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96 お茶会(4)

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「お招きありがとうございます、徐侯爵令嬢。白竜王陛下ツガイのレーファと申します。お見知りおきを」

 片膝を軽く折り、右手を左手の肩に当て軽くお辞儀する。型通りの挨拶だ。慣れているからぎこちないものにはならない。

 令嬢たちの視線は感じる。だからこそ卑屈になってはいけないし、優雅に、余裕のある様を見せておく。こういう時の微笑みは、王子時代に身に着けていた。
 幸い、敵意を前面に出した視線は感じない。

「こちらこそ、よくいらしてくださいましたわ。徐侯爵家の美玲と申します。美玲とお呼びくださいませ。どうぞおかけになってください」

 テーブルはみっつほどあった。レーファはそのうちのひとつに案内される。主催である美玲嬢と同じテーブル。
 他三人は、美玲嬢と旧知の仲に見えた。一通り挨拶を済ませてから席に着く。この客たちの中ではレーファが一番身分が高いが、大人しく、かつ低姿勢でいるに越したことはない。

(品定めか、喧嘩を売りたいのか、自分が成り代わるために始末したいのか、嫌味でもくれようというのか……)

 レーファを呼んだ理由は大方こんなところだろう。それならそれで、王子時代と同様に澄ました顔でいればいいか。
 言いがかりなら、まともに相手をする必要はない。まともな竜人なら、卜占で定められたことを蔑ろにすることはないはずだから。

 茶菓子は大福から胡麻団子、月餅に練り切り、ケーキにクッキーなどの焼き菓子、卵のタルトまで幅広く、様々なものが色とりどりで個別に饗される。
 皆様どうぞご自由に、と主催の令嬢が言い、客は礼をして茶会の主が手をつけたのを見てから頂く。茶は令嬢付の使用人たちがお代わりをついでくれるらしい。

「レーファ様、白竜王陛下はどのような方ですの?」

 好奇心旺盛な瞳で令嬢のひとりが質問を寄越す。皇国では茶会の場では身分の上下に関わらず話しかけても良い慣習があると習っていたから、不快でもない。

「思いやりのある、優しい方です」

 別の令嬢が頬に手を当てて小首をかしげる。

「父が、あまり表情の動かぬ冷淡な方だと言っておりましたわ」
「政務の時はそうかもしれません。普段でも大袈裟な感情表現はあまりなさらない方ですが……だからといって情がないわけではありませんし、」

 たまに見せる微笑がとんでもない破壊力があったりする。
 ここまで言っていいのか悩んで途中で言葉が途切れてしまった。少し不自然になりそうなところ、上品に微笑んで誤魔化しておく。

「……容姿が麗しい分、冷たい印象を与えてしまうのかもしれません。誤解なのですが」

 言葉を別のものに変えると、少し照れてしまった。
 周囲の令嬢は「仲がよろしくていらっしゃるのね」「羨ましいわ」など好意的な言葉が多い。
 こちらの様子を窺っている別のテーブルの令嬢たちの様子も、どうやら悪意はない雰囲気。
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