111 / 146
オルドリア大陸編
第五話:古代魔導文明の瓦解(後編)
しおりを挟むそんなこんなと順調に探索は進められて昼過ぎ。調査隊が休憩を取りに大部屋まで戻って来ると、朔耶が様子を見にやって来た。
「やほーコウ君。調子はどう?」
「やほー朔耶。色々見つかったよー」
奥の格納庫の事や、様々な資料が記された『発掘品』について、フレグンスの遺跡調査隊が報告している。今後も遺跡調査に王室から予算が出る事を期待しているようだ。
皆が休憩している間、コウは朔耶と連れ立って大部屋を後にする。格納庫や資料室に案内する他、少々個人的な話もする為だ。そんな道中、朔耶がレクティマの近況について報告した。
「ティマちゃんの事なんだけど、向こうのお祭りに参加した事が切っ掛けで記憶がかなり戻り掛けてるらしいわ」
「そうなんだ? じゃあそろそろエイネリア連れて行く?」
「そうね、この探索が一段落したら数日以内くらいには連れて行きたいけど、大丈夫?」
「おっけ~」
エイネリアを狭間世界に連れて行く具体的な時期も定まったところで、コウは時間跳躍について朔耶に話そうとしたのだが、先に朔耶の口からその話題がもたらされた。
「何か、コウ君に時空の歪みの跡が出てるってあたしの精霊が言ってるんだけど、何かあった?」
「実はまた過去に行って来たんだ」
丁度改変のあった通路上を歩いていたコウは、この先にある資料室で精霊石の置物に触れた瞬間、過去の時間に跳ばされた事を説明する。
今歩いている通路は崩れていて通れなかったのだが、過去の時間で通路崩壊の原因、爆破解体に干渉して、戻ってきたら空間が歪んで通路が出現したのだと。
朔耶を資料室まで案内したコウは、件の置物があった場所を指してその時の状況を説明した。
「大丈夫なのそれ?」
とうとうタイムスリップまでやるようになったかと驚いている朔耶は、精霊から色々と解析結果を聞いたらしく、少しほっとした様子で肩を竦めた。
精霊がどういう見解を出したのか訊ねてみると、局地的なものなので世界に大きな影響はないという事らしい。
世界の在り方と時間の流れについて。完全に独立した一つ一つの時間軸世界が平行に並んで進んでいるのではなく、編み込まれた縄のように複数の時間軸世界が束ねられた世界観。
近しい時間軸世界が捻じれ合い、交ざり合いながら一定範囲内に納まる程度の差異の中で、沢山の可能性や、結果を内在した状態で進んでいる。
一本の大きな流れの中で、多少の差異は誤差の範囲に含まれるという。コウがもたらせた改変も、その誤差の範囲に収まるらしい。
「へぇ~そうなんだ? でもどうして急に過去に跳ばされたんだろう?」
「コウ君が無意識にそういう力を使ったとかじゃないの?」
古い時代から存在する『力のある精霊』が宿った精霊石は、その石が何らかの役割を得た精霊石として確立した存在になった瞬間から、精霊の記憶として時間の記録が始まる。
この記録を利用すれば、その石が存在したあらゆる時間の『精霊の記憶』にアクセス出来る。アクセスキーとなるのは、その時間に関連するアイテムなり記録。
コウの時間跳躍については、リゾート遺跡施設でエイネリアが託されたマイローの日誌最終巻。その表紙に埋め込まれていた精霊石の働きで、想定外に過去の時間軸に移動した経験により、精霊石の記憶から特定の時間軸に移動する方法を覚えたのかもしれないというのが、朔耶とその精霊の推論だった。
マイローの日誌最終巻に埋め込まれた精霊石の働きは、そこに書かれてある内容がキーとなり、読んだ者をそれが書かれた時間軸と時空の枠越しに繋ぐというもの。
通常はそのページが書かれた時間の空気を感じられる程度で、時空の枠を越えて干渉し合う事は出来ない。しかし、精神体として自律安定しているコウは、力ある精霊と同じような性質にある為、繋がった時間軸に時空の枠を超えて移動する事が出来た。
流石に自由自在というわけにはいかないが、切っ掛けとなる記録やアイテムを基に、その時代、その場所に存在した精霊石の記録を辿って時間を溯り、局地的ながら過去に干渉して現在に反映させる事になった
「それってつまり、世界を改変してるんじゃなく、ボクが少し違ったすぐ傍の世界に移動してるって事?」
「多分、そういう事みたいよ?」
――さっぱり分からん件――
京矢がお手上げになっているが、精霊の推論と解説を説明した朔耶もよく分かっていないらしく、疑問形で肯定していた。
精霊からの忠告として、原因と結果に少し干渉する程度なら問題無いが、あまりに大きな干渉は時空の歪みやズレを深くしてしまい、コウの存在が大元の時間の流れから外れてしまう危険があるという。
完全に別の運命を辿った世界に帰還するような事になり兼ねないので、そこは気を付けなくてはならない。
今この世界から、コウの存在が消える可能性もあるのだ。
――まあ、結構でかいリスクだよな――
誤差の範囲でもこれだけの影響力があるのだから、それ以上の改変があれば当然とも言えるが、と京矢も納得していた。
時間跳躍に対する見解や推論、注意事項等を一通り話したコウと朔耶は、格納庫までやって来た。
「おーこれは広いわね~。貴重な資料も見つかったって?」
「うん、ここにはでっかい移民船がおいてあったんだ」
この地下施設に住んでいた古代人は、移民船に乗ってどこへ渡って行ったのか。
コウが「宇宙船っぽい見た目の移民船だった」事を告げると、朔耶は「まさか宇宙に脱出してたとかじゃないでしょうね」と冗談めかして言う。
「あの緑色の月に移住してたりして?」
「あながち有り得なくもないかも?」
立体映像に見た古代魔導文明の街並。エイネリアやエティスのようなガイドアクターを製造出来るほど進んだ技術なら、宇宙まで進出していてもおかしくないと。
流石にこの地下遺跡からあの月まで飛んで行けるような乗り物では無かったとしても、この世界のどこかに埋まっていたり、別の地下遺跡に隠されていたりするかもしれない。
「もしみつけられたらスゴイよね」
「確かに、ちょっと感動するかも」
――ロマンを感じるなぁ――
その後、コウは休憩を終えた調査隊の探索に合流し、朔耶も後日またエイネリアを迎えに来る事を告げて地上に戻って行った。
そうして、この日の夕方には地下遺跡の合同調査が終了。発見した『発掘品』は地上に運び出し、大学院の校庭に設けられた特設会場に並べられた。
明日からはレイオス王子がフレグンス側と交渉してこの『発掘品』の中から何点か譲ってもらい、その後は帰国の準備に入る。
レイオス王子達が交渉している間、コウとガウィーク隊は改めて王都の観光を楽しむ事にしていた。
「今回は戦闘も無い楽な探索だったが、中々面白かったな」
「ですな。実入りも名声も悪くない、特殊な仕事になりました」
学院生の野次馬を見渡したガウィークが伸びをしながら言うと、マンデルが今回のような特異な探索は滅多にないでしょうと同意する。
「少し退屈な部分もあったが」
「でも、色々と凄い発見もあって興奮しますね」
あまり身体を動かす機会が無かったと、ダイドは腕の鈍りを気にするが、留守組だったディスは遺跡で得られた数々の古代文明の知識は凄いお宝だと羨んだ。
「レフちゃんも楽しめた?」
「……アレが出なくてよかった」
終始警戒を崩さなかったレフにカレンが訊ねると、彼女は若干疲れた様子ながらも、ホッとした雰囲気でそんな事を言っていた。
「みんなお疲れ~」
コウはここで魔導船団の皆とは別行動に入り、地球世界に遊びに行く予定を立てていた。京矢の帰郷に合わせて異次元倉庫から世界を渡るつもりである。
オルドリア大陸で活動出来る期間も、残りわずかであった。
1
お気に入りに追加
1,293
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。