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141 来客(4)

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「あなたのような不精者が術院から出てくるのですから、何かあると思うほうが普通でしょう。本当に用があったのがレーファになのか、私になのかはわかりませんが」
「察して頂いているようなので、申し上げます。……さらに検査を進めてみても良いでしょうか?」
「え? でもサンプルがないんでしょ?」

 つい今、シェイユウがその口で言ったばかりではないか。
 レーファの疑問に、榻牀の隣にいる清潤は目を細めた。レーファの肩に手を置く。

「……白竜王宮にあると踏んできたのですね?」
「さすが、陛下は察しが良くていらっしゃる……」
「阿諛追従は止めなさい」

 レーファは清潤とシェイユウを交互に見比べる。
 ふたりのやりとりでは何かが端折られた話だ。

(ええと……?)

 つまりシェイユウはすべての種族で検査をしたいのにサンプルがない種族がある。
 術院にサンプルはないが、清潤が持っていると何らかの方法で知り、それが欲しいと言いに来た――ということだろうか。
 清潤はまた溜息を吐く。深い溜息だ。

「あなたのことです。サンプル採取の道具も持ってきているのでしょう?」
「はいっ」

 場にそぐわぬ元気な返事に、レーファは苦笑した。なんとなくではあるが、このシェイユウという男を理解できたと思う。憎めない男だ。それはこういう場合、有利に作用するだろう。

「血液ではなくおそらく細かい錆となっているものですが……まあ、あなたならどうにかするでしょうね」
「してみせます」
「……誇らしげにされても困るのですが。ついてきなさい」

 レーファも、と手を取られて立ち上がる。
 小宮を出ると廊下をいくつか曲がり、綾綺殿りょうきでんと呼ばれる宝物庫へ向かう。
 セキュリティの都合で、開けられるのは代々の白竜王だけだ。中身の宝物に関しても白竜王の裁量に任されている。
 左右に飾られた宝物たちは、武具の他に衣服や装飾品、文房具もある。来歴などの札もないのは、なくても困らない――白竜王が知っていればいいだけ――だからだろう。
 清潤はとある短剣ふたつの前で止まった。レーファとシェイユウも足を止める。

「この短剣は双剣です。他にふた組の双剣があったそうですが、それぞれを竜、麒麟、鳳凰の一族が所有しています。……シェイユウ術院長、床を唾液で汚さぬよう」
「は! はいっ、大丈夫です!」

 口許を袖で拭うあたり、怪しかったのだろう。清潤の隣にいたレーファは袖で顔を隠すと笑いを堪えた。愉快な男だ。

「いま、表面は綺麗に見せています。ですが血の盟約を交わした以上、血液の名残はあるはずです。それが目当てでしたね?」
「はい」

「麒麟の剣と鳳凰の剣、それぞれ拭き取れば残滓といえども採取できるでしょう。結果はどのくらいでわかりますか?」
「一ヶ月はかかるかと」
「良いでしょう。成果を期待します」
「は!」

 ふたつの剣の刃をそれぞれ綿で拭ったのを確認すると、用事は済んだとばかり、シェイユウはあっさりと退出していった。

「彼は自分の興味のあることについては有能なんですけれどね……」

 はぁ、と清潤が珍しく深い溜息を吐き出す。
 疲労している理由は問いかけなくても明らかだった。レーファも、そこはかとなく疲れを感じている。

「…………そっか……」

 嵐のようだった。
 苦笑すると両腕を上げて背を伸ばす。

「昼餉を食べましょうか」
「そうだね。お腹空いた」

 綾綺殿を後にすると、サンディラとヴェルティスが待つ白月殿へと足を向けた。
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