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152 秘めごと(1)

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「激動すぎる……」

 ぐったりと寝台に沈み込むレーファの頭を、清潤がゆったりとした手で撫でてくれた。

「四凶の窮奇と戦って、封印して、『楔』が母様で、本当の父様が麒麟の第二王子だった……っていうのが、一日で……」

 気持ちが追い付かない、と弱音を自分から吐露する。
 母は亡くなったはずだった。
 けれど、そういえば葬式をした記憶がない。ヴェルティスとサンディラに訊いても、そのあたりはたしかに曖昧だった。

「ローツィ様の葬式? 言われてみれば……いつだったか……?」
「そういえば、病気ってわけじゃなかったよな……?」

 という具合で、亡くなったということにしておいてほしい、と言っただけではない反応だったから、彼らが嘘を言っているわけではなさそうだった。
 だから幻惑の術を使ったのだろう。これは竜王たちと話して出た結果だ。ただ、何故そんなことをしなければならなかったのかの理由は不明のままだけれど。

「……皇上がすごかったね」
「一目お会いできたのだから、良いでしょう」

 天国からの地獄、そして半狂乱。そういうのを間近で見ることはほとんどない。まさかこの世で一番偉い竜で見ることになるとは思わなかった。
 あの宴席の場にいたのが大公と竜王たちだけで良かったと思う。玉皇上帝の威厳のためにも。

 『楔』がレーファの母、つまり玉皇上帝の姉である竜吉だったとわかった瞬間「姉上!!」と叫んで制止も聞かずに駆け寄ったかと思うと華麗に避けられ、彼女は麒麟に跨がり「いずれまた」と言い残して去って行った。
 止める間などまったくなかった。

「……いろいろ聞きたかったのに」
「きっとまたお会いできる機会はあるでしょう。……そう言ってくれたでしょう?」
「…………うん」

 成人したにも関わらず、母を慕うなど女々しかっただろうか。
 思い直しつつ、清潤の腰に抱きつく。
 清潤は優しく頭を撫でてくれながら口を開いた。

「それに、手紙をもらったのでしょう?」
「うん。……でも読むのは明日にする……」

 手紙は白竜王宮の侍女が預かってくれていた。いつそんな手紙を用意したのか、今となってはわからない。

(……読みたいのはやまやまなんだけど……)

 今日は自分の中の許容量を大幅に超えている。手紙はさらに超えさせてきそうだ。
 清潤は笑って頷いてくれた。そうして、またゆったりとした手つきで頭を撫でてくれる。

(……気持ちいい)

 レーファの隣に寝そべると、抱き寄せてくれる。
 彼の宵闇色の瞳に見つめられるのは、少し落ち着かない。

「……少し、触れさせてください」
「ん。いいよ。……頑張ったもんね」

 たまには清潤を甘やかすようなことを言えば、彼は嬉しげに口許を綻ばせ、レーファに口付ける。手のひらは頬を撫でてから首筋を撫でた。
 レーファも清潤の頬を撫でる。それから髪を。清潤の髪は上等な絹にも似た艶と滑らかさがある。触れているのは気持ち良かった。

「ふ、ふ……くすぐったい」

 顎から喉、首筋へとくちびると舌で辿られるとひくりと震える。清潤の手のひらはくちびるを追いかけるように喉から鎖骨を撫で、襟の中へと忍んでいく。
 ひんやりとした手のひらは少し乾いている。その手が徐々に熱を孕んでいくのだと知っていた。

「……ン……」

 もう一度くちびるにくちびるで触れられる。
 一度放されると、間近でじっと見つめられた。

「なに……?」
「……もっと、触れたくなったので。疲れているとはわかっているのですが……抱いてもいいですか?」
「…………いいよ」

 レーファの意思を無視しないところが清潤のいいところだと思うが、こういう時は少し、いやだいぶ、恥ずかしいと思ってしまう。

(してほしくないわけじゃ……ないけど)

 自分もしたいと思うのは、はしたないことではないだろうか。
 清潤は表面的にはそんなことを思っている様子はなさそうだが、本当はわからない。

(訊く……のも、違うような……)

 帯を解かれて胸や腹筋に口付けられるのはくすぐったい。
 そういえば、最初から清潤に触れられるのがイヤだったわけではないと思い出した。
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