102 / 160
102 お茶会(10)
しおりを挟む
「ヴェルティスが、レーファは毎日薬湯を飲んでいると言っていました。あなたの体のどこかが悪いなら皇国の薬もありましたから、何か力になれるのではと思ってあなたの主治医に訊いたのです」
医師はさぞ怖い思いをしただろう。
(そんなことがあったなんて……)
清潤の洞察力に感心するところか、あくまでレーファのことを主体として考えられた行動に感心するところか、迷ってしまう。
「なんでまたそんなこと……あ、王妃に盛られることを心配してたのか?」
「たしかにやりやがったからな……あの時は表沙汰にできなかったが」
「楽器も壊して小細工してたし、悪質だ」
「全部ラージュナ様が庇ってくださったから良かったけどよ……」
理由について、ふたりは勝手に納得してくれた。これは訂正しないでおく。
(ごめんね……)
まさか皇国で毒殺されたことがあるからその予防に、など言うことはできない。
「それを信頼していなかったわけではありませんが、すぐに解毒をしたのは、わずかでも体に損傷を与えたくなかったからです」
「……ん?」
清潤の言葉に引っかかった。今度はレーファが清潤を見る。
「解毒、したの? いつ?」
「言ったでしょう? 経口接触でするのが一番早かったので、そうしました」
悪びれずアッサリと答えた清潤に、レーファは体の力が抜けそうだった。
(あの突然の口付けの意味はそれだったのか……)
突然のことと、羞恥で清潤が何を言ったのかまで覚えていなかった。
理解はできても羞恥は消えない。
そういえば子どもの頃は舌を撫でられたのだったか。
レーファを思ってしてくれていることにしても、恥ずかしさは拭えない。
「少しだけとはいえ、苦しい思いをさせてしまったのは不本意ですが」
「ん……大丈夫だったからいいよ。清潤がお茶会に来ると思わなかったし……いなくても、結果は一緒だったと思うし」
食べた後の対応は多少変わったかもしれないが、毒入りであることを告げて食べかけのタルトを持って帰ったのは同じだろう。
言うと、清潤は大きく頷く。
「すぐに成分を調べさせます。それから、今頃は徐侯爵家で捜索が行われているはずですが……こちらの結果は明日にでもまとめて報告書を上げさせます。元々徐家の周辺で怪しい動きがありましたし……。何かわかれば、あなたにも伝えますね」
「オレは無事だったから、あまり厳しい罰にしないでほしいんだけど?」
「……考えておきましょう」
「あと、人前で抱っこするのは控えてほしいんだけど?」
「私のツガイがこんなに可愛らしくて綺麗であることは皆に見せて知らしめるべきなのでその要望は応えられません」
「…………」
笑顔のまま一呼吸で要望を一蹴しないで頂きたい。
(……オレが諦めたほうが早い……?)
だがそれは自身の羞恥心と引き換えになる。それは避けたいのだが。何か良案がないか考えつつ、ヴェルティスが淹れてくれた茶を飲んだ。
「白竜王陛下は過保護か……?」
「むしろ盲目……?」
とサンディラとヴェルティスが呟いた言葉は聞こえないフリをした。
医師はさぞ怖い思いをしただろう。
(そんなことがあったなんて……)
清潤の洞察力に感心するところか、あくまでレーファのことを主体として考えられた行動に感心するところか、迷ってしまう。
「なんでまたそんなこと……あ、王妃に盛られることを心配してたのか?」
「たしかにやりやがったからな……あの時は表沙汰にできなかったが」
「楽器も壊して小細工してたし、悪質だ」
「全部ラージュナ様が庇ってくださったから良かったけどよ……」
理由について、ふたりは勝手に納得してくれた。これは訂正しないでおく。
(ごめんね……)
まさか皇国で毒殺されたことがあるからその予防に、など言うことはできない。
「それを信頼していなかったわけではありませんが、すぐに解毒をしたのは、わずかでも体に損傷を与えたくなかったからです」
「……ん?」
清潤の言葉に引っかかった。今度はレーファが清潤を見る。
「解毒、したの? いつ?」
「言ったでしょう? 経口接触でするのが一番早かったので、そうしました」
悪びれずアッサリと答えた清潤に、レーファは体の力が抜けそうだった。
(あの突然の口付けの意味はそれだったのか……)
突然のことと、羞恥で清潤が何を言ったのかまで覚えていなかった。
理解はできても羞恥は消えない。
そういえば子どもの頃は舌を撫でられたのだったか。
レーファを思ってしてくれていることにしても、恥ずかしさは拭えない。
「少しだけとはいえ、苦しい思いをさせてしまったのは不本意ですが」
「ん……大丈夫だったからいいよ。清潤がお茶会に来ると思わなかったし……いなくても、結果は一緒だったと思うし」
食べた後の対応は多少変わったかもしれないが、毒入りであることを告げて食べかけのタルトを持って帰ったのは同じだろう。
言うと、清潤は大きく頷く。
「すぐに成分を調べさせます。それから、今頃は徐侯爵家で捜索が行われているはずですが……こちらの結果は明日にでもまとめて報告書を上げさせます。元々徐家の周辺で怪しい動きがありましたし……。何かわかれば、あなたにも伝えますね」
「オレは無事だったから、あまり厳しい罰にしないでほしいんだけど?」
「……考えておきましょう」
「あと、人前で抱っこするのは控えてほしいんだけど?」
「私のツガイがこんなに可愛らしくて綺麗であることは皆に見せて知らしめるべきなのでその要望は応えられません」
「…………」
笑顔のまま一呼吸で要望を一蹴しないで頂きたい。
(……オレが諦めたほうが早い……?)
だがそれは自身の羞恥心と引き換えになる。それは避けたいのだが。何か良案がないか考えつつ、ヴェルティスが淹れてくれた茶を飲んだ。
「白竜王陛下は過保護か……?」
「むしろ盲目……?」
とサンディラとヴェルティスが呟いた言葉は聞こえないフリをした。
18
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!

某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
空が青ければそれでいい
Jekyll
BL
日々、喧嘩に明け暮れる秋山威乃はある日、学校の屋上で一人の男に出逢う。 年下とは思えぬ態度と風格の男は風間組次期後継者、風間龍大だった。 初対面のはずの龍大は威乃に対して、妙な提案を持ちかけてきて…。そして威乃の母親の失踪で動き出す、二人の関係とは。
【登場人物紹介】
秋山 威乃 Ino Akiyama
目が大きく、可愛らしいというフレーズのピッタリな顔付きをしている女顔である。
だが、その見た目にそぐわず喧嘩っ早く腕っ節も強い。
Height:168/Weight:51/Age:18
風間 龍大Ryudai Kazama
仁流会会長風間組組長、風間龍一の嫡男。
非常に難しい性格をしていて、感情を全く表に出さない上に言葉数が少ないのでコミュニュケーションを取るのが難しい男。
Height:188/Weight:80/Age:17
名取 春一Haruichi Natori
通称ハル。威乃の親友で幼馴染み。腕っ節も強く喧嘩っ早い。
もともと目付きが悪いので、すぐに喧嘩を売られる。
Height:174/Weight:60/Age:18
沢木 彰信Akinobu Sawaki
威乃とハルの幼馴染み。
風間 龍一Ryuichi Kazama
仁流会会長、風間組組長
梶原 秀治Syuji Kaziwara
仁流会鬼塚組若頭補佐。龍大の教育係でもある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる