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しょうかんの章
第九十七話:共闘作戦
しおりを挟む魔族国ヒルキエラの首都ソーマに潜入し、無事カラセオスとの交渉も成功させた呼葉達。その後、ヴァイルガリンの討伐に向けて共闘できないか話し合う事になった。
「実を言うと、我々も穏健派を決起させる準備をしていた」
「え、そうだったんですか?」
破竹の勢いで侵攻していたヴァイルガリン派の魔族軍が、聖女の出現により一気に押し戻されている現状を鑑みて、動くなら今かとタイミングを計っていたらしい。
ジッテ家が中心となり、ソーマに在住する穏健派魔族達を取り纏める謂わばクーデター計画。
当初は第一師団を始め各主力軍が出払っている隙に、という案も上がってはいた。
が、第三師団で名誉兵長の役職を与えられたルイニエナを筆頭に、穏健派魔族家の従軍者が一纏めにされていた事を『人質の意味合いを兼ねている』と見る者も多く、行動を起こせなかった。
ヴァイルガリンが玉座の間に籠もり始めた頃、ルイニエナ達が遠征先の街で捕虜となった。その報せを受け、人質の憂いが解けたのならと再び決起に向けて動き出そうとしていた。
そんな矢先に、『縁合』の接触があったのだと。
「そして今、ヴァイルガリンの躍進を躓かせた当人がここに居る」
「これ以上ないってタイミングですね」
「うむ。今動かずにいつ動くのか」
呼葉の相槌に頷くカラセオス。二人のやり取りに、ルイニエナが困惑の表情を浮かべる。
「おとうさま、初耳です……」
「スマンな。心配を掛けまいと黙っていた事が裏目に出てしまった」
カラセオスは、娘が首都ソーマにおけるジッテ家の扱われ方に心を砕いていた事は分かっていたつもりだったが、まさか出奔してまで侵攻軍に加わるとまでは思わなかった。
「結局、私のした事は……」
「いや、結果的に良い陽動にもなった」
家の名誉を護るどころか、父達の邪魔をしただけではないかと落ち込むルイニエナを、カラセオスは慌ててフォローする。
ジッテ家の令嬢が従軍した事で、ヴァイルガリン派に『カラセオスは現魔王に下った』と考える者が出始めた。結果、監視の目が甘くなった。
お陰で計画に参加している穏健派の人々が動き易くなったのだ。
「穏健派と関わりある家の者達が一纏めにされていた事も、良い方向に働いたな」
決起計画に与していなかった家からも、密かに参加を打診して来る者が増えた。
無論、全員をそのまま受け入れる訳にはいかない。その中から本当に信用できる者だけを選定して各々役割を与えていく事になるので、どうしても計画の進行には時間が掛かる。
「だが、聖女殿なら確実な人選をしてくれるのだろう?」
「なるほど。全面的な協力には私の祝福選定も当てにしてるんですね」
事情は分かったと、呼葉はカラセオス達魔族の穏健派組織による決起計画に参加を表明した。
首都ソーマと『縁合』の隠れ里が近い事もあってか、連絡員も増強されて情報の伝達がこれまで以上にスムーズになり、決起計画の詳細や段取りを練る会合が頻繁に開かれるようになった。
ヴァイルガリンの討伐には聖女部隊――六神官達とも合流しておきたい呼葉は、穏健派組織の会合にも積極的に参加して作戦案に意見を出していた。
作戦の概要は、まず聖女部隊が正面からソーマに迫る。その混乱に乗じて各『地区』の穏健派が決起。
中央街道と繋がる大正門を制圧して、招き入れた聖女部隊と合流。この際、義勇兵部隊が南の裏門を急襲するなどの後方攪乱で援護する。
後はそのまま聖女部隊の進軍爆走で崖丘の城を目指し、ヴァイルガリンを討伐するという流れ。呼葉が聖女部隊と合流するまでの間に、カラセオス達がソーマ城内の道を切り開く予定だ。
味方の穏健派魔族には、『志を共にする者』の条件で呼葉の祝福が与えられるので、裏切り者が紛れ込んでも直ぐに制圧できる。
呼葉はジッテ家で過ごす間、祝福による選定を通して穏健派魔族の人達と親睦を深めた。
そうして全ての準備が整い、作戦決行の日がやって来た。
深夜を過ぎた現在、首都ソーマは厳戒態勢にある。中央街道の先に聖女部隊が現れた事で、首都に滞在している各魔族軍部隊に非常招集が掛かっており、街全体が騒然としていた。
「大正門を制圧する部隊は配置についた。我々も出るぞ」
ジッテ家の屋敷のエントランスで装備の最終確認をしていた、ソーマ城への斬り込み精鋭部隊が、カラセオスの言葉に力強く頷く。
『縁合』の隠れ里を出た義勇兵部隊は首都ソーマまで半刻の地点で待機しており、ツェルオが指揮を執る為に向かっている。
呼葉は隠密中のシドを連れ、『縁合』の連絡員を案内役にソーマの大正門を目指す。
カラセオスから私兵を護衛につける提案をされたが、辞退した。聖女部隊の皆と合流してからは速攻で動くつもりなので、咄嗟の連携が取れない人を交ぜるべきではないとの判断からだ。
「みなさん、お気を付けて」
ルイニエナ嬢に「ご武運を」と見送られて、呼葉と共闘するカラセオス達穏健派組織の精鋭部隊は、それぞれの役割を果たすべく深夜の首都へと飛び出して行った。
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