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89 目通りの儀(4)

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「そなたの血の一滴をもらえるだろうか。私の血と比較し、血縁であるか、どの程度血が近いかを検査する」

 元竜王であるような竜人と、ただのヒトであるレーファが血が近いなどということは、通常であれば考えにくい。だが玉皇上帝がこの有様なので申し訳ない、と説明が続く。

 血の採取はレーファ自身より清潤のほうが渋った。体に傷を付けたくないという理由だったが、やむなく従った。玉皇上帝へ貸しひとつということで手打ちになったからだ。
 なお、指から血を採った後は秒もたたずに清潤が傷を癒してくれた。

「痛くありませんか?」
「大丈夫だよ。綺麗に治してくれたから。大袈裟だよ」
「一秒でもあなたが傷付くのが嫌なんです」

 血を採った手を両手で包み、撫でてくれる。
 その様子を見て大公や竜王たちが何やらひそひそと話しているのが気になったが、気にしたら負けだと思って意識の外へ追いやった。

(……大切にしてくれてるんだろう、けど……外ではちょっと恥ずかしい……)

 血の検分は術士が別室で行う。その間、目通りの儀はつつがなく進行され、レーファは晴れて白竜王のツガイとして内外に認知されることになった。

 儀の後は宴が催される。これは竜人族の、皇族の一員として迎え入れたことを歓迎するものだ。

 一連の儀式はおおむね竜王が外の国から花嫁を迎えるものと近似している。今までヒト族からツガイが出たことがなかったから、そのせいもあるらしい。

「たくさん注がれると思いますが、飲まなくて構いませんからね?」

 そっと私に渡しなさい、と言われると大人しく頷いておく。酒はあまり飲まないから、自分が弱いのか強いのかもわからないからだ。

 料理は当たり前に美味しかった。

 今生では月之宮から食べているものに不味いものや口に合わないものはなかったが、今まで食べたものの中でも群を抜いて美味しい。
 レーファも王族の端くれだから、出されている料理がいわゆる宮廷料理というご馳走なのだということはわかる。

 高価なアヒルを使ったものはパリパリの皮と肉を削ぐように切り、蒸した野菜と一緒に薄焼きの生地に巻いて甘辛いタレに漬けて食べる。

 皇都を流れる川の上流で獲った川魚を一尾まるごと使った料理は熱した油を回しかける揚げ方をし、野菜を入れたとろみのある餡で頂く。熱い上に熱いとろみの餡をかけると熱がなかなか逃げず、油断をすればうっかり口の中を火傷してしまいそうだ。

(あっついけど……鱗は綺麗に取られているし、皮がパリパリで美味しい……川はレトの王都にもあったけど、この魚は食べたことがない川魚だ)
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