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カルパディア編
第二十七章:監視パネルと通信具
しおりを挟む寝室のベッドで横になろうとした悠介は、ふと思い立って半身を起こすと、カスタマイズメニューを開いてコウ少年の拠点施設で手に入った魔導製品シリーズのレシピを呼び出す。
監視パネルと、それに連動するモニター部分。材料は屋敷の倉庫に合板や鉱石など、先の戦争で鹵獲した機動甲冑や汎用戦闘機をバラした分が資材として保管してあるので、そこから組み上げる事が出来る。
(魔力の道を繋げれば、パネルに映った景色がモニターの方に映像として表示される、と)
魔力の通り道は配線のように何かを埋め込む訳ではなく、魔力を通す素材で物理的に繋がってさえいれば届くという、割とアバウトな仕様になっていた。
その上で、魔力をより通し易い素材と通し難い素材を使う事で、魔力の伝導率を操作して高性能化を図る等の工夫を凝らせる。
一つの物体に複数の魔導製品を繋げると、魔力の干渉を起こして効率が悪くなるし、誤作動を起こす危険性もある。
その為、魔導技術文明で使われる建築資材には、ある程度の規格統一がされていた。
壁や床、天井に使われる資材は、魔力を通し易い部分と通し難い部分に分かれた『魔力路』になる部分が埋め込まれているのだ。
そういった資材を加工するにも専門の技術や設備が必要になるのだが、カスタマイズ・クリエートを使えば作成は難しくない。寧ろ得意分野である。
(上手く動作するなら、そのまま監視カメラとして使えるな)
カスタマイズで部屋の壁に監視パネルを貼り付け、手元のモニター部分まで魔力の道を通してみる。
「お、映った」
更に、監視パネルを部屋の外、廊下、広間、玄関などに移動させてみたが、問題無く映し出す事ができた。
悠介邸は、屋敷全体がカスタマイズ可能な範囲に入っているので、瞬時に何処にでも監視パネルを置く事ができる。
(あれ? そうすると……)
カスタマイズ可能な範囲で言えば、ここサンクアディエットの街も全域が干渉範囲に入っている事を思い出す。
そのまま監視パネルのカスタマイズ検証を続けた結果、ほぼサンクアディエットの何処にでも監視パネルを置いて、寝室からモニターできる事が分かった。
もしやと思い、シフトムーブ網で繋がっているガゼッタのパトルティアノーストに置いてみたら、これも問題無く繋がった。距離による減衰などは無いようだ。
「マジか……」
「ユウスケさん? どうかしましたか?」
悠介があまりの検証結果に唖然としていると、寝室にやって来た寝着姿のスンが声を掛ける。
「エライもんを手に入れてしまった」
「?」
そこからは検証も兼ねつつ、実用性のある道具に昇華させるべく、カスタマイズでの研究開発に没頭する悠介。
スンは作業の邪魔をしないように、悠介にそっとお茶を用意したりしてサポートする。
(確か音声の双方向通信もできた筈だから、これをこう組み合わせてやれば――……)
そうして小一時間ほど作業に集中した悠介の手元には、四角い鏡にも似た、大型タブレットのような板状の物体――二つのモニターパネルが組み上がっていた。
モニターパネルの淵には、監視パネルがくっ付いている。
「これを適当な壁に埋め込んで……と。スン、そっちのパネルの前に立ってみてくれ」
「はい」
寝室の扉を挟んだ両側の壁に二枚のモニターパネルを埋め込み、それぞれを魔力路で繋ぐ。すると、悠介の前にあるモニターパネルにはスンの姿が映り、スンの前にあるパネルには悠介の姿が映った。
「え? これって……」
「よしよし、ちゃんと映ってるな」
目を丸くしたスンの顔をモニターパネル越しに見て、実験の成功を確信した悠介は、カスタマイズ画面を弄ってスンの前にあったモニターパネルを移動させる。
ガゼッタの中枢塔の屋上、空中庭園に立ったり転がったりしている柱の一つに埋め込んだ。悠介が見ているモニターパネルには、小さな花々が咲く草原と夜空の景色が映っている。
「これって、外の景色ですか?」
「うん、ガゼッタの空中庭園に繋いでみたんだ」
「ええ!?」
横から覗き込んで訊ねたスンは、ガゼッタの中枢塔の屋上の景色だと説明されて、流石に驚きを露にする。
悠介とスンがそんなやり取りをしていると、モニターパネルからサクサクという草原を踏み歩く音が聞こえて来た。そして、モニターパネルに人影が映し出される。
『なんじゃこれは』
「お、アユウカスさん、ちーっす」
悠介の力の波動を感じたので何事かと様子を見に来たアユウカスは、空中庭園の柱の一つに、悠介とスンが映る鏡の様な物体が張り付いているのを見つけて困惑していた。
シフトムーブ網や資材化地帯など、カスタマイズ能力の影響が及ぶ繋がった場所なら、監視パネルを設置する事で何処からでもその場所の様子を観る事ができる。
監視パネル付きのモニターパネルを設置すれば、双方向に会話が可能な通信具として使える。悠介がこの魔導製品とカスタマイズ能力との組み合わせを説明すると、アユウカスは興味深そうに感心をみせた。
『なるほどのう。やはりお主が絡めば随分と技術が進むようじゃ』
「まあ、いずれポルヴァーティアから入って来る魔導製品で同じ事はできるんで、先んじてやっておけば技術開発も捗るかなって思ってるんですが」
悠介は、各国の指導者同士を繋ぐホットラインの設置計画を持ち掛ける。
『ふむ、それは……丁度よかったかもしれん』
「丁度よかった、とは?」
ふいに考え込む様な仕草で零したアユウカスの呟きに、悠介が何の事かと訊ねるも、アユウカスは首を振って回答を避けた。
『一応、国として体裁を繕う段取りは踏まねばな。ユースケや、恐らく近いうちにこの道具を乞われる時がくるじゃろうから、それまで精進を重ねておるとよいぞ』
此方も準備しておくからと、何やら確信めいた言葉とウインクをくれるアユウカスに、悠介は小首を傾げて見せるのだった。
その後は、監視パネルを複数同時に設置して、一つのモニターパネルで切り替え表示が可能かを試したり、双方向通信具の使いどころや、どこまでこれらの道具を開示するかについて考えた。
寝室にやって来たラサナーシャとラーザッシアにも相談し、ついでにパルサも交えて話し合う。
「宮殿には、お前の言う『魔改造』で、かなり手を入れてあるのだろう? 宮殿内に街の各所を監視できる部署でも用意してみれば良いのではないか?」
パルサは、今後フォンクランク国を魔導技術で発展させるなら、ただでさえ巨大な街である首都サンクアディエットの全域を管理できるシステムは作っておくべきだと勧める。
管理監視は行き過ぎれば問題も出て来るであろうが、現状でも街の治安を担う衛士隊の人手が足りていないのだ。
普段、衛士の巡回では目の届かないような場所の監視網構築は、大いに役立つ筈だと。
「そうですね……魔導拳銃と組み合わせたりすると無人で制圧とかもできそうだけど、一先ず防犯監視パネルの設置と、宮殿に管理室を置く方向で考えてみようかな」
「……ふむ、魔導拳銃との組み合わせか。重要施設の出入り口や廊下に監視パネルと迎撃設備を併設する事はままあるが、お前の場合はそれを任意の場所に出したり消したりできるのだな」
監視パネルの設置による諜報は勿論、武器の併用による暗殺も容易になるなと指摘するパルサに、悠介は肩を竦めて見せる。
「その発想はあったけど、やる気は無いよ」
「ふふ。手札は多いに越したことは無いぞ」
そんな悠介とパルサのやり取りを横目に、三人で寄り添うラーザッシアとラサナーシャにスンは、寝酒の準備などしてノンビリ過ごす。
今回のような話題ではあまり参考になる意見を出せそうにないと、早々に話し合いから離脱した彼女達は、難しいお話をしている悠介達の隣でささやかなガールズトークなどを始めるのだった。
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