上 下
98 / 106
しょうかんの章

第九十七話:共闘作戦

しおりを挟む



 魔族国ヒルキエラの首都ソーマに潜入し、無事カラセオスとの交渉も成功させた呼葉達。その後、ヴァイルガリンの討伐に向けて共闘できないか話し合う事になった。

「実を言うと、我々も穏健派を決起させる準備をしていた」
「え、そうだったんですか?」

 破竹の勢いで侵攻していたヴァイルガリン派の魔族軍が、聖女の出現により一気に押し戻されている現状を鑑みて、動くなら今かとタイミングを計っていたらしい。
 ジッテ家が中心となり、ソーマに在住する穏健派魔族達を取り纏める謂わばクーデター計画。

 当初は第一師団を始め各主力軍が出払っている隙に、という案も上がってはいた。
 が、第三師団で名誉兵長の役職を与えられたルイニエナを筆頭に、穏健派魔族家の従軍者が一纏めにされていた事を『人質の意味合いを兼ねている』と見る者も多く、行動を起こせなかった。

 ヴァイルガリンが玉座の間に籠もり始めた頃、ルイニエナ達が遠征先の街で捕虜となった。その報せを受け、人質の憂いが解けたのならと再び決起に向けて動き出そうとしていた。
 そんな矢先に、『縁合』の接触があったのだと。

「そして今、ヴァイルガリンの躍進を躓かせた当人がここに居る」
「これ以上ないってタイミングですね」

「うむ。今動かずにいつ動くのか」

 呼葉の相槌に頷くカラセオス。二人のやり取りに、ルイニエナが困惑の表情を浮かべる。

「おとうさま、初耳です……」
「スマンな。心配を掛けまいと黙っていた事が裏目に出てしまった」

 カラセオスは、娘が首都ソーマにおけるジッテ家の扱われ方に心を砕いていた事は分かっていたつもりだったが、まさか出奔してまで侵攻軍に加わるとまでは思わなかった。

「結局、私のした事は……」
「いや、結果的に良い陽動にもなった」

 家の名誉を護るどころか、父達の邪魔をしただけではないかと落ち込むルイニエナを、カラセオスは慌ててフォローする。

 ジッテ家の令嬢が従軍した事で、ヴァイルガリン派に『カラセオスは現魔王に下った』と考える者が出始めた。結果、監視の目が甘くなった。
 お陰で計画に参加している穏健派の人々が動き易くなったのだ。

「穏健派と関わりある家の者達が一纏めにされていた事も、良い方向に働いたな」

 決起計画に与していなかった家からも、密かに参加を打診して来る者が増えた。
 無論、全員をそのまま受け入れる訳にはいかない。その中から本当に信用できる者だけを選定して各々役割を与えていく事になるので、どうしても計画の進行には時間が掛かる。

「だが、聖女殿なら確実な人選をしてくれるのだろう?」
「なるほど。全面的な協力には私の祝福選定も当てにしてるんですね」

 事情は分かったと、呼葉はカラセオス達魔族の穏健派組織による決起計画に参加を表明した。


 首都ソーマと『縁合』の隠れ里が近い事もあってか、連絡員も増強されて情報の伝達がこれまで以上にスムーズになり、決起計画の詳細や段取りを練る会合が頻繁に開かれるようになった。

 ヴァイルガリンの討伐には聖女部隊――六神官達とも合流しておきたい呼葉は、穏健派組織の会合にも積極的に参加して作戦案に意見を出していた。


 作戦の概要は、まず聖女部隊が正面からソーマに迫る。その混乱に乗じて各『地区』の穏健派が決起。
 中央街道と繋がる大正門を制圧して、招き入れた聖女部隊と合流。この際、義勇兵部隊が南の裏門を急襲するなどの後方攪乱で援護する。

 後はそのまま聖女部隊の進軍爆走で崖丘の城を目指し、ヴァイルガリンを討伐するという流れ。呼葉が聖女部隊と合流するまでの間に、カラセオス達がソーマ城内の道を切り開く予定だ。

 味方の穏健派魔族には、『志を共にする者』の条件で呼葉の祝福が与えられるので、裏切り者が紛れ込んでも直ぐに制圧できる。
 呼葉はジッテ家で過ごす間、祝福による選定を通して穏健派魔族の人達と親睦を深めた。


 そうして全ての準備が整い、作戦決行の日がやって来た。
 深夜を過ぎた現在、首都ソーマは厳戒態勢にある。中央街道の先に聖女部隊が現れた事で、首都に滞在している各魔族軍部隊に非常招集が掛かっており、街全体が騒然としていた。

「大正門を制圧する部隊は配置についた。我々も出るぞ」

 ジッテ家の屋敷のエントランスで装備の最終確認をしていた、ソーマ城への斬り込み露払い精鋭部隊が、カラセオスの言葉に力強く頷く。

 『縁合』の隠れ里を出た義勇兵部隊は首都ソーマまで半刻の地点で待機しており、ツェルオが指揮を執る為に向かっている。

 呼葉は隠密中のシドを連れ、『縁合』の連絡員を案内役にソーマの大正門を目指す。
 カラセオスから私兵を護衛につける提案をされたが、辞退した。聖女部隊の皆と合流してからは速攻で動くつもりなので、咄嗟の連携が取れない人を交ぜるべきではないとの判断からだ。

「みなさん、お気を付けて」

 ルイニエナ嬢に「ご武運を」と見送られて、呼葉と共闘するカラセオス達穏健派組織の精鋭部隊は、それぞれの役割を果たすべく深夜の首都へと飛び出して行った。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...