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150 戦い(5)
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「おわ、った……?」
レーファの呟きを拾ったように、布を深くかぶった人物が窮奇に打った楔の岩の上で紙を宙に撒く。あれは符だとすぐに気付いた。
封印ではなく、固定術の符のようだ。岩の楔が抜けないようにするのだろう。
窮奇に刺さっている針のような岩のすべてに貼り付く。それから、窮奇の周囲の地面にも貼り付き、結界を形成した。
あれではきっと誰も窮奇の傍には近付けない。
窮奇の悪しき気も外に漏れないに違いない。
「すごい……わっ?」
抱きしめていた清潤の体重がかかって、慌てて支えた。前回の封印同様、力を使いすぎたのかもしれない。程度でいえば、あの時以上の全力を注いだのだろうから、清潤はしばらく動けない可能性もある。
布をかぶった人物に、滄寧と洪聖が近付くのが見えた。何か話しているようだったが、レーファがいる位置からは何を話しているのか聞こえない。
洵澤も傍にやってきたが、三人で三人のやりとりを見守ることになった。
「……あ、こちらへ来るね」
清潤もこの頃になってようやくなんとかひとりで立つ。それでもレーファの手は放していなかったが。
「遅れてすまなかった」
凜とした声。女性の声だ。
「途中で妨害を受けたせいで遅れた。だが粘ってくれていたお陰で無事に封印できた。……仕上げをするから少し待っていてほしい」
彼女は懐から出した分厚い符の束を撒くと、それらはすぐ傍の山へ飛んでいった。
そうして彼女が何かを呟き、いや唱え、右手を山に向けて軽く持ち上げる仕草をすると――。
「……えっ?!」
思わず声が出たのも仕方がない。
山がひとつ持ち上がったのだ。
それから手の動作で窮奇の上へと移動させると、その上にゆっくりと下ろす。
これらの動作で地が震えることもなかった。
「これは……見事な……」
「『楔』とは皆、このような力を持っているのか?」
ぐったりした滄寧を肩で支えている洪聖が布の人物へ問う。洪聖のほうが立ち回っていたはずだが、体力は滄寧よりあるのかもしれない。
女は首を傾げた。
「どうだろうな? その可能性はあるが、他の『楔』を知らないから比較はできない」
そうして自分を取り巻くような竜王やレーファをぐるりと、何かを確かめるように見る。
(……あれ……?)
目が合った、と思った。そうして微笑まれたような。
咄嗟に手が彼女の布を掴んだ。そうしなければ彼女はこの場を去っていたかもしれない。
「宴を! 宴を、するので! あなたが主賓になるから、ぜひ参加してください!」
他に引き留める理由はあったと思うが、咄嗟に浮かんだそれらしい理由はそれしかなかった。
「そう……そうです。ただで『楔』を返したとあっては我ら竜王の名折れ。あなたを招待したい。そうでしょう?」
清潤の問いは三竜王へそれぞれ投げかけられた。
「三哥の言う通りです。ただで帰したとあっては皇上にも叱られます」
「あなたが何者なのかも、その時に言ってくれればいい」
「とびっきりの馳走を用意しよう! 要望はあるか?」
彼女は竜王たちの勢いに圧されたようでもあるが、「ふふふ」と忍び笑いを漏らす。
「……では、馳走になろう」
レーファの呟きを拾ったように、布を深くかぶった人物が窮奇に打った楔の岩の上で紙を宙に撒く。あれは符だとすぐに気付いた。
封印ではなく、固定術の符のようだ。岩の楔が抜けないようにするのだろう。
窮奇に刺さっている針のような岩のすべてに貼り付く。それから、窮奇の周囲の地面にも貼り付き、結界を形成した。
あれではきっと誰も窮奇の傍には近付けない。
窮奇の悪しき気も外に漏れないに違いない。
「すごい……わっ?」
抱きしめていた清潤の体重がかかって、慌てて支えた。前回の封印同様、力を使いすぎたのかもしれない。程度でいえば、あの時以上の全力を注いだのだろうから、清潤はしばらく動けない可能性もある。
布をかぶった人物に、滄寧と洪聖が近付くのが見えた。何か話しているようだったが、レーファがいる位置からは何を話しているのか聞こえない。
洵澤も傍にやってきたが、三人で三人のやりとりを見守ることになった。
「……あ、こちらへ来るね」
清潤もこの頃になってようやくなんとかひとりで立つ。それでもレーファの手は放していなかったが。
「遅れてすまなかった」
凜とした声。女性の声だ。
「途中で妨害を受けたせいで遅れた。だが粘ってくれていたお陰で無事に封印できた。……仕上げをするから少し待っていてほしい」
彼女は懐から出した分厚い符の束を撒くと、それらはすぐ傍の山へ飛んでいった。
そうして彼女が何かを呟き、いや唱え、右手を山に向けて軽く持ち上げる仕草をすると――。
「……えっ?!」
思わず声が出たのも仕方がない。
山がひとつ持ち上がったのだ。
それから手の動作で窮奇の上へと移動させると、その上にゆっくりと下ろす。
これらの動作で地が震えることもなかった。
「これは……見事な……」
「『楔』とは皆、このような力を持っているのか?」
ぐったりした滄寧を肩で支えている洪聖が布の人物へ問う。洪聖のほうが立ち回っていたはずだが、体力は滄寧よりあるのかもしれない。
女は首を傾げた。
「どうだろうな? その可能性はあるが、他の『楔』を知らないから比較はできない」
そうして自分を取り巻くような竜王やレーファをぐるりと、何かを確かめるように見る。
(……あれ……?)
目が合った、と思った。そうして微笑まれたような。
咄嗟に手が彼女の布を掴んだ。そうしなければ彼女はこの場を去っていたかもしれない。
「宴を! 宴を、するので! あなたが主賓になるから、ぜひ参加してください!」
他に引き留める理由はあったと思うが、咄嗟に浮かんだそれらしい理由はそれしかなかった。
「そう……そうです。ただで『楔』を返したとあっては我ら竜王の名折れ。あなたを招待したい。そうでしょう?」
清潤の問いは三竜王へそれぞれ投げかけられた。
「三哥の言う通りです。ただで帰したとあっては皇上にも叱られます」
「あなたが何者なのかも、その時に言ってくれればいい」
「とびっきりの馳走を用意しよう! 要望はあるか?」
彼女は竜王たちの勢いに圧されたようでもあるが、「ふふふ」と忍び笑いを漏らす。
「……では、馳走になろう」
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