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104 デート(2)

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 今レーファが持っている服はすべて清潤が用意してくれたものだが、いわば貴族の私服。街を散策するには少々上等すぎるのではないか。

(……あの時は、サンディラに駆け回ってもらったんだっけ)

 最初にラージュナが街に行きたいと言った時、街人の服や顔が隠れるようなものを探してもらった。溢れ出る高貴な雰囲気や美しい顔立ちを完全に隠せたかはわからない。
 けれどあちこちの店を見てはラージュナが買い物をしていくのを見ていたのは、疲れはしたが楽しかったとは思う。
 あの後、何度か四人で街に出たものだ。

(食事も気に入ってくれたようで、よかった)

 レト王国は皇国の料理よりだいぶ濃い味付けだと思う。けれどラージュナは出されたものを残したりしなかった。そういうところも好ましい。
 最終的に食事のリクエストまでしてくれるようになったのは、レト王国を気に入ってくれたように思えて嬉しかった。
 レーファがしんみりしているのを他所に、清潤は「大丈夫です」と微笑む。

「服は用意してあります。午後にはそれに着替えて行きましょう。サンディラとヴェルティスも一緒に行く時には、ふたりの服も用意してあります」
「…………」

 ということは、前から四人で街の散策をすることを算段してくれていたのだろうか。心なしか清潤の雰囲気も嬉しげに思える。

(もっと、表情が変わればいいのに)

 ラージュナも表情の変化が乏しかった――いや、清潤と同一人物だったと思い出して溜息を吐く。
 どうやら無意識でもふたりがレーファの中ではまだ別人の扱いになっている。さすがに良くないと思っているが、やはり自分の中の清潤は冷淡な印象が強い。
 きっと、清潤もそれをわかってくれている。

(……だから、触れてこないんだよね)

 清潤はあの夜以降、性的には触れてこない。口付けや抱擁などはあるが、それ以上は強要しようともしてこなかった。
 目合わせの儀は儀式である以上『行われなければならないもの』だった。レーファもそれはわかっていたから抱かれた、のだと自分では思っている。

(……前と違って、優しかった、けど)

 あの夜を思い出すと、体がカッと熱くなるような感覚がある。だからなるべく思い出さないようにしていた。――恥ずかしいから。

「レーファ、ぼーっとしてどうした?」
「さては街に出るのが楽しみで上の空か?」
「べっ……べつにそんなんじゃない」

 あまり強く否定しても勝手に誤解されるのはわかっていたから、軽く否定しておくだけにしておく。

「服は後ほどヴェルティスに預けましょう。あまりきっちりと着込まないほうがそれっぽくなります」
「わかりました。任されます」

 ヴェルティスが張り切って頷くと、サンディラが「どっちが街に行くのかわかんねえなあ」と笑ったのでつられてレーファも笑った。
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