件のグループメンバー達。
彼等は、無力と侮っていた小さい子供を相手に、一瞬でも怯んでしまった事実と内心の動揺を誤魔化すべく、罵ったり慮ったりして見せた。
「うっせぇな、はよどっかいけ」(くそ、ムカつくガキだ)
「帰れ帰れ」(なんだコイツ……気持ち悪りぃ)
「はよ帰り、危ないからこの人達」(嫌な予感がする……なんか嫌な予感がする……)
冒険者の心得として、ガウィーク達より前に冒険者学校の講師であるエルメール達からも言われた教訓。
『やられたらなるべく倍にしてやり返せ(エルメール)』
『報復は、出来る時こそ確実に(リシェロ)』
こういう時、冷静に宥める役どころである京矢は、まだ異世界にいてツッコミ不在。反撃と報復を決意した高ランク冒険者を止め諫める者がいない。
コウは近接戦闘用に開発していた付与魔術を発現させた。
「――バースト・ファントム」
バンッという空気の破裂する音が響いて土煙が上がると同時に、コウの姿がブレた。瞬間、先程コウの背中を蹴った若者が宙を舞い、機材を巻き込んで激しく転倒する。
若者が立っていた場所には、拳を振り切った姿勢で佇むコウ。
空気の膜を炸裂させて威力や推進力を得る攻撃魔術と付与魔術の合わせ技。
通常なら生身に纏うと怪我をする付与魔術だが、コウは魔力を視認できる特性から、付与対象に負担を掛けない魔力の纏わせ方をマスターしている。
バースト系の近接技はこれまでにも何度か使った事があり、某戦女神の精霊術や某邪神の能力を参考に改良を重ねた結果、『着る身体強化術』のような使い方が出来るようになっていた。
視えない魔術の強化外骨格。召喚獣である身体と完全に馴染ませる事で、身体に負担を掛けず超強化状態を維持出来る。
元来、肉体を持たない精神体が存在の中枢であるコウにしか出来ない技であった。
「蹴られたから殴り返した」
「……」
「……」
コウの報復宣言に静まり返る一帯。件のグループは、リーダー格の若者が子供に殴り飛ばされて伸びている光景に声も出ない様子で固まっている。
「じゃあボクは行くね」
「……」
「……」
報復は済んだ。文句も出ないし、反撃も来ないようなので、コウはお暇を告げて立ち去る。踏切の近くで心配そうに様子を窺っている健太達に合流するべく駆け出した。
「こ、コウ君! 大丈夫だった?」
「おまえ、スゲーなっ!」
引率役の薫と健太が、合流したコウを迎える。薫はコウが暴力を振るわれた事で怪我を負っていないか心配し、健太はコウがその相手をぶっ飛ばした光景を見て凄い凄いと興奮している。
とりあえず彼等を宥めつつ、子供達のグループを本来の探検コースに戻す。
踏切を渡り、小道を通って町の商店街に入ると、路地を通り抜けて出発地点である空き地公園に帰って来た。
子供達は皆、一様にホッとしている。が、まだ不安そうにしている子もいた。
「今日のことは帰ったらご両親にもきちんと話してね?」
コウは子供達にそう促す。遊びの時間に集団行動をさせている町の安全対策は良いと思うが、やはり大人の目が届かないところで何か起きた時に、対処できないのは問題だと感じた。
土手向こうの道に件のグループが居たのは、廃線イベント中の今だけとはいえ、普段から人気の無い場所に子供達だけで近付かないよう対策を講じてもらう必要がありそうだ。
(それと、子供達のケアかなー)
目の周りに泣き痕の残る希美ちゃんは、まだ顔色が悪い。彼女の弟である智輝は、いつも元気な姉が沈んでいるので不安そうだ。彼の風船も心なしかしょんぼりして見える。
とりあえず今日はこれで解散となり、子供達はそれぞれの家に帰宅。コウも民宿・万常次へと足を向けた。
子供達と別れ、路地を抜けて商店街に入ったところで屋台のおじさんに声を掛けられた。風船をくれたおじさんとはまた別の屋台の人だ。
先ほど近くを通った時、子供達の様子がどこかおかしい事を気に掛けていた。
「君、さっきの子達と一緒だったよね? どこ行ってたの?」(何かあったのか聞き出さないと)
「土手の向こう側だよ。撮影の人がいっぱいいたんだけど――」
タイミング悪く電車が来た事で、撮影の邪魔だと怒鳴る人が出たのだと、コウはおじさんが知りたがっているであろう情報を提供する。
ただ、暴力云々の部分は少しぼかしておいた。このおじさんは、余所者に対する敵意が幾分高めだったので考慮した。
「そうか~、そんな事があったのか~。いや、何か元気無さそうだったからね?」
そう言って子供達を心配するおじさんの内心では、今回の廃線イベントで町を訪れている外部の人間全体に敵愾心を募らせていた。
コウに対しても、余所者の子供が町の子供達に悪い影響を与えないか懸念を抱いている。
(まったく、余所者は余所者同士で潰し合ってりゃいいんだ)
表面にはおくびにも出さず、腹の内をそんな呪詛で満たしているおじさんに、コウは肩を竦めて見せた。
万常次に帰って来たコウは、まずはそのまま庭に出て監視活動中のエイネリアに会うと、一連の出来事を記憶から共有して、子供達の心のケアについて訊ねた。
「その場合、ご家族との安全な生活や、友人達との変わらない日常が心の癒しになるでしょう」
普段通りの生活をしながら沢山お話を聞いて貰える環境があれば、大体は大丈夫との事だった。
コウは、相手の思考や心を隅々まで読み取れるが、それで相手の心情を真に理解できているかと問われれば、首を傾げざるを得ない。
読めるのと解るのとはまた別なのだ。故に、過剰な心配をしてしまっていたらしい。
「そっかー」
それよりも、直接的な暴力が振るわれる事件があった以上、何らかの対策をしておいた方が良いとアドバイスされた。
エイネリアの持つ太古の時代の、リゾートホテルでの営業記録の中でも、お客様同士のトラブルやお客様とのトラブルは少なくなかった。
何か問題が起きた時は、責任の所在を明確にできる証拠資料の保全が第一だったという。
「コウ様の記憶情報より、トラブルの概要及び発生地点の座標を確認。周辺の監視機構をサーチ」
エイネリアがこの近辺のネットワークにアクセスして情報を集め始めた。
細かい仕組みは分からないが、エイネリア達ガイドアクターに積まれている魔導通信機能は、地球世界のインターネットにも接続可能。
セキュリテイ等も有って無いようなものらしく、簡単に擦り抜けられるようだ。
「臨時編成車両の先頭と最後尾に稼働中の防犯カメラを確認。該当時刻の映像を参照。状況確認。主要人物の人相確認。行政機関のデータバンクをサーチ。人物、特定しました」
「うわーお」
今回のトラブルに万常次やケイ達を巻き込む事がないように、とれるだけの対策はとっておこうと、コウはエイネリアのアドバイスに従って幾つか指示を出しておいた。
庭から屋内に戻ると、丁度二階から下りてきたケイと鉢合わせた。
「おかえり」
「ただいま。ちょっとトラブル発生」
いきなりそう告げるコウに、何事かと問うケイ。コウは土手向こうの道で起きた出来事を説明する。潟辺達とはまた別の、狂暴なグループと揉めた経緯を話した。
「もしかして、子ども相手に暴力振るって来たのか?」
「うん。背中蹴られたから、殴りかえしてきたよ」
「コウ君、中々アグレッシブだな。つか怪我は? 他の子達は大丈夫だった?」
「だいじょーぶ。ボクは不死身だし、他の子はちゃんと離れた場所に居させたから」
直接の暴力沙汰には巻き込ませていないが、それでもショックを受けた子はいた。なのでコウは、彼等のケアをするべくエイネリアに相談していたと明かす。
「エイネリアは保母さんの経験もあって、元々そういうしごとをしてたんだ」
コウとケイが階段の下でそんな話をしていたところへ、どこから聞いていたのか、ホテルのヘルプに向かう美奈子がやって来て話の輪に入る。
「その人達の事、駐在さんに報せておかないと」(ほんっと信じられない! 迷惑な人達だわっ)
撮影の邪魔だと追い払う行為も問題だが、暴力まで振るったとなればもう、警察沙汰にすべきだと美奈子は憤慨している。
「地元の子供達には手を出されてないから大丈夫だよ」
「コウ君は手を出されたんでしょ? 外から来た子だからって放っておいていいわけないわ」
そう言った美奈子の内心からは、コウの事を本気で心配している気持ちが読み取れた。その事に、コウは思わず目を丸くした。
コウは、商店街のおじさんに事情を話した時から、万常次までの道中で周囲より向けられる思念を読み取っていた。
結果、町の人々は余所者同士の諍いなど放っておけば良い。関わらない方が良いという考えが大半を占めていた。コウに対しても猜疑心を向けていたくらいだったのだ。
が、美奈子は町の子供達の事もコウの事も本心から真剣に想っている。その気持ちは、コウにも理解できた。
「美奈子は優しいね」
「んな……っ!」
何故か頬を赤らめてしどろもどろになる美奈子。ストレートな誉め言葉には慣れていないようだ。
ケイが何かを察したように訳知り顔になっていたので内心を読んでみたが、特に有益な情報はなかった。
まだまだ人の心の機微までは把握しきれていないコウなのであった。
その後、ケイは美奈子をホテルまで送りに出掛けたので、コウは美鈴の記事作りを手伝いに二階の部屋へ。
今日の事件の概要も説明しつつ、町の周囲の景色が線路の土手を境に急激に変化するネタを伝えておいた。
「ボクもカメラもってけばよかったね」
「コウ君が撮ったらなんか写り込みそうなのよね……そこの景色は明日撮りにいくわ」
ノートPCで記事の構成を考えつつ、切ったり貼ったりしてレイアウトを整え、風景写真を入れるスペースを作っている。
件の撮り鉄グループとのトラブルに関しては、あまり心配していないようだ。
「まあ、コウ君だし」
美鈴の場合は、コウに対する高い信頼による、無関心ではなく絶対的な安心感から来る自信の現れが、トラブルに対する関心の薄さであった。
ケイが美奈子の送迎から戻ると、三人で夕食を済ませて商店街の銭湯に向かう。
「わぁ、夜店みたいになってる」
「昼間だとこの雰囲気は出せないよね」
美鈴が「これは良いネタになる」と、屋台が並んだ夜の商店街の様子も記事に加えるべきか検討していた。
銭湯は昨日よりも少し人が増えていたが、広い湯船でゆったりした時間を過ごせた。今日も同じタイミングで上がって万常次への帰路につく。
そしてこれは、ケイの一周目の記憶にもあった事だが、三人で並んで歩いているとやたら若夫婦の家族連れに間違えられた。
「旦那さん、坊ちゃんと奥さんにどうだい」(ここは恋人とかの方が良かったかな?)
「いえ、旦那じゃないです」
「むすこじゃないです」
「兄ちゃん、やり手の嫁さん貰って羨ましいなぁ。一本どう?」(若いってなぁいいねぇ)
「嫁さんじゃないです」
居並ぶ食べ物系の屋台のおじさん達から声を掛けられ捲る。
美鈴は商店街で取材をしている間に一部で子連れの若い女性ジャーナリストと認識されており、共に行動しているケイは必然的にその旦那であると誤認されている。
声を掛けられる度に訂正はしているのだが、あまり効果はないようだ。
「なんだろう? そこまでしっくり見えるんだろうか」
「まあねぇ、こういうのはその場の雰囲気もあるから……」
「わりとてきとーみたいだよ?」
その一方で、美鈴とケイは別段気まずくなるでも照れるでもなく、町の人達の誤認ぶりを冷静に分析したりしていた。
死に戻り能力の副次効果で鋼のメンタルと化しているケイに、酸いも甘いも嚙み分ける熟練ジャーナリストにして世界の理を超える朔耶とも親しい美鈴。それに人外のコウである。
冷やかしにあっても動じる要素が全くない。
そんな余裕ある毅然とした態度がまた『若いけど深い絆で結ばれた家族』感を出していて誤解を加速させているのだが、コウを除いてそこには気付いていなかったりする。
三人で和気藹々とした穏やかな帰り道を楽しんでいたのだが、コウは不意に向けられた不穏な思念を感知した。
賑やかな商店街を通り抜け、静かな住宅街に入る道に差し掛かったところで、数人のグループに囲まれた。
正面に三人、横並びで通せんぼしたかと思うと、背後から四人の人影がバタバタと近付いて来る。近くの塀の陰などに隠れていたようだ。
「え? なに?」
「あ、昼間の狂暴なグループだ」
美鈴が何事かと警戒し、ケイが素早く人影の位置と人数を把握しているのを感じながら、コウは相手の正体を指摘した。
「昼間のって、子供に暴力振るったっていう?」
「そう。何か悪だくみしてるっぽい」
彼等から『賠償』とか『仕返し』などのキーワードを読み取ったコウは、ケイにそう耳打ちした。
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