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112 黒竜王のお茶会(4)
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「ほんとに、まさか好きになってほしいからって、まだ小さいレーファを懐かせようとしに来るとか思わなかったですね」
「しかも身分を偽ってなァ。仮に竜王陛下が来国された、なんてことになったら、まず宮殿のひとつでも建てて迎えなきゃならなかったはずだが……そういう大袈裟なのが要らなかったってことだろうが」
サンディラの言葉に洵澤は目を見開いて驚く。
「僕たちがあなたたちの国へ行くのは、そんなに大事なの?」
「そりゃ……常に国王より偉い竜官閣下が駐在してるだけでも国のお偉いさんは気を遣うところだが、それよりはるかに偉い竜人、まして竜人の中でもトップ2が来るってなったらタダゴトじゃない」
「他国の外交官も様子伺いに来るでしょうし、竜王陛下が帰国なさった後も相当大変だとは思いますよ。多分宰相だけでなく国王も外交で大変でしょうね。王太子もか」
「……というわけで、貴族の子息だと身分を偽られても、竜官閣下と同等かそれ以上のご身分の方への対応が、基本的に腫れ物を扱うようなことになる可能性が高いことだけはご理解頂きたいです」
サンディラとヴェルティスとレーファが揃って軽く頭を下げる。
「じゃあ、サンディラ殿とヴェルティス殿が今、僕の前にいるのも緊張する?」
「そりゃあ……しますよ。『殿』を付けられるのも緊張するので呼び捨てでお願いしたいです」
「ヴェルティスの言う通り。俺たちはいわば従僕だからなァ」
ふたりは素直に頷く。
(だよね……)
レーファも内心で頷いた。従僕という言い分には頷きかねるが。
「そんなに?」
「大公以上の方は、特別な力を持っている……と勉強しましたからね、余計です」
「それでも、もう少し砕けてほしいなぁ……竜王だとなかなか友人もできないし……」
「竜王陛下の友人なんて、恐れ多いですが……」
「清潤三哥から無辜之札をもらってるんでしょう? 問題はないよ」
「う…………」
助けを求める視線がふたつ、レーファに寄越された。ふたりには申し訳ないが、ついつい笑ってしまう。
ちなみに今日は無辜之札を三人とも身に着けている。サンディラとヴェルティスはブレスレットの形だった。もちろん失礼のないようにするつもりはあったが、万が一のこともありえるからだ。
黒竜王は厳格な竜ではないと知ってはいるが、今のレーファが知らない竜のことを語るのもおかしな話なので、三人とも無辜之札の携帯をした。
けれど今は、相手が許してくれている。
「……洵澤様がそう言ってくれているんだから、断るのも失礼だよ」
「…………わかりました……」
「せめて洵澤様と呼ばせてください……」
「もうちょっと砕けてほしいところだけど、もちろん。よろしくね、サンディラ、ヴェルティス」
にこにこと上機嫌な洵澤を前に、レーファは感心していた。
(優しげな風貌をしているのに、案外押しが強いんだな……)
そうでなければ竜王でないのかもしれない、と思い直すとお茶に口を付けた。
「しかも身分を偽ってなァ。仮に竜王陛下が来国された、なんてことになったら、まず宮殿のひとつでも建てて迎えなきゃならなかったはずだが……そういう大袈裟なのが要らなかったってことだろうが」
サンディラの言葉に洵澤は目を見開いて驚く。
「僕たちがあなたたちの国へ行くのは、そんなに大事なの?」
「そりゃ……常に国王より偉い竜官閣下が駐在してるだけでも国のお偉いさんは気を遣うところだが、それよりはるかに偉い竜人、まして竜人の中でもトップ2が来るってなったらタダゴトじゃない」
「他国の外交官も様子伺いに来るでしょうし、竜王陛下が帰国なさった後も相当大変だとは思いますよ。多分宰相だけでなく国王も外交で大変でしょうね。王太子もか」
「……というわけで、貴族の子息だと身分を偽られても、竜官閣下と同等かそれ以上のご身分の方への対応が、基本的に腫れ物を扱うようなことになる可能性が高いことだけはご理解頂きたいです」
サンディラとヴェルティスとレーファが揃って軽く頭を下げる。
「じゃあ、サンディラ殿とヴェルティス殿が今、僕の前にいるのも緊張する?」
「そりゃあ……しますよ。『殿』を付けられるのも緊張するので呼び捨てでお願いしたいです」
「ヴェルティスの言う通り。俺たちはいわば従僕だからなァ」
ふたりは素直に頷く。
(だよね……)
レーファも内心で頷いた。従僕という言い分には頷きかねるが。
「そんなに?」
「大公以上の方は、特別な力を持っている……と勉強しましたからね、余計です」
「それでも、もう少し砕けてほしいなぁ……竜王だとなかなか友人もできないし……」
「竜王陛下の友人なんて、恐れ多いですが……」
「清潤三哥から無辜之札をもらってるんでしょう? 問題はないよ」
「う…………」
助けを求める視線がふたつ、レーファに寄越された。ふたりには申し訳ないが、ついつい笑ってしまう。
ちなみに今日は無辜之札を三人とも身に着けている。サンディラとヴェルティスはブレスレットの形だった。もちろん失礼のないようにするつもりはあったが、万が一のこともありえるからだ。
黒竜王は厳格な竜ではないと知ってはいるが、今のレーファが知らない竜のことを語るのもおかしな話なので、三人とも無辜之札の携帯をした。
けれど今は、相手が許してくれている。
「……洵澤様がそう言ってくれているんだから、断るのも失礼だよ」
「…………わかりました……」
「せめて洵澤様と呼ばせてください……」
「もうちょっと砕けてほしいところだけど、もちろん。よろしくね、サンディラ、ヴェルティス」
にこにこと上機嫌な洵澤を前に、レーファは感心していた。
(優しげな風貌をしているのに、案外押しが強いんだな……)
そうでなければ竜王でないのかもしれない、と思い直すとお茶に口を付けた。
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