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92 目通りの儀(7)
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「すべてがいきなり変わるわけではありませんし、過激派の意志をそう簡単に変えることはできないかもしれませんが、あなたに何かすれば私だけでなく、皇上の怒りに触れる可能性があるなら、控えるでしょう? 何しろ皇上のあの様子では、あなたが私のツガイではなくただの花嫁だったとしたら、奪いかねませんでしたし」
「……そうだね……」
後になって大公たちから聞いたことだが、玉皇上帝はかつて――今もだが、たいそうなシスコンだったらしい。竜王位が決まる頃に竜王位の候補だった竜吉が姿を消したことで、自身の竜王位が危うくなるほど嘆いたのだとか。
現在の玉皇上帝には兄弟が六人おり、長女が竜吉だった。『ローツィ』は皇城外で使っていた仮の名だから、玉皇上帝や大公もすぐにわかったそうだ。
優秀で術力も高く芸事にも秀で、青竜王ないし紅竜王は間違いなく、ひいては初の女上帝になるのではと噂もされていた。
が、ある日、姿を消した。
「母様がどうしてレト王国に来たのかもわからないんだよね。サンディラは傭兵していた時に一度会ったことがあって、その次に会ったらレト王国の王宮にいて驚いたって言ってたし……」
「何かご事情があったのでしょうが……それをとても気にするのは皇上ですから、もしかしたら皇上が調べさせて、何かわかるかもしれませんね」
「うん」
レーファの中では、母はあくまで母。おおらかで優しく、手先が器用で、母にせがんでしてもらったことで、できなかったことはひとつもない。尊敬の対象だ。レーファも器用で要領がいいほうだが、これはきっと母の血だろう。そう思うと誇らしい。
榻牀にだらしなく寝そべったまま寝返りをうつと、清潤を見上げる。目が合うと柔らかく微笑まれた。笑みだけで、自意識過剰でないならレーファ自身を好いてくれているのがわかるような甘さがある。
(人前では絶対にしてほしくない顔だな……)
嬉しいが、さすがに少しは照れる。ふいと横を向いた。
「おや。どうして顔を逸らすんですか」
頬を撫でられても、今は清潤の顔がちゃんと見られそうにない。
「なんでもない」
「ふたりしかいないのに。ちゃんと私を見てください」
清潤の声は好きだし甘い声も嫌いではないが、首は横に振ってしまう。
「今はむり」
「仕方のないひとですね……」
苦笑されてしまったが、すぐに清潤は立ち上がるとレーファの膝と背を支えて抱き上げてしまった。さすがに逃げ場がない。
そのまま隣の房室へ運ばれる。
お姫様のように優しく下ろされると、口付けをされた。体に触れられるのだろうかと緊張したが、清潤は「疲れたでしょうから」と抱きしめてきただけだった。
いつだったか、ラージュナにもそうされたことがあったことを思い出して照れもあった。甘やかされているのかもしれないと思いつつ心地よい体温に酔うようにうとうとし、結果としてしっかりと熟睡できた。
「……そうだね……」
後になって大公たちから聞いたことだが、玉皇上帝はかつて――今もだが、たいそうなシスコンだったらしい。竜王位が決まる頃に竜王位の候補だった竜吉が姿を消したことで、自身の竜王位が危うくなるほど嘆いたのだとか。
現在の玉皇上帝には兄弟が六人おり、長女が竜吉だった。『ローツィ』は皇城外で使っていた仮の名だから、玉皇上帝や大公もすぐにわかったそうだ。
優秀で術力も高く芸事にも秀で、青竜王ないし紅竜王は間違いなく、ひいては初の女上帝になるのではと噂もされていた。
が、ある日、姿を消した。
「母様がどうしてレト王国に来たのかもわからないんだよね。サンディラは傭兵していた時に一度会ったことがあって、その次に会ったらレト王国の王宮にいて驚いたって言ってたし……」
「何かご事情があったのでしょうが……それをとても気にするのは皇上ですから、もしかしたら皇上が調べさせて、何かわかるかもしれませんね」
「うん」
レーファの中では、母はあくまで母。おおらかで優しく、手先が器用で、母にせがんでしてもらったことで、できなかったことはひとつもない。尊敬の対象だ。レーファも器用で要領がいいほうだが、これはきっと母の血だろう。そう思うと誇らしい。
榻牀にだらしなく寝そべったまま寝返りをうつと、清潤を見上げる。目が合うと柔らかく微笑まれた。笑みだけで、自意識過剰でないならレーファ自身を好いてくれているのがわかるような甘さがある。
(人前では絶対にしてほしくない顔だな……)
嬉しいが、さすがに少しは照れる。ふいと横を向いた。
「おや。どうして顔を逸らすんですか」
頬を撫でられても、今は清潤の顔がちゃんと見られそうにない。
「なんでもない」
「ふたりしかいないのに。ちゃんと私を見てください」
清潤の声は好きだし甘い声も嫌いではないが、首は横に振ってしまう。
「今はむり」
「仕方のないひとですね……」
苦笑されてしまったが、すぐに清潤は立ち上がるとレーファの膝と背を支えて抱き上げてしまった。さすがに逃げ場がない。
そのまま隣の房室へ運ばれる。
お姫様のように優しく下ろされると、口付けをされた。体に触れられるのだろうかと緊張したが、清潤は「疲れたでしょうから」と抱きしめてきただけだった。
いつだったか、ラージュナにもそうされたことがあったことを思い出して照れもあった。甘やかされているのかもしれないと思いつつ心地よい体温に酔うようにうとうとし、結果としてしっかりと熟睡できた。
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