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カルパディア編
第十一章:波乱の帰国
しおりを挟む襲撃犯の身柄の扱いが決まり、ブルガーデンの代表が魔導技術に詳しい大使三人に声を掛けていた時、遠くで雷鳴のような連続した音が響き渡った。
それからしばらくして、砲撃グループを無力化したという朔耶とコウが帰って来た。どうやらそちらも栄耀同盟の工作員とガゼッタの覇権主義勢力メンバーによる混合編成だったらしい。
「全員拘束して現場に転がしておいたから」
「お疲れ様です」
聖堂の警備兵達が回収に向かっている。砲撃グループの中にすり替わった大使達は居なかったらしい。
コウが目撃したという三人組は朔耶の索敵にも掛からなかったので、もう聖堂の周辺には居ないだろうとの事だった。
一通り報告を聞き終えると、コウが会議室の真ん中の開けた空間に立つ。そしておもむろに荷物を取り出した。
「はいこれ」
「うおぅ」
空間から滲み出るかのように現れる『対空光撃連弓・改』の巨体。会議室に突如出現した対空砲に、各国代表や警備兵達からも思わずどよめきがあがる。
悠介は驚きつつもカスタマイズメニューを開くと、コウが回収してきたソレをこの場で解体して資材に戻した。
「ああ~、うちの大砲が~」
アユウカスがうらめしそうに呻くが、悠介はスルーした。ガメられた対空砲の没収である。
そんなこんなと一段落ついたカルツィオ聖堂の会議室にて。大使達の受け入れ先も決まり、各国代表達は帰国の準備に入る。
「皆さん、今回は特別にこれを配布するので、使って下さい」
悠介はブルガーデン、トレントリエッタの一行と、両国に受け入れられる大使達の道中の安全を願って、カスタマイズで調整した『回復の指輪』をプレゼントした。
「おぉ、これは……」
「ユースケ殿が宮殿衛士隊に配っているという神技の指輪ですな」
治癒系水技のような回復効果を持つ指輪。特殊効果付きの道具などという代物は、悠介が創り出す以外ではまだカルツィオにも、ポルヴァーティアにも存在しない。希少な品を贈られ、各国代表やポルヴァーティアの大使達は大層喜んだ。
ちなみに、十日に一つしか作れないという建前の制作縛りについては、旧ノスセンテス国に親善大使として出向いた時に使った『実は以前から作って持っていた』という抜け道を利用した。
そうして皆で会議室を後にする。
聖堂の出入り口に向かいながら、朔耶が今後の方針と提案を告げた。
「あたしは悠介君達の帰国に合わせてアルシアちゃんのところに行って来るから、コウ君はアユウカスさんについてあげて?」
「おっけー」
今回、悠介とアユウカスが直接狙われ始めたという事で、朔耶も警戒レベルを引き上げる事にしたそうだ。
アルシア達『暁の風』を中心にポルヴァーティアの有力組織に働き掛ける事で、栄耀同盟の本拠地に圧力を掛けるつもりらしい。
また、コウと朔耶は交感という念話のような方法で長距離交信が可能なので、コウをガゼッタに送り込んでおけば、何か起きた際にコウから朔耶に連絡が行く。
一つ問題があるとすれば、悠介は当初コウをヴォレット姫に紹介するつもりでいたのが、あまりにも強力な読心能力故に、機密保護を考慮して宮殿への招待を断念したという事実。
コウがアユウカスについてガゼッタに渡れば、中枢のあらゆる秘密を知られてしまう事になる。
「ふむ、まあそこはよかろう」
「いいんすか?」
割とあっさり了承したアユウカスによると、今のガゼッタの中枢には、知られて困るような秘密はあまりないそうな。
(まあ、ここで結構内情ぶっちゃけてるからなぁ……)
もはや今更なのかもしれないと、悠介は静かに納得した。
駐車場にやって来ると、砲撃で崩れた瓦礫で馬車や動力車の一部が埋まっていた。
「うわー、これはひどい」
「なんて事だ……」
カスタマイズ画面に捉えていたリアルタイム修繕範囲外の部分は、予想以上に被害を受けていたようだ。
悠介のカスタマイズ能力に捉えている影響範囲は一応、カルツィオ聖堂全域に及ぶが、マップアイテムとして記録しているのは聖堂を立てた当時の部分のみになる。
なので、後から建てられた部分があった場合、改めてカスタマイズ・クリエートの対象物として取り込まなければ、カスタマイズ画面に表示されない。
カスタマイズ能力が及ぶ対象物に隣接していれば、そこから影響範囲を広げて付近の地面や物体を取り込む事も可能だが、かなり大雑把になってしまう。
建物の増築部分などは、改めて直接触れて取り込む方が確実で無難なのだ。
「こりゃ瓦礫の撤去からだな」
「ボクも手伝うよー」
傾いた馬車の屋根を押し潰している壁石に触れ、建物の破損個所を見上げながら呟く悠介に、コウが協力を申し出る。
「では、我々も応援を呼んできますので――」
「いや、ここは俺達だけで大丈夫だから、他に崩れてる場所が無いか見て来てくれないか?」
悠介は人手を集めようとしていた警備兵にそう言って確認に走らせると、瓦礫を撤去する作業の準備に取り掛かった。
ちなみに、闇神隊が乗って来た動力車はかなり丈夫な造りなので、特に破損している様子は無い。その隣に停めていたアユウカスの汎用戦闘機は、動力車が盾になって無傷だった。
大使達が乗って来た輸送機は建物から少し離れた位置に降りていたので、これまた無傷。そして馬車を引く馬達も、厩舎はさらに離れた場所にあったので全頭無事であった。
「とりあえず、瓦礫をどかして馬車の修理だな」
「馬車だけ先にとりだすね」
コウがそう言って瓦礫に埋まった馬車に触れると、その車体が唐突に消えた。異次元倉庫に取り込んだのだ。
馬車が消えた分だけ出来た隙間によって瓦礫の山が崩れそうになるが、悠介はここで秘密兵器を投入した。
(こういう瓦礫の処理とか、魔導重力装置を使えば手っ取り早いかも)
左手に装着した篭手型の装置から青白い光の帯が伸びて壁石の大きな塊に触れると、壁石の塊がふわりと宙に浮かんだ。
「た、隊長、なんすかそれ――つーか馬車消えませんでした?」
「この前作った魔導重力装置って道具だ。馬車はコウ君が特殊能力で確保したから問題無い。あ、そこに置いていくから、場所開けてくれ」
悠介は驚くフョンケ達に、まとめて説明しつつ瓦礫の塊を一ヵ所に集める。左手を翳して大きな石壁を浮かせながら運ぶ悠介に、朔耶からは『理力?』等とツッコまれた。
瓦礫の撤去はコウも異次元倉庫を駆使して手伝ってくれた。悠介とコウの作業は、石壁が浮かんで移動したり、消えたり現れたりという何とも摩訶不思議な光景になっていた。
やがて瓦礫の撤去作業が一段落すると、悠介はさっそくそれらを資材化して建物の欠けた部分を埋めていく。
「これでよし、後は馬車を修理したら帰国だな」
「うちの動力車、こっちに回しときやしょうか?」
「ああ、頼む」
ヴォーマルに動力車の移動を任せて帰国の準備を進めておいてもらいつつ、ブルガーデンとトレントリエッタの代表達が乗って帰る馬車の修理に取り掛かる。
コウが適当に並べた馬車を、悠介が魔導重力装置で持ち上げて、適切な順番に並べ直す。コウはアユウカスの汎用戦闘機を見に行ったようだ。
(これとこれはブルガーデン、残りはトレントリエッタの馬車だな)
トレントリエッタの馬車をカスタマイズ画面に捉えて修理をしていると、ヴォーレイエが近付いて来ておもむろに訊ねた。
「ねえ、さっきのアンタのアレって、もしかしてアタイの?」
「ああ、参考にさせてもらったよ」
魔導重力装置の魔力の帯は、二つの神技を宿したヴォーレイエの得意技で、炎技と風技を駆使した『炎帯』も参考にしている事を明かす。すると――
「そ、そうかい」
何故か照れた様子でモジモジし始めるヴォーレイエ嬢。近くで見ていたフョンケがニヤニヤしながら一言。
「隊長流石っす!」
「やかましわ」
良い笑顔で拳を握って見せるフョンケに「邪推すんな」とツッコミつつ修理を続けていると、自分の汎用戦闘機の状態を調べ終えたアユウカスが手伝いにやって来た。
「どれ、ワシはブルガーデンの馬車の方を直してやろうかの」
「もう完全に使いこなしてますね」
共鳴能力によって、邪神の近くにいる間は同じ能力を使う事が出来るアユウカスは、ポルヴァーティアとの戦いにおいて、悠介の隣でカスタマイズ能力を駆使したサポートを行っていた。
今では悠介本人と遜色ないレベルで、カスタマイズ・クリエート能力を使いこなしている。悠介と並んでカスタマイズ画面を浮かべたアユウカスは、すすすっと寄って来て小声で耳打ちした。
「シフトムーブ網を、パトルティアノーストに直接繋いである」
「いいんですか? それ」
悠介も小声で返すと、アユウカスはふっと笑みを浮かべて答える。
「お主だから問題無い」
イザという時の切り札として、悠介がいつでもパトルティアノーストに干渉出来る環境を整えたのだという。――身内のごたごたに巻き込む気満々である。
しかしそこはそれ、悠介としても良い関係を築けているシンハやアユウカスがガゼッタを治めてくれているほうが都合が良いので、シンハ達を援護する事に異存はなかった。
「それでは、皆さん道中お気をつけて」
「貴殿等も、またお会い致しましょう」
ブルガーデンとトレントリエッタの代表に、それぞれの受け入れる大使達を乗せた馬車隊一行を見送る。
そして悠介達も、朔耶を加えた闇神隊とヒヴォディル達フォンクランク代表。ポルヴァーティアの大使も連れて動力車に乗り込んだ。
「それじゃあまた。シンハにもよろしく」
「うむ、お主らも気を付けてな」
「またねー」
悠介が運転席から挨拶すると、アユウカスとコウが応えた。アユウカス達ガゼッタの代表一行は、捕虜を運ぶ為にポルヴァーティアの大使達を運んで来た輸送機隊を頼るらしい。
カルツィオ聖堂の駐車場を出発し、少し離れた場所にある石畳の上で停車。カスタマイズ画面を開いてシフトムーブ網を表示させ、石畳の入れ替えでサンクアディエットの外周付近へと移動する。
「実行~。はい到着~」
「相変わらず便利よねー、それって」
個人の転移術と違い、場所はほぼ固定ながら移動させる物体の種類や質量、回数等も制限なしで使えるシフトムーブには、鬼のような機動力を持つ朔耶からも感心された。
「ははは、まあ最初に準備するまでが大変なんですけどね。このシフトムーブ網を敷いたのもガゼッタの人海戦術だし」
四大国の中でどこよりも早く帰国を果たした悠介達は、今回の報告会で起きた出来事や知り得た様々な情報を上に報告するべく、ヴォルアンス宮殿へと動力車を走らせるのだった。
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