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105 デート(3)

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「わ……レトの街と全然違う」

 約束通り昼にふたりで街へ出た。山の頂上から麓へ降りる形になり、ずっと景色は見応えはある。けれどいつかラージュナが言っていたように、たしかに街はよく見えなかった。
 山をかなり降りると伝わってきた街の雰囲気は、活気はあるがレトの喧噪ほどではない。どこか整然としている。やはりこういうところでも国民性というものは出るのだろうか。

 まだ街の高いところにいるから、下のほうを見下ろすと壮観だ。あの屋根のひとつひとつにこの国の人々の生活の営み、商売の営み、そういうものが存在する。

 この気持ちはレトで王宮を抜け出して丘から王宮や街を見ていた気持ちと似ている。

 昂揚しそうな気持ちを深呼吸ひとつで抑え込みつつ、問いを発する。

「どこに連れてってくれるんだい?」

 隣の清潤を少しだけ見上げると、彼はレーファの腰に手を回した。彼はわりとスキンシップを好むほうだとわかっているから、反発する気はない。

 清潤がレーファに用意してくれた衣服は、茶を基調としたもの。裳(巻スカート状の衣)などは着けず、茶の短上衣を同色の袴の上に着て帯で留める。脚絆は紺。

 そして髪を頭の上でまとめた組紐は、なんと清潤手製だ。どこに作る暇があったのかと思ったが「あなたの作ってくれたものよりは不格好ですが……」と少ししょんぼりした顔で渡してくれたのはかわいかった。政務でしか付き合いのない官吏や貴族に見せて回りたいくらいだ。

(民の格好も、意外と似合うんだな)

 清潤自身は抹茶色の上下と帯は黄色系の女郎花色だった。脚絆は灰色。どれも清潔感がある。 

(……やっぱり街の人には見えづらいけど……)

 けれど清潤は「他人にはこの顔ではない顔が見えるように私自身に術をかけますから」と言っていた。レーファに効かないのはどういう理由かはわからないが、ツガイだからと思っておくことにした。
 清潤はレーファと目を合わせると、道の先を指さす。

「まずは昼餉ひるごはんを食べましょう。王宮の料理には慣れたでしょうが、街の店はまた違った料理が色々あります。様々な王国の料理を食べさせてくれる店もありますよ」

 この流れは『ラージュナ』と初めて街へ出た時と似ている。

「へえ……じゃあ、王宮と違う街の食事をしてみたいな。他の国の料理は、次に来た時に食べたい」

 その時はサンディラやヴェルティスもいるだろうか。きっと賑やかな卓になるだろう。楽しく美味しく食事ができるのなら、これ以上のことはない。

「わかりました。では、こちらへ」

 腰を引き寄せられ、清潤に導かれる。そうして道行く街の人がなんとなくふたりをちらちらと見ているような気がして、唐突に気付いた。

(……これは……だいぶ恥ずかしいんじゃ……?)

 かといって離れて歩こうとしても、清潤ががっちり腰を掴んでいるから不可能だ。必然的にぴったりと密着して歩くことになる。

 恋人同士が歩いている、ようには見える、ことを祈るしかない。

 不思議と歩きにくくはない。

(どういう技術……? それともこういうもの……?)

 さすがに他の者が相手でこんな風に歩いたことはない。だから比較の対象がいないが、清潤が器用なのだろうと思うことにした。

 腕はそんなに太くないのに、どこにこんな力があるのだろう――と思いかけて、普段からよく抱き上げられたり膝に座らされたりしていたことまで思い出しかけて、慌てて気を散らす。
 街の者たちの視線も、なんとか気を逸らしてやり過ごした。
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