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118 紅竜王の宴(1)
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紅竜王から宴会の誘いが来たと清潤が仏頂面で教えてくれた翌日、レーファは清潤とともに紅竜王宮を訪れていた。
まだ日が残る時間のこと。
参加者は四人の竜王とレーファだ。
「主催が我だからな。皆いつも通りラクにして、好きなものを食べて飲んでくれ」
紅竜王が酒杯を掲げるのにあわせ、全員が軽く酒杯を挙げた。
「乾杯!」
「乾杯」
口々に乾杯を言い、酒杯に口を付ける。レーファには口当たりがすっきりして飲みやすい果実酒を注いでもらっていた。飲み過ぎないように、とは事前に清潤に言われていたが、たしかに飲み過ぎてしまいそうだ。
酒菜は紅竜王の領地で収穫された穀物や捕れた魚や獣の肉を料理されたものがメイン。
レーファとして嬉しいところは、紅竜王の領地には香辛料の産地が含まれているところだろうか。
香り付けのためのもの、風味を変えるもの、辛みを足すもの。この中で好きなものといえばやはり、辛みを足すものだろう。
「美味しそう……!」
香辛料を惜しみなく使われて焼かれた肉を、牛乳で溶いた小麦粉を薄焼きにしたもので野菜と一緒に包み、なるべく上品にかぶりつく。
子羊の肉はレト王国でもよく食べた肉のひとつだが、肉自体も甘みがあり、香辛料がそれを引き立てている。噛んだ時に溢れた肉汁も美味しかった。
「清潤、これは何?」
レーファが指したのは、頭がついたままの魚だ。レーファが知っている魚より、ずいぶん大きい。
「あれは海の魚で……料理としては焼酔魚といいます。まるごとの唐辛子を何本かと酒や昆布出汁を主体としたタレに漬け込み、タレをつけながら弱火でじっくり焼いたものです。……身は少しクセがありますが柔らかいですし、チシャの葉でくるんで食べると食べやすいですよ」
「辛いんだね?」
「ええ。紅竜王が作ったなら、間違いなく」
「竜王が料理するんだ?」
「気が向いた時にしているそうですよ」
なるほど、酔狂な竜王もいるのだ。
思ったが口に出すことはせず、代わりに焼酔魚を清潤の言った通りにサラダ菜のようなチシャの葉にたくさん取った。くるくると巻いて、がぶりと食いつく。
「ん…………」
美味しい、とは口で言わなくても清潤には伝わってしまったらしい。なんだか慈愛の目で見られた気がする。
(……食いしん坊と思われてなければいいけど……)
美味しいものは好きだしよく食べるのも事実だが、決して食いしん坊ではない、と思いたい。
「おお、レーファ殿は辛いものもイケるクチか」
赤を基調にした上衣を纏っているのはもちろん紅竜王だ。清潤とは反対側のレーファの隣に座り込む。
「改めて、紅竜王の洪聖だ。よろしくな。洪聖で構わない」
「レーファです。よろしくお願いします」
「……本来なら白竜王がレーファ殿を連れて挨拶回りをしそうなものだがなあ?」
言葉の割に表情は笑っている。咎めるつもりはないのだろう。
レーファとしては初耳でもあったが。
まだ日が残る時間のこと。
参加者は四人の竜王とレーファだ。
「主催が我だからな。皆いつも通りラクにして、好きなものを食べて飲んでくれ」
紅竜王が酒杯を掲げるのにあわせ、全員が軽く酒杯を挙げた。
「乾杯!」
「乾杯」
口々に乾杯を言い、酒杯に口を付ける。レーファには口当たりがすっきりして飲みやすい果実酒を注いでもらっていた。飲み過ぎないように、とは事前に清潤に言われていたが、たしかに飲み過ぎてしまいそうだ。
酒菜は紅竜王の領地で収穫された穀物や捕れた魚や獣の肉を料理されたものがメイン。
レーファとして嬉しいところは、紅竜王の領地には香辛料の産地が含まれているところだろうか。
香り付けのためのもの、風味を変えるもの、辛みを足すもの。この中で好きなものといえばやはり、辛みを足すものだろう。
「美味しそう……!」
香辛料を惜しみなく使われて焼かれた肉を、牛乳で溶いた小麦粉を薄焼きにしたもので野菜と一緒に包み、なるべく上品にかぶりつく。
子羊の肉はレト王国でもよく食べた肉のひとつだが、肉自体も甘みがあり、香辛料がそれを引き立てている。噛んだ時に溢れた肉汁も美味しかった。
「清潤、これは何?」
レーファが指したのは、頭がついたままの魚だ。レーファが知っている魚より、ずいぶん大きい。
「あれは海の魚で……料理としては焼酔魚といいます。まるごとの唐辛子を何本かと酒や昆布出汁を主体としたタレに漬け込み、タレをつけながら弱火でじっくり焼いたものです。……身は少しクセがありますが柔らかいですし、チシャの葉でくるんで食べると食べやすいですよ」
「辛いんだね?」
「ええ。紅竜王が作ったなら、間違いなく」
「竜王が料理するんだ?」
「気が向いた時にしているそうですよ」
なるほど、酔狂な竜王もいるのだ。
思ったが口に出すことはせず、代わりに焼酔魚を清潤の言った通りにサラダ菜のようなチシャの葉にたくさん取った。くるくると巻いて、がぶりと食いつく。
「ん…………」
美味しい、とは口で言わなくても清潤には伝わってしまったらしい。なんだか慈愛の目で見られた気がする。
(……食いしん坊と思われてなければいいけど……)
美味しいものは好きだしよく食べるのも事実だが、決して食いしん坊ではない、と思いたい。
「おお、レーファ殿は辛いものもイケるクチか」
赤を基調にした上衣を纏っているのはもちろん紅竜王だ。清潤とは反対側のレーファの隣に座り込む。
「改めて、紅竜王の洪聖だ。よろしくな。洪聖で構わない」
「レーファです。よろしくお願いします」
「……本来なら白竜王がレーファ殿を連れて挨拶回りをしそうなものだがなあ?」
言葉の割に表情は笑っている。咎めるつもりはないのだろう。
レーファとしては初耳でもあったが。
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