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狭間世界編

第十五話:報告と気遣い。時々亡霊

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 食事を取りに来た徹夜組労働者や、仕事帰りの者達など、多くの人々の雑踏で賑わうパトルティアノーストの繁華街。その北側に伸びる閑静な通路を、黒髪の少年がテクテク歩く。

 適当な路地で変装を解き、緑髪の少女フョルテから少年型に戻ったコウは、そのまま中枢塔の区画までやって来た。
 常に屋内となる街中では時間の経過が分かり難いが、空が見える屋上区画や中枢塔に上がれば、今が夕刻頃である事が確認出来る。

 跳ね橋を渡り、中枢塔の中を登って神議堂のある空中庭園にやって来ると、日課の散歩に勤しんでいるアユウカスと鉢合わせた。

「おや? 戻ったのかコウよ」
「ただいま~。色々分かったよ」

 昨日、ここを出発した時と丁度同じくらいの時間に帰って来たコウを迎えたアユウカスは、早速何か掴んだのかと、報告を聞くべく神議堂へと誘った。


 神議堂には昨日と同じくシンハ王も待機していた。一緒に報告内容を聞くべく、王の側近と軍の幹部も部隊長クラスの者達が何人か呼ばれている。
 特殊な遠見の魔導具『神眼鏡』を中心に備えた円卓に皆が着いたのを見計らい、シンハがコウに促す。

「では、報告を聞こうか」
「えっとね~」

 コウは昨日ここを出発して街に下りてからの出来事をダイジェストで語りながら、栄耀同盟や覇権主義派について得られた情報を纏めて話した。

「――っていう感じだよ」
「……昨日の今日で、そこまで調べ上げて来たのか」

 ガゼッタ軍の中で暗躍する、若い覇権主義派メンバーの詳細。
 覇権主義派と栄耀同盟の関係と、彼等の目論見。
 パトルティアノーストの内と外に設けられた、未確認の拠点情報。

 おおよそ必要な情報を一日で根こそぎ集めて来たコウに、アユウカスは『期待はしていたが予想以上だった』と、その凄まじい諜報能力に感嘆するやら呆れるやらな表情を浮かべている。

「たぶん、入れ替わった大使の人は、外の拠点に行ったのかも」
「うむ。その可能性が高いのぅ」

 栄耀同盟が切り札にするらしい魔導兵器の組み立ては、パトルティアノーストの外で行われていると推測される。それを聞いたシンハは、直ちに動く事を告げる。

「ならば、奴等が仕掛けて来る前に叩くか」
「シン坊や、白刃騎兵団内に覇権主義派がおると今聞いたじゃろ?」

 現状で討伐隊を組むなどの兵を動かせば、即座に気付かれて対応されるぞとアユウカスが指摘するも、シンハは憮然としながら「それは分かっている」と反論する。

「当然、少数精鋭の隠密で強襲を掛けるつもりだ」
「危険過ぎるのぅ」

 少数の手勢を率いての強襲制圧はシンハの得意とする戦法であり、このパトルティアノーストもそうやって奪還したらしい。しかし、アユウカスは許可出来ないと首を振る。

「それが通用するのは、相手をよく分析して十分な準備が出来ているからこそじゃ」

 覇権主義派だけが相手ならシンハの案も有りだが、栄耀同盟が絡んでいる以上、魔導兵器の事も含めて、こちらが把握していない戦力をどれだけ保持しているか分からない。
 大して鍛えられてもいない一般人並みの人間が、屈強な兵士を一撃で倒せるような武器を所持している可能性がある以上、詳細が分からない内から相手の拠点に乗り込むのは愚策だと説く。

「しかし、対処が遅れればそれだけ奴等の戦力が整うぞ」

 今回明らかになった覇権主義派と栄耀同盟の拠点の位置は、神眼鏡が映し出せる範囲のギリギリ外側。せっかく場所も掴んでいるのに、慎重になり過ぎていては敵を利するだけだと、シンハは攻勢に出る事を主張する。

 そんなガゼッタ王と里巫女アユウカスのやりとりを傍観しているコウは、その間も二人の思考を読み取っている。故に、この場面でアユウカスが欲しがっている提案を投げかけた。

「ボクが行っとく?」

 アユウカスは、シンハが自ら部隊を率いて出る事には反対しているものの、外の拠点を叩く事には同意見であった。問題は誰がその大役をやるかだったのだが、流石にそこまでコウに頼るのはどうかと思って言い出せなかった。
 が、その実、もしやって貰えるなら任せるつもりで『コウの派遣案』を思い描いていた。

「そうじゃな……そこまでしてもらう訳には――と言いたいところだが……頼めるかの?」
「おっけー」

 軽く了承するコウ。表面上はコウの提案にアユウカスが乗った形になっているが、実際はコウが常時思考を読み取っている事を見越したうえで、能動的に受け身で提案を採用するという、互いの立場を考慮して体裁も取り繕いながらの、アユウカスからの『討伐依頼』であった。


 早速出発する事にしたコウは、問題の拠点まで行くに当たってガゼッタの伝書鳥を足に借りる。

「今から出るのかえ?」
「うん、早いほうがいいかなって」

 コウは特に何かしらの準備をする必要が無いので、方針が決まれば後は迅速に現地に飛ぶだけだ。少年型を解除し、何時も憑依していた伝書鳥のぴぃちゃんの数倍は大きいガゼッタの伝書鳥に憑依したコウは、中枢塔の空中庭園から飛び立った。

 あれよあれよという間に覇権主義派と栄耀同盟の共同拠点にコウを送り込む事が決まり、その場から出撃していったコウ(が憑依した伝書鳥)を見送るシンハ達ガゼッタの首脳陣。
 自分で乗り込むつもりだったシンハは、『さては狙っていたな?』とアユウカスに視線を向ける。それを飄々と受け流したアユウカスは、居並ぶ側近や軍幹部を見回して言った。

「さて、ワシらはワシらでやる事があるぞ?」

 コウによってもたらされた情報を元に、中枢塔周辺や軍内部から覇権主義派と関わりのある人物を一斉取り締まりでしょっ引くのだ。
 外の拠点には、恐らく覇権主義派と栄耀同盟構成員の中でも指導者クラスの人間が集まっていると思われる。コウが『頭』を襲撃している間に、こちらはパトルティアノースト内の『手足』を潰す。

「まずは中枢塔の掃除からがええじゃろな」
「ああ。ここは俺と側近で十分だ。街の方は任せる」
「ハッ!」

 シンハの言葉に敬礼で応える幹部達。ここに召集されている軍幹部の者達は、コウからリアルタイムで問題無しの判定を受けているので、安心して任せられる。伝令を使わず、それぞれが直接パトルティアノースト内に点在する軍施設まで走り、信用出来る部下を集めてからの活動開始となる。

「よし、ではやるか」

 円卓の中央に埋め込まれた神眼鏡に映るパトルティアノーストの上空を、コウが憑依した伝書鳥が横切って行くのを横目に、シンハは静かに反撃の指示を出すのだった。


 一方、ガゼッタの伝書鳥に運んでもらっているコウ。
 情報に得た外の拠点は、パトルティアノーストの南西にある森の中で、旧ガゼッタ領の山岳地帯との境目付近にあった。
 深い森に囲まれ、そこそこ大きな湖があり、丈夫な隠れ家を造るのにも適した岩山が切り立つ、中々の好条件が揃った環境のようだ。

(あんまり近づきすぎると、伝書鳥君があぶないよね)

 拠点の出入り口がギリギリ見える高い木の上に降りてもらい、そこからは近くの虫に乗り換えて近付く事にする。伝書鳥はコウから指示があるまで、木の上で待機するようだ。

『じゃあいってくるね』
「ギュワ」

 鷹っぽい鳴き声で応えた伝書鳥は、その場で毛繕いを始めた。コウは木の表面を這っていた小さい羽虫に憑依すると、覇権主義派と栄耀同盟の共同拠点に向かって移動を開始する。
 ふよふよと、風に乗ったり煽られたりしながら飛んで行き、木の枝や葉っぱでカムフラージュしてある入り口前に辿り着く。

(あれ?)

 見た目こそ木枝を組み合わせただけの粗末な隠し扉だが、コウの視点では扉枠に魔力が流れている様子が確認出来た。魔導技術を使った丈夫な防護扉になっているようだ。
 覇権主義派の構成員から読み取った情報では、ここの拠点は設備もかなり整っていて、強力な兵器を製造しているらしいという認識だった。

(もしかしたら、予想より規模がおおきいかも)

 単に洞穴空間を整備して、ポルヴァーティアの魔導技術製品を運び込んだだけの倉庫兼隠れ家、という程度に収まらない、しっかりと造られた施設。魔導技術による工事で地下シェルター並みに開発された、栄耀同盟の前線基地である可能性が高い。
 そう推察したコウは、カムフラージュ扉に張り付くと、精神体の頭を突っ込んで中を確認する。

(ああ、やっぱり)

 そこには、土やゴツゴツした岩が露出する洞穴ではなく、近代的な雰囲気の通路が伸びていた。壁や床はメタリックなデザインの合板で補強され、等間隔に輝く照明は非常に明るく、地球世界に見る電化製品の照明器具にも似ている。恐らく、魔導技術を使った物なのだろう。

 改めてカムフラージュ扉を覆う魔力の流れを観察すると、扉の上の辺りに魔力が小さく溜まっている箇所があった。よく見ると、その部分には不自然な突起物がくっ付いている。

(あれって監視カメラかな?)

 朔耶や彼女の兄が使っている『カメラのレンズ』のような部分は見当たらないが、突起物に張り付いている『表面が滑らかな板』がそれっぽく感じた。インターホンのような設備は無いようだ。
 どこかに入り込めそうな通風孔はないものかと、しばらく周辺を飛び回ってみたが、この小さな羽虫でも潜り込めそうな隙間は見つからなかった。

 精神体で扉を壁抜けして、中で少年型や複合体に憑依する方法で侵入は出来るが、それだと直ぐに見つかってしまう。侵入者の存在を早々に知られると、対策で指令書など重要な書類を処分されるかもしれない。
 物理的に叩く前に十分な情報収集もやっておきたいので、正面突破は最後の手段だ。

(う~ん、ここはアレを使ってみようかな)

 一旦カムフラージュ扉の前を離れたコウは、監視カメラっぽい部分から見えなくなるよう十分に距離を取ると、少年型に乗り換えて異次元倉庫からエイネリアと『究極の魔材』、それにゆったりしたローブを取り出した。

「お呼びですか?」
「うん。ちょっと搦め手つかうから、その服の上からこれ着て?」

 エイネリアが普段から着用している制服衣装は、古代の高級リゾートホテルの託児所でガイドアクター向けに用意されていた、若干メカニカル風な保母さん仕様のメイドドレスである。
 そのままの姿では拠点に近付いても警戒されるだけだが、少し工夫を凝らす事で、労せず扉を開かせる事が出来るかもしれない。

 エイネリアがローブを纏う間、コウは究極の魔材にイメージと魔力を送り込んで小道具を作る。エイネリア達ガイドアクターの所属を変更する時にも使った、古代人の顔を象ったリアル系マスク。その『栄耀同盟の構成員版』である。
 モデルにしたのは、カルツィオ聖堂で潜入工作をやっていた栄耀同盟の構成員の中でも、コウを狙い撃ちした魔導拳銃持ちの壮年男性だ。現在はパトルティアノーストの地下牢にて、他の捕虜達共々厳重に監視されている。
 カルツィオ聖堂では工作員集団の中でリーダー的な動きをしていた事から、組織内でもそれなりの地位にある人物ではないかとコウは推察していた。

 メイドドレスの上にローブを纏った事で、見た目だけ体格がごつくなったエイネリアに壮年男性のマスクを被せて変装完了。この姿でカムフラージュ扉の監視カメラの前に立てば、何かしら反応が得られる筈――という作戦だ。

「で、ボクは案内役」

 コウは少年型召喚獣の髪を少し伸ばして色も緑に変え、少女フョルテの姿になると、異次元倉庫から適当にケープ状の外套を取り出して羽織る。
 ちなみに、エイネリアを壮年構成員役にしたのは、主に身長の問題である。

「じゃあ行こう。しゃべらなくていいからね?」
「分かりました」


 少女の姿に変装したコウが、壮年男性の姿に変装したエイネリアの手を引いて森の中を進み、先程のカムフラージュ扉の前にやって来た。
 周囲に誰かの思考が流れていないか探っていると、カモフラージュ扉に変化があった。どこかに外部スピーカーが付いているらしく、機械音交じりな男の声が響く。

「マーガス! 無事だったのか! 湖畔の施設に向かった部隊は全員拘束されたと聞いたが、他の者達は?」

 同時に、声の主の思考も拾えた。

『――罠か? 一緒に居る原住民の女は、諜報系の特殊能力を使う緑タイプのようだが……――』

 どうやら少女コウの存在に釣り出しの罠を警戒しているようだ。コウは、どこから声が聞こえて来るのか分からないフリを装いながら、呼び掛ける。

「私は覇権主義派のほうから来ました。彼は声を封じられているので話す事が出来ません。ここに来れば協力者の助けがあると、同志の方に聞きました」

 覇権主義派の末端構成員を演じて様子を窺う。

『――ふむ、ガゼッタの反徒共か。我々の助力でかなり上の方まで喰い込めているようだからな。取り調べの隙を突いて脱出させた、というところか――』

 覇権主義派を『反徒共』と呼び、あからさまに見下している思考が読み取れた。やはり自分達の『ガゼッタ乗っ取り計画』に利用する為に、都合の良い現地民感覚で力を貸している認識のようだ。

「そうか、我々の同志をよく助け出してくれたな。今入り口を開ける」

 スピーカーの男はそんな労いの言葉を掛けながら、カムフラージュ扉のロックを解除して少女コウ同志マーガスエイネリアの変装を招き入れようとする。その間も、コウは彼の思考を読み取って情報収集を続けていたのだが――

『――はぁ~、それにしてもしぶとい上に悪運の強いジジィだな。さっさと処刑されときゃいいのに。この支部でまたデカい顔されるのかと思うと辟易するぜ――』

(んん?)

 何やら随分と剣呑な思考が読み取れた。もしや栄耀同盟の中でも嫌われている人物なのかと、更に詳しく探ってみる。

『――おい、どうした?――』
『――ああ、見ろよ。反徒共がマーガスのジジィ連れて来やがった――』
『――ええ……マジか。あの女が原住民の反徒か? 余計な事してくれる――』

 スピーカーの男が、直ぐ傍に居る誰かに声を掛けられて会話を始めたので、そこから話し相手の言葉も間接的に拾えた。そうして分かった事。

 どうやらマーガスという壮年の栄耀同盟構成員は、他の構成員達からはかなり疎まれているようだった。かつてはポルヴァーティアの旧執聖機関体制下で、エリート部隊を指揮する上級将校として活動していた実績を持つ、マーガス特爆第一部隊長。
 栄耀同盟の中では、事あるごとに名誉が栄誉がと昔の栄光を振り翳して絡んではマウントを取りに来るので、鬱陶しがられているようだ。

 既に時代も環境も大きく変化しているのに、いつまでも旧執聖機関のエリート将校気分が抜けない老害同志。栄耀同盟の構成員達のマーガスに対する評価はそんな感じだった。
 マーガスが先の作戦に失敗してカルツィオ勢に拘束されたという一報が届いた時も、ワザと救出部隊を出さず、パトルティアノーストに収容させたらしい。

(作戦の手際とか咄嗟の判断とか、割と優秀っぽい人だったんだけどなぁ)

 実力はあるが、人望が無い人。とはいえ、コウの推察通り組織内ではそれなりの立場にある人物だったようで、カムフラージュ扉が開放されて拠点内部への道が開けた。

 中に入ってしまえばこちらのモノである。コウは少年型の頭に先程の羽虫がくっ付いている事を確認すると、通路に一歩踏み入ったところで変装中のエイネリアを異次元倉庫に取り込んだ。
 次いで少年型も解除し、羽虫に憑依して天井付近に潜伏する。

「なんだ?」
「消えた?」

 スピーカーから、思わず零れたような戸惑いの声が聞こえた。天井にも外の扉上の突起部分にあった『表面が滑らかな板』と同じ物が貼り付けられていて、声はここから聞こえた。
 やはりこれは監視カメラの類らしく、双方向で通話が可能なスピーカー一体型のようだ。

「マーガス? どこにいる?」
『――今、確かに扉を潜ったよな? 外には居ないようだが……――』

 出入り口の内側を見下ろすこの監視パネルの映像から突然コウ達が消えたので、少し困惑している様子が覗えた。

『――付近に怪しい人影は?――』
『――いや、特に異常は無い――』
「マーガース? おーーい」
『――どうする? 警備隊を出すか?――』

 スピーカーの男と、同僚らしき相手が徐々に警戒と緊張を抱き始めているのが分かる。
 このまま施設の中を調べるにしても、『現地の協力者と同志がやって来たと思ったら謎の失踪、侵入者の可能性あり』と疑われているより、『得体のしれない事態が起きている』という混乱状態を演出した方が動き易そうだ。
 そう判断したコウは、さっそく攪乱工作を仕掛ける。

(ちょっと脅かしてやろう)

 羽虫から精神体を伸ばすと、スピーカー一体型監視パネルの傍で小さく魔法を発現。空気を震わせて低い唸り声のような音を鳴らし、叫び声を作って発した。

『よくも見捨てたな! よくも見捨てたな!』

 同時に、装飾魔術で赤い光をパネルに重ねる。

「ひぃい!」
「おい! 何だ今のは!」

 監視パネルの映像がいきなり真っ赤に染まり、呪詛のような叫び声が響いた事で混乱する監視役の構成員達。監視役が居る部屋には、最初のスピーカーの男と、彼に話し掛けた同僚の他にもう一人居るようだ。
 スピーカーから漏れ聞こえる三人分の声と思考も拾いつつ、天井付近を移動する羽虫なコウは、通路を進んだ先に見つけた別の監視パネルにも、同じように空気を震わせて作った音の叫び声をぶつけた。

『裏切ったな! よくも裏切ったな!』
「二番区画の天井マイクだ!」
「通路には誰も居ないぞ!」
「そんな筈は……」

 彼等の警戒と緊張は焦燥と混乱に塗り替えられ、徐々に恐怖の感情も交じり始めている。このまま恐慌状態とまではいかずとも、焦って色々判断を誤ってくれれば、その後の仕事もやり易い。

「非常警報を鳴らそう!」
「馬鹿野郎! そんな事したら、機動甲冑のパーツ生産が止まっちまうだろうが!」
「だが、侵入者が第一防衛ラインを越えてるんだぞ!」

 彼等のそんなやりとりの中に、コウは重要なキーワードを拾った。

(――機動甲冑?)

 その名称には、ポルヴァーティア軍と戦った悠介達の記憶情報の中に覚えがあった。兵士が搭乗して操縦する、大きな甲冑の姿をした人型戦闘兵器。

 丈夫な装甲に強力な武器。滑空能力も備えた高い機動力。非常に汎用性が高く、歩兵として運用出来るので、拠点防衛や都市制圧に対して並外れた威力を発揮する魔導兵器。

(もしかして、栄耀同盟が持ち込んだ切り札って、コレのことかも)

 これは是非とも叩いておかなければ危険だ。そう結論付けたコウは、この施設の生産工場か格納庫を探して、天井の隅をふよふよ飛んで行くのだった。


 一方、監視役達の部屋では、侵入者の存在の有無について議論が交わされていた。
 怪奇現象は鎮まったが、確かに監視パネルに映っていたマーガス部隊長と原住民の反徒の少女は姿を消したまま、依然として行方が分からないのだ。

「さっきのは、本当にマーガス隊長の亡霊か何かなのか?」
「こんなの、上に何て説明するんだよっ」
「……機器の誤作動って事にしとくか……?」

 メインゲートカムフラージュ扉の開閉と入出記録はログに残るので、異常事態が起きた事の報告は必要だが、今の出来事をそのまま報告するというのは、流石に躊躇してしまう。
 何より、先程の二人が本当に亡霊の類だったとすると、今もこの施設内を彷徨っている事になる訳で――

「ああ、ちくしょう……だからこんな未開の大陸なんて来たくなかったんだ」

 監視室で頭を抱えて唸る、監視役の三人組構成員なのであった。



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