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147 戦い(2)

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 封印のあった場所を見渡せる位置に構えていたが、地鳴りと揺れとともに封印が、山が、瓦解していくのがわかった。

「レーファ」

 隣にいた清潤に支えられ、なんとか転ぶのを免れる。
 そして見た。



 土の中から巨大な山が生じるのを。



 山肌から新たな山が生じるのを。



「あれは……」
「……あれが」
窮奇きゅうき……」

 皆、どこか呆然として呟く。

「予想よりでかいな……」

 山から山が産まれたと思ったほどの巨躯。あれと戦うのか、とレーファなどは怯んだくらいだ。
 けれど難しい顔をした洪聖がまず駆けだした。空気に呑まれなかったのはさすがだ。窮奇はまだ全身を現していない。できる限り早急に力を削ぎたい。

 慌てるより先に、洵澤・滄寧・清潤が呪符を取り出し、空に撒くように術を撃っていく。別の場所から麒麟が撃った弱体化の符も見えた。まとめて四つ撃ったのは、四肢に対するものなのかもしれない。
 レーファは息を整える。なるべく、場に呑まれないように。冷静でいることが、まずできることのひとつだ。

(みんなで無事に、皇城に帰る……!)

 ぎゅ、と清潤の手を握る。ツガイ同士は触れ合っていたほうが力が増すというのが一般的な認知らしい。それに倣って、清潤と接触していることに決めた。
 レーファと清潤ならばともかく、滄寧と洪聖はツガイであっても攻撃の要。戦っている最中、ずっと接触していることは難しそうだ。けれど、ボディタッチは比較的容易のようだ。

 だから滄寧を経由する形で洪聖に力を集める。

 集まる力を受けやすくするための道具として、国宝のいくつかを借りてきたらしい。腰に巻いた布や沓もそのひとつだという。

「ッ……この、音……!」

 いななきとも取れる不快な高音には耳を塞ぎたくなる。レーファですらそうなのだから、間近で戦っている洪聖と滄寧は相当だろう。防御符は、果たして鼓膜まで護ってくれるだろうか?

 一太刀、二太刀。

 剣舞を踊るように軽やかな動きで偃月刀を振るっている洪聖が見えるが、決定的なダメージには程遠い様子。おそらく、皮膚が硬い。
 そして、大地を揺らした巨大な生き物、虎に似た胴体、象のような四肢、大鳥のような羽根、猿面の化け物が全容を現した。

 ばさりと羽根を羽ばたかせると、立っているのが困難なほどの衝撃波が周囲に放たれる。

 レーファは脚を踏ん張って堪えた。これはたしかに近隣の街や村の者たちを避難させて正解だ。
 窮奇の羽ばたきが視界に入る。

「羽根……あいつ、飛ぶの?!」
「させません」

 清潤が四枚の符を投げ撃つ。符は窮奇の四肢に貼り付く。
 それから清潤はレーファと繋いだ手に指を絡め、手を上げたかと思うとスッと下に下げた。途端、浮き上がろうとした窮奇の体が音を立てて地に落ちる。動物が潰れたみたいな醜い声があがった。

 その隙に洪聖が偃月刀の一撃を羽根の根元へ叩き付ける。半分ほどが裂け、黒い血が上がったのが見えた。

 隙を見て洵澤が楔型にした氷の柱を窮奇の後ろ足に一本突き立てる。また醜い悲鳴が上がるが、窮奇はもがくだけでのたうつこともできない。

 このまま押し勝てるのでは。

 誰もが――少なくともレーファはそう思った。
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