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111 黒竜王のお茶会(3)

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「僕はね、レーファ殿に早くお会いしたかったんですよ」
「えっ?」

 食事を促してくれながら、合間に会話をしていく。洵澤しゅんたくが言葉を崩してくれたのはいつの間にかだった。

「レーファ殿が皇上の姉上であられる竜吉様のご子息なら、皇上の息子である僕とは、従兄弟になるでしょう?」
「……………………そうなりますね……」

 目通りの儀の時にそう思った気がするが、忘れていたことに思い至る。
 竜王と従兄弟。
 インパクトに負けて、何も考えられない。

「あっ、だからレーファと黒竜王陛下はなんとなく似ておられるのですね?」

 サンディラが思わずといった様子で気付きを口に出す。

「似てる……? 黒竜王陛下は繊細な雰囲気だろう……?」
「皆様、口調は崩して大丈夫ですよ。レーファ殿も僕のことは名前で呼んで欲しいな。……僕とレーファ殿が似ているとしたら、僕が母に似ているからかな。皇上はシスコンが高じて、どこか竜吉様に似た女性ばかりを好きになるらしく……今の皇妃陛下もそうだけど、僕の母もそうだったらしくて……」
「…………」

 儀式の時と、その後で清潤に言われたことを思い出す。
 たしかに、ただ花嫁として清潤に嫁いだのだったら、命令してレーファを愛妾にでもしかねない勢いはあった。その可能性が冗談ではなく現実になったかもしれないことに、今更ながらぞっとする。

(皇上がイヤとかじゃなくて……いや清潤がいいのかって言われると……でもラージュナ様は清潤だし……)

 まだそこは葛藤があるところだ。
 素直に清潤が好きとは、言いづらい。

「清潤三哥は感情の機微がわかりにくいし表にあまり出さない方だけど……今ではレーファ殿を大切にしているようで、ホッとしているよ」

 にこりと笑む洵澤に、含むものを感じた。

(…………今では? って……どういう……?)

 まるで過去のことを知っているような口ぶり。

「僕も竜王位にあるからね。だから知ってることも多いんだよ、レーファ殿」

 ふふふと笑う洵澤は悪戯好きの子どものようだ。
 洵澤の笑みを別の意味にとったのか、ヴェルティスとサンディラはうんうんと頷いている。
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