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よろずの冒険者編

第二十九話:コウの帰還

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 地球世界から異世界はフラキウル大陸にあるナッハトーム帝国の帝都エッリア。その離宮内へと抜け出たコウは、少年型を召喚して実体化する。
 最初の予定より二日早い帰還となった。朝早くだが、京矢も起きているようだ。

「ただいまー」
「おかえり」

 離宮の奥部屋に現れたコウを、京矢が迎える。お互いに近付いているのを、感覚で認識できていた。

「なかなか濃い冒険だったみたいだな」
「うん、けっこうおもしろかったよ」

 レイオス王子の魔導船団に同行して、ガウィーク隊と共に東方オルドリア大陸まで冒険飛行の旅。道中、無人島の古代遺跡でエイネリアやレクティマ、エティス達ガイドアクターとの出会い。
 古代魔導文明時代に起きた大事件の真相など、多くの発見もあった。

 オルドリア大陸の大国、フレグンス王国では、大学院の地下に生きた古代遺跡を発見した。
 現地の考古学者達との合同調査を行い、古代魔導文明の崩壊とその後の災厄が明らかになるなど、古代遺跡の探索において類を見ない成果を上げる事ができた。

 さらにその後、朔耶に連れられて活動の舞台を凶星の魔王騒ぎの原因となった狭間世界の浮遊大陸へと移し、そこでも様々な活躍と成長、お宝を手に入れるなど大冒険を経ての帰還である。

 こちらの世界に居た期間の出来事――冒険飛行とオルドリア大陸での活動は、京矢もコウとの魂の繋がりから殆ど把握しているが、狭間世界での活動に関しては完全に遮断されていた。

「ビンタで戦闘機を堕とす人、初めて見たわ」

 と、直近の記憶に感嘆している京矢。未知の記憶情報を参照していた京矢は最初、興味深げな表情を浮かべていたのだが、段々と困惑の色を深くする。

「何かとんでもない記憶があるんだが」
「さんしょうはじこせきにんで」

「いや、しかし……この記憶はヤバイだろ。プライベートってレベルじゃない」

 狭間世界の邪神・田神悠介と、彼を慕う女性達の中でも同じ屋敷に住まう三人との〇P情報とか。不老不死で三千年以上を生きるリアルロリババァこと里巫女アユウカスと、初老の大神官との秘め事など、色々とヤバい記憶情報が揃っている。
 京矢がそんな事を思っていると、コウが具体的なイメージを浮かべながらこんな事を言った。

「記憶情報だけどねー」
「うん?」

「朔耶の投影装置を使うとねー」
「おいやめろ」

「それを地球製の録画装置に繋ぐと――」
「マジでヤバいからな、それ」

「今なら超高画質で保存できるねっ」
「いや本当にシャレにならん」

 やろうと思えばできる事に気付いた京矢は、コウとそんな掛け合いを楽しみつつ、映像化しても問題無い記憶情報の有効活用法について思いを巡らせたりするのだった。


「それで、アンダギー博士のところへは急ぐのか?」
「ちょっといろいろ渡すモノもあるからね」

 明後日には沙耶華がこちらの世界に来て、入れ替わりに京矢は地球世界に戻る事になる。コウは元々、狭間世界に向かう前は地球世界に遊びに行く予定だったのだ。
 なので今回、京矢の帰郷に合わせてまた地球世界へ移動する計画を立てていた。

「向こうへいく前に複合体のメンテとか調整もしてもらおうとおもって」
「ああ、何か邪神の人に色々新機能付けてもらったみたいだな」

 お土産にもらった小型の飛行機械や携帯拠点などの記憶情報も共有している京矢は、複合体に飛行能力が備わった事を指して、「順調に強化されてるなぁ」と苦笑する。

「キョウヤにはこれを渡しとくね」
「魔導拳銃か。博士には機動甲冑とかも見せるのか?」

「そのつもりだよ」

 博士の研究室では新型ゴーレムの開発も未だ進められている。多少方向性は違えど、狭間世界の人型魔導兵器である機動甲冑は、良い刺激になるかもしれない。

「レイオス王子も古代魔導文明の遺産を大量に持って帰って来るみたいだし、博士の周りも忙しくなりそうだな」
「博士はいつもせわしないけどね~」

 京矢の仕事部屋でもある離宮の奥部屋でしばらく駄弁っていると、報告を受けたスィルアッカが側近のターナとウルハも伴ってやって来た。
 コウが京矢の部屋に現れた時点で、ターナ直属の侍女さんから伝令が走っていたのだ。

「戻ったかコウ。久しいな」
「ただいま。ひさしぶり~」

 今やナッハトーム帝国のほぼ全権を担う立場となったスィルアッカ皇女殿下。女皇帝への戴冠はもう少し先になるようだが、帝国内の掌握も順調に進んでいるようだ。
 そして、コウの選定役を引き継ぐ事を期待されているウルハも、祈祷士としての成長が著しい。

「背が伸びた?」
「ちょっとだけ」

 以前は小柄なコウよりさらに小さかったウルハは、今は目線が合う高さにまで身長も伸びていた。コウの少年型召喚獣は身体が成長したりはしないので、あと半年もすれば追い越しそうであった。

「ゆっくりして行くと良いと言いたいところだが……どうせ直ぐに出掛けるのだろう?」
「よくわかってらっしゃる」
「ふふっ」

 スィルアッカとのそんなフランクなやりとりに、いつもは窘める側にいるターナも苦笑を浮かべる。双方の近況については、京矢と記憶の共有をしているので、お互いに報告の必要は無い。
 コウのお土産話も、後で京矢から詳しく聞く事ができる。ウルハがとてもワクワクしている。コウは一応、お土産話のサブタイトルなど並べておいた。

「実録・古代遺跡の眠る無人島の謎! 数万年の眠りから覚めた魔導人形は何を思うのか。魔導人形に恋をした古の魔術士の生涯と回想。ステルスゴキブリはきょうもはらぺこ。古代魔導文明の瓦解と魔物の始祖。異国の学園と地下の遺跡。英知は時空を超える。そして狭間世界へ――」

「おい、俺のハードル上げるのやめろ」

 魔導船団で経験した出来事をダイジェストで振り返るコウの冒険譚は中々に濃く、記憶を参照しながらでも説明や解説込みで語り部をやるのは大変そうであった。

「あと、スィルにもこれ、渡しておくね」
「これは?」

 コウはスィルアッカにも護身用にと、狭間世界から持って来たポルヴァーティア製の魔導拳銃を渡した。栄耀同盟の本拠地施設などでこっそり回収したものが、まだ何丁か残っている。
 今後も信頼できて且つ、必要そうな相手に配る予定だ。

 グランダールの魔導小銃よりも高い技術と、希少性も備えた異界製の魔導兵器。非常に珍しい武器という部分だけでなく、京矢とお揃いという部分でスィルアッカは嬉しそうにしていた。
 勿論、コウを通じてそれが伝わり、若干挙動不審になる京矢。彼が挙動不審になった理由に気付いたスィルアッカも、赤面しつつ挙動不審に。
 息の合った二人に、ターナはやれやれと呆れ顔で頭を振るのだった。

 グランダールに飛ぶべく屋上へと向かうコウは、その前に本宮殿に立ち寄った。
 スィルアッカ達の内心から、メルエシードにも会ってやって欲しいという想いを読み取れたので、宮殿に滞在している彼女にも顔を見せに出向いたのだ。

「やほー、メル」
「え……っ」

 何時かのように、廊下でふいに声を掛けられたマーハティーニの王女メルエシードは、コウの姿を認めて目を丸くした。

「コウくん! いつ帰って来たの?」
「ついさっきだよ」

 メルエシードの内心には、瞬時に『スィル姉さまズルい!』という、コウの帰還隠蔽を疑う気持ちが湧いていたので、とりあえず否定するようにフォローを入れておいた。

「スィル達がメルにも顔を見せてやってほしいって思ってたから、様子を見に来たんだ」
「え、そ、そうなの?」

 スィルアッカとメルエシードの間で、京矢を巡る攻防はまだ続いているようだ。
 二人は、コウが近くに居れば自分の気持ちをダイレクトに伝えられる事を知っているので、京矢の攻略にはコウの存在も大きな要素となる。

「ボクはすぐグランダールに飛ぶから、お土産話はキョウヤから聞いてね」
「そう……わかったわ。それにしても、相変わらず忙しないのね」

 メルエシードの印象では、コウはマイペースなのにいつもちょこまか走り回って何処かで暗躍している勤勉で掴みどころの無い冒険従者という、大分特異なイメージが確立していた。

――大体合ってるんだよなぁ――

 京矢から同意と納得の念が送られて来たりしつつ、コウは「またね」とメルエシードに手を振って別れると、宮殿の廊下を後にした。

 離宮の屋上にやって来たコウ。この帝都エッリアに滞在していた頃は、よくここから飛び立ったり、帰還するコウと伝書鳥の発着場になっていた。
 現在、馴染みの伝書鳥であるぴぃちゃんは、グランダール領に居るらしい。
 他に伝書鳥を用意してもらう事もできるが、今のコウには鳥の翼に頼らず、自力で飛行する手段がある。

 異次元倉庫から邪神・悠介に貰ったミニミニ魔導船――小型汎用戦闘機を取り出したコウは、試運転がてらこれでグランダールまで飛んで行く。

――いきなりそれ使うのか――
『うん、早めに慣れておきたいからね』

 複合体でも飛べるようになったものの、あちらはまだ不安定だし速度もあまり出ないので、長距離飛行には向かない。
 この小型汎用戦闘機は、悠介から受け取る時に彼の思考から大まかなスペックを把握している。不死であるコウが使う事を前提に調整されているので、かなりの速度が期待できる。

 全長凡そ1ルウカ(1.5メートル)の箱型で角ばった機体。風防の後ろに二本の突き出た操縦桿。跨って座る縦に長い椅子と荷物入れが連なる。詰めれば大人が三人は乗れそうだ。

 早速乗り込んで操縦桿を握る。始動キーなどは使わず、魔力を送り込んで起動する仕様らしい。フオンという動作音がして、機体が静かに浮かび上がった。
 浮力で発生した空気圧により、機体の下から控えめな砂塵が放射状に舞う。

――おおー、何かもうデザインからしてファンタジーってよりSFな感じだな――
『魔導技術って科学技術と変わりないから、線引きも必要無いかも?』

――確かに。もう空想でも幻想でも無いもんな――

 京矢と交信でそんな雑談などしつつ、ミニミニ魔導船を上昇させたコウは、一路グランダールに向けて飛び立つのだった。



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