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129 卜占(6)
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「…………皇国って、軍はないの?」
以前も疑問に思ったことを思い切って問う。
清潤は首を横に振る。
「軍があったら民を徴兵せねばなりませんし、民が傷付くでしょう? 戦うのは諸侯以上の――もちろん貴族王族を含めた我々の仕事です。最悪の場合は皇上も戦います。有事に際し戦うことが貴族の義務です」
そのために貴族は民たちより高い能力を有しているんですよ、と清潤は微笑む。
(貴族が、民のために戦う……)
ヒトの感覚だと、王侯貴族たちは安全な場所で戦いの始まりを告げて終わりを見届け、あるいは見届けずに逃げるから、清潤の言葉には衝撃を受けた。
「あなたのことは私が護ります」
沈黙をどう受け取ったのか、清潤に抱き寄せられて膝の上に乗せられる。何度もそうされているから慣れてしまいそうになるが、さすがにまだ少しは恥ずかしい。
けれど、落ち着いてしまう。
(……清潤も、傷付いたらイヤだな)
けれど清潤を『護る』なんて大口を叩けるほどの技術も力も今の自分にはないとわかっている。
(せめて、もっと術を扱えるようになろう)
炎の符術を扱うのに、巨大な火柱を上げてしまうとは思わなかった。魔術の才能はほとんどなかったのに、符術などの才はあるらしい。
これも母の血のお陰なら、いずれ感謝することもあるかもしれない。
「他に知っておきたいことはありますか?」
「ツガイが二組出現したら、『楔』っていうのも必ず現れるの?」
もうひとつの疑問を口にすれば、清潤はこくりと頷いた。
「その理解で合っています。過去何度か出現したのはあなたと私のようなツガイで、これは『柔のツガイ』とも言われます」
「……何かを護るとか?」
「主にはこの国――いえ、各王国や、大きく言えば大陸も。『四凶』は封じられていますが、結界の綻びが生じないようにするための存在です。四百年前に現れたのはこちらです」
四凶の存在・本体がこの世に顕現する前に封じられるのがこのツガイなのだという。
「対して、もう一組のツガイは『剛のツガイ』と呼ばれます。『四凶』に対する、剣のような存在ですね。顕現してしまったものを再封印するために必要な存在で、再封印自体は『楔』が行います」
なるほど、と頷いた。つまり盾と剣が揃わないと戦いの要である『楔』が出現しないし『四凶』に対抗できないということか。
思ったより大きな流れの中にいるのかもしれない。不安を感じていると、清潤に抱きしめられた。
「ひとりではありませんから。大丈夫ですよ」
「……ん」
頷くと、清潤にもたれて茶を一口飲む。
戦い方や力の使い方はきちんと覚えたい。けれど今はもう少しだけ清潤のぬくもりを感じていたいと思った。
以前も疑問に思ったことを思い切って問う。
清潤は首を横に振る。
「軍があったら民を徴兵せねばなりませんし、民が傷付くでしょう? 戦うのは諸侯以上の――もちろん貴族王族を含めた我々の仕事です。最悪の場合は皇上も戦います。有事に際し戦うことが貴族の義務です」
そのために貴族は民たちより高い能力を有しているんですよ、と清潤は微笑む。
(貴族が、民のために戦う……)
ヒトの感覚だと、王侯貴族たちは安全な場所で戦いの始まりを告げて終わりを見届け、あるいは見届けずに逃げるから、清潤の言葉には衝撃を受けた。
「あなたのことは私が護ります」
沈黙をどう受け取ったのか、清潤に抱き寄せられて膝の上に乗せられる。何度もそうされているから慣れてしまいそうになるが、さすがにまだ少しは恥ずかしい。
けれど、落ち着いてしまう。
(……清潤も、傷付いたらイヤだな)
けれど清潤を『護る』なんて大口を叩けるほどの技術も力も今の自分にはないとわかっている。
(せめて、もっと術を扱えるようになろう)
炎の符術を扱うのに、巨大な火柱を上げてしまうとは思わなかった。魔術の才能はほとんどなかったのに、符術などの才はあるらしい。
これも母の血のお陰なら、いずれ感謝することもあるかもしれない。
「他に知っておきたいことはありますか?」
「ツガイが二組出現したら、『楔』っていうのも必ず現れるの?」
もうひとつの疑問を口にすれば、清潤はこくりと頷いた。
「その理解で合っています。過去何度か出現したのはあなたと私のようなツガイで、これは『柔のツガイ』とも言われます」
「……何かを護るとか?」
「主にはこの国――いえ、各王国や、大きく言えば大陸も。『四凶』は封じられていますが、結界の綻びが生じないようにするための存在です。四百年前に現れたのはこちらです」
四凶の存在・本体がこの世に顕現する前に封じられるのがこのツガイなのだという。
「対して、もう一組のツガイは『剛のツガイ』と呼ばれます。『四凶』に対する、剣のような存在ですね。顕現してしまったものを再封印するために必要な存在で、再封印自体は『楔』が行います」
なるほど、と頷いた。つまり盾と剣が揃わないと戦いの要である『楔』が出現しないし『四凶』に対抗できないということか。
思ったより大きな流れの中にいるのかもしれない。不安を感じていると、清潤に抱きしめられた。
「ひとりではありませんから。大丈夫ですよ」
「……ん」
頷くと、清潤にもたれて茶を一口飲む。
戦い方や力の使い方はきちんと覚えたい。けれど今はもう少しだけ清潤のぬくもりを感じていたいと思った。
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