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91 目通りの儀(6)
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「つ、疲れた……」
白竜王宮の鴛鴦の間へ戻ってきたレーファは正装を解き入浴を早々に済ませると、榻牀(長いソファ)のクッションに埋もれるように横向きに転がった。少々行儀は悪いが、清潤からの咎めはない。
清潤はクッション側へ座ると、レーファの頭を撫でてくれた。大きな手の体温はひんやりしているが、暖かくて心地よい。
「お疲れ様です、よく頑張りましたね。……少々意外な展開はありましたが」
「オレも意外だよ……」
ヒトだと思っていた母が竜人で、この大陸で一番偉い玉皇上帝の姉だったなんて。つまり玉皇上帝が叔父になるとは、誰が予想したか。
(この展開は……初めてだな)
小さな齟齬どころではない。新たな展開だ。もしかしたらこれからは、レーファの知らないことばかりになるのかもしれない。
(それなら……もう死なない、のかな)
少なくとも前生と同じような理由で死ぬことはなくなるのだろうか。できればそうであってほしい。何しろ、ツガイの白竜王が――清潤が、今までとは全然違っているから。冷ややかだった彼は、今ではあたたかく、優しい。
レーファの彼への心証も全然違っているのは、幼い頃から接していた『ラージュナ』によるところもあるに違いない。
(……死なないと、いいな。……サンディラとヴェルティスもだけど、清潤も……もしかしたら悲しませてしまうかもしれないし)
もし清潤がまた時を巻き戻すことになるとしても、サンディラとヴェルティスと違い、清潤はレーファが死んだ記憶を持ち続けることになる。
今までと違って距離が縮まった相手を死なせてしまうのは――たとえやり直せるとしても、つらいものになるのではないだろうか。
今まで自分ばかり何度も同じことをやり直していると思っていたが、清潤にもやり直しの記憶があるなら。彼がレーファのことを想ってくれるようになったのなら。とてもつらいのではないか。
(……清潤が、時を戻していた本人とは想わなかったけど)
何度戻したのかわからないが、ツガイが大事なものとはいえ、よく諦めずに何度も巻き戻していたものだと想う。義務か執念かと悩むところだが、最初は義務で途中から執念に変わったのだろう、と想いたい。
小さく息を漏らすと、また頭を撫でられた。よく撫でられるが、これはもう清潤のクセにさせてしまった気がする。幼いレーファもよくラージュナに撫でられたものだ。
「これであなたの身分は皇上が保証してくれるでしょうし、良いほうへ転がるでしょう」
「たとえば?」
「ヒトがツガイだったことをよく思わなかった竜人の意識が変わる可能性があります」
そうなると、種族が理由で殺された過去はなかったことになるのだろうか。
白竜王宮の鴛鴦の間へ戻ってきたレーファは正装を解き入浴を早々に済ませると、榻牀(長いソファ)のクッションに埋もれるように横向きに転がった。少々行儀は悪いが、清潤からの咎めはない。
清潤はクッション側へ座ると、レーファの頭を撫でてくれた。大きな手の体温はひんやりしているが、暖かくて心地よい。
「お疲れ様です、よく頑張りましたね。……少々意外な展開はありましたが」
「オレも意外だよ……」
ヒトだと思っていた母が竜人で、この大陸で一番偉い玉皇上帝の姉だったなんて。つまり玉皇上帝が叔父になるとは、誰が予想したか。
(この展開は……初めてだな)
小さな齟齬どころではない。新たな展開だ。もしかしたらこれからは、レーファの知らないことばかりになるのかもしれない。
(それなら……もう死なない、のかな)
少なくとも前生と同じような理由で死ぬことはなくなるのだろうか。できればそうであってほしい。何しろ、ツガイの白竜王が――清潤が、今までとは全然違っているから。冷ややかだった彼は、今ではあたたかく、優しい。
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(……死なないと、いいな。……サンディラとヴェルティスもだけど、清潤も……もしかしたら悲しませてしまうかもしれないし)
もし清潤がまた時を巻き戻すことになるとしても、サンディラとヴェルティスと違い、清潤はレーファが死んだ記憶を持ち続けることになる。
今までと違って距離が縮まった相手を死なせてしまうのは――たとえやり直せるとしても、つらいものになるのではないだろうか。
今まで自分ばかり何度も同じことをやり直していると思っていたが、清潤にもやり直しの記憶があるなら。彼がレーファのことを想ってくれるようになったのなら。とてもつらいのではないか。
(……清潤が、時を戻していた本人とは想わなかったけど)
何度戻したのかわからないが、ツガイが大事なものとはいえ、よく諦めずに何度も巻き戻していたものだと想う。義務か執念かと悩むところだが、最初は義務で途中から執念に変わったのだろう、と想いたい。
小さく息を漏らすと、また頭を撫でられた。よく撫でられるが、これはもう清潤のクセにさせてしまった気がする。幼いレーファもよくラージュナに撫でられたものだ。
「これであなたの身分は皇上が保証してくれるでしょうし、良いほうへ転がるでしょう」
「たとえば?」
「ヒトがツガイだったことをよく思わなかった竜人の意識が変わる可能性があります」
そうなると、種族が理由で殺された過去はなかったことになるのだろうか。
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